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『カモン カモン(C’mon C’mon)』感想(ネタバレ)…大人は子どもの声にもっと耳を傾けて

カモン カモン

そうホアキン・フェニックスも言っている…映画『カモンカモン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:C’mon C’mon
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年4月22日
監督:マイク・ミルズ

カモン カモン

かもんかもん
カモン カモン

『カモン カモン』あらすじ

ニューヨークでひとり暮らしをしていたラジオ・ジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれて9歳の甥ジェシーの面倒を数日間みることになり、ロサンゼルスの妹の家で甥っ子との共同生活が始まる。好奇心旺盛なジェシーは、疑問に思うことを次々とストレートに投げかけてきてジョニーを困らせる。その一方でジョニーの仕事や録音機材にも純真に興味を示してくる。それをきっかけに次第に距離を縮めていくが…。

『カモン カモン』感想(ネタバレなし)

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マイク・ミルズ監督の家族観は心地いい

昨今は「家族」という概念を見直す動きが少しずつ強まっています。いや、そもそも「家族」という概念は常に歴史的に変化し続けているので、今になって始まったことではないかもしれません。

何が「保守的な家族観」とみなされるかはきっと時代や社会で違ってくるのでしょうが、基本的に家族主義は権力者が好むものなので、何かしら抑圧的に働きますし、それに反発する動きもあがるのは当然です。

つい最近問題視された日本の内閣府男女共同参画局が公開している「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」の資料内での「壁ドンの教育」とかはさすがにドン引きレベルで絶句するしかないですが…。

映画やドラマなどの創作物でも「家族」が描かれることはしょっちゅうであり、そこには作り手の家族観が反映されます。そこで描かれる家族観が古臭かったり、抑圧的であることに鈍感だとちょっとガッカリ…という人もいるでしょう。

そんな中、この映画監督の作品で描かれる家族観はそうした窮屈さもなく、好評を得ています。その監督とは“マイク・ミルズ”です。

“マイク・ミルズ”監督は2005年に『サムサッカー』で長編映画監督デビューを果たしました。親指をしゃぶる癖があるADHDの少年を描くこの映画はベルリン国際映画祭でも高く評価され、“マイク・ミルズ”監督の名を一躍有名にしました。続く2010年の『人生はビギナーズ』という監督作では、父親から突然自分がゲイであるとカミングアウトされた30代の男を描く物語で、その内容は“マイク・ミルズ”監督本人の体験に触発されたものでした。

このように“マイク・ミルズ”監督作品は監督本人の規範的ではなかった家族経験の影響が色濃く、それが新鮮さを与えてくれています。2016年の監督作『20センチュリー・ウーマン』も、“マイク・ミルズ”監督の家族が家父長的ではない、むしろ女性の方が活発で前面にでていたことを象徴するような一作であり、多様な女性たちの生き様が詰まっていました。

“マイク・ミルズ”監督作品を見ていると、規範的ではない家族を特異な存在として露骨に位置づけることなく、ありのままで自然に描いてくれるのでなんだか安心感があります。

その“マイク・ミルズ”監督の最新作が5年ぶりに登場。それが本作『カモン カモン』です。

『カモン カモン』もやっぱり家族の物語。今回はひとりの男が9歳の甥っ子の面倒を数日間見なければいけないことになり、その交流がただただ描かれる…とてもミニマムなドラマです。大事件も起きない、まるでずっと子どもと会話しているときの他愛もない時間が続くような、そんな日常の延長がそのまま映画になったような感じ。

本作のインスピレーションは“マイク・ミルズ”監督が自身の子と対話している瞬間に思いついたそうです。“マイク・ミルズ”監督の子はインタビューによればノンバイナリーだそうで、とても哲学的な子なのだとか。そこにも脱規範的なストーリー・イマジネーションの素材があったりするんですね。

同時に『カモン カモン』はいろいろな子どもにインタビューを重ねていくという、ドキュメンタリー的な作りも組み合わさっています。“マイク・ミルズ”監督はドキュメンタリーも手がけたことがあるので、そのこれまでのアプローチが全て集約された一作と言えるかもしれません。叔父と甥っ子の交流だけでなく、母親の苦悩、メンタルを崩した人間の物語などもあり、“マイク・ミルズ”監督のテーマの集大成になっています。私は“マイク・ミルズ”監督作の中では本作が一番好きかなと思います。

本作の良さは何よりも俳優の演技に大きく支えられているのですが、その主役を務めるのが“ホアキン・フェニックス”。ショッキングなインパクトで話題をかっさらった『ジョーカー』での怪演の後に本作を撮っていることもあり、その演技力の幅にあらためて驚かされます。『カモン カモン』では本当に穏やかな佇まいで存在していますからね。同一人物とは思えない…。

共演は、『わたしに会うまでの1600キロ』やドラマ『トランスペアレント』の“ギャビー・ホフマン”、ドラマ『TRUE DETECTIVE/迷宮捜査』の“スクート・マクネイリー”など。

そして『カモン カモン』で忘れることはできない、物語の中心にいるのが甥っ子を演じる子役の“ウディ・ノーマン”。『エジソンズ・ゲーム』とかにもでていましたが、『カモン カモン』の鑑賞後はこの子の演技力に脱帽ですよ。あの“ホアキン・フェニックス”と1対1でも全く見劣りしないです。これは“ホアキン・フェニックス”が子役の演技を引き出すのが異様に上手いというのもあるのかな。

世の中に疲れて心がボロボロになったな…と滅入っている人にこそ、この『カモン カモン』の鑑賞をオススメします。大袈裟なエンパワーメントはないけど、ほんのちょっぴりの肯定感が心の隙間にハマってくれるはずです。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:疲れた時に見たくなる
友人 4.0:信頼できる相手と
恋人 4.0:素直に話せるパートナーと
キッズ 3.5:大人向けのドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『カモン カモン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):未来はどうなっているだろうか?

「今から聞く質問には正解も不正解もない。嫌な質問だったら答えなくていい」

そう優しく言いながら、いろんな年齢の子どもに質問していくインタビュアーたち。

「将来はどうなっていると思う?」「未来は今よりも良くなっているかな?」「正しいことをするために大人は何をするべきだった?」

そんな質問にそれぞれの子どもは自分なりの答えを言葉で紡いでいきます。

デトロイト。部屋でその子どものインタビュー録音を聞くのはラジオジャーナリストのジョニーです。今は取材旅行の真最中で、子どもたちのコメントを集めていました。

ジョニーは電話をかけます。相手は妹のヴィヴです。実は2人は介護が必要な母をめぐって喧嘩をしてしまったこともあり、少し亀裂がありました。それでもかなり時間が経過し、それぞれのわだかまりと向き合う余裕もでき始めていました。

ヴィヴにはもう9歳になる息子がいて、名前はジェシー。なんでもジョニーのラジオを聞いてくれているそうです。

ヴィヴの夫であるポールはオークランドで別居しており、離婚はしましたが、ポールはメンタル面でかなり問題を抱えていて、少し会いに行こうと考えていました。その間、このジェシーの面倒を見てくれないかと頼まれます。ジョニーはせっかく妹と関係を修復する機会だと思い、その頼みに応じます。

ロサンゼルスのヴィヴの家に到着。ジェシーはジョニーの姿に少し困惑するも、それぞれハグしてくれます。食事中もジェシーは熱心に喋り、元気な子です。ヴィヴによればジェシーはときおり自分が孤児の子になったつもりで振舞うことがあるらしいです。

翌朝。ヴィヴは出発しました。ジョニーが起きると、大音量でオペラミュージックを聴いているジェシーがおり、そのうるささにやや辟易。

仕事道具であるマイクと録音機でジェシーにも質問します。でもジェシーは質問に答えることに興味なさそうで、むしろ機材に関心があるようです。そこでヘッドホンをつけてみたジェシーは、そのままジョニーとマイクを持って外へ。好きな方向に向け、街中や浜辺で録音。色んな音があることにジェシーは気づいていきます。

帰宅して、やはりジェシーと会話を重ねるジョニー。「なぜ結婚しないの?」と聞かれたジョニーは自分でも考えがまとまらないままにボヤっと答えます。愛は大人にも難しいものです。

オークランドに到着したヴィヴはポールの様子はかなりマズいと報告してきて、あと2~3日いてほしいと言ってきます。金曜にニューヨークで取材があるのですが、どうするべきか。ジョニーは「ニューヨークに一緒に来ないか」とジェシーに持ちかけます。ジェシーも乗り気のようです。

ヴィヴはニューヨーク行きに反対しますが、結局、ニューヨークに連れてくることになり、ジョニーとジェシーはこの大きな街を歩き回ります。

子どもたちへインタビューを続行する傍ら、なおもジョニーとジェシーの対話は続き…。

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叔父と甥っ子

『カモン カモン』はモノクロの映像で綴られる、温かい人間同士の交流の記録です。こういう白黒でアプローチしていく方法は“マイク・ミルズ”監督は『I Am Easy To Find』という“アリシア・ヴィキャンデル”主演の2019年の短編でもやっています。こちらは生から死までの人生を魅せており、一方で『カモン カモン』は数日間だけの短い時間を魅せる。タイムスケールは全く異なりますが、映像の温もりには共通点があります。

とは言え、映像以上にやっぱりジョニー演じる“ホアキン・フェニックス”とジェシー演じる“ウディ・ノーマン”の演技の化学反応がたまらなくいいです。ずっと見ていたいという気にさせます。“ウディ・ノーマン”の幼くも知的で挑戦的ですらある、あの存在感はよく引き出せましたね。

あの叔父と甥っ子の関係性はほぼ初対面に近い状況なのにあまり観ている側としては不安を感じさせません。それくらいに抜群の信頼性を醸し出しています。変な話なんですけどね。あのジョニーも子どもには慣れていないはずなのに、なぜか大丈夫そうに思えてくるのは…。

その理由を考えると、作中でジョニーはたとえ甥っ子と言えども子どもを対等に扱い、それこそ取材対象を尊重するようにしっかり向き合っているからなのだと思います。何かを強要しない、不快さを与えない、プライバシーを守る…そうしたひとつひとつのステップを維持している。だからこそジェシーも素直に心を開いてくれる。

あと、本作のジェシーはたぶん少年と断定していなくてノンバイナリーな余地も残しているんだと私は思いましたけど…(でも「甥」という言葉を当てはめるしかなくてちょっと心苦しい…)。

そんな中、対等は良いねとも言っていられないのは、今回ばかりは保護者としての責任も生じるということ。ジェシーが突然いなくなれば慌てふためき、怒鳴りつけてしまったりもする。その後の自己嫌悪といい、ジョニーは親の気持ちを実感していきます。

『カモン カモン』では叔父と甥っ子という関係軸にしたのが良かったなと思います。これが父と子だとどうしても父親論の物語になってしまってテーマの語り口もありきたりになってしまいますから。叔父と甥っ子という、無関係ではないけどよそよそしさが微妙に残っている…そんな間柄。過度に理想的な大人像にしていないのもいいですね。

一方で父親の方が不問になっているわけではなく、本作ではポールという父のメンタルが壊れてしまった人間の物語もサブエピソードで描いていく。2007年に『マイク・ミルズのうつの話』という日本での鬱病に苦しむ人々を取材したドキュメンタリーを手がけたこともある監督ならではの、“男らしさ”や“社会規範”に押しつぶされた男への眼差しというのが『カモン カモン』でも貫かれていました。このあたりは『Dads 父になること』というドキュメンタリーも合わせて鑑賞したいところですね。

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大人は子どもの声を聞いているか?

『カモン カモン』は叔父と甥っ子のじゃれあいを描きつつ、同時にドキュメンタリー的な実際のインタビューも交えていく変則的な作りです。

そこには“マイク・ミルズ”監督なりの「大人はもっと子どもの声に耳を傾けよう」という姿勢があるように感じました。

昨今は子どもたちはSNSで頻繁に自分の意見を主張しています。ハッシュタグ・アクティビズムの時代です。ある人はそんな子どもたちにスマホばっかりしてないで…とか、そんな未熟なのに声ばかりあげて…と呆れたり、叱ったりするかもしれません。10代の活動家を嘲笑う大人も見受けられます。

でも私たち大人はそんな子どもの声をそもそも真面目に聞こうとしていたのか。ちゃんと聞いていないからこんなに子どもは叫んでいるのではないか。

だからこそ『カモン カモン』は子どもたちの声を直接インタビューで聞こうとします。その聞く姿勢がまた謙虚で誠実なのが良くて…。無理に答えを引き出そうとせず、それでいて自由な発言を良しとする。そんな空間で発せられる子どもたちの素直な主張。どこぞのテレビ番組のような大袈裟な演出もなければ、学校の発表会のような採点の目もない。この安心の場所ゆえに言える、大人や社会へのメッセージ。

“ヴィム・ヴェンダース”監督の『都会のアリス』を意識した街を巡るロードムービーの中に、子どもの声を聞いて回る(そこにはジョニーがジェシーの声を聞くのも含まれる)という要素が最大限に活用されており、本作の物語を単なる良作を観たという自己満足で終わらせない。少なくとも本作を観た大人は自分の子どもへの接し方を再考したくもなります。

私もひとりの大人としていろいろ考えたくなる映画でした。私自身はそんなに子どもと触れ合う機会が多くなくむしろ乏しいくらいなのですが、でも子どもの存在を無視はできない…というか普通に考えても子どもを最優先にしないといけないのが大人の務めだとも思うし…。

『カモン カモン』でジョニーがジェシーに「叫ぶことの普通さ」を終盤に諭すように、今の子どもたちには感情を押し殺してほしくない。未来に絶望してほしくない。

子どもの方は大人に向かってきて欲しいと思っているならなおさらです。

『カモン カモン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 78%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

以上、『カモン カモン』の感想でした。

C’mon C’mon (2021) [Japanese Review] 『カモン カモン』考察・評価レビュー