続編でもオラ!…映画『長ぐつをはいたネコと9つの命』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2023年2月3日
監督:ジョエル・クローフォード
長ぐつをはいたネコと9つの命
ながぐつをはいたねことここのつのいのち
『長ぐつをはいたネコと9つの命』あらすじ
『長ぐつをはいたネコと9つの命』感想(ネタバレなし)
舞い戻って来たあの長靴を履いた猫!
とある粉挽き職人が亡くなり、その遺産が3人の息子に引き継がれることになりました。長男は粉挽き小屋を継承し、次男はロバを与えられました。しかし、三男に残されたのは1匹の猫だけ。猫しかもらえなかった三男がこれではあんまりだと嘆いていると、猫が喋り出し、「心配要りません。まず私に長くて立派な靴と袋を下さい。そうすれば後悔させません」と応えてきます。言われたとおりにすると、その長靴を履いた猫は三男を王様と親しくさせるために、あれこれと画策してくれます。そしてその企みは見事に達成され、三男は口が上手く頭の切れる猫のおかげで、贅沢な暮らしが手に入り、猫も優雅に過ごしました。
めでたしめでたし…。
これはヨーロッパに伝わる民話である「長靴をはいた猫」の物語です。ヨーロッパと説明しましたが、元をたどると紀元前のヒンドゥー教でも財産を創り出す猫の話があり、それが由来ではないかという説もあります。
民話「長靴をはいた猫」は現代にも受け継がれ、今ではさまざまな物語にアレンジされています。中には原作の原型をとどめていないほどに大胆な変化を遂げたものまで…。
今回紹介する映画も「長靴をはいた猫」の派生作としては個性の際立った一作です。
それが本作『長ぐつをはいたネコと9つの命』。
本作は「ドリームワークス・アニメーション」のアニメーション映画であり、あの「ドリームワークス・アニメーション」を成功に導いた先駆者である『シュレック』シリーズのスピンオフです。2001年から始まった『シュレック』は古今東西のおとぎ話の世界をごちゃ混ぜにしたようなパロディ風の舞台でした。その『シュレック2』では民話「長靴をはいた猫」を題材にした「長ぐつをはいたネコ(プス)」というキャラクターが登場し、人気を集めました。
そしてその「長ぐつをはいたネコ(プス)」を主人公にしてスピンオフ映画として生まれたのが2011年の『長ぐつをはいたネコ』でした。と言っても、もはや元の民話は全然関係ない物語になっていましたが…。この「長ぐつをはいたネコ(プス)」は賞金首であり、キザにヒーローぶるような奴ですが、一方でキャラクターデザインとしてはネコなので、思いっきりネコっぽい挙動をするというユーモラスなシーンも満載で、そのギャップで面白さを発生させている感じです。
この『長ぐつをはいたネコ』はあの“ギレルモ・デル・トロ”が製作総指揮に加わっていることもあって、ラテン系の描写がとても細かくできており(主役のネコを演じるのは“アントニオ・バンデラス”)、今ではラテン系のアニメーション映画と言えば『ミラベルと魔法だらけの家』など多彩に揃ってきていますが、その先駆けとなる映画でもありました。
そしてこの2011年の『長ぐつをはいたネコ』の続編企画もすぐに始まるのですが、肝心の「ドリームワークス・アニメーション」が組織再編もあったせいで作品計画も見直しされ、続編はスケジュールから消えてしまいました。
それでも消滅してはいなかった! 11年後の2022年に『長ぐつをはいたネコ』はカムバックを果たし、『長ぐつをはいたネコと9つの命』として2作目が到来しました。邦題からはわかりにくいですけど、事実上の『長ぐつをはいたネコ2』です。
近頃の「ドリームワークス・アニメーション」は同じく2022年の『バッドガイズ』といい、最近になってまた勢いを取り戻しつつあるノリの良さで、この『長ぐつをはいたネコと9つの命』もやってくれました。今作もとても楽しいです。子ども向けと侮るなかれ、きっちり大人も満足させてくれます。
監督は『クルードさんちのあたらしい冒険』の“ジョエル・クローフォード”。
オリジナルの声優陣は、前作から引き続いて“アントニオ・バンデラス”や“サルマ・ハエック”が健在の中、今回から新たにドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の“ハーベイ・ギーエン”、『ドント・ウォーリー・ダーリン』の“フローレンス・ピュー”、『エンパイア・オブ・ライト』の“オリヴィア・コールマン”、『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』の“ジョン・ムレイニー”など。
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は猫好きなら大満足なネタ尽くしの一作に仕上がっているので、そもそも『シュレック』を知らなくても気にしなくていいです。
『長ぐつをはいたネコと9つの命』を観る前のQ&A
A:前作『長ぐつをはいたネコ』の鑑賞を推奨しますが、観なくても全く話がわからなくなるというほどでもありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :大人でも楽しい |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :猫好きな相手と |
キッズ | :子どもも大満足 |
『長ぐつをはいたネコと9つの命』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):自分は死ぬのか?
サン・リカルドの英雄であり、賞金首の凄腕剣士のプスは今もみんなの人気者。歌ってと観衆はお願いし、プスは「恐れ知らずのヒーロー」と陽気に踊ってパフォーマンスします。
そこにこの邸宅の主である総督が帰ってきます。無断で占拠して騒いでいました。プスはお尋ね者なので、当然捕らえようとしてきます。しかし、なおもパフォーマンスを続けながら、見事な剣さばきで圧倒するプス。花火を盛大に打ち上げ、フィナーレです。
ところがその音で森の奥深くで眠っていた巨人が目覚め、城に襲いかかってきました。プスは飛び掛かって剣でひと突き。吹っ飛ばされても果敢に挑み、巨人は鐘を振り回して攻撃してくるも、それを逆に利用してノックアウト。
恐れなど微塵も感じさせずに華麗に倒したことで、プスは再び大歓声に包まれます。観衆の声援に答えてもう1度歌おうとしたそのとき、頭上の鐘がプスに落下して…。
目覚めると診察台の上で、村の医者が前にいました。深刻そうな顔で「君は死んだ」と告げます。笑い飛ばすプス。「猫だ、九つの命がある」
でもよく考えてこれまでの人生で何回死んだか思い出すと、1、2、3、4、5、5、7、さっきの鐘で8…。
これがラストだと医者は冷静に告げ、リタイアを勧めてきます。でもプスに全くその気はありません。医者はもしものときのために面倒を見てくれるというママ・ルナの住所を教えてくれますが、プスは強気のまま立ち去ります。
バーでペロペロ飲んでいると、急に隣に怪しい奴がいるのに気づきます。賞金稼ぎらしく、受けてたとうじゃないかといつもどおり勇猛果敢にウルフの相手をすることになります。しかし、相手は冷酷で凄まじく手強く、2つの大鎌で一撃。プスの頭をかすめ、血がたれます。
このとき、プスは初めて全身で恐怖を感じ、これまでのことが走馬灯のように蘇ります。そしてその場から逃げるのでした。怖気づいてしまったのです。
こうなったら例のママ・ルナのもとへ行くしかない。帽子、ベルト、衣服、長靴を地面に埋め、これまでの自分と別れを告げます。素のネコに戻り、自分を讃え、感傷的になりながら涙を流すプス。
ドアを叩くと、そこは飼い猫暮らしの生活が待っていました。完全に以前のヒーロー人生から遠ざかり、プスは覇気を失います。猫に化けて紛れていた犬が無邪気に話しかけてきますが、そんなのも無視です。
けれどもその家に3頭のクマを従えるゴルディ・ロックスが乗り込んできて、事態は風雲急を告げることに…。
死と老いが迫ってくる怖さ
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は前作がおとぎ話を揶揄う『シュレック』の系譜を引き継ぎつつ、きっちり主人公である「長ぐつをはいたネコ(プス)」のカッコよさを描き切ったのに対し、今回の2作目は大きく反転させてきました。
物語の構造としては『トイ・ストーリー4』に近いですよね。ある時期までみんなの中心にいた男が、自身の老いなどもあって自分が中心ではないことを痛感し、もしかしたらここで終わるのでは?という存在意義の死を突きつけられて、不安に駆られていく…という物語。
今作の『長ぐつをはいたネコと9つの命』の場合は、直球で「死」そのものである狼の死神がどこからともなく現れるという、かなりホラーな演出になっています。
子ども向けのアニメーション映画とは言え、あそこで血をしっかり描き、生々しい死を直視させるという描写は、それまでのコミカルさを好き勝手に笑っていた私たち観客さえも沈黙させる…とても巧みな反転の演出だったと思います。
そして全てを察して諦めきったプスがその後に行き着くのがあのママ・ルナの家で、ここが実にこの世界観らしいシュールさなのですが、飼い猫となったプスのあまりのあられもない姿にこちらは笑うしかないという…。キャットフードをみんなで並んで顔を突っ込んで食べて、猫用トイレを使う…この行為に最初は抵抗しても慣れるとそのまま流れで生きるしかなくなる。要するにあれは介護施設であり、尊厳を奪われてしまった高齢者の成れの姿が非常に痛烈に風刺されているのでした。
この「死」と「老い」が重なって迫ってくる怖さはやっぱり大人の観客にこそ響きますよね。子どもだとなかなかこの両者が重なることがないですから。
そこまで追い詰められて人生の終点に到達してしまったプスが、最後に依存することになるのが「願い星」の逸話(今作の物語の土台は「ピノキオ」っぽいですね)。本作では「おとぎ話」のある種のご都合的な恵みがそんなファンタジックなものでは片付けられず、それこそ藁にも縋る必死さで手を伸ばしたくなるものとして位置づけられていて、ここも結構見ようによっては切実です。
終盤で死に追い込まれて願い星までがむしゃらに走るしかできなくなったプスのシーンなどは、笑ってはいられませんからね。
ヘルパーになるのは犬
『長ぐつをはいたネコと9つの命』では死と老いに潰されかけているプスを救う物語が展開されていくのですが、そこでキーキャラクターとなるのが、猫に紛れていた1匹の犬。日本語版では「ワンコ」という名になっていますが、オリジナルの英名は「Perrito」。まあ、こちらもスペイン語で「子犬」のことなんですが…。
この“ハーベイ・ギーエン”演じる人懐っこい犬はセラピードッグだというのが重要です。そもそもこの元ネタである「長靴をはいた猫」の民話は「ヘルパー」としてのネコを描く寓話でした。持たざる者である人間を助けてあげる動物の話です。
今作ではその民話から引用しているのかは知りませんが、この犬が文字どおりの「ヘルパー」になります。猫じゃなくて犬なんですね。
そして民話では達者な話術や知恵などで事を乗り切るのですが、今回はセラピーをするという行為によって助けるわけです。つまり、ちゃんとメンタルヘルスの問題として解決しようという描き方になっています。
恐怖におののくプスの感情を犬が和らげる。プスだけでなく、家族の喪失に焦るゴルディにも「すでに家族はいる」という事実をさりげなく提示し、やはり拠り所を与えてあげる。セラピストの犬として抜群に役割を発揮してくれます。
こうしてプスはかつての婚約者であるキティ・フワフワーテ(オリジナルの英名は「Kitty Softpaws」)にも反省を示し、自分が背負いすぎていた“男らしさ”を少し降ろし、今一度自分らしく最後まで生きていこうと決心する。着地はベタですけど、誠実なストーリーだったと思います。
その大人にも味わい深い物語の一方で、エンターテインメントとしての気持ちのいい映像も併せ持っているのが本作の強み。今回は完全に『バッドガイズ』と同じアプローチを採用しており、序盤からアクションシーンになると緩急つけた漫画的な動きで駆け回ってくれます。あらためて思いますけど、こういうアクション演出こそこのシリーズにはぴったりですよね。かつてのカートゥーンで培ってきたコミカルさがCGと上手く融合していて、もしかしたら今が3DCGアニメーションの完成形なのかもしれない…。
アンチおとぎ話のビッグ・ジャック・ホーナーも鮮やかに撃退し、物語は本当の意味で「めでたしめでたし」。プスとキティと犬で船を強奪して、古い友人を訪ねる船旅でエンディングでしたが、これは『シュレック5』に続くのかな。これだけ本国で大ヒットしたのであれば、『長ぐつをはいたネコ』シリーズとしても3作目も視野に考えていそうですけど。
こんな風に『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、笑えるシーンと笑えないシーンを上手く使い分けて交互に繰り出して物語のバランスをとりつつ、さらにエンターテインメントな快感もプラスすることにも成功させており、「ドリームワークス・アニメーション」のネクスト全盛期を決定づける一作になったのではないでしょうか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 93%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ドリームワークス・アニメーションの映画の感想記事です。
・『トロールズ ミュージック★パワー』
・『スノーベイビー』
・『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
作品ポスター・画像 (C)2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 長靴をはいた猫と九つの命
以上、『長ぐつをはいたネコと9つの命』の感想でした。
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