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『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』感想(ネタバレ)…チャドウィック・フォーエバー

ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー

チャドウィック・フォーエバー…映画『ブラックパンサー2 ワカンダ・フォーエバー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Black Panther: Wakanda Forever
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年11月11日
監督:ライアン・クーグラー
自然災害描写(津波)

ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー

ぶらっくぱんさー わかんだふぉーえばー
ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』あらすじ

アフリカで誰にも知られずに超大国として君臨してきたワカンダは、現在は国際的な外交を開始し、その存在は知れ渡り、国王にして守護者であったティ・チャラもブラックパンサーとして地球の危機に立ちあがっていた。ところが、そのワカンダを悲劇が襲う。悲しみを引きずったまま1年が経過し、新たな脅威が水中から迫る中、ワカンダの者たちは大きな決断をしないといけなくなり…。

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』感想(ネタバレなし)

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チャドウィック・ボーズマンの死を乗り越えて

映画の予告動画(トレイラー)を「見る派」と「見ない派」に分かれると思うのですが、まあ、映画ファンの人はその立場に限らず、映画館に頻繁に通っていると上映前に嫌でも予告を散々見せられたりするので関係ないかもですね。

予告動画は今も宣伝に欠かせない存在。中には予告動画だけでも感動してしまった!という映画だってあります。

私の2022年のベスト予告動画はこの映画でした。予告動画だけで鳥肌が立つクオリティに震えました。

それが本作『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に連なる最新作ですが、ファン的なシリーズへの期待はさておき、この本作に関してだけは他とは異なる特別な心境で公開日を迎えた人も少なくないでしょう。

なぜなら主演していた“チャドウィック・ボーズマン”が2020年8月28日に癌で43歳の若さで亡くなったからです。闘病していたことも一部の人を除いて伏せていたそうで、突然の訃報は私も含めてショックでしたが、同じ映画仲間の喪失感はもっと計り知れません。

実際にこの『ブラックパンサー』の監督の“ライアン・クーグラー”などの製作チームは“チャドウィック・ボーズマン”の死に激しく動揺し、映画製作はもちろん一旦停止。「黒人映画はヒットできない」という映画業界の古き偏見を吹き飛ばして新しい時代を切り開いたリーダーをこんなにも唐突に失ったことは未来を見失うような暗闇をもたらしたでしょう。

必然的に『ブラックパンサー』の続編である『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』はこの死と向き合う物語になりました。事実上の追悼映画です。作中でも代役をたてたりすることなく、ブラックパンサーである“チャドウィック・ボーズマン”演じるティ・チャラは死亡したという設定になり、作品全体が鎮魂に包まれています。それは予告動画だけでもハッキリ伝わるものでした。

もちろん追悼だけしているわけにもいきません。この『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』はMCUのフェーズ4の最終作ということで、どう締めくくるのかという注目もできます。

しかも、今作で新登場するキャラクターも多く、今後のMCUに大きな役割を果たすであろうキャラもチラホラ。フェーズ4はマルチバースの設定を駆使した世界観拡張の実験的な試みが多かったですが、今回の『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』はMCUのシリーズ展開を正面切って押し進めるまさに中心軸の一作です。

それを反映するかのようにこの『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』は160分超えの大ボリュームとなりました。トイレがあれな人にはツライけど、ほら、2回観れば解決じゃないですか?

見終わった後は膀胱から以外にも目からも水が溢れる…そんな状態になっているかもだけど…。

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『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』を観る前のQ&A

Q:「ブラックパンサー」ってどんなキャラクター?
A:アフリカにある「ワカンダ」という王国の国王であるティ・チャラのことです。ブラックパンサーという戦士は継承されていきます。『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』で初登場し、2018年の1作目『ブラックパンサー』で本格的に描かれました。『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』では『アベンジャーズ エンドゲーム』以降のその後のワカンダが描かれます。
Q:『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:最低限では前作の『ブラックパンサー』を見れば良し。『アベンジャーズ エンドゲーム』まで鑑賞していればなお良し。フェーズ4の他の映画やドラマを観ておく必要性はないです。
✔『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』の見どころ
★俳優の死と向き合う真摯な物語。
★大スケールのアクション。
✔『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』の欠点
☆上映時間が長いので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:物語を味わって
友人 4.0:ファン同士で
恋人 3.5:ロマンス要素ほぼ無し
キッズ 3.5:少し長いです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):世界を燃やしたい

ワカンダ王国の天才科学者にして現国王の妹であるシュリは研究室で切迫した状況にありました。1分1秒を争うように開発を急いでいるのは、ブラックパンサーの力を体に宿すために王国で伝統的に用いられてきたハーブの人工製造です。以前に王国を乗っ取ったエリック・“キルモンガー”・スティーヴンス(ウンジャダカ)によってハーブは全て焼き尽くされてしまっていました。

成功率20%代のハーブをなんとか人工プリンターで製造し、これで間に合わせるしかないと覚悟を決めます。その目的は兄であり国王であるティ・チャラの容体が悪いからでした。早くしなければ、兄が…。

しかし、そこに母のラモンダ女王が入ってきます。深刻そうな顔でシュリに目を向け、もうティ・チャラは先祖の元に旅だったことが告げられ…。

葬儀は厳かに行われました。白い喪服で棺と同行するシュリとラモンダ。シュリの手には兄のブラックパンサーのマスクが携えられています。シュリは涙を見せず、険しい表情で兄の棺を見つめていました。

それから1年後。国連の総会で、ワカンダの代表であるラモンダ女王が出席し、ヴィブラニウムを独占していることを他の諸国から責められます。それに対し、ラモンダはヴィブラニウムを諸外国に渡せば危険な結末が待っていることを警告し、実際にワカンダの施設を強襲して捕まった傭兵をこの場で披露します。この傭兵を差し向けた黒幕の国の正体はわかっていると警告しながら…。

一方、ある海洋の地点にて、1隻の大型船舶がワカンダの敷地外にもヴィブラニウムが採掘できる可能性に賭け、調査を行っていました。CIAの専門家も到着し、深海用潜水スーツを身に着けたダイバーが海底に潜ります。ヴィブラニウム探知機は確かにそれらしきものを探りあてていたようです。

しかし、ダイバーは暗い海の底を俊敏に泳ぐ“何か”を目にします。そしてモニタリングしていたバイタルのサインは消え、ダイバーとの連絡は途絶えました。さらに船に何者かが侵入。ワカンダ人かと思いましたが、その姿は青い肌をしています。そしてヘリすらも墜落し、調査員は全滅。闇夜にはひとりの何者かが浮かんでおり…。

ティ・チャラの命日を迎えたシュリは、母のラモンダに連れられて、夜の焚火のもとへ。喪服を燃やして次の一歩を踏み出すべきだと諭されますが、シュリにはそれができません。「喪服じゃなくて世界を燃やしたい」…シュリはそう呟きます。

そのとき、目の前の川から謎の男が悠然と這い上がってきます。どうやってワカンダの厳重なセキュリティを突破したのか。とにかくその男は警戒するラモンダやシュリを前にしても平然としており、自分は海の王国タロカンの王で、ククルカン、もしくはネイモアと呼ばれていると自己紹介します。

そしてタロカンを脅かしかねないヴィブラニウム探知機を開発した科学者を見つけ出してこいと持ちかけてきます。そのタロカンもヴィブラニウムで発展しているようで、ワカンダを上回る強大な軍隊を持っていると脅してもきます。

ネイモアの出現はワカンダを騒然とさせます。かつてない国家の危機。シュリたちはこのピンチをブラックパンサー無しでどう乗り越えるのか…。

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シリーズの一貫したテーマ

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』は前述したとおり、現実とシンクロする追悼映画です。それを見事に誠実にやりきっており、追悼映画としては『ワイルド・スピード SKY MISSION』に並ぶ完成度なんじゃないでしょうか

シリーズ2作目である本作では完全にシュリに主人公をバトンタッチしていますが、そのシュリが主人公としての存在意義を持てずにいる状態です。シュリを演じる“レティーシャ・ライト”の悲しみを背負いきれずに潰されそうになっている表情が本編ずっと突きつけられて観客のこっちとしても辛すぎるのですが、それはもちろん“チャドウィック・ボーズマン”を喪失した苦しさと一体であり、この演技(もう演技と呼んでいいのかもあれだけど)、全然アカデミー主演女優賞級だと思います。

そんなシュリが一時はタロカンの文化に触れて心を回復しかけたかに思えたら…今度は母を失うという追い打ち。ここでブラックパンサーになる覚悟を決め、ハーブを飲むと…でました、キルモンガーさんです。

前作のヴィランとして圧倒的人気を誇るキルモンガーのまさかの出番。そして今回はシュリに憎しみを煽り、シュリはキルモンガーを継承したブラックパンサーになってしまいます。

しかし、最後の最後で復讐に手を染めないという道を選ぶ。思えばこの「ブラックパンサー」シリーズは一貫してこのテーマを描いており、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』では父を失ったティ・チャラが憎しみに憑りつかれ、『ブラックパンサー』ではキルモンガーが憎しみに憑りつかれ、『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』ではシュリが…。同じことの繰り返しです。

それでもこのテーマを描き続けるのは、この信念こそがとくにアフリカ系コミュニティにとって最重要だからに他なりません。それは「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」のようなアクティビズムにも通じる話。感情任せで行動すればいいわけじゃない、そこには正しい信念が必須なんだ…ということですね。

その大切なことを、母から、ナキアから、エムバク(ただの脳筋キャラじゃなかったんだ…)から学んでいく。シュリの主人公の始まりの映画としても感動的な出発です。きっとシュリはワカンダの古い体質も見直していくんでしょうね。

故人を神格化しすぎず、また消費に利用もせず、あくまで残された者たちの未来に焦点をあてるという意味でも良かったと思います。

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泳げるようになったネイモア

前作に引き続き今作もヴィランの造形が非常に秀逸で、さすが“ライアン・クーグラー”監督。

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』にて、サノスの猛攻さえも切り抜けたワカンダに最大の危機をもたらすのは、ネイモア率いるタロカンの軍勢。

海からの侵略者…というのは当然、それは植民地支配の歴史と重なるものです(ドキュメンタリー『殺戮の星に生まれて / Exterminate All the BRUTES』を参照。『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』でハイチが描かれる意味もわかります)。

一方でこのネイモアたちも根元を辿れば植民地主義の犠牲者でもあります。原作コミックではアトランティスだったのですが、DCの『アクアマン』と被るので、今回の映画ではタロカンという王国に改変されています。このタロカンはメソアメリカ文化を土台にしており、アステカ文明です。その地がスペインに支配され、故郷を奪われてしまった人たち。偶然なのか『エターナルズ』で描かれた歴史を引き継ぐ構成になりましたね。

『エターナルズ』も植民地主義を批判する映画なのですが、こちらは宇宙スケールなのに対し、『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』はあくまで人間スケールでありつつ、今作ではそこにタロカンという超越した存在を混ざたことで倫理観を揺さぶる…そんな作りです。

だから結末のネイモアが降伏するという展開にも心が晴れない観客はいると思うのですけど、それこそ作り手の意図どおりなんだと思います。植民地主義にスカっとする決着なんてないのです。

このネイモアがまた魅力的なキャラクターで、演じた“テノッチ・ウエルタ”も最高です。ちなみに“テノッチ・ウエルタ”は本作撮影前まで泳げなかったらしく、それを知るとなんだか面白いですが…。

『ブラックパンサー』の持ち味のひとつは架空のカルチャーをゼロからデザインしきる構築力だと思うのですが、今作でもタロカンの描き方が良かったです。『アクアマン』みたいに完全にSFに振り切らず、こういう海底文明が実際にあるのではないかという説得力のある現実的文化表象を作り上げている。見事な職人技でした。

それにしてもネイモアもさも当たり前のように「ミュータント」ってワードを口にするなぁ…。

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アイアンハートもいいけど、オコエに期待したい

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』は追悼映画としてもタロカンを魅せる映画としても上質だったのは間違いないです。

一方、本作で突きつけられた政治的問題は解決しないまま棚上げ状態なので、そこはモヤっとするところです。おそらく今後のMCUは国家間の政治的対立もガンガン描いていき、シリアス度は増していくのだろうと思います。次作としては『シークレット・インベージョン』や『Captain America: New World Order』、『Thunderbolts』も控えており、MCUの国際情勢は相当にヤバそうです。CIA長官のヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌの暗躍もあるし(エヴェレット・K・ロスとのまさかの関係性)、国連も全然機能していないし…。

ヴァルやロスのパートは一見すると蛇足に思えますが、CIAという現代に残存する紛れもない植民地主義どっぷりな組織ですからね(ラストの「鎖に繋がれた入植者は初めて見た」というセリフも皮肉が効いている)。ロスがワカンダに亡命するならこれも捻りのある顛末ではあります。MCUの世界ではアメリカにいられない人の亡命先はロシアではなくワカンダになるってことなんだろうな…。

そんな不穏さも残る中、将来に期待な新キャラクターもいました。“ドミニク・ソーン”演じるリリ・ウィリアムズは、発明がトラブルの元凶になるというトニー・スタークの癖までちゃっかり引き継いでいてなんか不安ですけど…。『ブラックパンサー』製作陣が次に手がけるのはこのリリ・ウィリアムズを主役にしたドラマシリーズの『Ironheart』とのことで、コミカルなバランスになるのかな。

あと、オコエさんね。オコエは新キャラじゃないですけど、今回は「お笑い要員もいけるんですか?」ってくらいにユーモア含めたキャラの広がりが増えていたので、もっと出番が見たいです。なぜオコエにブラックパンサーのスーツを着せないのだろうという長年の素朴な疑問に対し、「オコエはわりと服装にうるさく、同じものしか着ない」という回答をしてくるとは…。

今作ではアネカというドーラ・ミラージュの戦士も新登場し(演じるのは私の推しの”ミカエラ・コール”)、ちょっとアヨとの愛を感じさせるワンシーンもあったり…(一応の俳優の中で考えている設定はクィアらしい)。

本作はクィア表象は期待外れですけど、噂されるオコエのドラマとかがあるなら、アヨやアネカの同居生活ドタバタコメディとかもあっていいですよ。絶対に面白いもん。ドーラ・ミラージュの私生活が知りたい…。オコエが家事とかしている姿だけで笑える風景になるし…。

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 94%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。

・『ソー ラブ&サンダー』

・『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』

作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios 2022 ワカンダフォーエバー

以上、『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』の感想でした。

Black Panther: Wakanda Forever (2022) [Japanese Review] 『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』考察・評価レビュー