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「ベティ・ブープ短編アニメ」感想(ネタバレ)…アニメーションの中の女性を語るなら

ベティ・ブープ

彼女を語らないわけにはいかない…アニメシリーズ「ベティ・ブープ短編アニメ」(初期)の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Betty Boop
製作国:アメリカ(1930年~)
一部のエピソードはパブリックドメイン
原案:マックス・フライシャー
セクハラ描写 人種差別描写 恋愛描写
ベティ・ブープ短編アニメ

べてぃぶーぷ
ベティ・ブープ

「ベティ・ブープ短編アニメ」物語 簡単紹介

ベティ・ブープは今日も何かに巻き込まれ、誰かを魅了する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による「ベティ・ブープ短編アニメ」の感想です。

「ベティ・ブープ短編アニメ」感想(ネタバレなし)

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ベティ・ブープを知っていますか?

アニメーションで描かれる「女性キャラクター」。実写と違ってアニメーションは何かしらのデフォルメなどの創作がデザイン自体に作用するので、女性というジェンダーそのものがキャラクター化されているとも言えます。

アニメーションと女性の表象の関係は複雑です。多彩な表現もできれば、固定観念を助長することもあります。

そんな「アニメーションの中の女性」を語るうえで、欠かせない女性キャラクターがいます。女性のアニメキャラの原点のひとり、アニメ界のイヴのような存在。そのキャラはステレオタイプなセクシーさを身にまとい、セックスシンボルとなりながら、一方でフェミニストのアイコンとして親しまれることもありました。

それが「ベティ・ブープ」です。

ベティ・ブープをそもそも見たことがあるでしょうか。そのデザインはなかなかにインパクトがあります。

4頭身くらいでとても頭が大きく、顔はあきらかに幼くみえ、大きな目に短い頭髪がところどころカールしています。しかし、体はとてもセクシーで、肩を丸出しにし、ボディにフィットしたドレスでスカート丈は極短。足を剥き出しにし、ハイヒールを履いています。

このデザインは1910年~1920年代に若い女性の間で流行っていた「フラッパー」というサブカルチャーのスタイルを模倣しています。アメリカのジャズ文化の中に位置づけられ、社交の場に出たばかりの若い女性があえてこうした保守的な規範に逆らうような服装をしてみせるのが当時の自由を愛する女の象徴でした。

ベティ・ブープの子どもなのか大人なのか曖昧なチグハグしたデザインはそんなフラッパーを風刺しているわけですが、カートゥーンに登場したときの姿は意外なものでした。

“マックス・フライシャー”という名の「フライシャー・スタジオ」というアニメーション制作会社を築いたばかりの人物が考案したのですけども(デザインを描きだしたのは“グリム・ナトウィック”というアニメーターです)、当初は擬人化されたフレンチプードルの犬の見た目でした。

1930年に初登場し、1年も経たないうちに完全に人間の女性キャラクターへとリデザインされて変化しました(今でいう美少女化の先駆けかもしれません)。そのデザインのモデルは“クララ・ボウ”や“ヘレン・ケイン”など当時の人気女優だとまことしやかに言われましたが、明確なモデルは一応はいません(“ヘレン・ケイン”に訴えられたことがある)。

兎にも角にも1932年までベティ・ブープはフライシャー・スタジオの人気キャラクターへと躍進し、多くの短編アニメーションが作られました。

このベティ・ブープの何が革新的だったかというと、何よりもセクシーなキャラクターだった点です。それより前からいたポパイのガールフレンドで有名な「オリーブ・オイル」のような数少ない女性キャラと比べるとその性的さは明白です。1928年に誕生した「ミニーマウス」もフラッパー風の女性でしたが、男性キャラの女性バージョンだったのに対し、ベティ・ブープはオリジナルでデザインが独立した完全な人間です。そしてその性的さをこれでもかと作品内で魅せつけていました。

ベティ・ブープはアニメ界におけるセクシーな女性キャラの先駆者です。後の『おかしな赤頭巾』「Red」『ロジャー・ラビット』「ジェシカ・ラビット」『うる星やつら』「ラム」など、さまざまなセクシー系女性アニメ/漫画キャラの雛型となりました。

そのベティ・ブープの作品をあらためてちゃんと観たことがない人も多いと思います。

実はベティ・ブープのキャラクターは2026年からパブリックドメインになります。すでにパブリックドメインになっている作品も古いものを中心にいくつかあります。

今回はさすがに全部は挙げきれないので、『Boop-Oop-a-Doop』(1932年)、『Betty Boop’s Bamboo Isle』(1932年)、『Betty Boop for President』(1932年)、『Snow-White』(1933年)、『Poor Cinderella』(1934年)という5つの初期の短編アニメ作品をピックアップして、ベティ・ブープの魅力と表象を掘り起こしてみようと思います。

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「ベティ・ブープ短編アニメ」を観る前のQ&A

✔「ベティ・ブープ短編アニメ」の見どころ
★当時のジェンダー表象を窺える。
✔「ベティ・ブープ短編アニメ」の欠点
☆一部の作品は観る機会は乏しい(場合によっては不可能)。

鑑賞の案内チェック

基本 性的加害行為を示唆する描写があります。
キッズ 2.5
やや性的なシーンが含まれるので、低年齢の子どもには不向きかもしれません。
↓ここからネタバレが含まれます↓

「ベティ・ブープ短編アニメ」感想/考察(ネタバレあり)

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『Boop-Oop-a-Doop』(1932年)

この1932年の初頭に公開された短編『Boop-Oop-a-Doop』は、ベティ・ブープが人間の姿にリデザインされてから、そのキャラクター性が決定的に印象に刻まれるエピソードだったと思います。

舞台はよくあるサーカスでベティはライオンの調教師と綱渡り師として健気に働いています。「Boop-Boop-Be-Doop」でおなじみの「Sweet Betty」というテーマを口ずさむなど、ベティの定番がここで登場します。

このエピソードでことさら目立つのは、ベティが徹底的に性の対象としてみられている点です。さりげなくとかではなく、パフォーマンスしている場面でも男の観客たちが一斉に欲情の目で見上げますし、極めつけは団長です。

ベティがパフォーマンスが終わって裏のテントにひとりで戻った際に大柄の男性団長はベティに迫ります。そしてベティのさらけだされている脚を撫でまわし、尻を掴むなど、あからさまなセクハラを行います。さらに直接映さずテントの外から描くのみですが、テントの中でベティは悲鳴を上げ、明らかに性的暴力が行われようとしていることを示唆します

結局、ココというピエロのおなじみのキャラクターが助けて事なきを得るのですが、そのラストにベティは「No, he couldn’t take my boop-oop-a-doop away!」と、自分の純潔(処女)が奪われていないことをほのめかし、幕を閉じます。

典型的な「苦難の乙女(Damsel in distress)」のトロープですけども、性暴力被害者としてこれほどわかりやすい事例がこうも平然とアニメーションで描かれるのはちょっと現代からみると衝撃です。ただ、当時はこういう「大柄の男性キャラにヒロインが性的に襲われる」という構図はわりとドタバタ劇の一環として多用されていました(ミニーマウスも同じような目に遭ってます)。

こういう側面だけ切り取るとベティの表象は非常に男性の眼差しが色濃く、性的対象化されています

しかし、一方でベティは自分の性的魅力に自覚的で、それを恥じず、自らの意思で振りまき、加害には対抗しようとする素振りもエピソードによってはハッキリみせるキャラで、このエピソードはそれもよくわかります。だからこそフェミニストのアイコンにもなりえているんですね。

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『Betty Boop’s Bamboo Isle』(1932年)

ベティ・ブープが性の対象としてみられていることがよく強調されているもう一つの象徴的エピソードがこの『Betty Boop’s Bamboo Isle』です。

このエピソードの舞台はおそらく南半球のどこか熱帯の島。ベティのボーイフレンドのポジションになりがちな犬のビンボが最初に登場します(ベティは人間の姿にデザインが変わったのに、このビンボは犬のままなので、なんだか変なカップルですが)。

ビンボがその島に辿り着くとそこにはこの島の先住民と思われる部族がいて、その部族の王女のように存在するのがベティです(今作では浅黒い肌になっている)。

本作では「苦難の乙女」のテンプレはみられず、ベティは襲われないのでわりと平和ですが、後半にフラダンスみたいな踊りを踊る長めのシーンが挿入されます。この踊りはロトスコープで作られているので、動きは非常にリアルです。

問題はこのベティの格好が上半身はレイ(首からかける花などで作られた装飾品)しか身に着けておらず(つまり半裸)、かろうじてそれで乳房が隠れているだけなんですね。なのでとてもアダルトなダンス・シーンになっています。

なおかつこのエピソードのベティは有色人種なので、性的対象化と人種差別が合わさってその表象はより搾取的になっています

このようにベティは基本は白人のキャラですが、当時のアニメーションはプロットに応じてお手軽にキャラをブラックフェイスさせることもあるので、ややこしさが増したりするのでした。

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『Betty Boop for President』(1932年)

ベティ・ブープの作品はお色気ばかりやっているわけではありません。社会や政治を痛烈に風刺するエピソードもあります。

その中でもとくに切れ味が鋭いのがこの短編『Betty Boop for President』でしょうか。

このエピソードは大統領選挙を主題にしており、1932年11月4日にリリースされたのですが、その4日後の11月8日に実際にアメリカ合衆国大統領選挙がありました(「“フランクリン・ルーズベルト”vs“ハーバート・フーヴァー”」の対決となり、民主党のルーズベルトの圧勝でした)。つまり、完全に時事ネタの便乗です。

本作ではベティがまさかの大統領選挙に立候補し、しかも当選を果たします。ベティ大統領の誕生です。

ここで対立候補となっている「ミスター・ノーバディ」というひょろひょろのキャラが笑えます。「誰があなたの税金を減らすのか? ミスター・ノーバディ!」と聴衆に演説するのですが、要は「誰にもできない」と言っているのと同じです。当時の大恐慌時代の大衆の政治への失望と不信がありありと表れているユーモアでした。

そんなこんなで大統領になったベティは、反目する民主党と共和党をなだめ、次々とユニークな政策を実行。そのうちのひとつが非常にベティらしいです。

凶悪そうな大柄の男性受刑者を謎の装置で男らしさ皆無の姿に矯正して犯罪しそうにない存在に変えてしまうんですね。前述のとおり、ベティは散々大柄男性に性的に加害されてきましたから、これはベティなり性犯罪対策です。

大統領になって真っ先に性犯罪対策に取り組む…やはりフェミニストだ…。

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『Snow-White』(1933年)

西洋の古典的な童話をアニメーション化すると言えば、今ではディズニーのイメージがある人が多いと思います。しかし、そんなことはありません。

アニメーションの初期の時代である1900年代~1930年代にかけて、とてもたくさんのスタジオやクリエイターがさまざまな西洋の古典的な童話を題材に選んでいました。ファンタジーのジャンルとしてもう切り開かれていたんですね。

ベティ・ブープも例外ではなく、童話を題材にした短編がいくつかあります。

『Snow-White』はそのタイトルどおり、ベティ・ブープ版『白雪姫』です。1933年にリリースされました(ちなみにディズニーのアニメ映画『白雪姫』は1937年です)。

主人公の白雪姫をベティが務めているのですが、世界観もお構いなしに見た目(服も)はそのままいつものベティです。当然、魔法の鏡はセクシーなベティに夢中になり、女王の怒りを買います。

なお、この魔法の鏡は当時有名だったアフリカ系のジャズシンガーの“キャブ・キャロウェイ”をモチーフにしており、そのためか魔法の鏡の顔が浅黒い色になってます。“キャブ・キャロウェイ”はココのダンスシーンのロトスコープでも起用されており、昔からアメリカのアニメーションには黒人文化が取り入れられているのがわかりますね。

その後、ベティは拘束され(やけにセクシーにくねくねしている)、氷の池に落ちて氷の棺桶に閉じ込められ、小人たちに運ばれるという怒涛の展開が続きます。

本作では小人の出番はほとんどなく、リンゴも使われず、王子の活躍も無しで、ベティは女王をあっさり撃退し、あっけなくハッピーエンドを迎えます。わりと単純です。

とは言え、ステレオタイプな理想の男性に助けられるというプロットがないので(ココとビンボに少し助けられるのですが)、ディズニーのアニメ映画『白雪姫』よりよっぽど楽しそうに生き生きとしているヒロインになっています

この短編アニメはとても評価が高く、アメリカ国立フィルム登録簿に選ばれています。アニメーションも豊かですし、納得です。

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『Poor Cinderella』(1934年)

上記で紹介した短編アニメはすべてプレコード時代のものです。つまり、ヘイズ・コードが適用される前の時代のものです。ヘイズ・コードとは、保守的な宗教の道徳観にそぐわない表現内容を検閲する規制で、1934年から施行されました。

1934年中頃からヘイズ・コードは本格的に始まり、ポストコード時代になったわけですが、ベティ・ブープの作品はもろに影響を受けました。

なにせ主人公のベティ自体が性的なキャラです。ヘイズコードの規制は性的な描写も含まれます。

それでどうなったか…というのは、この1934年リリースの『Poor Cinderella』を観ると一目瞭然。

本作はベティ・ブープ版『シンデレラ』。ベティがシンデレラで主役です。

しかし、前年の『Snow-White』とは違って、服装はいつものミニスカではなく、最初はボロボロの格好で、セクシーさは無し(ドレス姿に魔法で変身するときだけ少し肌の露出がある)。フライシャー・スタジオ初のカラー映画だというのに、この控えめさ(なお、髪色は赤毛になってます)。

物語の展開もとくに捻りなく、よく知っている『シンデレラ』のとおりです。『シンデレラ』自体が保守的な物語なので、余計に退屈さが増した感じもあります。可哀想なシンデレラならぬ可哀想なベティですよ…。

ちなみに、ベティのボーイフレンドのポジションだったビンボは犬のキャラゆえに人間と恋愛関係になるのは不適切だということで存在自体が抹消されました(ベティも元は犬だったんですけどね…)。

こうしてポストコード時代は、ベティのアニメ内での役割が減り、キャラクターの存在意義を失い、人気が衰退しました。


このようにベティ・ブープをアニメーション史の初期の時代を背景にして眺めていくとそれだけで興味深いです。「エッチな女性キャラが規制された」と単純に捉えるのではなく、「当時のジェンダー表象の複雑な狭間にいた女性キャラ」という豊かな批評ができる潜在性がこのベティ・ブープが今も人の心を掴んで離さない魅力なのでしょう。

「ベティ・ブープ短編アニメ」
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

・日本の漫画・アニメのLGBTQキャラクターのリスト

作品ポスター・画像 (C)—

以上、「ベティ・ブープ短編アニメ」の感想でした。

Betty Boop (1930) [Japanese Review]
#ベティブープ #アニメ史 #童話