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『リアリティ』感想(ネタバレ)…リアリティ・ウィナーの体験は映画になる

リアリティ

そしてまた現実になるのか…映画『リアリティ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Reality
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年11月18日
監督:ティナ・サッター

リアリティ

りありてぃ
リアリティ

『リアリティ』あらすじ

2017年、アメリカのとある街。いつものように買い物から帰宅した25歳のリアリティ・ウィナーは、見知らぬ2人の男性に声をかけられる。彼らはあまりに平凡そうに接してくるが、実はFBI捜査官だった。さらにリアリティの家の捜索をすると告げてくる。気さくで穏やかな口調で何気ない質問を繰り返す彼らだったが、会話は徐々に不穏な空気を帯びはじめ、リアリティは未経験の窮地へと追い込まれていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『リアリティ』の感想です。

『リアリティ』感想(ネタバレなし)

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忠誠心を問われたもうひとりの人物

2024年はアメリカで大統領選があります。陰鬱な気持ちになる…。

民主党は現在の大統領であるジョー・バイデンの再選を狙いますが、対する共和党は大統領選出馬候補の争いが続く中、バイデン大統領の前に大統領の職についていたドナルド・トランプがその最有力となっています。CNN世論調査で「再対決」想定でどちらを支持するかを問うと、トランプが小差でリードするという結果も…CNN。まあ、前回でよく承知のとおり、実際に選挙しないともはや予測不可能な情勢ですけどね。

そのトランプですが、同時進行で、機密文書の流出や事業の詐欺の罪に問われてもおり、こちらは裁判が進行中。そこでもトランプは判事や州の司法長官を平然と威嚇しまくっておりCNN、相変わらず自分が絶対的な王様であると考えている様子。

実のところ、トランプは2016年に大統領に選ばれたときから、すでにある疑惑の渦中にいました。その疑惑とは、2016年アメリカ大統領選挙におけるロシアの干渉です。これはその2016年に行われたアメリカ大統領選挙において、共和党のトランプ候補を勝利させるために、ロシアがそのトランプと対立する民主党のヒラリー・クリントン候補の選挙戦を妨害し、サイバー攻撃やSNSを使ったプロパガンダなどを実行したとされる一連の世論工作・選挙干渉疑惑のことです。「ロシアゲート」なんて呼ばれ方もしています。

結局、いくつかの組織や人物が有罪判決を受けたりしたのですが(SNS企業の疑惑はドキュメンタリー『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』を参照)、トランプとその当時の政権中枢関係者は訴追できませんでした。この疑惑の調査を担当したロバート・モラー特別検察官「(共謀という)罪を大統領が犯したという明確な結論はないが、大統領の完全な身の潔白が証明された訳ではない」と2019年にコメントして、捜査を終結させました。

トランプ大統領はこのロシアゲート疑惑の真っただ中で堂々としていたわけではありません。2017年5月9日にトランプ大統領はFBIのジェームズ・コミー連邦捜査局長官を解任しています。この突然の解任の背景として、コミー連邦捜査局長官がロシアゲートを捜査しようとしたものの、トランプ大統領から「忠誠心」を求められ、結果、決裂した…と言われており、これは後の彼の回顧録『A Higher Loyalty: Truth, Lies, and Leadership』にも書かれています。

そして忠誠心を問われたのは彼だけでありませんでした。もうひとりの人物がいたのです。

その名も「リアリティ・ウィナー」

この人はロシアゲート疑惑の証拠となるある資料を漏洩したという罪で、コミー連邦捜査局長官解任の約1カ月後に逮捕されました。

この逮捕事件はアメリカの世間の話題となりました。このウィナーは別に政治家でもない、25歳と若い女性だったからです。「なんでこんな若者が逮捕されるんだ?」と当時の社会は興味津々。しかも、「リアリティ・ウィナー(真実の勝利者)」なんて、わざとらしいほどにぴったりすぎる名前ですからね。話が出来すぎだと感じるのも無理ないです。

こうしてヒロイックかつセンセーショナルに取り上げられまくったウィナーなのですが、当人は地獄を味わっていました。今回紹介する映画はその始まりをリアルに映し出した衝撃の一作です。

それが本作『リアリティ』

本作は、ウィナーは逮捕された当日の出来事を、実際のFBI尋問音声記録に忠実に再現し、そのときの会話の様子が生々しく映し出されています。小難しい用語でいうところの「逐語的映画」ってやつですが、新進気鋭の劇作家“ティナ・サッター”の舞台劇『Is This a Room』を、“ティナ・サッター”自身の監督デビュー作として映画化したものです。

なので映画となったことで、そのリアリティ(名前じゃないですよ。ややこしいな…)が増しています。観客もその家宅捜索の現場にいる気分になり、ウィナーと一緒に最悪の瞬間に立ち会えます。

そして「社会がおかしなことになっている」という違和感、その空気みたいなものがこの映画から伝わってくるんじゃないでしょうか。アメリカって自由と正義を掲げる国じゃないのか…これじゃあまるで…と。

主演するのは、ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』でも印象的だった“シドニー・スウィーニー”。これはもうこの俳優のベストアクトですね。

またドナルド・トランプが大統領になったアメリカが到来すれば、こんな『リアリティ』のような風景が繰り返される。そんなことを思いながら、本作を観てみてください。

映画館から帰ったあなたの横に見知らぬ人が立って話しかけてくる可能性を感じながら…。

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『リアリティ』を観る前のQ&A

✔『リアリティ』の見どころ
★あまりに生々しい緊張感。
✔『リアリティ』の欠点
☆心理的なストレスが強い。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:自分に起きうる事件として
友人 3.5:気分は悪くなるが…
恋人 3.0:デート向けではない
キッズ 3.0:子ども向けではない
↓ここからネタバレが含まれます↓

『リアリティ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):元気ですか?

2017年5月9日、リアリティ・ウィナーはオフィスの自分の仕事スペースでパソコンに向き合って通常の作業をしていました。その壁のテレビには、ドナルド・トランプ大統領によるジェームズ・コミー連邦捜査局長官の解任に関するFOXニュースの報道が流れています。

その25日後の6月3日、午後3時30分。車で家に到着したウィナー。食料品の買い物からの帰宅です。

そのとき、トントントンと車の窓を誰かに叩かれます。窓を開けると2人の男が立っていました。ひおりは眼鏡の白人男性。彼は「私の相棒のテイラーだ」と隣の黒人男性を軽く紹介します。そのテイラーもずいぶんと軽めに挨拶してきます。白人のほうはギャリックという名です。

ウィナーには何が何だかわからず、困惑した表情を浮かべます。シートベルトを外し、降りて2人と会話。「気分は?」「いいですよ」

すると2人の男性は淡々とFBIバッジをみせてきました。FBI捜査官だったのです。

大袈裟な反応もなく、冷静にそれを受け止めるウィナー。

「今日ここに来たのは、あなたの家を家宅捜索するためです。何か心当たりは?」

「全くありません」

「機密情報の扱いを誤った可能性がある」

「それは大変ですね」

「繰り返すが令状がある」とポケットに手を突っ込んだまま話すギャリック。「君の言い分も聞く。もちろん全て任意だ。ここで話してもいいし、私たちのオフィスが近いからそこへ行ってもいい」

なおも穏やかな2人。「ペットとか飼ってる?」とテイラーは口にし、「しばらくかかるから必要なら外に出しては?」と提案。ウィナーが買ってきた食品を冷蔵庫に入れるために車を開けようとすると、すかさずテイラーがドアの前に立って止めに入り、間髪入れずに車の後方に黒い車が停車してきます

犬が吠えているのが聞こえ、「犬は温厚?」「ああ、ちょっと違うかも…」とウィナーが言うと、テイラーは熱心にこれからの手順を説明。家の鍵を渡すように言われ、差し出し、スマホも預けることに。

とにかくウィナーは一切余計なことはするなということのようです。

話の流れでウィナーは家に「AR-15」という自動小銃があると打ち明けます。テイラーはギャリックに目線を送ります。「ピンク色かな?」「ピンクです。なぜ知ってるんですか?」となおも日常トークのように続きます。

すると今度は黄色いシャツの白人男がどこからともなく現れ、何やら電話。

犬を外に出すことになり、「犬の名前は?」とここでも気楽な質問。犬を外の柵の中に入れると、すでに家の周囲には黒い車が何台も止まり、FBI職員が捜査中の黄色いテープを貼りだしていました。

ギャリックはなおもウィナーと気さくに会話を続け、犬の何気ない話題で時間を潰します。家の中に続々と捜査官が入っていきます。

冷蔵庫に食品だけしまう許可をとり、また外に。黄色シャツの男がウィナーを壁に立たせて写真を撮ります。

そして犬柵の前でギャリックと会話です。

本題にはまだ入らない…。

この『リアリティ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2023/11/19に更新されています。
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まるで5歳の女の子に話しかけるように

ここから『リアリティ』のネタバレありの感想本文です。

映画『リアリティ』の冒頭はリアリティ・ウィナーがアメリカ国家安全保障局(NSA)と契約関係にある「Pluribus International Corporation」で働いている様子が完全に引いたカメラで映されます。ここでリアリティは国家機密情報も取り扱える立場にありました。職場は米軍基地内みたいですけど、国家機密情報と言えども、結局は下請けに業務させているわけですね。職場内で放送されているメディアが保守・右派の偏向で知られるFOXニュースだというのも印象的です。

そして月日は少し飛んで、リアリティが突然の家宅捜査を受ける当日。

一般的にこういう取り調べや家宅捜査というのは、高圧的に行われるイメージですが、本作のそれはよくある攻撃的な捜査ではありません。むしろ不気味なくらいに表面上は物腰柔らかです。

ギャリックとテイラーの2人の男性(FBI捜査官)が話しかけてくることから始まりますが、気さくとは言え、やっぱり不自然です。見知らぬ大の男性2人が若い20代の女性にこうやって話しかけてくることは普通ありません。

会話の話題に関するネタも乏しく、オッサンが無理やり若い女性と会話しようと頑張っている感じです。まるで5歳の女の子に話しかけるくらいに丁寧になっているのが痛々しくすらあります。

ただ、ここでの会話も相当に入念に計画してあることが察せられます。「犬」や「銃」のことを聞いたりしていますが、当然FBIなので事前に下調べしてあるはずです。あえて何も知らないふりをして尋ねることで、このリアリティが嘘をつくかなどの態度を見極めているのがわかります。

そしてだんだんと核心の質問…機密情報を外部に漏洩したことに触れていき、ここで2人の男の口調も少し強めになっていきます。

涙を流しながら語り、座り込むリアリティの姿から、さっきまで気丈に振舞っていましたがやはり恐怖を感じていたことがわかりますし、非常にこの構図自体が虐待的かつ支配的な空気に満ち溢れているので、見ていて辛いです。

作中ではこの緊張感が高まる場面で、リアリティの姿が一瞬消えるなど、心理スリラーのような演出が追加され、得体のしれない緊迫感をさりげなく底上げするあたりも作りが上手いです。

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正義と自由はいつの間にか消えている

映画『リアリティ』では、一瞬で機密情報漏洩の罪に問われることになったリアリティ・ウィナーの素顔…つまり、ただの一般人であることが淡々と映像に流れます。

ところどころで映し出される部屋の様子も、ごく普通の20代女性の住んでいる空間そのもの。『風の谷のナウシカ』のシールみたいなものまで映ったり、趣味も駄々洩れです。

その一方で、アサルトライフルを持っていたり、パシュトー語を話せたり、意外な一面も見せつつ、それがウィナーへの懐疑心を引き立たせます。

かと思えば、スマホのパスワードを設定しておらず、肝心のセキュリティはノーガード状態だったり、ウィナー自身は特別な神経質さもなく自然体です。

要するにエドワード・スノーデンのように緻密に国家レベルの告発をしようと身構えていたわけでもないということ。

でもだからと言って、ウィナーは軽率に犯罪行為をしでかしてしまった人…みたいな扱いでいいのか?…という点がこの映画の最大の問いかけだと思います。

ウィナーは別に気軽にあの行為をしたわけではない。確固たる信念に基づいて、やるべきことをしたんですね。それはこの国の正義と自由のため。ウィナーは忠誠を誓っているわけです。たまたまのし上がった大統領ではなく、もっと大いなる国家の信念に対して…。

そう考えるとあのFBI捜査官とは対照的に映ります。もちろんあのFBI捜査官だって本心ではどう思っているかはわかりません。もしかしたら嫌々仕事をしているだけかもしれません。しかし、実情としてはあのFBI捜査官たちは大統領に従う道を選んでいる。25歳の女性はその従属に逆らうという選択がとれたけど、あのFBIの男たちにはそれができない。この構図ですよね。

もう少し身近な話題に例えるなら、自分が勤めている会社が不正行為を常習的に行っていると知って、あなたはどうしますか?…ということです。大人しく黙認して自分もそれに手を貸すのか、それとも単に離職してその職場から距離をとるか、もしくは自らその不正を世間に明らかにしようと動くのか…。

とにかくあのウィナーの身に起こったことは、それこそまるでナチスの親衛隊(SS)ような独裁社会における監視統制を彷彿とさせます。ミランダ警告(「あなたには黙秘権がある。~」というやつ)もなしに粛々と身柄を拘束され、連行されていく姿は、このアメリカという社会がいつの間にか静かにこれほどまでに恐ろしい領域に到達してしまったんだということを突きつけます。

そしてどんなに今は自由だと思っている国でもこうなりますよという話でもあり…。

その後のウィナーは2021年6月に刑務所からの釈放(しばらくは自宅監視がつく)。その後は本作を含めた製作にも関わってくれたそうですが、トラウマを思い出すので映画は観ていないとのこと。

ウィナーを主題にした伝記映画が『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の脚本家の“スザンナ・フォーゲル”のもとで進んでいるそうで、またその公開時にこの問題について考えることになりそうです。まあ、そのときのアメリカはどうなっているのか…。

アメリカ合衆国憲法修正第1条には「言論の自由」が保障されています。これは国家から咎められることを恐れることなく、自分の意見を表明するものであり、当然、国家の不正を告発するのも言論です。

これからも権力に口答えできる世界であってほしいものです。

『リアリティ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 66%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

国家の不正に関する事件を題材にした映画の感想記事です。

・『ザ・レポート』

作品ポスター・画像 (C)2022 Mickey and Mina LLC. All Rights Reserved.

以上、『リアリティ』の感想でした。

Reality (2023) [Japanese Review] 『リアリティ』考察・評価レビュー