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『フッド ザ・ビギニング』感想(ネタバレ)…マナーと愛が弓紳士をつくる

フッド ザ・ビギニング

マナーと愛が弓紳士をつくる…映画『フッド ザ・ビギニング』(ロビン・フッド)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Robin Hood
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年10月18日
監督:オットー・バサースト

フッド ザ・ビギニング

ふっどざびぎにんぐ
フッド ザ・ビギニング

『フッド ザ・ビギニング』あらすじ

イングランドの広大な屋敷に暮らす若き領主ロビン・ロクスリーは、何の苦労も知らずに生きてきた。しかし、十字軍に徴兵されて遠い異国で戦い、4年を過ごして帰ってくると、ロビンは戦死したものとして領地も財産も没収されていた。どん底に落ちたロビンだったが、戦地では敵だった最強の戦士ジョンに導かれ、腐敗した政府に対して反逆を開始する。頭巾(フッド)で顔を隠して…。

『フッド ザ・ビギニング』感想(ネタバレなし)

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あの人気俳優、今度は弓使いになります!

外国人俳優の“名前表記”問題というのがあります。

日本語にする以上、外国語俳優名はカタカナで表記するのが普通ですが、どうしたってカタカナ化するのに限界があったり、日本人に言いやすい表記にするか、実際の発音に則した表記にするかで迷ったり、あれこれと障害が立ちはだかるもので…。結局、途中のある年を境に俳優のカタカナ名がガラッと変わったりすることもあって、何も知らないと“あれっ?”となります(例:「アリシア・ビカンダー」→「アリシア・ヴィキャンデル」)。

最近、そのカタカナ名の変更の兆しがあるのが“タロン・エガートン”です。主役に抜擢された2015年の『キングスマン』で一躍スターとなり、人気若手俳優の仲間入りを果たした彼ですが、ウェールズ系ということもあり、その名前もウェールズ語由来なため、かなり特殊です。

当初は日本では“タロン・エガートン”だったのですが、最近はより正確な発音に合わせて“タロン・エジャトン”に変える動きも見られます。現状、2つの表記が混合して使われている状態で、すごくわかりにくいです。ポスターや公式サイトでは「エガートン」、SNSのハッシュタグや動画配信サービスでは「エジャトン」と、媒体によって分離していたりで、統一化はまだ時間がかかるのかな。とりあえずこの感想ブログでは“タロン・エジャトン”としておきます。

そんな“タロン・エジャトン”、最近は『ロケットマン』にて見事な歌と演技でエルトン・ジョンになりきってみせて、単なる若手の勢いだけでない、実に多彩で奥深い演技を披露しており、ますます成長が楽しみな俳優になってきました。

そして自分が出世作となった『キングスマン』に続き、新しいアクション映画にも挑戦しています。それが本作『フッド ザ・ビギニング』です。

題材となっているのは中世イングランドの伝説上の人物「ロビン・フッド」。名前は聞いたことがある人も多いはず。

あれっ、ロビン・フッドの映画ってもう観たことがあるような…? はい、そうです。たくさん作られています。一番最近のもので有名なのは、2010年のリドリー・スコット監督の『ロビン・フッド』ですね。ラッセル・クロウがロビン・フッドに扮し、巨匠と大物俳優のタッグによって非常に重厚な歴史ドラマ大作として物語が展開していました。

一方、今回の“タロン・エジャトン”がロビン・フッドに扮する『フッド ザ・ビギニング』は、その『ロビン・フッド』とは対極的な作品といっていいでしょう。何が違うのか。これは製作陣が口を揃えて言っていることですが、非常に現代的な解釈で、現代的なアレンジを施した世界観になっているんですね。

もちろん、舞台は現代ではなく、十字軍が蠢く中世なのですけど、見ればわかるのですが、現代風にスタイルチェンジしています。まずロビン・フッドが若いですし、物語もいわゆるヤングアダルト小説的なティーン受けを狙ったヒーローものになっています。それこそ伝統的なスパイ映画を現代風に大胆に再解釈した『キングスマン』のノリを、ロビン・フッドでやった…みたいな感じ。最近だと『キング・アーサー』とかと同じ系列かも。それよりも軽いです。

なので歴史の重々しさを期待すると肩透かしですが、たまにはこういうテンションもいいんじゃないですか。あれです、史実を題材にした二次創作ですよ。日本の界隈でもよく見る光景(むしろ日本の方が旺盛かも)。

原題はそのまんま「Robin Hood」で、邦題は「フッド ザ・ビギニング」で“ロビン”すら消えてしまいましたが、まあ、わかりやすいのでいいか。一応、前日譚ではないですからね。

監督は“オットー・バサースト”という人で、私は全然知らなかったのですけど、イギリスのテレビドラマ界では著名な方みたいです。ここにきて長編映画に初の挑戦とのことですが、場は違えど実力は積み重ねているでしょうし、実際にサクッと映像化しており手慣れていますね。

そしてさらに特筆すべきは、『フッド ザ・ビギニング』を製作しているのが“レオナルド・ディカプリオ”が設立した「Appian Way Productions」で、彼自身も製作にクレジットされているということ。なんでも本作の革新性に惹かれたとのことで、割とアカデミー賞を狙えるタイプの作品ばかりをプロデュースしてきた彼が、こういう若者ターゲットな映画を後押しするのは意外な感じも。やっぱり今の時代、若い人にも訴求しないと、ただの老いた名俳優になるだけだと思っているのだろうか…(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観たばかりだとディカプリオを応援したくなる)。

ところがです。『フッド ザ・ビギニング』、本国公開時からその反応は、控えめに言って大ハズレな結果となり、「“タロン・エジャトン”史上最低作」という不名誉な揶揄も見受けられました。これじゃあ、大衆を救うロビン・フッドにはあまりにバツが悪いものです。

まあ、感想は人それぞれですし、クールな“タロン・エジャトン”をただひたすら眺める鑑賞会としてはじゅうぶんに役割を果たす映画です。他にも、こっちも負けてないカッコよさの“ジェイミー・フォックス”、さらにイケメン成分を追加する“ジェイミー・ドーナン”、そしていつも悪代官みたいな役ばかりな“ベン・メンデルソーン”と、名俳優揃っているので前評判を気にせずに観てみてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ポップコーンと一緒に)
友人 ◯(軽めの映画を観るなら)
恋人 ◯(ベタな恋愛もたっぷり)
キッズ ◯(多少残酷表現があるが)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フッド ザ・ビギニング』感想(ネタバレあり)

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恋の矢は折れて、そして男がやってくる

『フッド ザ・ビギニング』の物語は馬小屋から。謎の女性が馬小屋に颯爽と忍び込み、馬を盗もうとしています。なんで人目につかない夜ではなく、日の出ている時間帯に犯行に及んだのかはよくわかりませんが、案の定、盗む前に発見されます。

その女性を見つけたのは、ロビン・ロクスリーという若き領主。ここでいきなりの壁ドンを決めるロビン。さすが恋の矢を射るのも速い。その女性、マリアンとあっという間にカップル成立。もう数秒で、ラブ一直線です。やっぱりカネと顔さえあれば、恋人なんて簡単にできるんですよ(残酷)。

なお、余談ですが、最初、このマリアン、初登場時に頭巾をかぶって眼だけ出しているので、こいつがロビン・フッドなのかと一瞬観客に思わせる存在感をチラ見させてきます。女性版ロビン・フッドの方が面白いのじゃないかと思ったりもしなくはないですが、実はもうそのネタは映像化されているんですよね。『レジェンド・オブ・アロー』というディズニー製作のテレビ映画で、2001年に放送され、ロビン・フッドの娘が主人公(演じているのはキーラ・ナイトレイ)。結構、いろいろやられているものですね、ロビン・フッドも。

話を『フッド ザ・ビギニング』に戻します。

イチャイチャな幸せ裕福生活を送る中、ノッティンガム州長官からの十字軍への招集令状を受け取ったロビンは戦いの場へ。まだ余裕な顔で、愛するマリアンとしばしの別れを告げます。

それから4年後。そこにいたのはリア充モードのロビンとは全く顔つきの違うロビン。しかも、アラビアへ遠征に出ていたロビンの小隊は圧倒的な不利にあり、全滅の危機。連射ボウガン兵が高い塔に籠城し、一方的に攻撃してきており、ロビンはなんとか相手の隙をみて、一矢で仕留めます。しかし、その後、なぜか建物の上の確認を怠る小隊一同は(さっきまで上から襲われていたのに)、囚われて吊り下げられている仲間を救助しようとするも、懲りずにまた上から強襲されます。投石カタパルトによる支援で小隊は一旦退避するも、それでもロビンは単独で進軍。敵軍の男と狭い場所での近接戦闘となり、もうダメかと思われた矢先、リーダーのギズボーンがその男の片手首を切り落としてロビンを間一髪で助け出します。

正義のために戦っているつもりのロビンでしたが、ギズボーンは捕虜を容赦なく拷問しており、価値がない奴の首を切断するのも躊躇いません。その残酷さにこれではどちらか悪なのかと納得がいかないロビン。

先ほどロビンを襲った男、ジョンも拘束されており、しかも息子が目の前で処刑されそうになって必死に防ごうと交渉しています。しかし、ギズボーンの耳には届かない。ちょっと前まで見事に戦闘していたジョンの懸命な愛の姿に心を動かされたロビンは、ジョンの息子を助けようとつい出すぎた行動に出ます。けれども、羽交い絞めにされ、抵抗むなしく処刑は執行。ロビンは捕虜の拘束を解いて、場を混乱させた罪で、十字軍を追放されイギリスに戻されることに。

故郷に戻るとそこは荒れ果てていました。自分の屋敷すらも廃墟となり、自失茫然。ノッティンガム州長官が2年前にロビンは死亡したと発表したようで、私有地も没収。つまり、一文無しです。

知り合いのタック修道士から話を聞くと、なんでも今は州長官が税金をあげるなど、民衆を苦しめているとか。そして、鉱山で食べ物を配給して働いていたマリアンを発見し、一瞬、心が躍りますが、彼女の隣にはウィルという男がおり、すでに新しい愛を育んでいるようでした。

正義も愛もない。自分の居場所を失ったロビン。そんな彼の前に現れたのは、かつての敵、ジョン。金持ちだけが得をする戦争を終わらせるべく二人はタッグを組むことになります。

そして男と男、二人には仕事関係を超えた愛が芽生え…。あ、違った、これは『ロケットマン』でした。でも、女性との恋の矢が折れた後、男がやってきて矢の使い方を教えるとか…意味深(考えすぎです)。

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あのアクション、本当にできます

『フッド ザ・ビギニング』は作品のアプローチはこれ以上ないくらいわかりやすくベッタベタで、ゆえに批評家からはチープすぎると非難される原因になったのでしょうけど、無理もないです。というか、若者が好きそうなジャンルをこれでもかと詰め込んだギュウギュウお弁当箱みたいな映画でした。

最初はロマンチックな金持ちイケメン男子と普通女子の恋愛というコテコテからスタートし、その数分後には『ゲーム・オブ・スローンズ』ライクな残酷戦争ドラマにタッチがガラッと変わり、故郷に戻ってジョンとコンビを組めば“バディもの”に早変わりしてトレーニング開始。

この師となる男から戦い方・生き方を教わるという展開はもろに『キングスマン』と同様で、絶対に作り手も意識しているでしょうね。ティーチングのスタイルが妙に軽いあたりなんかとくに。“ジェイミー・フォックス”節が炸裂していました。やっぱ、“タロン・エジャトン”はこういうテンションが合っているんですね。

そして訓練もサクッと終わり、今度は権力者たちから金を巻き上げていく“ケイパーもの”に。後半からは『ベン・ハー』ばりの馬車チェイスも展開され、派手さアップ。よくわからないですが周囲から火が吹き上がってますけど、見ごたえあるから良し。

でもメインは弓矢アクションですよね。弓矢で戦う映画キャラといえば、MCUの「ホークアイ」やインド映画『バーフバリ』2部作とか、いろいろ見てきましたけど、『フッド ザ・ビギニング』ではとにかくスタイリッシュ。

最初の時点でロビンはかなり強いのですが、ジョンとの特訓でもはや敵なしの実力に急成長。敵も回転式マガジン付のガトリング式メカニカル・クロスボウとか、変態じみた武器を使ってくるのですが、それさえもこの単独弓使いには敵わない。目にもとまらぬ速さで矢を連射。近距離も遠距離も対応可能で、いとも簡単に鎧を貫くこともでき、なんかもう無敵です。これはもうジョン・ウィックさんもきっと弓矢の練習にハマりますよ(いや、もう練習しているかも)。

私たちの知っている弓矢は基本的に立って狙いを定めて射るものですが、今作はとにかくじっとせずに連射しまくるスタイルであり、独特のアクションの面白さになっています。

でも思うじゃないですか。これってどうせフィクションで、実際はこんな弓矢アクションできないでしょう?と。しかし、案外そうでもないのです。『フッド ザ・ビギニング』でアーチェリー指導をしたのは「ラーズ・アンダーソン」という人物で、彼いわくこういう弓矢の戦闘術はこの時代は一般的だったのだとか。ラーズ・アンダーソンはそれを現代に伝えようと尽力している人であり、その腕前は以下の動画を見てもらえるとよくわかります。

“タロン・エジャトン”は実際に訓練してこの技術を身に着けたというのですから、凄い習得力です。なんでもできるんじゃないか、この若造…。

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ロビン・フッドは現代に通じるか

『フッド ザ・ビギニング』を観て、弓矢アクションにも驚きましたが、それ以上に驚いたのが美術センス。いや、素晴らしいという話ではなく、潔さに唖然となったのですが、全然時代考証とか無視しているんですね。

もう時代の適合性とか関係ありません。明らかに現代感のある服装が頻繁に登場し、“あれ、この映画、何時代を描く作品なんだっけ?”とわからなくなってきます。ノッティンガム州長官の着るスーツ的な上着とか、際立っているのはフランクリン枢機卿の訪問歓迎パーティ。すごい豪華絢爛なファッションの参加者がゾロゾロ出てきて、もはやニューヨークで開催中のアート・イベントです…といって映像を見せてもバレないレベル。

本作の衣装を担当した“ジュリアン・デイ”いわくは、「モダン・メディーヴァル(現代的中世)」と名付けた、規則破りのノッティンガム・ファッションを生み出してみたのだとか。かなり色々な国のカルチャーを混ぜ合わせており(侍も意識しているとか)、文化のるつぼを目指したそうです。ロビンも今回はアクションと相まってかなり忍者っぽいですよね。

でも、序盤の招集令状が、絶対にプリンタで印刷したように見えるという綺麗なフォント文字なのは、どうにかならなかったのだろうか…。

加えて既存のロビン・フッドの物語の脚色の仕方も大胆極まりないです。

一番の改変はロビン・フッドの忠臣だったジョンを、元敵兵で、新しい師匠に変えるという、人間関係のアレンジ。これによってバディ感がアップしただけでなく、もともとどうしてもあった「ロビン・フッドも新しい権力者になってしまうのでは?」という脱権力へのわずかな疑念を、より市民の味方になるという親近感が増したロビン・フッド像で払拭しています。

『フッド ザ・ビギニング』は、市民が反旗の声をあげ、大衆の力で国を変えるという、今もイギリス、アメリカ、香港など世界各地で起こっているムーブメントに重なる作りになっており、こここそ“レオナルド・ディカプリオ”がこの作品企画を推した理由のはず。

その先導者を「若い人」に求めるというのも、リアル社会と『フッド ザ・ビギニング』の物語がクロスオーバーするものであり、まさに「今」の映画なんですね。

それでも本作の評価がイマイチに終わったのは、この大衆のレジスタンスの描き方がどうも不十分な気がするからなのかもしれません。確かに権力者の中高年よりも若者に旗頭になってもらうのは時代性にもぴったりですが、それでもその立役者が元裕福で恋人もいて…と“割と人生が恵まれている”組なのは釈然としない感じも否めません。なぜ社会の最底辺を生きている人を主役に据えなかったのか、そこは疑問です。あとあまりにとんとん拍子に反抗を完了しているのもあっけないというか。もっとその生々しい側面も見せてほしかったところです。

『ジョーカー』ほどではなくてもいいですが、やっぱり綺麗事ではいかないですからね。

本当にロビン・フッドを現代社会を引っ張る救世主へと復帰させるには、さらなるバージョンアップが必要なのかもしれません。

『フッド ザ・ビギニング』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 15% Audience 41%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

以上、『フッド ザ・ビギニング』の感想でした。

Robin Hood (2018) [Japanese Review] 『フッド ザ・ビギニング』考察・評価レビュー