4作目は師への第一歩…映画『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年に配信スルー
監督:マイク・ミッチェル
かんふーぱんだ4 でんせつのますたーこうりん
『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』物語 簡単紹介
『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』感想(ネタバレなし)
4作目を忘れないで!
2024年9月29日、上野動物園で飼育されてきたジャイアントパンダの「リーリー」と「シンシン」の2頭が、中国野生動物保護協会との協議の結果、2頭とも高齢期に差しかかる前に中国に戻すことが望ましいということで、中国の飼育施設に移送され、日本から離れました。2011年から上野動物園にいましたが、別れを惜しむファンの声はたくさん寄せられ…。
パンダ・ロスになっている人もいるかもしれません。でも大丈夫。日本にはこのパンダがやってきているのです。カンフーをするパンダが…。
ということで今回紹介する映画は『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』です。
本作はドリームワークス・アニメーションが贈る2008年に公開された『カンフー・パンダ』の1作目から始まったシリーズの最新作。
内容はいたってシンプル。擬人化された動物たちが暮らす架空の中華風の世界に1匹のパンダがいました。そのパンダはお腹がたぷんたぷんで食いしん坊だったのですが、実はカンフーの意外な才能を秘めており、師匠に認められ、どんどん武術を極めていく…。
コミカルなギャグも挟みながら、アクションは往年のカンフーのジャンルをリスペクトし、子どもも大人も楽しめるCGアニメーションとして大人気となりました。とくに本場の中国で大ウケとなり、大衆の心を鷲掴みに。中国で最も人気のアメリカ製のアニメ・キャラのひとりとなったのでした。
大ヒットによってドリームワークスにとっては『シュレック』シリーズと並ぶスタジオの顔となり、当然、続編が作られました。
2011年の『カンフー・パンダ2』、2016年の『カンフー・パンダ3』と続き、2024年にはついに4作目に到達。それが本作『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』。
前作『3』では主人公のパンダ(ポー)は武術を極め、みんなに教えることにも慣れていき、名実ともに一人前になりました。もうこれはシリーズのフィナーレとして綺麗な完結だろうという流れだったので、「4作目もくるの?!」とちょっとびっくりしましたけど、まあ、このヒット作を捨てるわけもないか…。
4作目の『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』はついに新しい師匠として才能を秘めた後継者を育成する側に立つことに…。そんなパンダで、大丈夫か?
そんなこんなでシリーズのファンは見逃せない『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』なのですけど、日本のファンには残念なお知らせ。劇場公開されません。配信スルーです。また…。
「また」なのは3作目もそうだったからです。しかも、3作目は2017年にDVD&ブルーレイ発売記念特別上映として劇場公開される機会が予定されていたのですが、突然、上映中止となるという二重のがっかり事件が発生。日本はパンダを虐めたいのか…。パンダが何をしたというんだ…。あのパンダ、カンフーできるだけだぞ…。
今回の4作目は「ユニバーサル・ピクチャーズ」配給なのですが(3作目は「20世紀フォックス」だった)、2024年12月時点で日本での劇場公開の話はありません…。
ドリームワークスのアニメーション映画は少し前まではファンの後押しもあって日本でも劇場公開されていたのですが、最近は、『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』、『トロールズ バンド・トゥゲザー』と、配信スルーに逆戻り。これはドリームワークスが提携する配給先がころころ変わっているせいだと思うのですけど、日本のファンにはツラい冬の時代だ…。
ともあれ『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』をお忘れなく。
『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』を観る前のQ&A
A:シリーズ未見の人が本作から観ても物語の基本は理解できます。ただし、1作目から3作目を全部観ておくと、より楽しめます。ちなみに『カンフー・パンダ』はアニメシリーズもありましたが、それらの設定はほとんど4作目には受け継がれていません。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子ども向けなので見せやすい。 |
『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
パンダのポーは龍の戦士として今日も自流の武術で困っている人を助けていました。腕前はすっかり一人前。なんなく事態を解決します。
それが終わって急いで地元に帰ってきたポー。実は実父にリー・シェンと養父ピンが協力して営んでいる食堂の新装開店イベントがあるのです。この店で育ち、この店の料理をたらふく食べてきたポーにとっては、ここは大切な場所。駆けつけないわけはありません。
ポーは谷の住民に愛され、ますます子どもに人気。ポーがいれば、そこにはいつもみんな集まってくれます。
そこへ武術の師匠であるシーフー老師が現れます。なんでも話があるとのこと。そして指導者になるように告げられます。それはつまり、もはや龍の戦士でいられず、後継者を見つけなければならないということ。せっかく龍の戦士としてここまで定着したのに…。
翡翠城で演武会が行われ、各地から実力者が集まり、それぞれの特技を披露。大盛り上がりです。でもポーは後継者を選ぶことには躊躇してしまい、まだ自分が龍の戦士でいたかったのでした。
その後、花びらが舞う中、心に問いかけるも答えはでません。そのとき、翡翠城の屋根の上をちょこまかと動く何者かを発見。中まで追うとそこにいたのは古代の武器を盗んでいた盗賊のジェンでした。ジェンは素早い身のこなしでポーを翻弄し、意表を突いてきます。狙いはポーの持つ知恵の杖のようです。なんとかポーはジェンを捕獲できました。
悪いことをしたので刑務所に送ろうとしたところ、鉱山労働者たちが慌ててやってきます。なんと前に武術で力を誇示していてポーが打ち倒したはずのタイ・ランが霊界から戻り、採石場を全滅させたというのです。
すぐにポーは現場へ向かいます。確かにめちゃくちゃになっている作業場。タイ・ランらしき足跡があったものの、途中で別の動物の足跡に変化していました。
何やら事情を知っているらしいジェンに話を聞きに行きます。ジェンいわく、タイ・ランに思えたそれの正体は「カメレオン」と呼ばれる魔術師だとのこと。そのカメレオンはあらゆる動物に変身できるうえ、さまざまなカンフーの技をコピーできるらしいです。もしそれが本当なら脅威です。黙って見過ごすわけにはいきません。
他の龍の戦士は各地に散ってしまっています。頼れるのは自分のみ。ポーはジェンを連れてカメレオン討伐の旅に出ます。
そんなポーを心配してリー・シェンとピンもこっそり後から追いかけてきますが…。
師と弟子の反転の新章
ここから『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』のネタバレありの感想本文です。
1作ごとに必ず成長するこのシリーズの主人公のポー。『カンフー・パンダ3』では、引退したシーフー老師から指導役を任せられ、「個性を伸ばして才能を引き出す」というかつて自分がしてもらったことを他者にしてあげる技を身に着けました。
前作でもじゅうぶん指導者になれた気がしましたが、今回の『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』ではいよいよ本格的な指導者人生の新たな開幕です。
ポーが師匠になるのはちょっと若すぎる気もしますけど、あの翡翠城は規模が大きそうなわりにはシーフー老師くらいしかいないみたいだから…師匠不足なんだろうな…。担い手が足りてないのはこの世界も同じ…。
今作の4作目では、ポーは新たな後継者を見つけないといけません。「師と弟子」の定番の図式の発掘です。
すぐにキツネのジェンが登場するので、「このキャラがポーの弟子になるんだな」ということは観客は一瞬で察しがつきます。オリジナルの英語でジェンの声を演じているのはおなじみの“オークワフィナ”。完全にいつもの“オークワフィナ”です。今にもラップしそうですよ。
でもジェンは初登場時からすでに相当な身体能力で、ポテンシャルがあまりに高そうなんですよね。
何をドラマにするのだろう?と思っていたら、ジェンには子どもの頃から師がいました。それが今回のヴィランであるカメレオン。要するに、「有害な師」のコントロールからいかに脱却するかという話をジェンの物語の軸に持ってきていました。
とは言え、やはり子ども向けの軽いトーンの世界観ではあるので、その葛藤の部分もわりとあっさりと解決してしまいますが…。
今作ばかりはポーのあの人畜無害さというのが、若干のテーマ的な食い合わせの悪さというか、退屈さになりやすいのかなとは思いました。
4作目にてポーは自分で「カンフー・パンダ」と自称するほどに名実ともに「カンフー・パンダ」になりました。きっと4作目で終わらず、今後もシリーズは継続し、これが新章ということになると思いますが、カンフーマスター・サーガが面白くなるかどうかはこのポーとジェンにどんなドラマ性を持たせるかに全てかかっているでしょう。
師になるというのは単に反転するだけでなく、関係性の上下が変わるのですから、今度はポーに責任が圧し掛かりますし、下手すれば有害な作用を相手に与えます。今までのように「ポーは平和主義だからオールOKです!心配いりません!」みたいな能天気な態度ではプロットでもいられないはず。そこをどうするかですね。
ジェンは…どう面白くさせていくのかな。よくあるのは弟子闇堕ちパターンだけど、そこまでじゃなくてももっと大きな挫折を経験するとか、かなり順風満帆だったポーとは決定的に違う弟子のストーリーを用意していってほしいところです。
理想の方向性のひとつは『クリード』シリーズみたいな感じかな?
ヴィラン問題と2人の父親
『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』はこのシリーズの別の問題に対する前途多難な課題も浮き彫りになっていました。それはヴィラン問題です。
このシリーズはポーの強さが凄まじくインフレしており、3作目でもはや神的な領域に到達していました。「身体的技能として強くなる」という点においてはこれ以上の発展はないレベルです。
4作目ではそんなポーにどんな強敵が立ちはだかるのかと思えば、それはカメレオンという変幻自在のシェイプシフターでした。最終的には、あらゆる武人の特徴を合体させたキメラのような怪物になって、もうカンフーでも何でもなくなっちゃうのですけども…。
今作では過去のヴィランたちなんかも霊界から総出演して、ちょっと悪役に利用されつつもポーたちの成長を助けるので、さながら『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』みたいです。
ヴィランとしてもあの手この手でインフレしきったので、次は因縁の相手というベターなやつでいくくらいしかないかな。
話は全く変わりますけど、4作目で案外と出番が多かったリー・シェンとピン。2人は実父と養父であり、今や一緒に店をやるくらいに親しい関係なのですが、本作ではやたらとポーには「2人の父」がいるということが強調されます。実父と養父だと説明も付け加えず、私たちは父親だとしきりに口にします。2作目と3作目で描かれるポーの出生の過去を知っていないと少し混乱するでしょう。
これ、私の勝手な推測ですけど、製作陣はゲイ・カップル両親と解釈できなくもない表象にさりげなくしようと狙っている感じはありましたね。もちろんこの2者に恋愛感情はないのだろうけども、表面上はゲイ・カップル両親に育てられた子と何も変わらない家族風景という…。
中国で劇場公開することは必須のこの映画において(そして中国は検閲をするのでLGBTQ描写はできないという前提がある中で)、ドリームワークスのクリエイターは水面下でこっそりゲイ表象を忍ばせている涙ぐましい努力をしているのかな…。
今後のシリーズ展開におけるリー・シェンとピンの未来も少し気になります。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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ドリームワークス・アニメーションの映画の感想記事です。
・『バッドガイズ』
・『トロールズ ミュージック★パワー』
・『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
作品ポスター・画像 (C)DreamWorks Animation カンフーパンダ4
以上、『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』の感想でした。
Kung Fu Panda 4 (2024) [Japanese Review] 『カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨』考察・評価レビュー
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