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『CLIMAX クライマックス』感想(ネタバレ)…踊り過ぎと飲み過ぎに注意

CLIMAX クライマックス

踊り過ぎと飲み過ぎに注意…映画『CLIMAX クライマックス』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Climax
製作国:フランス・ベルギー(2018年)
日本公開日:2019年11月1日
監督:ギャスパー・ノエ

CLIMAX クライマックス

くらいまっくす
CLIMAX クライマックス

『CLIMAX』あらすじ

1996年のある夜、人里離れた建物に集まった22人のダンサーたち。有名振付家の呼びかけで選ばれた彼らは、アメリカ公演のための入念な最終リハーサルをおこなっていた。息もピッタリのリハーサルを終えて、ダンサーたちの打ち上げパーティがスタートする。しかし、しだいに異様な精神状態に突入し、それぞれが理性を失っていく。狂乱の一夜は始まったばかり…。

『CLIMAX』感想(ネタバレなし)

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映画自体が「観るドラッグ」

11月にも入るとそうこうしているうちに忘年会シーズンに突入します。この忘年会は日本独自の文化であり、「Bōnenkai」として英語圏では説明されます。

最近の日本では渋谷などでの若者を中心としたハロウィン騒ぎが特別に問題視されていますが、個人的にはハロウィンばかり異常視しているくらいなら忘年会文化にメスを入れればいいのにと思わないでもありません。忘年会の方が歴史的にも長く、そして問題性を起こしているにもかかわらず、見過ごされている慣習です。泥酔者が急増し、街中ではあらゆるトラブルが続発。警察がフル出動することになります。海外の人も、普段は品行方正としているイメージの日本人が、街でところかまわず酔い彷徨っている光景に唖然とすることも多いとか。

やっぱり人間というのは集団化し、加えてそこにアルコールが投入されると、コミュニティを脅かすほどの狂乱を平気で起こす生き物なのでしょうか。

今回紹介する『CLIMAX クライマックス』という映画はそんな人間の本質的な生態を、アグレッシブな映像センスで描いた異色の一作です。

普通の映画とは思わないでください。なにせ監督はあの“ギャスパー・ノエ”です。

“ギャスパー・ノエ”監督はアルゼンチン・ブエノスアイレス生まれの奇才です。初長編監督作の『カノン』(1998年)から彼のセンセーショナルなデビューは始まり、2002年の『アレックス』では大胆なレイプシーンでショックを与え、2009年では『エンター・ザ・ボイド』ではTOKYOを舞台に監督色に染め上げ、2015年の『LOVE 3D』では性描写を徹底的に突き詰める。そのセンスは言葉で説明するよりもとにかく映像を見てくれと言うしかない異様さ。単に“過激”というだけでなく、なんというか、監督なりのアート性をともなって放出してくるし、そこに何の忖度も遠慮もないんですね。

賛否両論が起こるのも当然だし、むしろ激烈な否定意見も浴びせられる作品ばかりですが、“ギャスパー・ノエ”監督自身は「人を不快にさせてこそ自分の映画だ」くらいに思っている。まあ、カルト的な支持を得るタイプのクリエイターです。

そんな“ギャスパー・ノエ”監督の最新作『CLIMAX クライマックス』は、ダンサーたちがアルコールとLSDを摂取して精神状態が狂っていく姿を描くという、その概要を聞くだけでも、“あぁ、これは監督らしいな”と思ってしまう、そういう作品。この監督の作品全体が“観るドラッグ”みたいなものですけどね。

でも意外といったら失礼ですが、批評家ウケはかなり良く、カンヌ国際映画祭で芸術映画賞に輝きました。「『カノン』を蔑み、『アレックス』を嫌悪し、『エンター・ザ・ボイド』を忌み嫌い、『LOVE3D』を罵った君たち。今度は『CLIMAX』を試しに観てほしい。僕の新作だ」といういかにも挑発的な監督コメントのとおり、“ギャスパー・ノエ”監督本人もどうせまた批判されると思っていたみたいですけど、案外と好評なので拍子抜けしている…なんて話を聞くと、なんか微笑ましい…。

毎度撮影方法でもひと悶着の論争が起きたりする場合が多いですが、『CLIMAX クライマックス』はいたって普通に撮ったとか(じゃあ、やっぱり過去作は普通じゃなかったのか…)。

演技未経験の実際のダンサーたちを大勢起用しているなか、主演は『キングスマン』『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』などハリウッド作品でも出演が目立つ“ソフィア・ブテラ”です。『CLIMAX クライマックス』は“ソフィア・ブテラ”が余すところなくたっぷり見られるので(もちろん踊りまくっている)、ファンも大満足でしょう。

アメリカでの配給は安心信頼の「A24」。こういう尖った作品は日本では劇場公開されるあたり、日本の配給会社はその需要はわかっているんだなぁ…。

あくまで私の意見ですけど、『CLIMAX クライマックス』は“ギャスパー・ノエ”監督のフィルモグラフィーの中では比較的見やすい一作な気がする…。いや、単に私が見慣れてしまっただけか…。普通の感覚だと“なんじゃこりゃ!”となるのは確かなので、気軽には推奨はできないですけど。でもレーティングも「R18+」だし、わかるよね。

アルコールを飲んで映画館に行くのは迷惑になる可能性もあるので積極的にはオススメしないのですが、『CLIMAX クライマックス』ならOKな気持ちにもなる。そんな映画です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(奇抜な映画を求めるなら)
友人 △(クセが強いです)
恋人 △(人をかなり選びます)
キッズ ✖(大人向けです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『CLIMAX』感想(ネタバレあり)

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踊り、狂い、乱れ、死ぬ

『CLIMAX クライマックス』は静かな始まりです。雪上を歩いている女性を上空から映すドローン・アングル。雪の中といっても雪遊びに興じているわけではありません。その女性は倒れ、発狂し、這っていきます。明らかに異様。

そこからOPクレジットとして文字がドン!ドン!と挿入されて、画面はいきなりテレビ画面に映る人たちに変わります。どうやら舞踊団に応募してきたダンサーたちひとりひとりをインタビューしたときの映像らしく、映像の中で彼ら彼女らはダンスについて語っています。ダンスは自分の全てだとか、家族のサポートは得られているとか、そんなありふれた話。それだけでなく、話題は人間関係、セックス、そしてドラッグの使用経験にまで及び、質問を受けている当人もこれを見せられている観客も要領を得ないです。なんでそれ聞く?っていう。ここで映る人物の数も非常に多く、LOU、IVANA、EVA、ROCKET、RILEY、DAVID、SHIRLEY、OMAR、PSYCHE、JENNIFER、ALAIA、DOM、CYBORG、ROCCO、KYRRA、BART、GAZELLE、TAYLOR、SILA、SERPENT、EMMANUELLEと、名前が表示されるもシーンの切り替えが多すぎるために記憶がついていけません(この感想記事もキャスト一覧と海外サイトのシノプシスを参考にしました)。

この面接映像シーンが10分くらい続いたところで、またもやOPクレジット的な企業名挿入が始まり、やっと本編らしき物語がスタート…と思いきや、ダンスパフォーマンスの開始。相当気合の入ったもの。

先ほどインタビュー映像に映っていたメンバーを含む集団が、音楽に合わせて見事な個性的スタイルでダンシングしまくる。これが5分くらい、長回しで続行。

凄い映像体験ですよ。映画が始まって15分で、物語らしい物語が見えてこないのですから。

それが終わると、あまりにもしれっと自然にパーティの日常へ移行。ダンスしていた大きめのフロアの端に机が並んで立食で食事がとれるようになっており、各自テキトーにつまんだり、飲み物を飲んだり、談笑したり、相変わらず踊っている人もいます。どうやら先ほどのダンスはリハーサルらしく、これは本番前の“頑張るぞ”パーティみたいです。それにしてもこの建物はずいぶん質素というか、使われていない場所なのか、頼りないところです。ところで私はダンス界隈のことを全然知りませんけど、ダンサーって飲み会していても日常的に踊るんですかね。

基本的には若者たちだけですが、メガネの子どもも一緒に交じっており、どうやらエマニュエルという女性の子らしいようで。その子どもはしばらく後に寝かしつけられます。

一方、パーティはなおも絶好調。各自が思い思いに語らい、自分の感情を吐露したり、相手との駆け引きがピリピリと進んだり、自由気まま。この取り留めもない会話が、極端に多いカットでテンポよく進んでいきます。

そして、またダンスパフォーマンス(これは余興的な遊びの一環っぽいですけど)が開始。個々人で代わる代わる上からの視点でダンスが行われ、上からのカメラアングルが徐々に回転しだすと、入り乱れて踊るようになっていき…。ここでまたもや人の名前の文字がバン!バン!と音楽に合わせて挿入

映画時間の半分は経ったであろうかというところで、みんなが飲んでいるサングリアに注視したシーンが映り、そこから「誰かがこのサングリアにLSDを混ぜてみんなに飲ませたに違いない」という疑心暗鬼が始まります。

取り仕切りを担当するエマニュエルが責められたり、酒の飲めないオマールが非難されて極寒の外に放り出されたり、密かに妊娠していて酒を飲まなかったルーが攻撃を受けて自傷に走ったり、しだいに狂気じみた集団になっていく一同。黄色い服のセルヴァはフラフラと精神の境を彷徨い、エマニュエルはそんな狂った集団から息子を守るべく、電気配電盤室に「出して」と訴える息子を無視して閉じ込めます。
狂気は音楽と共にテンポアップしていき、やがてクライマックスへ…。

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薬物よりもヤバい監督

『CLIMAX クライマックス』はあらすじだけを淡々と書いていくと、何がどう面白いのか全然わからない映画です。場所もひとつの建物内から一切移動しませんし、登場人物も多いわりにはそこからのドラマチックな起承転結の発展はない。

簡単の言えば「ダンサーたちが狂いました。おしまい」という物語。元も子もない言い方ですが、それが唯一の事実。

もちろんストーリー上の柱になるものはあって、例えば「誰がLSDを混入させたのか」という犯人探し。最後に犯人らしき人間が映りますけど、でもこれ自体はもはやどうでもいいというか、後の祭りに過ぎません。

また、本作は1996年という設定なのですけど(だからスマホのようなアイテムは出てこない)、基になった話があって、1990年代のフランスの都市伝説に大まかにですが触発されているのだとか。ただし、この話自体も嘘か本当かわからないので、あまり整合性とかは気にしていられない。

じゃあ、どういう視点で腰を据えればいいのか。監督は「13歳~15歳ぐらいの思春期の子たちが観たら、いかにアルコールやドラッグが有害であることが分かると思う」なんてインタビューで語っているのですけど、いや、まあ、確かにその危険性はこれでもかとたっぷり詰め込まれていました。誰でも本作を観れば同じ目に遭いたいなとは思いませんよ。

しかし、薬物乱用防止キャンペーンにはとうてい使える素材じゃないです。さすがに薬物問題を扱う関係機関も『CLIMAX クライマックス』とはコラボしないでしょう(実際してないし)。というか、たぶん普及啓発に取り組む真面目な組織は、本作みたいな薬物のトリップをアーティスティックに描く行為自体、あんまりよろしく思っていないと思いますが…。どう考えても誤解を与えていますからね…。

でもいいんです。いや、よくないですけど、しょうがないんです。これは“ギャスパー・ノエ”監督のドラッグ映像なのですから。監督の趣味嗜好が一切の臆面もなくこぼれまくっています。

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監督の趣味が舞い踊る

無論、『CLIMAX クライマックス』の魅力の主は「音楽」。私は音楽にはそこまで詳しくないものの、本作の音楽の使い方がかなり凝ったものになっているのはなんとなく察せられます。なにせ“ギャスパー・ノエ”監督のセレクトした俺流リミックスみたいになっていますから。

・「ジムノペディ」第3番(エリック・サティ)by ゲイリー・ニューマン
・「Solidit」by クリス・カーター
・「Supernature」by セローン
・「Born To Be Alive」by パトリック・ヘルナンデス
・「Pump Up The Volume」by M/A/R/R/S(マーズ)
・「French Kiss」by リル・ルイス
・「Superior Race」by ドップラーエフェクト
・「TECHNIC 1200」by ドップラーエフェクト
・「Dickmatized」by キディ・スマイル
・「Sangria」by トーマ・バンガルテル
・「What To Do」by トーマ・バンガルテル
・「Voices」by NEON
・「The Worlds」by サバーバン・ナイト
・「Rollin’ & Scratchin’」by ダフト・パンク
・「Windowlicker」by エイフェックス・ツイン
・「Electron」by ワイルド・プラネット
・「Tainted Love / Where Did Our Love Go」by ソフト・セル
・「Utopia – Me Giorgio」by ジョルジオ・モロダー
・「悲しみのアンジー」by ザ・ローリング・ストーンズ
・「MAD」by コージー・ファニ・トゥッティ&Coh

これらの楽曲がガンガンと挟まれつつ、監督らしい映像センスで彩られます。あの独特のカメラアングル、文字の挿入、あげくには終盤には真っ赤なライトの点滅するフロアを映す映像は逆さまになり、文字まで上下反転するという…。完全に観客に見せる気ないじゃないかという、大混乱なアプローチ。即興演技の組み合わせ方といい、監督はこういう“自分のものにしてしまう”力というのが本当に長けているな、と。

ダンサーたちのチョイスも良いですよね。このキャスティングにかなり力を入れたのかな。LSDのせいで表現のストッパーが消えた人間の末路がとてもよく表されていて、こうなってくるとダンスと演技に壁はないですね。

さらに監督の趣味を堂々と示すのが序盤のインタビュー映像が流れるテレビ画面の横に無造作に置かれているいくつもの本とDVDの数々。その後の映像がインパクト強すぎてすっかり忘れてしまっていると思いますが、予告動画で一時停止確認できるのでひとつひとつ判読していくと、監督の“俺はこれが好きなんだ!”という声が漏れ聞こえてきます。

全部挙げるとキリがないので一部を紹介すると、『サスペリア』『ゾンビ』『切腹』『アンダルシアの犬』など無数の名作が山積みに。

つまり、『CLIMAX クライマックス』で一番ハイになっているのはやっぱり“ギャスパー・ノエ”監督だった…というオチです。警察もドン引きの壮絶で悲惨なクライマックスが待っている本作ですが、監督本人は勝ち誇っていますよ。LSDを盛ったのは監督だったんだ(早合点)。

皆さんもパーティ会場に“ギャスパー・ノエ”って奴がいないかよく確認してください。要注意人物ですよ。絶対になんか混ぜてきます。

『CLIMAX クライマックス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 70% Audience 67%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS

以上、『CLIMAX クライマックス』の感想でした。

Climax (2018) [Japanese Review] 『CLIMAX クライマックス』考察・評価レビュー