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『人魚姫』感想(ネタバレ)…こんなぶっとんだ人魚は見たことがない!

人魚姫

こんなぶっとんだ人魚は見たことがない!…映画『人魚姫』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:美人魚 Mermaid
製作国:中国・香港(2016年)
日本公開日:2017年1月7日
監督:チャウ・シンチー
人魚姫

にんぎょひめ
人魚姫

『人魚姫』物語 簡単紹介

若き実業家リウは香港郊外の海洋を含む美しい自然豊かな地域を買収し、リゾート開発計画を企てていた。このままではこの場所は汚されて、平穏な環境は消えてしまう。この野蛮な計画をなんとか阻止するべく、この海で暮らす人魚族はリウの暗殺作戦を決行。まずは相手に接近しないと何も始まらない。人間に変装させた人魚のシャンシャンを地上のリウのもとへと送り込むが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『人魚姫』の感想です。

『人魚姫』感想(ネタバレなし)

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これがチャウ・シンチー監督流「人魚姫」

毎回「独創的」という言葉では言い表せないほど「ぶっとんだ」世界観をガツンとお見舞いしてくる“チャウ・シンチー”監督。

2013年に彼が監督・脚本した『西遊記 はじまりのはじまり』も強烈な味付けでした。有名すぎるあの「西遊記」の前日譚を描いた作品なのですが、観た人は間違いなく「えっ、これが西遊記につながるの!?」と言いたくなる内容。この斜め上なアレンジと、アクション・コメディ・ロマンス・ファンタジーがてんこ盛りなインド映画も彷彿とさせるような物量によるゴリ押しが、チャウ・シンチー監督作品の特徴です。ハマる人はとことん病みつきになってしまいます。

そんなチャウ・シンチー監督が最新作でターゲットにしたのが「人魚姫」。デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセン作の童話であり、知らない人はいないはず。映画だとディズニーの『リトル・マーメイド』が有名です。その「人魚姫」をチャウ・シンチー監督がどう調理するのか? これだけでファンは必見ものでしょう。

チャウ・シンチー監督が今回作りあげたのは現代版「人魚姫」。映画タイトルもずばり『人魚姫』ですから。ただ、そこはやっぱりチャウ・シンチー監督。普通の「人魚姫」にはしません。

そして、ファンの人は安心してほしい。『西遊記 はじまりのはじまり』のあのサービス過多&勢い重視のノリはちゃんと本作にも引き継いでいます。

あれかな、人魚と人間の切ないロマンチックな恋の物語はあるのかな…。ええ、ありますとも。あるんだけど…。

あれかな、人魚の暮らす海の世界が独創的に描かれているのかな…。ええ、そうですとも。そうなんだけど…。

あれかな、主人公の幸せを阻む魅力的な悪役とかが登場するのかな…。ええ、出ますとも。出るのだけど…。

チャウ・シンチー監督作品は初めてという人も問題なく楽しめますのでこちらもご安心を。なにせ中国の歴代興行収入の第1位を記録したくらいですから、つまり老若男女に受ける映画ということです。家族でもカップルでも楽しめる一作でしょう。とりあえず王道の人魚姫だと思わないでくださいね。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『人魚姫』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):電話番号の交換から!

ここは「世界奇珍異獣博物館」。その名のとおり、奇妙で奇抜で珍種で珍妙で異常で異形な生き物を展示している、世界でも珍しい博物館。

「全ての生き物は40億年前に海で生まれた。だから私たちの祖先は魚なんだ」と意気揚々と語る館長の男。指差すのは白亜紀のティラノサウルスだと言いますが、どう考えても小さい。人間の指サイズです。アムールトラだと指差したのは、体に縞模様をマーキングされた犬。お次は手羽先つきのバットマン。そして、塩漬けの人魚。

来館客は呆れ顔。明らかにインチキ博物館です。「カネを返せ!」とみんなが喚くと、とっておきを見せると言います。怪しげな湯船から出てきたのは、世にも醜い…人魚おっさん…。

そんなアホ話はさておき、香港郊外の海辺である青羅湾をリゾート開発のために超高額で買い取った青年実業家のリウ・シュエンは、ルオランジェンなどの身内を豪邸に招き、事業の門出を祝って盛り上がっていました。あの海域は埋め立てる気でいましたが、あそこはイルカの保護区。しかし、それを気にするリウではありません。カネさえあれば何でもできると思っています。

大勢でパーティ。美女に囲まれて有頂天のリウ。そんな中、策士のルオランはリウと上手い具合に取引をしようと進めます。取引成立。

そこに人魚の格好の若い女性が話しかけてきます。周りにいる人魚コスプレのダンサーに混じったのでしょうか。その女は「シャンシャン」と名乗り、電話番号を書いたという紙切れを渡してきます。警備員によって外に出される女。

そのシャンシャンはスケボーに乗って海近くの建物へ。地下扉を開き、どんどん下へ。そこは打ち捨てられた大型船の中です。

リュックを降ろし、湯舟の中にいた子どもに炎症を直す薬をあげます。その子は喜び、“尾ひれ”をバタつかせます。

するとある男が話しかけてきます。「リウは青羅湾を破壊し、我々を傷つけ、住処を奪った。その恨みを晴らす時が来た」と意気込みます。

一方、リウの進める青羅湾開発計画は順調でした。海に設置したソナーでイルカを追い出し済み。このソナーは特別製で、その威力は金魚を一瞬で粉々にできるほど。イルカ以外の音声もソナーで観察されたそうで、それは分析中とのこと。

そう、この青羅湾には本物の人魚が住んでいました。シャンシャンは水に飛び込みます。そこには大勢の人魚たち。人間とは同じ祖先でしたが、年々残虐になっていく人間たちを眺めるしかできませんでした。そしてその人間の暴力性が、人魚たちの海に危機をもたらしているのです。

人魚たちの反撃が始まります。まずは何をしよう…。

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予想できない人魚と人間の物語

実業家でかなりの資産を持つやり手のビジネスマンであるリウ・シュエンは、ある自然豊かな海のある一帯を手に入れて、我が物顔でやりたい放題。一般的な悪役ならリゾート建設をすることで環境破壊を気にもしないという姿で、その悪っぷりを表したりしますが、『人魚姫』はそんな生温いことはしない。

なんとどういう理屈かはさっぱり不明ですが、調査目的で使っていたソナーが海洋生物を一瞬で殺せるという大量殺戮兵器になっていることが判明。それでも野生生物保護区として数多くの海洋生物がいる海域で、そんなことを気にもとめないリウ・シュエン率いるチームたち。

そんな生きるか死ぬかの瀬戸際の中、人魚の少女シャンシャンはこのジェノサイドの中心人物であるリウ・シュエンを抹殺するべく、彼のオフィス(もちろん陸上)にトコトコとやってきて、暗殺のために接近するのでした。

なんだこのハードな人魚姫の物語…。

でも明らかに凄惨な状況なのに、なんでしょうか、この全体を漂うシュールさ。人魚たちの暗殺計画はどこか常にスベりまくり、挙句の果てにこのリウ・シュエンとシャンシャンは恋愛関係に発展するという、びっくり仰天の展開に…。

もうチャウ・シンチー監督に翻弄されっぱなしです。

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人魚だってスケートボードできます

『人魚姫』は前半と後半でテイストがガラリと変わります。

前半は「ばれるかばれないのか」サスペンスとコメディがたっぷり。チャウ・シンチー監督お得意の外しギャグの連撃はとても愉快に楽しめました。執拗なタコいじめとか、しょうもないんですけど笑ってしまう。

でも、本作一番の衝撃(笑いのほう)はやはり人魚の正体でしょう。この人魚の正体の見せ方が上手いなと思いました。冒頭の博物館シーンであまりにも残念な人魚もどきを見せることで、観客に「本物の人魚はさぞかし美しいのだろうな…」と期待を煽ります。ところが、実物は“あんなの”。見た目もあれながら、おつむもあれで、人魚に夢を見ている人はショックですよ。このへんは『西遊記 はじまりのはじまり』の孫悟空の正体を思い出しました。チャウ・シンチー監督ではおなじみです。
ポスターにもある巨大な尾ひれも「婆かよ…」とちょっと残念だった人もいるかもですが、まあ、この監督ですからね。

そして面白いのが人魚の人間化の扱い。知ってのとおり、原作の「人魚姫」はヒロインの人魚が人間に憧れて人間の姿になるのがお話しの主軸。一方で、本作では、ヒロインの人魚は冒頭から割とあっさり人間社会に同化しているという…「人魚がいかにして人間になるか」という原作の重要点を潔くギャグにする、チャウ・シンチー監督にしかできない大胆なアレンジでした。

本作のヒロイン人魚であるシャンシャンを演じたリン・ユンはオーディションで選ばれた新人だそうですが、役にピッタリはまってました。なんかこう全体から漂う「残念な子」感がいいですね。

そんなアホな人魚たちが繰り広げる「爆笑・人間暗殺計画」も、後半は終わりを告げます。

後半で目立つのは「ちょっとやりすぎじゃない?」と思ってしまうほど勢いのある残酷性。この残酷さは『西遊記 はじまりのはじまり』にもあったチャウ・シンチー監督の特徴です。でも、本作は残酷性にメッセージを担わせてしまっているのが違います。

あの終盤の船内の人魚が強襲される場面は、明らかにイルカ漁を意識した絵作りで、それを人魚でやってみせるのは、なんていうかストレートだなと。一応、本作のテーマに自然保護があるのでしょうが、このストレートすぎる内容は人によっては押しつけがましいと嫌がることもあるでしょうね。人魚たちの被害者性ばかり印象に残ります。

ただこの終盤のかなり異様なほどの残酷展開も、自然保護テーマをカモフラージュにした民族虐殺の問題を暗示させているテクニックだと思うと、いきなりチャウ・シンチー監督の手腕に脱帽したくなるというか。もしそうなら凄いものです。中国でこんな表現はストレートにはできませんからね。

アクションとしてもドラマとしてもカタルシスが弱いのも、後半の欠点ではありますが、あまりそこは張り切りすぎないのはいつものチャウ・シンチー監督のセンスなのかな。せめてヒロインとタコにカタルシスの見せ場が欲しかったですが、あんなにふざけまくったのにラストのあのじんわりとするオチの丁寧さとかは個人的に好きなところ。

とまあ、気になる点もあれど、全体を通して実に楽しい作品でした。タコは大切に!

『人魚姫』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 60%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C) 2016 The Star Overseas Limited

以上、『人魚姫』の感想でした。

Mermaid (2016) [Japanese Review] 『人魚姫』考察・評価レビュー