都市vs都市、マニアック映画の極み…映画『移動都市 モータル・エンジン』(モータルエンジン)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年3月1日
監督:クリスチャン・リヴァース
移動都市 モータル・エンジン
いどうとし もーたるえんじん
『移動都市 モータル・エンジン』あらすじ
「60分戦争」と呼ばれる最終戦争から数百年の時が過ぎ、わずかに残された人類は地を這う移動型の都市で生活することを余儀なくされた。巨大移動都市ロンドンは、小さな都市を捕食することで成長を続けている。そんなロンドンの指導者的立場にあるヴァレンタインに対し、少女ヘスターは復讐心をたぎらせるが…。
『移動都市 モータル・エンジン』感想(ネタバレなし)
移動都市は最良物件です!
知っていましたか? 今の日本の住居にはスマホゲームによくある「ガチャ」システムが導入されているのですよ。レアな住居を引き当てることができれば安寧の住処として末永く暮らせますが、残念なことにハズレの住居を引き当てるともうそれはそれは酷いことに…。地震でいともたやすく地面が液状化して家が傾くこともあれば、不正な検査で不備を隠蔽して後々になって引っ越しを急遽余儀なくされるなんてことも…。オイシイ宣伝文句なんて何も信用できない、住居選びも“運ゲー”なのです。
そんな住居に不安をお持ちのあなたにオススメなのが「移動都市」です。その名のとおり、都市ごと移動するというのが大きな特徴となっており、日当たりや駅までの距離などを気にする心配はありません。また、こちらの物件は若干ですが築年数は古めとなっていますが、なんと自動修復機能を搭載。リフォームなどを定期的考えるなんて時代はもはや過去のもの。今は都市が勝手に資材を調達してあなたの住まいをバージョンアップしてくれます。さらに都市の脅威となる存在が接近すると、撃退行動をとってくれるという素晴らしいセキュリティ対策も万全。泥棒からテロリストまで完全に追い払います。あなたの終の棲家としてこれ以上の理想はありません。
「移動都市」に関する苦情はこれまで一件も来ていません。居住経験者全員が大満足しています。さあ、あなたも今すぐお申込みを!
…おや、文字を消した跡がある…騒音がうるさい、暴力と権力が支配している、移動都市の嘘と危険性、連絡は反移動都市同盟まで。
そんな感じ(どんな感じだ)の映画が本作『移動都市 モータル・エンジン』です。
イントロではちょっと冗談も書きましたが、「都市が移動する」という一番嘘っぽい部分が最重要コンセプトになっているのは事実という、なかなかに攻めている映画です。本当に巨大な都市がゴロゴロゴロと走行し、他の街を喰らいつくしていく、「ハウルの動く城」デスマッチみたいなことがそのまんま映像化された本作。踏みつぶす、押しつぶす、そしてビーム(!)を放つ…なんでもありの都市バトル。しかも、移動都市だけでなく、空中都市や巨大防壁都市まである。これ考えた人、中学生なのかな…。
原作者はフィリップ・リーヴというイギリスの作家で、この「移動都市」シリーズで2001年にデビューしたようです。もちろん中学生ではなく、50代のオッサンなのですけど…。でも彼の執筆作品ラインナップと内容をざっくり見るかぎりでも、これは重度のSFオタク臭がプンプンしますよ。
その「移動都市」にまんまと魅了された同類のSFオタクがひとりいました。その名は“ピーター・ジャクソン”。ご存知J・R・R・トールキンの世界的ベストセラー小説「指輪物語」を映画化した『ロード・オブ・ザ・リング』3部作やその前日譚にあたる『ホビット』シリーズなど、ファンタジーならこの人!と断言できる映画監督です。確かに“ピーター・ジャクソン”なら好きそうですよね。“ピーター・ジャクソン”が「移動都市」の映画化に着手したと報じられたのは2009年なので結構難航していたようです。結局、“ピーター・ジャクソン”は脚本と製作だけにとどまり、監督したのは長年彼と一緒に仕事をして視覚効果を主な担当としてきた“クリスチャン・リヴァース”。長編映画監督デビュー作がこの大作というのも凄い話です。
アメリカではユニバーサル配給のもと大激戦が勃発する12月に公開したのですが、商業的な評価でいえば赤字…批評的な視点でいっても低評価…まあ、控えめな表現をすると「倒壊寸前のマンションwithレオパレス」みたいな(全然控えめじゃない)映画の実績になってしまいました。
でもフォローしておきますけど、本作は「SFオタクのSFオタクによるSFオタクのための映画」ですから。一般層なんていいんです(開き直り)。都市がガシャンガシャン動いている光景にワクワクできる心の持ち主だけの“わかる人にわかればいい”世界なのです。だから上質な批評家受けの良い映画が観たいなら、アカデミー賞受賞作でも観に行ってください。
いわゆるスチームパンク的なハイ・ファンタジーの世界観が大好物…あなたがそんな純真なオタクなら、迷う理由はないのではないでしょうか。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(SF好きはご満悦) |
友人 | ◯(SFファン同士で) |
恋人 | ◯(ほどよいエンタメ気分) |
キッズ | ◯(若干シリアス寄り) |
『移動都市 モータル・エンジン』感想(ネタバレあり)
都市が動く、以上!
まさかいきなり移動都市“大バトル”から始まるとは…。クライマックス級じゃないですか。いや、映画の掴みとしては最高なのでしょうけど。
ただ、いかんせん本作『移動都市 モータル・エンジン』は起承転結で言うところの起と承をすっとばして「転・転・転・転・結」みたいな流れで進んでいく映画なので、一定数の観客は「何が起こっているんだ…」と置いてけぼりになりかねません。
これはSFにつきものの問題ですけど、その世界観独自の専門用語もあったりで、物語を咀嚼するのに慣れが必要です。一応、簡単にざっくり本作の世界をテキトーさ半分に説明していくとこんな感じ。
まず、2118年頃、「メドゥーサ」と呼ばれる量子エネルギー兵器を用いた戦争を人類が引き起こします。理由は…きっとたいしたことないのでしょう。ともあれこの勃発した戦争は60分で終結し(なんて効率的)、ゆえに「60分戦争」と語られ、文明社会は完全に崩壊。わずかに生き残った人たちは荒れ果てた大地を放浪し、一部の人は移動する都市に住みつきます。
なんで移動都市なんだ、衰退どころか余計に文明技術がパワーアップしているじゃないかというツッコミはなしで。ある者は資源を細々と採掘する小さな移動都市、ある者は盗賊のように襲いかかる悪事に手を染める移動都市…。これら移動都市の中でもひときわ巨大で恐れられているのは「ロンドン」でした。おそらくその名や都市の側面にイギリスの国旗模様があることから、私たちの知っている「ロンドン」に原点を持つのであろう、この高さ約860m、奥行き約2500mにも及ぶ超巨大要塞都市。7つの層で構成され、上に行くにつれて上流階級が暮らすという、これまたもろにイギリス階級社会を反映した格差構造を持っています。他の小さい都市を“捕食”し、資源を獲得するために欧州にやってきたロンドンは、都市を食べると最下層のガット(腸)と呼ばれるエリアで解体し、その居住者は奴隷として働かされていきます。このロンドンには長となるトップの人間がいるものの、すっかり老いぼれた存在として作中ではほとんど出番もなく、実質的な指導者として登場するのが、考古学者として有名なサディアス・ヴァレンタインです。
一方、みんながみんな移動都市暮らしを良しとしているわけではなく、そんな世界に反旗を翻しているのがレジスタンスの「反移動都市同盟」。飛行船で空を飛び回りながら、打倒ロンドンを目指して活動を続けています。一時的な拠点となる空中都市も存在しますが、本拠地は「楯の壁(シールド・ウォール」と呼ばれる約1800mの巨大防壁の奥にある静止都市「シャングオ」。その反移動都市同盟で中心的人物としてカリスマ性を発揮しているのが、赤い飛行船「ジェニー・ハニヴァー号」を乗りこなす空賊アナ・ファン。そのアナと旧友だったパンドラという考古学者の娘が、本作の主人公ヘスター・ショウです。
ロンドンvs反移動都市同盟のガチンコ対決が開幕!というなら話はまだシンプルですが、ここにストーカーなる謎の第3者が参入するので、話は複雑に。何百年も前に生み出された人間と機械の人造人型兵器みたいで、その唯一の生き残り「シュライク」。シュライクは母を失い、彷徨っていたヘスターを育てた保護者でもあり、ヘスターが去ってからは執拗に追いかけてきます。完全にターミネーターでしたね…。
以上、短縮してのざっくり解説でしたが、これでも長い…。正直、とても1作で収まる内容ではないです。
都市が戦う、最高!
それだけの大ボリュームですから、当然、シナリオを考えるうえでは取捨選択が必要。最近は同じSFエンターテインメント大作として『アリータ バトル・エンジェル』という映画も公開されましたが、あちらは脚本をほどよくまとめていました。
ただ『移動都市 モータル・エンジン』の場合、ストーリーが膨大というよりは、土台となる世界観が巨大すぎるんですね。そこで“ピーター・ジャクソン”チームはどうしたかというと、「うん、なんかこう、感じとってくれ」という観客のフィーリングに任せる作戦(またの名を「放任」)に出たのでした。
だから「どういうメカニズムで移動都市は動いているんだろう?」⇒「察しろ」、「陸上を移動する都市なら空中攻撃に弱すぎるのでは?」⇒「黙っておけ」みたいな感じで、細かい部分は訓練された観客の想像力にお任せするスタイル。
そのぶん、「ほ~ら、移動都市が大激突して火花を散らしている映像を作ったぞ~」「ワーイ! ありがとう!」という単純明快な供給と需要でこの映画は成り立っています。冒頭のオープニングに見られるロンドン捕食シーンや、終盤のロンドンvsシャングオなど、好きな人はこれをオカズにご飯が何杯でもいける、極上のフルコース。ファンには失禁ものです(本当に劇場で失禁しないでね)。
映像面はとにかくスケールが大きいので、実質「怪獣映画」に近い見せ方も多々あるのですが、解体する都市の中をヘスターとトムが駆け抜けたり、細かいスモールな場面でもVFXをガンガン駆使して見ごたえある映像を用意してくれているのも嬉しいです。このへんはなんかTVゲームのマリオをやっている気分ですね。都市自体がトラップだらけのステージになっているという感じ。いろいろなスケールごとに面白さが変わるのも本作の魅力です。
個人的には、シュライクが空中都市を襲ってきたとき、狭い室内で暴れると反移動都市同盟の面々がどんどん床や壁をぶち破って空中に消えていくという、あっけなさすぎる最期がなんか好き。移動都市の豪快な戦闘とのギャップがまた…。
こういう映像が満喫できただけでも、鑑賞したかいがあったなと思える…そんなマニアの皆さんなら何も心配はいりません。
まだまだハングリー
もちろん欲を言えば不満はありますよ。
キャラクターの描き込みが薄いので全然感情移入もできないままどんどん話が進むのはいかがなものかとか。
ヘスターはビジュアルはめちゃくちゃカッコいいです。とくに序盤の赤いマスク状態での佇まいは100点の文句なし。でも、最初からミステリアスな存在で、イマイチ、キャラが落ち着く前に映画は終わってしまったなとも思います。物語上、鍵となるシュライクとの愛情の深さも伝わりにくいですし、トムとのロマンスも突然な感じが否めないですし、だったら最後までミステリアスなクール・キャラで一貫してほしかったですね。
そのトムにいたっては…薄い。こんな影の薄い主人公男性キャラ(?)、珍しいんじゃないか。ただ、一番存在感の乏しいキャラは、悪役サディアス・ヴァレンタインの娘キャサリンと機械工のベヴィス・ポッドですかね。あの程度の活躍ならいてもいなくても良かったな…(本来の原作では悲しい最期を遂げるみたいですね)。
一方で、本作はあんまり見られない俳優が多かったのは新鮮でした。ヘスターを演じた“ヘラ・ヒルマー”はアイスランドの女優だそうで、雰囲気が独特。また、アナ・ファンを演じた韓国の女優である“ジヘ”も魅力的な存在感があり、正直、本作でああもあっけなく終わるのは残念。できれば、アナvsシュライクのタイマン勝負ももっと見たかったです。
いや、最も見たかったのは「超巨大移動都市vs超巨大移動都市」のバトルでしたけどね。あんな静止都市相手に攻撃をぶっ放しているだけの戦いじゃないんだ、もっとメカとメカがガンガン衝突するやつが見たいんだ…。
ということで大赤字を出していることは無視して次回作があるなら、登場人物は少数でさらにマニアック度を増してくれると、私みたいなハングリーなバカは喜びます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 26% Audience 55%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures
以上、『移動都市 モータル・エンジン』の感想でした。
Mortal Engines (2018) [Japanese Review] 『移動都市 モータル・エンジン』考察・評価レビュー