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韓国映画『ザ・コール』感想(ネタバレ)…Netflix;その電話に出てはいけない

ザ・コール

不審な電話には気を付けないと…Netflix映画『ザ・コール』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Call
製作国:韓国(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:イ・チュンヒョン

ザ・コール

ざこーる
ザ・コール

『ザ・コール』あらすじ

人生が真っ暗になっていた若い女性。家族との歪な記憶を胸にしまっていると、古い電話が鳴る。なにげなくその受話器をとると、聞こえてくるのは切羽詰まって助けを呼ぶ少女の声。しだいに判明するのは普通では説明できない現象による繋がりだった。これは偶然か、運命か。同じ家に暮らす2人の女の人生が大きく歪み始める。その先に待っているのは…。

『ザ・コール』感想(ネタバレなし)

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ネタバレ厳禁の固定電話スリラー

今は家に固定電話がある家庭はどれくらいいるのでしょうか。総務省の調査によれば、全世帯のうち3割強は「固定電話を持っていない」とのことです。20代に限れば5%程度しか固定電話を保有していないので、今後は固定電話保有率がガクッと減るかもしれませんね。

かくいう私も固定電話はあるにはあるのですが、全くと言っていいほど使っていません。固定電話がかかってくるのはサービス勧誘か世論調査の電話くらいなものです。日常のコミュニケーションはスマホで事足ります。固定電話がいらなくなるのも無理もないと思います。

でも振り返ってみると電話機が固定であるというのはいろいろなイベントのきっかけになっていたなぁとも感じます。相手に電話をかけてもその家の誰がでるかもわからないですし、おのずと電話マナーでもって対応しないといけず、少し緊張したものです。もちろん絵文字も動画もないツールですから、音声だけにしか頼れませんし、声のみで相手に伝えないといけません。これはこれでなかなかにハードルは高いですね。

今はスマホ時代なので、映画もスマホを上手く活用した物語の仕掛けを用意しているものがたくさん登場しています。

しかし、今回紹介する映画はあえて時代に真っ向から逆行し、固定電話を効果的に駆使した作品になっています。それが『ザ・コール』という韓国映画です。

本作はコロナ禍の影響を受けて劇場公開の機会を逃してしまった映画のひとつであり、Netflixがそのリリースを担うことになりました。同様の境遇となった韓国映画は『狩りの時間』『#生きている』と続いており、皮肉にも日本で最新韓国映画をいち早く観れるシチュエーションをもたらしてくれています。良いんだか悪いんだか…。

『ザ・コール』の物語は一見するとシンプル。主人公の女性の家にある固定電話にとある電話がかかってきます。それは聞きなれない女性の声で、助けを呼んでいるように思えます。そしてとんでもない展開が…。

もったいぶった書き方になってしまいましたが、本作はあれです、ネタバレ厳禁なタイプの作品。絶対に鑑賞前にオチを調べてはダメです。どんなものなのかなと気になってネット検索してこのサイトにたどり着いて今この文章を読んでいるなら、さっさと視聴しちゃいましょう。面白いですから。

まあ、これだけは言ってもOKだと思いますけど、スリラー映画です。とても息もつかせぬ緊迫感が加速的に進行していきますので、鑑賞する際は邪魔が一切入らない時間を用意して、一気に観てしまうのを強くオススメします。

監督は“イ・チュンヒョン”という人で、本作が長編映画デビュー作だそうで、これまた素晴らしい才能が登場しましたね。

俳優陣は、まず主人公の役を務めるのは、ドラマ『美男ですね』『アルハンブラ宮殿の思い出』に出演して大人気となった“パク・シネ”。最近は『#生きている』といい、ロマコメのような王道ヒロインではないタイプの役柄が目立っており、とくにこの『ザ・コール』の“パク・シネ”はイメージを良い意味でブレイクする存在感を新たに見せてくれています。

ただ、この『ザ・コール』で私のイチオシ俳優はやはりキーパーソンを演じる“チョン・ジョンソ”。彼女は『バーニング 劇場版』でイ・チャンドン監督がオーディションで見いだし、素晴らしい名演を見せて印象に刻まれたばかりだったのですが、この『ザ・コール』でまたしてもやってくれました。もう言葉で言い表せない怪演ですよ。ほんと、この女優、なんなんだ、と。ついこの間デビューしたばかりには思えない…。

他にも『毒戦 BELIEVER』の“キム・ソンリョン”、『インサイダーズ/内部者たち』の“イエル”などが脇を揃えており、全体的に女性主体のスリラーというのも特色です。

『ザ・コール』はNetflixオリジナル映画として2020年11月27日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(今年必見のスリラー映画)
友人 ◎(友達と緊迫感を共有)
恋人 ◎(スリルを一緒に味わおう)
キッズ ◯(残酷描写がややあります)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・コール』感想(ネタバレあり)

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その電話が全ての始まり

殺風景の田舎道をスーツケースをひきずって歩くひとりの若い女性。そこにトラックがやってきて、ピックアップしてもらいます。助手席に座る女性・ソヨンに話しかける運転手の男はソンホおじさんです。「今頃やってくるなんて」とおじさんはソヨンに言いつつも再会に嬉しそう。

そしてポツンと立つ古びた家に到着しました。ここがソヨンに残された唯一の居場所。ソヨンの父は彼女が幼いことに家事で亡くなっており、母も最近になって脳の腫瘍でこの世を去りました。ソヨンは母と仲が悪く、死の直前は「父の墓の隣に眠る資格があると思っているの?」なんてかなりキツイことも言ったものでしたが、それも今さらです。

すっかり誰も住んでいない家の玄関をあけると、中は真っ暗。カーテンをあけて光を通すと、家具がそのまま。元の家の持ち主のものでしょうか。

ソヨンはスマホを列車に忘れたらしく、固定電話機を見つけ出し、自分の携帯番号にかけます。「私が持ち主なんですが取りに行きます」と言うと相手は「謝礼は?」と平然と要求してきて切れてしまいました。世間は冷たいです。

すると固定電話に電話がかかってきます。急いででると「あなたの言うとおり母は普通じゃない。私を家に閉じ込めた」と見知らぬ女性の苦しそうな声が聞こえます。「間違ってませんか」と教えてあげると「ソニでは?」と向こうは言い放ち、とくに説明もなく切れました。意味不明です。

久しぶりに親の墓前に立つソヨン。「1999年11月27日没」…思えばここから自分の人生は下り坂でした。

家に戻るとまた電話。相手はあの見知らぬ女性で「ソニ、母に殺されそうなの!」とおそらく自分のいる場所であろう住所を言ってきますが、こちらが困惑していると「わざと意地悪しているのね」とまた切ってしまいます。しかし、ソヨンは気づきました。その電話相手が口にした住所はここの住所だと…。さっぱりわかりません。

とくにすることもないのでソヨンがソファの上で丸くなって眠っていると物音が。起きて探索すると、壁にかかっている写真が落ちただけ。トンカチで設置し直していると壁の奥が空洞だと気づきます。壁を崩していくと謎の地下への階段が出現しました。

ライト片手に降りて行くソヨン。その冷たい空間には椅子とくまのぬいぐるみがぽつんと置いてあり、段ボール箱にはノートが。「1999年8月27日金曜日」とあり、「霊を撃退するためだと言いお母さんが私に火をつける」と不気味なことが書かれていました。1枚の写真が落ち、そこには女子が映っています。

翌日、ソンホおじさんにこの写真の女子を知っているか尋ねると「ヨンスク」と答え、母親が霊媒師ということがわかりますが、なぜかおじさんの口が重いです。

帰り道、ソニのスーパーという店を見つけます。ソニはこれのことなのか?

また電話です。

「ソニ、早く助けて! お母さんがまた私に火をつけようと…」

すると穴から煙が出てきて、例の地下の階段が熱で燃えているのを目撃。また電話で「来ないなんて、ひどすぎない?」とそのヨンスクと思われる女は言ってきます。ソヨンはノートの書き出しの文章を言い当てることで自分の推察で導かれる確信を告げます。

「信じがたいけど私たちは今、同じ家にいます」

どうやらこのソヨンのもとにかかってくる電話。それは過去に同じ場所にいたヨンスクからの電話らしいのでした。信じられない事態に驚きつつも、2人は電話越しに交流を重ね、仲良くなっていきます。

実はソヨンは幼いことに両親とこの家の下見に来ており、そこでヨンスクに会っていました。1999年11月21日のことです。

ちょうどその日が来て、ヨンスクは電話越しにソヨンの家族の声を聞かせてくれます。ソヨンは懐かしい幸せだった時代を思い出し、涙。そしてヨンスクは「いいこと思いついちゃった」とあるアイディアを口にします。

「あなたのお父さんを生き返らせてあげられるかも」

それは人生をやり直せる、心を揺らす誘い。その先に待つのは幸福か、それとも…。

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『君の名は。』っぽい出だし

『ザ・コール』はアイディア自体はそこまでの斬新なものでもなく、オーソドックスな定番ともいえるかもしれません。しかし、その見せ方が非常に洗練されており、役者の名演もあって一級品のクオリティで観客を釘付けにさせてくれます。

2つの時間を超越した電話。そこでソヨンとヨンスクというともに28歳、年齢は同じ、世代は違うという存在同士が常識を超えて繋がっていく。

なんか立場の異なる者同士がSF的な要素で繋がる感じが、いかにも新海誠監督っぽいですね。『君の名は。』的といいますか…。

とくに最初はこの2人が交流を重ねて親密になっていく過程が、それこそ青春ドラマのようにみずみずしく描かれており、ホッとさせられます。スマホなどの未来のガジェットを教えて自慢したり、お気に入りのアーティストの情報を教えたり、地面に入れ物を埋めてアイテムを送ったり…。

ソヨンは父の死で、ヨンスクは母の軟禁によって、それぞれろくな青春時代を過ごしてこなかったと思われるので、ここで2人はその満喫できなかった青春を体感していきます

そしてヨンスクがソヨンの父が家事で亡くなるのを現場までいって防ぐことで未来が変化。ソヨンは両親に囲まれ、幸せをゲットできます。ここの家が変貌していくいかにもベタなSF演出も、映像ばかりに目を惹きつけさせるミスリードになっている感じなのですが…。

当然、じゃあ今度はソヨンがヨンスクを救う番になるのだろう…そう予想するものですが、そこはこの『ザ・コール』、そんな安直なハッピーエンドにさせてくれません。いや、ここからが本性です。

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チョン・ジョンソに堕ちる

大雑把に言ってしまえば、「悪魔から助けたと思ったら、助けた方が悪魔だった」パターンですね。

ちなみにNetflixの作品コンテンツ内に表示される「あらすじ」のテキスト、よく読むと核心部分をネタバレしちゃっているんですよね。これはダメだろうに…。

まあ、ともかくこのヨンスクの正体、実はもう序盤から伏線がしっかり貼られています。最初の電話シーンの時点でのソニに対するずいぶんと横柄な態度(近所のソニという同年代の女性をいたぶっていたことが後に判明)、ソンホおじさんがヨンスクについて言及を避けるシーン(ヨンスクの悪行の噂を知っていたのでしょう)…。

そして何よりもヨンスクを演じた“チョン・ジョンソ”の怪演です。初登場から単なる養母に虐待される可哀想な被害者の女性…というには何か得体の知れない内側を持っている、そんな禍々しいオーラをさりげなく放っており、あの佇まいが凄いです。

「あなたのお父さんを生き返らせてあげられるかも」というあの発端となる定番も、オチを知ってしまえば、最恐に身震いする悪魔の囁き

さらに幸せな生活を満喫するソヨンは電話に出にくくなり、それに不機嫌さを全開にするあのヨンスクの「声」だけで伝わってくる狂気。毒づき、口汚く罵って、暴れる音。あそこだけでも「あ、これはもうヤバい」と思わせるのですが、恩があるソヨンはヨンスクを救ってあげたいと思ってしまう。

結果、養母から解き放たれたヨンスクのあの変貌っぷり。一気に自由を謳歌し、ド派手な衣装でスタイルチェンジ。

個人的にはまた幼いソヨンと父がヨンスクの家に訪ねてきたときの、あの悪事を思いついた瞬間のヨンスクの顔の怖さが最高にゾクゾクするクレイジーでした。

もう“チョン・ジョンソ”以上に悪魔が担う女はいない!という明言できるくらいのハマリ役ですね。正直、主人公も応援したくなる一生懸命さなのですが、あのヨンスクのサイコパスっぷりがたまらないので彼女を主人公に物語がずっと見たいと願ってしまうほど。こういう私みたいな人間が悪魔にそそのかされるんですけどね…。

サイコパス女性としてはドラマ『キリング・イヴ』に並ぶ名キャラクターだったなぁ。

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シスターフッドを悪魔は利用する

ついに最凶の悪魔が正体を見せると『ザ・コール』の緊迫感は一気に増します。

ソンホおじさんが消え、父親が消え、ソヨンの人生は崩壊し始めることに。ヨンスクを嵌めるべくビニールハウスでの爆発事件に巻き込ませるも、難を逃れる悪魔。あそこで電話がかかってきてソヨンがビクッとするシーンは王道ホラーにありがちなものなのですが、あえてその演出をあのタイミングで入れ込むあたりも上手いです。「私のお父さんが死んでるみたいです」と幼いソヨンの声を聴かせておちょくるあの悪趣味さもなかなかに最低最悪で…。

そしてソヨンの体に火傷ができていき、あげくに家がまた変貌して大量の冷蔵庫が出現するあのおぞましさ。

観ているこっちとしては「終わった…」という絶望感ですよ。主導権は完全に悪魔、ヨンスクにありますから。

しかし、ここで終盤にソヨンの母親が登場しての時間を越えて同調するラストバトルに突入。しっかり母との和解というエピソードを大一番に持ってきてくれる、これはニクイ演出でした。

結局、本作は母と娘を描くというテーマが一貫していたんですね。ある種の最も身近なシスターフッドであるわけでもありますし…。そこに最初はソヨンとヨンスクの同年代シスターフッドだと錯覚させる手口も巧妙です

そうやって翻弄しつつ、ベタなヒーローになるような男性キャラを一切介入させず、最初から最後まで女性の連帯を貫くあたりは本作の良さかな、と。これまで韓国のスリラー映画では女性がただただ無力な存在だったりしたわけですが、本作ではそれが逆転して男性がひたすらに非力な存在として葬り捨てられており、そのへんもフレッシュに見えます。

個人的にはあのヨンスクの養母にもうワンポイント救いがあると良かったですけど。まあ、“悲劇は終わっていないよ”エンドですからね…。

それにしても韓国は悪魔が本当に好きですよね。なんかいっつも韓国国民は悪魔と戦っているんじゃないか。

とにかく『哭声 コクソン』『サバハ』といい、韓国映画で悪魔スリラーとなると私は大好物だなとあらためて痛感しました。もしかしたら私、悪魔なのかもしれないです。

『ザ・コール』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 80%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

韓国の悪魔的な恐怖を題材にしたスリラー映画の感想記事の一覧です。

・『哭声 コクソン』

・『サバハ』

作品ポスター・画像 (C)Next Entertainment World, Netflix

以上、『ザ・コール』の感想でした。

The Call (2020) [Japanese Review] 『ザ・コール』考察・評価レビュー