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韓国ドラマ『京城クリーチャー』感想(ネタバレ)…私たちは飼いならせない

京城クリーチャー

私たちは飼いならせない…ドラマシリーズ『京城クリーチャー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Gyeongseong Creature
製作国:韓国(2023年~)
シーズン1:2023年~2024年にNetflixで配信
監督:チョン・ドンユン
自死・自傷描写 人種差別描写 恋愛描写
京城クリーチャー

きょんそんくりーちゃー
京城クリーチャー

『京城クリーチャー』物語 簡単紹介

1945年の京城。日本が冷酷に植民地支配を徹底し、現地の住民は暴力に怯えながら暮らしていた。中には独立のために抵抗しようとする者たちもいるが、弾圧は容赦ない。そんな時代の陰鬱な社会で、富を手にして調子に乗っていた実業家の若い男がいたが、あるとき、警務局の日本人から人捜しを命令され、従うしかなくなる。仲間たちの協力に支えられ、怪しい場所を特定するが、そこには人間の貪欲さが生み出した存在が待ち構えていた。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『京城クリーチャー』の感想です。

『京城クリーチャー』感想(ネタバレなし)

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その地名には残酷な歴史がある

コロナ禍はすでに過去のもの。国外から日本への旅行であるインバウンドは完全に回復し、同時に日本から国外へのアウトバウンドも堅調に元の勢いに戻りつつあります。とくに近場である韓国は、少ない予算で行けるので人気です。

その大韓民国(韓国)の首都…ソウル。正確には「ソウル特別市」ですが、その名の由来は朝鮮王朝の首都だったときに遡ります。しかし、ずっとソウルと呼ばれてきたわけではありませんでした。

ある時期…ハッキリ言えば、日本が植民地支配をしていた1910年から1946年までの間、この地は「京城府」という日本領朝鮮の行政区域として名前を変えられました。「キョンソン」と読みます。

現在もソウルと釜山という2大都市を結ぶ韓国の最重要幹を「京釜線」と呼ぶなど、多少の名残が残っていますが、「京城」は朝鮮にとって植民地支配の歴史の象徴です。

今回紹介する韓国ドラマはそんな「京城」の名を冠する作品。それが本作『京城クリーチャー』です。

当然、「京城」の名がついていることからわかるように、舞台は京城。当時の日本の植民地支配が徹底して蔓延する世界を描いています。

しかし、『マルモイ ことばあつめ』のような社会派ドラマが展開される地に足ついた堅実な歴史モノではなく、かなりエンターテインメント路線で突っ走っている作品でもあるのが大きな特徴です。

韓国版『バイオハザード』…いや、アジア史をベースにした『バイオハザード』と言える感じかな?

京城でとある軍人の日本人が密かに非道な人体実験をしており、その結果、人知を超えた怪物が生まれる…バイオ・スリラーとして直球なジャンル的面白さもありつつ、その土台に歴史上の史実を採用し、植民地支配の残虐さを浮き彫りにさせる内容です。

ピンときた人もいると思いますが、この「戦争下で日本軍が非道な人体実験をする」というあたり、あの実在した「731部隊」からインスピレーションを得て作られています。「関東軍防疫給水部」が正式名だったこの組織は、満洲に拠点を置き、非人道的な人体実験に手を付けていました。日本軍が犯した最も悪名高い戦争犯罪のひとつであり、保守派の政治家はこの事実は無かったと主張していますが、2002年8月に東京地方裁判所は日本が満州で生物兵器を用いて庶民を虐殺したと認める初めての判決を下しています(ただし損害賠償請求は認められませんでしたThe Japan Times)。

『京城クリーチャー』は韓国ドラマ『キングダム』みたいな史実を土台にした「歴史if」のバイオ・スリラーですが、同時にサスペンス、ミステリー、アクション、コメディ、ロマンスと、数多のジャンルがてんこ盛りで欲張りな作品でもあります。

今の韓国らしい、韓国にしか作れないようなドラマですね。歴史とエンタメの混ぜ合わせは現行の韓国ではお手の物でしょうか。

『京城クリーチャー』を監督したのは、ドラマ『ストーブリーグ』“チョン・ドンユン”。脚本は、ドラマ『浪漫ドクター キム・サブ』“カン・ウンギョン”

俳優陣は、ドラマ『梨泰院クラス』でも話題となり、『マーベルズ』でハリウッド映画デビューも果たした“パク・ソジュン”が主人公。そこに、ドラマ『マイネーム: 偽りと復讐』『サウンドトラック#1』“ハン・ソヒ”がヒロインとして隣に立っています。

共演は、ドラマ『ヴィンチェンツォ』“チェ・ヨンジュン”『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』“キム・スヒョン”(クローディア・キム)、『渇き』“キム・ヘスク”『三姉妹』“チョ・ハンチョル”、ドラマ『シスターズ』“ウィ・ハジュン”など。

全編にわたって半分近くのセリフが日本語であり、一部の俳優さんたちは大変だったろうな…。

『京城クリーチャー』は「Netflix」で独占配信中で、シーズン1は全10話。1話あたり1時間を超えるので、じっくり鑑賞する環境を作ってください。

なお、人種差別的な憎悪を背景とした生々しく残酷な拷問描写があるので、ご留意ください。

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『京城クリーチャー』を観る前のQ&A

✔『京城クリーチャー』の見どころ
★見せ場満載な歴史とエンタメの融合。
✔『京城クリーチャー』の欠点
☆盛沢山すぎて絞り切れない部分も…。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:歴史ifエンタメ好きなら
友人 3.5:韓国俳優好き同士で
恋人 3.5:興味あれば
キッズ 3.0:残酷描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『京城クリーチャー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):満州から京城へ

大日本帝国陸軍は満州を実効支配していましたが、全軍退却の命令が下ります。ある施設では日本軍が研究資料を急いで焼却し痕跡を消していました。おびただしい大量の死体が処分され、牢屋にいる者たちはその場で銃殺です。

淡々と作業が進む中、眼鏡の加藤中佐は「血清は?」と部下に問います。そしてそれらを厳重に保管し、鞄に入れて持ち出します。

そのとき、強固な扉が凄まじいパワーで奥から粉砕されかけていましたが、火が放たれると施設は炎上。その“何か”は存在ごと抹消されました。

加藤は車に乗り込み、そこを離れます。爆発する施設内で取り残された兵はおぞましいものを見ますが…。

1945年3月末。朝鮮半島の京城。日本軍はこの地に駐屯し、朝鮮人を管轄していました。地元の新聞には「女性たちが連続失踪」という見出しが載っていますが、裏で流通している別の新聞には「日本の敗戦濃厚」と通常では報じられない近況が掲載されています。

しかし、ここはいまだに日本の暴虐な支配が横行しており、独立を求める活動家たちは捕まってしまいます。

そんな中、金鈺堂の主人であるチャン・テサンは悠々自適でした。一等地にある質屋を盛況に経営しており、無数の金品を奥に保管。一代で財を成した資産家チャンは派手な生活を送っていたのです。

ところがそのチャンは今は警務局で捕まり、電気拷問を受けています。その理由は、独立軍への関与や、この地の有力者である前田由紀子に手をだしたなどと表向きは言われていますが、実は本当は違いました。

前田の夫で警察署長の石川と2人きりとなったチャンは本当の意図を聞かされます。チャンの独自の情報通の腕を頼って、失踪した女性を探してほしいというのです。それは石川の愛人の明子という名の女でした。

失敗すれば全財産を失うと脅され、従うしかありません。期限は桜が散るまで…。

質屋に戻ったチャンは、ナウォル夫人グ所長(ガッピョン)、下働きのパク・ボモにヤバイ状況を打ち明けます。とにかく行動を今すぐ開始しないといけないので、チャンは独立軍を率いるクォン・ジュンテクにまず目星をつけ、手がかりを求めます。ここ一帯で力を持つ石川が見つけられない女となると相当に厄介な事情がありそうです。

一方、京城に、幸本という画家を探す男と若い女性が訪れていました。その2人はトドゥクンという満州で有名な人探しらしく、評判を知って、チャンたちも頼れないかと近づいてみます。

その人探しのプロのひとり、ユン・チェオクに一目惚れするチャン。そんなチャンに警戒心を剥き出しにするユンですが、ユンたちは実は10年前に生き別れた母チェ・ソンシム(惺沁)を探していたのでした。その糸口を辿っていく中で手がかりになりそうなのが幸本という日本人の画家だったのです。

その最中、京城に佇む日本軍の直轄の一路院長が仕切る甕城病院の秘密の地下には、劣悪な環境で女性たちが捕まっていました。全員が行方不明となった女たち。そこには明子もいました。そして長らくここにいるソンシムも…。

この病院で密かに行われている実験を管理するのはあの加藤中佐です。その場には画家の幸本もいて、牢屋で被験者の絵を描けと命じられますが、そこにいたのは…。

この『京城クリーチャー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/13に更新されています。
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植民地主義と民族迫害の怪物的恐ろしさ

ここから『京城クリーチャー』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『京城クリーチャー』はエンターテインメント性が高いですが、それでも一貫してその根底には植民地主義と民族迫害の恐ろしさが描かれています。

まず冒頭で満州から始まり、舞台が京城へと移ります。しかし、場所が変わっても本質は同じ。本作は植民地支配を加藤や一路が推し進める人体実験と重ねることで、その構造をおぞましく示します。

要するに、加害者側は「これは次の未来のためなんだ」と正当化しますが、現実は相手を人間とさえも思っていない。下等な存在として見下し、飼いならせると自信満々でいる。その歪みですね。

満州から引き継ぐかたちで甕城病院の地下で行われていたのは、人間を怪物化させる試み。ナ族の住む氷河で発見されたことから「ナジン」と名付けられたこの小さな生命体は、水を媒介して人体に入り込み、人を凶暴化させます(これだけだとゾンビみたいになる)。そこにさらに炭疽菌の血清を打ち込むと、怪力と触手を持った異形の怪物と化するのでした。

怪物化してしまったチェ・ソンシム(惺沁)の存在は、非人間化する(文字どおり怪物化する)という植民地支配の産物としてアイコニックです。支配に抗い、人間の意思を持ち続けた今作の怪物はただのモンスターではありません。

石川に平然と見捨てられる明子といい、本当の怪物は支配者側の人間なのだ…という結論ですね。

そんな支配に立ち向かうチャン・テサンたち。白眉となるのはシーズン1の第9話でしょうか。一見すると礼儀正しい振る舞いに徹する前田由紀子はチャンに現実を突きつけます。ナウォル夫人はかつてチャンの母シム・スンドクを売ったし、グ・ガッピョンも拷問に屈したし、パク・ボモも日本にいる母に会いたくて船代のために内通していたし、クォン・ジュンテクでさえ仲間の名を白状した…。抵抗側の連帯なんてその程度だと嘲笑い、だったら大人しく従ったほうがいいと諭す…。おカネもあるし、それでいいじゃないか…と。

でもチャン・テサンは言いきります。「それはこんな世の中だからだ」と…。「侮辱するな」と反論し、怒りの声をあげる…。同じ人間としての痛みがわかるからこその言葉であり、支配側の思考との違いが鮮明になる瞬間です。

エンターテインメントの皮を被ってはいますが、『京城クリーチャー』はドラマ『Pachinko パチンコ』などと同様に、人間の尊厳を問う真摯なテーマ性が打ち出されていました。

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シーズン1:エンタメ盛沢山だけど…

ドラマ『京城クリーチャー』のジャンルの肝となる怪物。その見た目は、まあ、わりとよくあるモンスターなので、とくに新鮮なものではないです。ただ、あの幸本という画家と組み合わせることで、少し怪談のように語られていく序盤の雰囲気は良かったですね。

毎回のオープニングのおどろおどろしい絵も最高です。あれ、実際、誰が描いているんだろう…。あの絵を玄関とかに飾って来訪者をドン引きさせたい…。

個人的には、人間から怪物に変化していく過程をもっとじっくり映してほしかったのですが、そこは予算的に無理だったかな…。

『京城クリーチャー』はジャンル全盛りで、そこが良いという人もいたかもしれませんが、私としては歴史ifのバイオ・スリラーに絞ってほしかったのが正直な感想。とくにロマンスは韓国ドラマのお約束的な挿入でしかなく、かなり邪魔だったなと思いました。

今作の場合、このロマンスはテーマ性とも相性が悪いと感じます。そもそも今回の悪役である石川と前田のカップルは非常に利益重視で愛のない夫婦です。それと対比するように、チャン・テサンとユン・チェオクを互いのために犠牲になることも厭わない相思相愛の純愛カップルとして位置づけています。

ただ、こういう戦時の純愛の美化って、すごく保守的なプロパガンダで頻繁に用いられる構図でもあります。日本でも戦争映画でこのタイプは最近もあったと思いますが、純愛で戦争反対を訴えるというのはちょっと矛盾があるんですよね。

しかも、今回のチャン・テサンは、元は金持ちで、でも独立軍のようなレジスタンスに最初は関心を持っていません。そんな男が正しい道に進むという、言ってみれば愛国的資本主義の称賛となっているのがこのドラマのキャラクター・プロットなので、これだと植民地支配していた日本国家と同根になってしまうのであんまり褒められたものでもないな、と。

むしろ、あの幸本という画家がチャン側に味方していく中で、「時代のせいにしていた傍観者だった」と謝るあたりとか、そういう反省する加害者側の描写のほうが素直に良い展開になっていた感じもあったんじゃないかな。

『京城クリーチャー』、シーズン1の最後は爆死したと思われた前田由紀子が生きていて、加藤にナジンを飲まされたかに見える描写があったり、意味深なオチでしたが、まさかのラストは現代に転換。

すでに制作されているシーズン2は完全に現代が舞台ということでしょうか。あの怪物化の発見は誰の手によって継承され、どんな目的で用いられ、現代社会に何をもたらすのか。最近の韓国は平然と終末世界になるので何が起きても不思議ではありません。

『京城クリーチャー』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 91% Audience 84%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

怪物がでてくる韓国作品の感想記事です。

・『地獄が呼んでいる』

作品ポスター・画像 (C)Netflix キョンソンクリーチャー

以上、『京城クリーチャー』の感想でした。

Gyeongseong Creature (2023) [Japanese Review] 『京城クリーチャー』考察・評価レビュー
#韓国ドラマ #朝鮮史 #植民地主義