ケープド・クルセイダー、現る…アニメシリーズ『バットマン:マントの戦士』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にAmazonで配信
原案:ブルース・ティム
恋愛描写
ばっとまん まんとのせんし
『バットマン マントの戦士』物語 簡単紹介
『バットマン マントの戦士』感想(ネタバレなし)
1940年代から舞い戻る
1939年、あるスーパーヒーローが誕生します。
その名は「バットマン」です。
バットマンにはいくつかの異名があり、「World’s Greatest Detective」という名は初登場のコミック『Detective Comics』(後に「DC」の名の由来となる)と関連して、彼が「探偵(detective)」を意識したキャラクターであることを思い出させてくれます。
また、「Dark Knight」という異名は、“クリストファー・ノーラン”の『ダーク・ナイト』3部作であらためて一般にも広く有名になりましたね。
そしてもうひとつの異名が「Caped Crusader」。これは一番マイナーかな…?
そんなバットマンが自身の名を冠してコミックとなったのが1940年。この時代からバットマンの本格的な幕開けです。
なのでオールド・ファンにしてみれば「1940年代のバットマンこそ至高!」という声もあったりします。
そのクラシックなバットマンが大好きな人にとって、このアニメシリーズは最高かもしれません。
それが本作『バットマン マントの戦士』です。原題は「Batman: Caped Crusader」。
バットマンのアニメ化と言えば、1992年~1995年までの『Batman: The Animated Series』が知名度がありますが、当時は「DCアニメイテッド・ユニバース」というフランチャイズを展開していました。
このアニメを製作指揮していたのが、アーティスト兼アニメーターである“ブルース・ティム”で、ゆえにそのアニメ・フランチャイズは「Timmverse」なんて呼ばれたりもしました。
そんな伝説の“ブルース・ティム”に『Batman: The Animated Series』の続編企画をDC側は提案していたそうですが、“ブルース・ティム”はそれには乗り気ではないものの、以前の作品ではやりたくてもできなかった挑戦がしたいということで新しいアニメを企画。
そこに乗っかったのが、“J・J・エイブラムス”と『THE BATMAN ザ・バットマン』の監督である“マット・リーヴス”。
こうして“ブルース・ティム”がアニメに帰ってきて『バットマン マントの戦士』が2024年に誕生したわけです。往年のファンには嬉しいカムバックですね。
直近の実写映画『THE BATMAN ザ・バットマン』もダークな雰囲気で構成されていましたが、今作『バットマン マントの戦士』はアニメーションということで、よりコミックよりの暗さを表現。
大人のトーンですが、バイオレンスやエロティックな描写はなく、ノワールでパルプなビジュアルで研ぎ澄まされています。ちなみにバットマンのデザインはシャープなとんがり耳。私は尖がっているほうが好きです。
1940年代を舞台にしており、初期のバットマンがアニメで舞い戻ったような気分にさせてくれます。
近年のDCアニメは過激やりたい放題な『Harley Quinn』から、子どもも安心の『My Adventures with Superman』と、バリエーション豊かに揃っていましたが、『バットマン マントの戦士』はまた全く別のアプローチですね。
ただ、雰囲気はクラシカルですけども、キャラクターやストーリーは現代的クリエイティブで練り直されていますので、単にノスタルジーでも終わりません。
そのせっかく“ブルース・ティム”が腰を上げてDCのレガシーを渾身の投入をしてくれた本作『バットマン マントの戦士』なのですが、「Max」で配信を予定していたのに、ワーナー・ブラザースは本作を放り捨てることに無慈悲に決定。ワーナー・ブラザースのCEOはカネの亡者なのでね…。“ブルース・ティム”のバットマンの歴史なんかに何の思い入れもないのだろうな…。
このままボツになるのかと不安でしたが、Amazonが拾ってくれたので、「Amazonプライムビデオ」で独占配信となりました。
『バットマン マントの戦士』にてバットマンの声をオリジナル英語で担当するのは、ドラマ『真夜中のミサ』やドラマ『マンハント 〜リンカーン暗殺犯を追え〜』の“ハミッシュ・リンクレイター”。
アニメ『バットマン マントの戦士』のシーズン1は全10話で、1話あたり約25分。
80年以上の時を超えて、ケープド・クルセイダーの闇夜の活躍をお楽しみください。
『バットマン マントの戦士』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :バッドマン好き必見 |
友人 | :ファン同士で |
恋人 | :アメコミ好きなら |
キッズ | :少し硬派だけど |
『バットマン マントの戦士』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
クラレンスという男は拘束されて尋問を受けていました。裏組織の抗争にて内通者として疑われており、ボスが目の前に現れ…。
夜の倉庫で密かにブツをトラックに運搬していたギャングたちは、ある警戒をしていました。変な噂がこのゴッサムに蔓延していたのです。何でもマントをはおった黒づくめの人物が夜な夜な出現し、悪を成敗するとか…。
そのとき、まさにそのとおりの真っ黒な人物がどこからともなく出現し、一同をぶちのめしてしまいます。ところが、いきなり爆発が起き、何もかも吹っ飛びます。
その黒き人物は「バットマン」という通称で呼ばれています。その正体はブルース・ウェイン。ゴッサムでは有名な大富豪です。現在はこのバットマンの姿で悪を懲らしめることに没頭していました。
ブルースがこんなことをしていると知っているのは執事のアルフレッドだけ。現在、2週間で3度もルパート・ソーンのダミー会社の倉庫が爆破された件を不審に感じて調査していました。あの大物のソーンを敵に回すような大胆な奴がいるのか…。
ところかわって、公選弁護人のバーバラ・ゴードンは有罪にするためなら手段を選ばない地方検事ハービー・デントと法廷で対峙していました。デントは市長選にでる予定です。
別の夜、バットマンはゴッサム・シティ警察署に忍び込み、資料を漁ります。爆破事件の黒幕を知っていそうな者を脅して、「ペンギン」の名を聞き出すことに成功。
その正体はクルーズ船にあるアイスバーグ・ラウンジのオーナー兼歌手であるオズワルダ・コブルポット。今は警察の資金調達パーティを盛り上げており、そこにはゴッサム署のジム・ゴードン署長とその娘で刑事のバーバラも参加していました。
ブルースは出席者として混ざります。オズワルダは情報漏洩者が末息子のアーロンだと考え海に沈めて始末するほどに残酷。実際は別の息子のロナルド(ロニー)の仕業でした。
身の危険を感じたロニーはバーバラのもとに駆け込みます。警察署に逃げ込んだバーバラとロニーはジム・ゴードンに事情を報告。
その頃、ミサイルで警察署を攻撃しようとクルーズから狙うオズワルダ。そこへバットマンが駆け付け、その悪事を阻止しようと奮闘しますが…。
1940年代の闇
ここから『バットマン マントの戦士』のネタバレありの感想本文です。
『バットマン マントの戦士』は1940年代とバットマンの相性の良さをあらためて確認できる一作でした。
本作は前述のとおり、詳細な史実の歴史とのシンクロはありませんが(あくまでゴッサム・シティが舞台なので)、おおまかに1940年代を意識した世界観になっています。
例えば、第1話からギャング抗争が展開。実際、1930年代~1940年代は「パブリック・エネミー」と称された犯罪組織が問題視され、裏社会で勢力を強めていました。
本作の場合、第1話で裏でギャングを支配しているルパート・ソーン勢力と対峙しているのは、オズワルダ・コブルポット。今作では女性版のペンギンとなっていますが、表向きは芸能界のエンターテイナーであり、作中で男装してパフォーマンスなんてこともしています。当時はこういうクィアな人物がエンタメ界隈で存在感を発揮していたので、これも時代を投影していますね。女性の組織犯罪ボスも「ケイト・“マー”・バーカー」みたいな実在の人物もいたし…。
他にも、第2話における女優のイボンヌ・フランシスを陥れようとするベイジル・カルロのエピソードは、当時のモンスター映画ブームと映画業界の闇を映し出していました。第8話におけるフリークショーの移動遊園地にいるナタリア・ナイトもエピソードといい、エンターテインメントの世界の裏を炙りだす話も目立ちましたね。
こういう時代だからこそバットマンは引き立ちます。正直、2000年代にバットマンみたいな見た目で自警団的行動をするのはギャグにしかなりませんが、1940年代という絶妙な時代性の中ではありなんじゃないかと思わせる。バットマンはこの時代に生まれるべくして生まれたのだろうな、と。
本作はギャングや警察行政の汚職以外に際立つのが、富裕層の描写です。いつの時代にもカネ持ちはいますが、この1940年代にはその当時らしい財力の在り方というのがあって、どうしたって権力を持っています。
第6話に登場した幽霊のジェントルマン・ゴースト(ジェームズ・ジム・クラドック)のように18世紀の傲慢な富裕者の価値観がこの1940年代の富裕層にも蔓延っています。
バットマンであるブルース・ウェインも結局は富裕層であり、そんな彼が犯罪者を懲らしめるというのも、どこか自己矛盾しています。それだけ巨万の富があるなら、もっと慈善活動に全力寄付して、貧富の格差を解消することに務めるほうがよっぽど社会構造を改善する効果がありますから。
しかし、ブルース・ウェインは幼少期の両親の死のトラウマから、復讐と自警団行為を混同して身を潜めてしまっている。アルフレッドも気苦労が絶えません。
「バットマン」という作品はそんなブルース・ウェインの独りよがりな自己矛盾とどう向き合うかを常に問われるフランチャイズだと思うのですけど、『バットマン マントの戦士』は汚職や不均衡をとおして、そんなにセンセーショナルに煽ることなく、静かに「さあ、バットマン、どうする…?」と選択を迫る味わいがありました。
葛藤するいくつもの正義
『バットマン マントの戦士』は、バットマンであるブルース・ウェイン以外にも自分なりの正義を全うしようとする者たちを描く作品でもあります。
刑事レニー・モントーヤと公選弁護人のバーバラ・ゴードンの有色人種女性2人は、本作でかなり出番も増やされ、存在感の大きいキャラクターとしてボリューム・アップしていましたね。もちろん、この2人の正義がストレートに成就することはなかなかなく、自身の無力さを痛感させられることが多いのですが…。腐敗した職場で闘うことの難しさを刻むエピソードがいくつも用意されています。
一方、セリーナ・カイル(キャットウーマン)のように富裕層から盗むことで憂さ晴らしをするだけの者もいたり…。
とくに今作で印象に残ったのは、ハーリーン・クインゼル。今回、アジア系のハーレイ・クインのお披露目となりましたが、素のハーリーンのときはレニーと恋愛関係にあって交際していたり、バーバラとも仲良かったり、3人の若き女性としてこの堕落した社会に立ち向かおうとする連帯の兆しもみえました。
しかし、ハーリーンはハーレイ・クインとして、カネ持ちを精神医学の歪んだ応用で矯正するという方向に手を染めており、「気持ちはわかるけれどもそれをやってはいけない」というちょっと切ない正義の食い違いが描かれたり…。
今作のハーレイ・クインは今までにない独自の主体性があって興味深かったです。
セリーナ・カイルとハーリーン・クインゼルは退場してしまいましたが、残りのメンバーは終盤で一致団結します。
その渦中にいるのはハービー・デント。トゥーフェイスとなって己を見失いつつ、それでも正義に目覚めた灯を捨てまいともがくハービー・デントでしたが、今作では切なく散るも、テーマを揺さぶる重大な存在になっていました。
人を狂わすのはいつだって社会を搾取する傲慢な億万長者たち。本作の最後で、バットマンは今も悠々と私腹を肥やすルパート・ソーンを威嚇しますが、ほんと、根っこを叩かないとダメだからね…。わかっているか、“デヴィッド・ザスラフ”、お前のことだぞ…。
ラストでは、笑わされる男たちを前に完璧だとほくそ笑む謎の人物をチラみせして、ジョーカーを示唆しつつ、ひとまずの終わりを迎えます。
さらなる闇を深める『バットマン マントの戦士』のシーズン2に期待です。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)DC ケープドクルセイダー
以上、『バットマン マントの戦士』の感想でした。
Batman: Caped Crusader (2024) [Japanese Review] 『バットマン マントの戦士』考察・評価レビュー
#アメコミ #DC #バイプラス