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『パーフェクション』感想(ネタバレ)…Netflix;復讐を奏でよう

パーフェクション

復讐を奏でよう…Netflix映画『パーフェクション』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Perfection
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:リチャード・シェパード
性暴力描写

パーフェクション

ぱーふぇくしょん
パーフェクション

『パーフェクション』あらすじ

かつて将来を有望視されていた天才チェロ奏者の女性が元恩師を訪ねるが、そこには別の才能豊かな愛弟子がいた。互いの音楽のセンスを称賛し、それぞれの想いを交流させる二人。しかし、それは誰もが予想のつかない展開へと転がっていく。この演奏の主導権は誰にあるのか。

『パーフェクション』感想(ネタバレなし)

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安全ピンは生ぬるい

ネットでは痴漢に対して安全ピンで反撃することの是非が炎上ぎみで盛り上がっているらしいと聞きました。致し方ない正当防衛だとする意見と、過剰な攻撃で傷害罪だとする意見…まあ、それを決めるのは裁判なのでネット上でああだこうだ言い合ってもどうしようもないのですけど。

ただ、すっかり映画脳の私はこの一件について真っ先に思うことがひとつ。

“えっ、安全ピン程度で?” “それだと平凡すぎない!?”と…。

スリラー映画のセオリーで考えるならそれはない。リベンジ系ストーリーだとしたら、やっぱり復讐のオチとその手段をどう見せるかが見どころ。ペニスを切り落とすくらいしてもらわないと。百歩譲って安全ピンを使うにしても、眼球にどれだけ安全ピンを刺せるか見せるとか…ね(この人、クレイジーです)。たぶんリーアム・ニーソンなら、自分の娘が痴漢に遭ったと知ったら、安全ピンを駆使して最も残酷なかたちで復讐をするだろうなぁ…。

ともかく今回紹介する映画『パーフェクション』は、安全ピンくらいでゴタゴタ言っている人は直視できないスリラーなのは間違いありません。

物語は…う~ん、どこまで話せばいいのやら。実は本作はネタバレ厳禁なタイプの映画なのですよね。だから絶対に余計な詮索をしないで鑑賞してほしいのですけど、でも興味を惹くように紹介しないと…。

主人公はチェリスト、つまりチェロの奏者の女性です。あの女性がある他のチェリストの女性に出会うことで物語が始まります。これ以上は…言えない。我ながら全然紹介になっていない…。

ジャンルは「スリラー」です。非常に序盤から伏線が張り巡らされており、展開が二転三転するのが売りなので、よそ見しないようにしてください。主人公の職業的にも音楽が重要なキーワードになってきますが、決して音楽性をメインにした話ではありません。『セッション』みたいなのを期待はしないでくださいね。原題の「The Perfection」は「完全」という意味ですが、物語の内容的には「理想的な極致」と捉えるのがいいのかな。うん、抽象的なことしか言ってないなぁ。

注意事項として、残酷な描写があります。グロというか、痛々しいタイプのやつ。加えて、一部の人が大の苦手とするアレも出てくるので、覚悟がいるかも(苦手としていない人でも普通に気持ち悪い気分になります)。少なくとも食事しながら鑑賞するのはオススメしません。

監督は“リチャード・シェパード”で、『ニューヨーク恋泥棒』(1991年)、『ハンティング・パーティ』(2008年)、『ドム・ヘミングウェイ』(2013年)を手がけた人。昔から活動していますが、作品が日本では劇場未公開のものも多く、あまり触れる機会のなかった人ですね。

主人公を演じるのは、『ゲット・アウト』で詳しくは言えないけど印象的なヒロインを熱演した“アリソン・ウィリアムズ”。映画でのキャリアは少なめですが、内に何を抱えているかわからない不気味さをグワッとむき出しにさせる演技が非常に魅力的なので、今後もお目にかかりたい俳優です。

共演は“ローガン・ブラウニング”。『Powers』や『Dear White People』などのTVシリーズに出演しているので、ドラマ好きだとお馴染みかもしれません。

残酷描写は全然OKですよという人ならば、ほどよくスリルを楽しめる良作ですので、暇つぶしにどうぞ。安全ピンより鋭利に突き刺さるインパクトを保証してくれる映画です。

Netflixオリジナル作品として配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(じっくり展開を予測して)
友人 ◎(物語を予想し合って盛り上がる)
恋人 ◯(スリルをお望みなら)
キッズ △(残酷描写あり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『パーフェクション』感想(ネタバレあり)

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このスリラー、どっちに転ぶ?

『パーフェクション』、私はスリラーであるという以外、一切の前情報も無しに(予告動画すら見ずに)鑑賞しました。スリラーって一口に言っても実に色々あるので、本作がどういう系統のスリラーなのか、ワクワクハラハラしながらの視聴。

主人公はシャーロット・ウィルモア。どうやらずっと母の介護に付きっきりだったようで、その母が亡くなったことを機に、再び自分の人生をスタート。

場所は上海。ここで開催される若き子どもたちの音楽演奏会に審査員として参加。そこには自分の音楽学校時代の長年の恩師であるアントンがいて、久々に復帰したシャーロットを温かく迎え入れます。今までの狭い家での暗い介護生活とは打って変わって、華やかな音楽の社交世界をめかしこんだドレスで満喫するシャーロット。すると、そこに自分の他にもうひとり審査員をつとめる女性がいました。彼女の名はエリザベス・ウェルズ(リジー)。リジーもまたアントンの音楽学校に所属していた若手のホープ。シャーロットとは行き違いで学校に来たようです。

アントンに引き合わされ、ぎこちなくも挨拶するシャーロットとリジー。互いに相手の音楽を高く評価していると褒め合い、親交を深める二人。

この時点では全く何のスリラーなのかは不明。でも二人がキスをし、体を重ねていくくだりを観ると、“恋愛スリラー”なのかな?と漠然と思ってしまいます。

一夜を過ごした次の朝。リジーは二日酔いでダウナー気味で、シャーロットに薬をもらい、とりあえず外出。予定では中国の田舎を旅行に行って久々の長期休暇を満喫するはずでした。しかし、移動中のバスでリジーの体調は急激に悪化。そういえば音楽演奏会の会場で同じく吐き気を及ぼして運ばれている男性がいて、出血熱がどうとか…。訓練された観客の頭の中では、これは“感染スリラー”なのか!と警鐘が鳴りだしますね。

そうこうしているうちに吐くわ脱糞するわで悲惨なありさまになっていくリジーはパニック状態。頭の中が燃えているみたいと泣きじゃくるリジーと、そんな欧米人客をうざがる運転手。騒然とする車内でリジーが再び嘔吐。するとその吐しゃ物の中に大量の蛆虫のようなものが…。さすがにシャーロットも絶句。平凡な“感染スリラー”を思い描いていた観客もきっと絶句。

半ば強引にバスから引きずり降ろされ、道をトボトボ歩く二人ですが、リジーは錯乱状態。ここでさらなるショッキングな事態が。リジーの片腕がうねりだしたかと思いきや、そこから大量の黒い虫が皮膚を破って湧いて出てくるじゃないですか。

観客である私としては“え、バイオハザード系!?”とフィクションラインを大幅に変更する状況に理解を追い付かせようと必死なわけです。

そんな想像を絶する最悪な状況の中、やけにあっさりどこからともなく大きな鉈を取り出すシャーロット。どうすればいいかわかる?と聞くや否や、その鉈で自分の片手を切り落とすリジー。

ここで観客も察しがつきます。これはシャーロットが仕組んだことだと。

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観客さえも錯乱させる演出の妙

種明かしと言わんばかりに時間が巻き戻る物語。

リジーに強めのアルコールを勧めたのも、二日酔い薬と偽って頭痛・吐き気・幻覚の作用のある抗てんかん薬を飲ませたのも、虫を潜入意識に植え付けるような言葉をかけたのも、バス内でのパニック状況を作り出したのも、全てシャーロットの仕業

そして物語は、片手を失ってアントンの音楽学校に戻ってきたリジーがシャーロットに復讐するエピソード、さらに捕まったシャーロットが音楽学校での体験を明らかにして再びその恐怖に直面するエピソード、最後に全ての真相が明らかになるオチ…とぐるんぐるん展開が激変しながら進みます。

正直、相当に強引なストーリーですよ。でも見せ方に堂々たる鮮やかさがあって、その無理やりな展開も力業で押し通せるパワーがありました。

演出が上手いです。例えば、序盤の感染スリラーを錯覚させるエピソード。シャーロットの言葉巧みな誘導も効いていますし、リジーを演じた“ローガン・ブラウニング”の真に迫るパニックっぷりに観客も不安を煽られまくり。加えて、異国の地というシチュエーションが上手く効果を発揮しています。私たちが抱きがちな“どうせ中国って不衛生で危険なところなんでしょ?”とか“よそ者に厳しいんでしょ?”みたいな先入観を巧みに利用してくる嫌らしさ。

また、この衝撃的なビジュアルの幻覚サプライズに目を奪われがちですが、この前半パートで後半の音楽学校の実態を暗示させる伏線もしっかり散りばめられていました。例をあげるなら、わかりやすいところでは、シャーロットとリジーにある「♪」のタトゥー。はたまた、演奏会の子どもの親の淫らな行為を覗き見することに快感を覚えるリジーの“性”に対する態度。“性”といえば、シャーロットがリジーと体を重ねた日、「今まで誰とも寝たことはない」と告げるシャーロットの言葉も、その過去を知ればなるほどという納得。

もっとも冒頭の上海に来た時のシャーロットが、練習のようにアントンに再会したときの挨拶を繰り返しているあたりも、完全に台本どおりに進めようとしている意図を感じさせます。

後だしジャンケンで何でもありの予想外展開を見せられるのはあまり好みじゃないのですが、『パーフェクション』の場合は入念に作戦を練ったうえで、映像と演技でまんまと掌の上に踊らされる感じなので、とても満足できました。

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洗脳を解く代償は大きい

もちろん最大のツッコミはあれですよ。わざわざリジーの片手を切断するまでしなくてもいいのでは?ということ。そこまで大仰な計画を練るなら、最初からアントンをターゲットに復讐すればいいじゃないですか。虫まみれアントンが見たかったですよ。

でも意図したいことはわかるので、まあ、良しかな。要するに、教え子の女性を性の食い物にするあのアントン率いる音楽学校は、そうでもしないとキャリアを得られない世界。そんな世界で生きる女性は、自分の性を捨ててキャリアを得るか、はたまたキャリア(腕)を捨てて自由を得るか、その理不尽な二択を迫られる。そういう戯画化した極端なメタファーなんだという映画の狙いはじゅうぶん理解できます。

また、薬を使ったとはいえ、ああやって感染したと誘導されてしまうリジーを見ていると、それだけ音楽学校での洗脳も簡単なのだということを如実に表しているようで、興味深いです。洗脳には別の強烈な洗脳で上書きするという、“目には目を歯には歯を”戦法はジャンル映画的にはカタルシスがあります。

実際、未成年への性犯罪は悪意のあるマインドコントロールが使われ、それから自力で脱することは難しいということは『ジェニーの記憶』など実話映画でも描かれているとおり。

『パーフェクション』はフィクションとはいえ、その性犯罪の重みはリアルをベースにしているのではないでしょうか。

ただ、私的なツッコミ・ポイントは、なんで手首を切ったんだと。あの虫わらわら状態を見る限り、普通なら手首ではなく片腕を丸ごと落とすくらいするだろうに。まあ、そのおかげで、拘束されたシャーロットに股を開かせて迫るリジーが手のない切断腕で犯そうとする、恐怖のシチュエーションが生まれたから、まあ、いいか(何がいいんだ)。

最後に椅子に四肢のない状態で生き地獄を味わうアントンはまさに虫のようにぞんざいに扱われているのも良い対比ですし、シャーロットとリジー、二人で片手ずつひとつのチェロを演奏するラストカットのドヤ顔すら漂う感じは個人的には嫌いじゃない。

あれですね、作品名はネタバレになるので言えないですけど某韓国映画を思いだしますね。女二人が結託して、ある施設の性暴力社会に一泡吹かせる流れが。

社会に横行する酷い暴力に苦しむ皆さん、それが小さなことでも大きなことでも関係ありません。些細な行為でもやがて巨悪な一線を超えるようになります。反撃してやりましょう。でも、さすがに手足を切断するのは正当防衛にはならないと思いますので、念のため。

『パーフェクション』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience –%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Miramax

以上、『パーフェクション』の感想でした。

The Perfection (2018) [Japanese Review] 『パーフェクション』考察・評価レビュー