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映画『ディープ・ウォーター(Fear Below)』感想(ネタバレ)…オーストラリアの川に潜るな!

ディープ・ウォーター

でも陸にも危険はある…映画『ディープ・ウォーター』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Fear Below
製作国:オーストラリア(2025年)
日本では劇場未公開:2025年に配信スルー
監督:マシュー・ホームズ
人種差別描写
ディープ・ウォーター

でぃーぷうぉーたー
『ディープ・ウォーター』のポスター

『ディープ・ウォーター』物語 簡単紹介

第二次世界大戦直後でまだ体験も残るオーストラリア。金塊を積んだマフィアの車が川に転落し、その全ては濁った水底へ沈んでしまう。急いで引き上げる必要性が生じ、その回収を任せられたのは破産寸前の潜水会社だった。しかし、この金塊を回収するべく潜水服で川に潜った彼らを待ち受けていたのは、水の中に潜む危険で獰猛な存在で…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ディープ・ウォーター』の感想です。

『ディープ・ウォーター』感想(ネタバレなし)

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2025年の隠れた良作サメ映画

サメ映画は年に何本観たっていいものです。サメ映画疲れなんてありません。疲れているとしたら、きっとその理由は、残業時間が増える規制緩和とか、そういうのですよ…。

2025年はサメ映画は無かったって? いやいや、そんなことはありません。目立っていないけど隠れた良作のサメ映画がありました。

それが本作『ディープ・ウォーター』です。

まず初めに日本語のタイトルと宣伝ポスターは忘れてください。いや、タイトルを忘れられると映画を見つけられなくなるので、作品番号みたいな気分で覚える程度にしておきましょう。

原題は「Fear Below」。邦題の「ディープ・ウォーター」はたぶん有名なサメ映画『ディープ・ブルー』のタイトルに便乗しているだけだと思いますが…。でも本作『ディープ・ウォーター』は全然「深く(deep)」ないんですよ。なにせ舞台は「川」ですから。

宣伝ポスターにいたっては毎度のことながらデタラメです。あんなサメも人物も演出もありません。サメ映画なのは間違いないですが…。

本作『ディープ・ウォーター』は、超大味の(もしくは超おバカな)B級映画では一切無し。アホみたいに巨大な怪獣サメもでてきませんし、頭がいくつもあるサメも、トルネードをともなって吹っ飛んでくるサメも、氷や砂地から襲ってくるサメも、トイレから飛び出すサメも、デジタルに変換されたサメもいません。

その一方で、しっかりスリルに特化したサメ映画の群れの中でも見分けがつかなくなることもない、なかなかに独自性を放っているサメ映画でもあるのです。

まず『ディープ・ウォーター』はオーストラリア映画で、さっきも説明したとおり、川が舞台。淡水にも泳いでくるサメもいるので、これ自体は生態に一致した展開です。

川で襲われるサメ映画は珍しいですが、本作の個性はそれだけではありません。『ディープ・ウォーター』は1946年が舞台で、この時代性も重要になってきます。そしてギャングものにもなっているんですね。

主人公はダイバーたちで、とある仕事をギャングに命じられ、サメのいる川に潜るハメになります。水辺には怖いサメ、陸地には怖いギャング。さあ、どうなる!?…という二重の挟み撃ちの緊張感に震えることに…。

小規模な作品ながらこのジャンルを組み合わせる手際が上手い『ディープ・ウォーター』。この映画を監督・脚本したのが“マシュー・ホームズ”というオーストラリアのクリエイターです。

あまり名を聞かない監督ですが、“マシュー・ホームズ”はもともとストップモーション・アニメーターだったそうで、2007年に『Twin Rivers』で長編映画監督デビューをしています。『Twin Rivers』は1939年のオーストラリア内陸部で繰り広げられる張り詰めた緊張をともなう人間関係を描いた作品。そして1800年代を描いたオーストラリア西部劇の『The Legend of Ben Hall』(2016年)、ブッシュで復讐を果たそうとする自警に憑りつかれた者たちの末路を描いた『The Cost』(2022年)と、常に地元オーストラリアを活かした作品を生み出しています。

『ディープ・ウォーター』で“マシュー・ホームズ”監督の名をぜひ知ってください(そういう私も本作で知ったのですが)。

俳優陣は、ドラマ『ロンドン 追う者たち、追われる者たち』“ハーマイオニー・コーフィールド”『High Ground』“ジェイコブ・ジュニア・ナイングル”『Streamline』“ジェイク・ライアン”『ストロベリーミルク』“アーサー・エンジェル”など。

残念ながら日本では劇場公開されなかったので、このタイトルとあのパッケージだと届けたい人に届けづらいのですけども、繰り返しますが『ディープ・ウォーター』は2025年の良作サメ映画です。

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『ディープ・ウォーター』を観る前のQ&A

✔『ディープ・ウォーター』の見どころ
★サメ映画に他のジャンルを組み合わせる手際の良さ。
✔『ディープ・ウォーター』の欠点
☆タイトルとパッケージで誤解されやすい。

鑑賞の案内チェック

基本 人種差別や女性蔑視の発言の描写があります。
キッズ 2.0
残酷な死亡描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ディープ・ウォーター』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

真っ暗闇な道を2台の車が走っていましたが、路面の悪さで車体がバウンドし、後ろのドアが開いてしまい、後方に積んでいた木箱が落ちてしまいます。

車に乗っていた男たちは急いで車を降り、後ろの道に散らばった木箱の中身をこき使える同乗者に拾い集めさせます。それは金塊でした。インゴットを回収し、もう一度車に積み、今度はロックをかけます。

またヘッドライトだけを頼りに、夜の道をずっと進みますが、なかなか着かないので運転手は苛立います。助手席の男は地図を出して道を示します。

ところが前方の車は道を外れて川に飛び込んでしまいました。乗っていた人は這い出て陸地に上がりますが、車は完全に沈みます。積荷を失ったことで、リーダー格の男は怒り、ヘマをした男の首を刺し、蹴とばして水に突き落とします。

今後の対応を考えないといけません。ダイバーが要ると指示し、さっそく動き出します。

水に浮かんだ遺体は何かによって水中に引きずり込まれましたが、誰も見ていません。

ところかわって、青空の下、ダイバーの仕事をしているクララジミーは地味な作業に汗水を流しながら頑張っていました。「シー・ドッグ」というダイビング会社は経営が厳しいのですが、肝心の仕事の依頼はほとんどありません。このままでは路頭に迷うことになってしまいます。社長のアーニー・モーガンも昼間まで寝ぼけており、今やクララとジミーがなんとか装備の整備などをしているだけです。

そこへ2人の紳士服の男が訪問してきます。ひとりはディラン・“ブル”・マドックで、アーニーはすぐに対応します。特別な仕事の依頼があるようで、アーニーは「うちは完璧なクルーも揃っているので大丈夫です」と自信満々に言います。

どうやら川に沈んだ車を回収してほしいというのが内容のようです。ただし、詳しくは話してくれません。カネは渡すので質問なしで仕事をしろとのことでした。断る理由はありません。渡りに船。今まさにカネが手に入るのです。こちらとしては願ったり叶ったりです。

クララは本当に大丈夫なのかと心配でしたが、前金のおカネをみて笑顔がこぼれます。とりあえずこの雇用は維持されそうです。

依頼主はブルの他にヤヌスと、一番下っ端のショーンもいます。共に現場へ行くと、その川は流れは緩やかですが、濁っていて岸からは沈んだ車は見えません。

クララとジミーは潜水服を装着し、呼吸ホースを伸ばすアーニーに見守られながら川に潜っていきますが…。

この『ディープ・ウォーター』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/11/28に更新されています。

ここから『ディープ・ウォーター』のネタバレありの感想本文です。

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オーストラリアの戦後を背景に

『ディープ・ウォーター』の舞台は1946年。第二次世界大戦が終わった直後であり、まだ戦争の傷跡が各々の心に鮮明に刻まれています。戦時中は、南太平洋における侵攻を拡大する日本軍に対する作戦のため、100万人ものオーストラリア人が兵士として従軍したとされています。

本作はそんな真新しい戦後を描いた映画です。例えば、アーニーは明らかに戦争のトラウマを引きずっており、アルコール依存症と思われる現状もそうした経験が後遺症のように今の人生への適合を妨げているのだろうと察せられます。いかにも古めかしい風貌ながらわりと他人想いで、部下のクララとジミーの命を何よりも大切にしてくれるのは、もうこれ以上は誰かが傷つき亡くなるのを見たくないからでしょうか。

そんな彼の目の前に「暴力」が襲いかかり、残虐な犠牲の脅威が間近に迫る。これは戦争の恐怖の再来です。

一方、クララは背景があまり説明されていませんが、ダイバーの仕事という肉体労働を女性がしているのはちょっとこの時代においても珍しいです。戦時中は、男性が兵士に駆り出されてしまったので、女性が肉体労働を伴う非伝統的な仕事にも就けることになり、結果的に女性の仕事の幅が拡大したのですが、本作の時期はもう戦争は終わりました。たいていの女性はまた家庭に戻りだしています。

それでもクララがこのダイバーという汗臭い仕事に残り続け、この小さな会社を人生の出発点にしようと健気に努力しているのは、きっと家庭が馴染めないのでしょうし、何よりもクララはジェンダー規範にうんざりしているのだろうと推察できます。

また、ジミーはオーストラリアの先住民です。作中では先住民は現行法の下では飲酒が禁じられていることが示唆されますが、これだけでなく、当時は先住民はさまざまな不平等の障壁のもとで生活せざるを得ませんでした。1940年代以前のオーストラリアにおける先住民の扱いは本当に酷く、同化政策が公然と進められ、先住民は劣等と位置付けられ、理屈をつけて子どもを親元から引き離すことも行われました。

寡黙なジミーは多くを語りませんが、相当に壮絶な経験を重ねてきたのでしょう。

このダイビング会社はそうした女性や先住民といったマイノリティ当事者を受け入れる数少ない雇用の場になっているようで、社会の片隅で手を取り合っています。

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動かぬブルよりも動くブル

そんなダイビング会社に襲いかかるのがギャングです。『ディープ・ウォーター』はギャングが弱者を搾取するという、非常にベタな導入と言えます。

本作におけるこのギャングはこれまた背景がほぼ何も説明なく、一見すると記号的ですが、それもまた意図した演出でしょう。要するにこれは恐怖の象徴です。

アーニーにとってはあのギャングはまるで戦時中の軍隊のような暴力で相手を支配する組織の怖さをそのまま思い出させます。

クララにとっては家父長的な存在そのものであり、実際に女性蔑視的な眼差しを浴びることになります。

ジミーにとっては人種・民族差別の具現化であり、誰よりも嫌悪と敵意を向けられ、握手を拒むから始まり、やがては直接的な暴力にいともたやすく発展します。

このギャングのリーダー格のブルがまた存在感がありました。正直、本作において彼はほぼほぼ突っ立っているだけなんですよ。でも常に威圧感を放ちながら、部下やダイビング会社の面々を顎で使い、自分は絶対に動かない。この態度がもう権力の象徴です。演じている“ジェイク・ライアン”はテコンドーのプロ・アスリートだった経歴があるらしいです。

そんなブルがついに動かざるを得なくなる瞬間こそこの映画の山場。そうなるのはもちろんコイツのおかげ。サメです。正確にはオオメジロザメ。英語では「Bull Shark」。ブルはブルでもこっちのブルは積極的に動きまくります。

先住民の言葉では「wamba」と呼ばれているらしい、あの汽水も淡水もなんのそので泳ぎ回るデカいサメは、とくに欲にまみれた目的意識はありません。ただ自分の生息地である水場にやってきた手頃な動物を襲っているだけ。妊娠中のようで気が立ってもいます。

あの人間のブルとサメのブルは、全く正反対の存在で、暴力がさらなる暴力に飲まれていく連鎖をみせてくれます。暴力が頂点に立つことはないんですよね。別の暴力に食われるだけなので。

決してサメの必要性がないわけではない、むしろサメがいるから物語が引き締まる…これはサメ映画としてのサメの使い方の理想なのではないかな。

サメに詳しいらしいボブ・ドラモンドがあっけなく食われ(『ジョーズ』のようになりそうでならないパロディ感も面白い)、アーニーも悲劇的な最期を迎える中、終盤は一触即発の銃撃戦へ。ここからは陸上でも息継ぎを忘れる緊迫感です。

クララがしっかり捨て台詞を吐いて人間のブルに引導を渡すのもいいですよね。あそこは「やっぱりこれだよ!」っていうジャンルの味つけでキメてくれるサービス精神がありました。

“マシュー・ホームズ”監督の今後の作品もチェックしようと思える良作との出会いに感謝です。

『ディープ・ウォーター』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

サメ映画の感想記事です。

・『セーヌ川の水面の下に』

・『MEG ザ・モンスターズ2』

・『海底47m 古代マヤの死の迷宮』

以上、『ディープ・ウォーター』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Bronte Pictures ディープウォーター フィアー・ビロウ

Fear Below (2025) [Japanese Review] 『ディープ・ウォーター』考察・評価レビュー
#オーストラリア映画 #マシューホームズ #ハーマイオニーコーフィールド #アニマルパニック #サメ #ダイビング #ギャング #先住民