映像酔いがあなたを襲う!(120分以上も!)…Netflix映画『カーター』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:チョン・ビョンギル
カーター
かーたー
『カーター』あらすじ
『カーター』感想(ネタバレなし)
最後まで鑑賞できるかの試練
「映像酔い」をしやすい人にとって次々とデジタル・テクノロジーが生活に侵蝕している現代社会は辛いかもしれません。映像酔い(3D酔いとも言う)は、発生のメカニズムは明確にはわかっていないそうですが、私たちの脳の中で視覚、前庭感覚(平衡感覚)、体性感覚といった感覚情報が相互作用する過程で、何らかの異常が生じることが原因と考えられており、車酔いと似ています。映像を見始めるとじわじわと気持ち悪さが増していき、吐き気などがしてきてしまう…そういう症状です。
映像酔いは個人差があり、苦手な人はとことんダメなのですが、平気な人は全くノーダメージだったりします。
映画も映像酔いを引き起こす定番です。とくにカメラが激しく動いたり、CGなどを多用するような映画はその映像酔いリスクも高いです。映像酔いしやすい人にとっては、その映画がどれくらい映像酔いを生じやすいのかも、観る映画選びの欠かせないポイントでしょう。
そんな話をしておいてなんですが、今回紹介する映画は、史上最悪レベルの映像酔いを招きやすい作品じゃないだろうかと思える一作…。普段全然映像酔いをしない私でさえも「これは…」となってしまった、なかなかに強烈な映画です。
それが本作『カーター』。
『カーター』は韓国映画であり、監督したのは『殺人の告白』(2012年)や『悪女 AKUJO』(2017年)を手がけた“チョン・ビョンギル”。この“チョン・ビョンギル”監督はアクションに対して並々ならぬこだわりのある人で、ケレン味という言葉ですら言い表せないような「なんじゃそりゃ!」と思わず言ってしまうほどの怒涛のアクション映像を常に作ろうとしており、あまり既存の映画業界の常識に囚われません。『悪女 AKUJO』もそれはもう無鉄砲にもほどがある中身で、たぶん“チョン・ビョンギル”監督はアクションを体技ではなく、ビジュアルとして魅せることに全振りしたいタイプなんだろうな…。
その“チョン・ビョンギル”監督の次の新作となった『カーター』ですが、盛大にやらかしてくれましたよ。
『悪女 AKUJO』をはるかに上回るアクション映像の過剰摂取状態になる映画体験。というか、酔います。ハッキリ言って、映像酔いでこちらを殺しにかかってきています。
映像酔いしやすいアクション映画と言えば、『ハードコア』がありましたが、あちらは全編POVの主観視点で構成されていたからでした。当然酔うのも納得です。
一方の『カーター』は主観視点はほぼないのですが、とにかくカメラがぐるんぐるん動き回る。しかも全編「長回し」風に撮られているのです。全編ですよ。一部じゃない。これがもう「強引じゃないか!?」と思うほどの、極端な長回しアクションの連続で、脳がクラクラしてくる…。
映画を評価したり、感想を語る以前に、この映画を最後まで鑑賞し終えることができるか…そこを試されてしまうような映像です。試練ですよ…。
物語自体は、『ボーン・アイデンティティー』と『アジョシ』を掛け合わせたようなもので、平凡と言えばそうなのですけどね…。ちなみに世界観は詳細は言いませんけど、相当にアホです。
正直、賛否両論は免れない映画ですし、そもそも「見れない」人も普通にいると思います。幸か不幸か「Netflix」での独占配信なので、劇場で観ることにはならないで済んだのですが、私も映画館のスクリーンで見ていたらギブアップしていたかも…。
ただ、カルト映画としての素質はありますね。こういう実験的映像を好む人は一定数いるし…。
映像の作りは粗削りだし、VFXで強引に繋げているのがわかるほどの稚拙な部分も目立つけど、“チョン・ビョンギル”監督の「やりすぎ」と言われようとも自分のやりたいことはやりきってやる!という姿勢は評価してあげたい気もする…。
まあ、結論として「好きな人は観ればいい。無理して観るものではない」というところに行きつくのですが…。
俳優陣は、『あいつだ』の“チュウォン”、『ナタリー〜絡みつく愛の記憶〜』の“イ・ソンジェ”、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』の“チョン・ソリ”、『君の誕生日』の“キム・ボミン”、『正しい日 間違えた日』の“チョン・ジェヨン”、『紀元前1万年』の“カミーラ・ベル”など。ただ、映像が激しく動きすぎて俳優の顔とかあんまり印象に残らないんですけどね…。
繰り返しますが『カーター』は映像酔いは避けがたい激しいカメラのブレや動きがオープニングからエンディングまでノンストップです。もし鑑賞途中で映像酔いをしてしまったら、素直に視聴を一旦停止し、窓から遠くを眺めるなどの自身の感覚を落ち着ける効果のあるリラックス方法を実践してください。
『カーター』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年8月5日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :アクション好きなら注目 |
友人 | :映像が平気そうなら |
恋人 | :観る人を選ぶので注意 |
キッズ | :暴力描写が多数あり |
『カーター』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):とにかく指示されたとおりに!
DMZウイルスのパンデミックによって、混乱に包まれた世界。感染者は暴力性が発現し、動物的な行動をとるようになります。アメリカでは韓国から帰還した軍人の感染により、感染爆発が発生。北朝鮮は国家崩壊の危機にあると言われています。一方、韓国ではウイルスは消滅したと見られていました。
1台のバス。乗客がみんな眼鏡をかけ、ひとり端末をいじる男が後ろに座っています。「GO」の合図とともに一斉に降りて、あるモーテルの階段を駆け上がり…。
その部屋ではニュース報道が流れており、「チョン・ビョンホ博士が娘ハナとともに北朝鮮に移動していたところ姿を消して19日が経過」「娘を感染から回復させたことで世界的に注目を集め、抗体が作れるのではという期待もある」「行方不明は、北朝鮮の崩壊を狙った者の犯行か。韓国政府の自作自演という話も…」という内容が続いています。
その部屋には、頭の後ろに十字の傷がある男がひとりだけ寝ていました。そこへ銃を突きつける者たち。
「チョン博士はどこだ?」と問いただし、起きた男は「なぜ俺に?」と困惑。映像を見せられ、そこにはチョン博士を捕まえてモーテルの部屋を指示している自分が映っていました。でも何も思い出せない…。
ベッドに大量の血があり、それはクローゼットに続いていました。中には服があり、電話が鳴っています。
それにでると「あなたはカーター」「後ろの人に電話を渡して」と指示されます。
そのとおりにするとスマホが爆発。大混乱の中、頭の中で声が聞こえ、「あなたの耳に装置がある」と説明し、「建物から飛び降りなさい」とまたも指示。
部屋が爆発する直前に隣の建物へ飛び移り、風呂場に着地。この風呂場には人を拷問している人たちがいて、裸の女が銃を構えてこっちにゆっくり近づいてくると、乱闘に発展。
階段でも戦闘を続け、商店街を通り抜けて街へ。バイクで疾走し、洋服屋で服をゲット。韓国語の女の声の指示に従い、屋上でまたも戦闘。どうやらCIAが追ってきているようですが、意味はわかりません。
「口の中に爆弾を仕掛けておいた。協力しないなら爆発させる」と声はとんでもない話をします。
そうこうするうちに車に連れ込まれ、中にいたのは国家情報院のチェ・ユジンと名乗る女性。そして声の持ち主は朝鮮労働党のハン・ジョンヒだと言います。
治療薬の開発に向けて南北は協力関係にありましたが、北朝鮮は感染者で大混乱で、韓国への侵入をなんとか防いでいる状況だとか。チョン・ビョンホ博士の娘ハナはCIAの秘密組織「A9」に拉致されたそうで、その奪還任務はこのカーター自身が提案した作戦だというのです。自ら記憶を消すように指示したのはなぜなのか。とにかくカーターの妻は感染で死亡し、娘ユニは感染中で研究所にいるとのこと。ハナを救えば娘も生きられる…。感染者は13日以内に死ぬことがわかっており、娘ユニは13日目。もう今しかない…。
それを鵜呑みにするしかなく、カーターは武器の入ったバックを手に、ハナの救出に向かいますが…。
どっと疲れる120分以上の映像体験
『カーター』の映画としての難点はもう言うまでもないと思うのですが、アクション映像に特化しすぎているという極端なバランスです。
『グレイマン』みたいな洗練された映像ではなく、ひたすらに荒っぽい。映像がとにかく落ち着きなく、ねっとりとカメラが動いたかと思えば、急にぐるぐると激しく飛び回り始める。カメラがジェットコースターにでも乗っているのかという勢いで、全体的に常に早送り状態。デフォルトが2倍速みたいなので、再生速度を落とすと案外とちょうどいいかもしれない…。
そんな毎回ダイナミックにカメラ動かさなくても…とツッコミたくなるのですが、とくに吊り橋のシーンは露骨でしたね。普通、危なっかしい吊り橋をキャラクターが渡るときは、画面は停止するか落ち着いていて、そこで登場人物がグラっとすることで恐怖を煽るものです。でもこの『カーター』は不安定な吊り橋以上にカメラワークが動きまくるんですよ。だから吊り橋の怖さとかも客観的に判断できない。お願いだからじっとして!と声に出しそうになる…。
途中いくつかは明らかに「そんな動きできんだろう」という重力無視を発揮しているシーンがあって、笑っちゃうほどに強引だったりもします。ここはVFXなどの編集接続の粗さが原因なのか、そもそも無理難題だったのか、そのへんの判断はできませんが、確かにひとつふたつ重力を無視しないと実現できないだろうというアクションが発生していたのは事実ですし…。
ストーリーも荒唐無稽というか、説明しているようで全然説明になっておらず、主人公もよくわからず行動していますが、観客はもっとわからん!状態で放置されます。
カーターは北朝鮮の人間なのか、韓国の人間なのか、CIAのマイケル・ベーンというエージェントかもしれない…。そんな後出しジャンケンでどうにでもなる情報の錯綜で視聴者を混乱させておきつつ、ジャンルとしてはゾンビパニックみたいな様相も見せつつ、ラストでどう締めるんだろうと思ったら、「続く!」のオチですからね。
このアクション映像酔いフルコースの中で、どっと疲れるのに耐えてきた人への最後のご褒美はそれなのかという…。
『カーター』を見終わった後の疲労感はここ最近の映画の中ではダントツだったな…。
真面目過ぎたかなというのが欠点として思う部分ではありますけどね。『ハードコア』はまだおふざけとしての延長になっていて、ところどころで息抜きがあったのですが、『カーター』はずっとシリアスに突っ走りすぎたのがぎこちない堅さになっているのかも…。
健康に悪いとわかっていても
なんだか文句多めで感想を書いてしまいましたけど、『カーター』は自分の健康を多少犠牲にしてもいいからとんでもない未知の映像を観たいという願望には答えてくれるし、その点では「健康に悪いとわかっていながら食べる高カロリーフード」みたいな楽しみ方はできるのかなとは思います。
序盤の公衆浴場での大乱戦から凄い凄い。たぶん日本語を話していたのでヤクザの人たちだと思うのですけど、なぜヤクザはここにいるのか、そんな背景説明はゼロ。どうしてみんなパンツを着ているのかもわからないですが、どうせ死ぬんですから気にしない。こんなほぼ全裸の大乱闘は見たことないよ!という凄まじい映像を開幕からお見舞いしてくれます。風呂場は滑りやすいから走り回ったらダメだよ…。
続いて凄いなと思ったのは、バスで謎のCIA女性と話してからの、急転直下のカーチェイス。横並びの車を移動しながらの車内格闘ですからね。むしろ運転手が凄い。ここにいたっては誘拐されたハナがどこに今いるのか、私は全然追えてなかったですよ…。
そして飛行機での感染パニックからのスカイダイビング。ここでも撃ち合いをしているのですが、空中落下の最中にパンパン撃っている光景は、ちょっとシュールだったな…。
そこからはブタの巻き添えと、感染者どんぶらこなどがありつつ、施設でひと悶着。
そこからついにラストアクション。列車とヘリの大スケールでの縦横無尽アクションの展開です。そんなアクロバティックな飛行できる?というレベルのヘリ飛行はもちろん、どうして生きているのか不思議なくらいの生存力を見せつつ、絶対にダウンしない主人公がもはや怖い。きっとこの主人公、超人だよ…。
この最終アクションの場面は、構成を考えているときに「ちょっとさすがにこれは現実離れしすぎじゃない?」とか製作内部でツッコミはなかったのだろうか…。
とにかくなんかもう凄い。語彙力を失うのもしょうがない次元のアクションを“チョン・ビョンギル”監督は映像化してくれたということで、こんなアホな映画企画が実現できる世の中に感謝です。
でも作中の登場人物のセリフではないですけど、ほんと、「どこへ行くの?」って感じですよ、この“チョン・ビョンギル”監督は…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 51%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『カーター』の感想でした。
Carter (2022) [Japanese Review] 『カーター』考察・評価レビュー