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ドラマ『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』感想(ネタバレ)…俺が乗せてやったんだぞ!

スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男

俺が乗せてやったんだぞ!…ドラマシリーズ『スーパーパンプト/Uber -破壊的ビジネスを創った男-』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Super Pumped
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ブライアン・コッペルマン、デヴィッド・レヴィーン
セクハラ描写 恋愛描写

スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男

すーぱーぱんぷと うーばー はかいてきびじねすをつくったおとこ
スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』あらすじ

交通の革命を起こすと豪語し、わずか数年で巨大な注目を集めるIT企業へ成長したアメリカの配車サービス「Uber」。急激な拡大は創業者でCEOのトラビス・カラニックの功績であり、トラビスの仲間や部下たちは、そのカリスマ性を信じ、彼の威勢のいい発言に拍手喝采をしていた。しかし、彼の向こう見ずな戦略の数々にしだいに不信感を抱く。そして車を運転する労働者にはもっと深刻な問題が起きていき…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』の感想です。

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』感想(ネタバレなし)

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ギグ・エコノミーの出発点

2023年5月、全米脚本家組合(WGA)が15年ぶりとなるストライキを敢行しました。待遇改善を訴えるべく大きな決断なわけですが、争点になっているのが「人工知能(AI)の利用制限」です。生成AIが急激に脚光を浴び始めた中、自分の書いたシナリオがAIの学習に勝手に利用され、またAIによって管理され、仕事まで奪われるのではないか…そう多くの脚本家たちは危惧しています。

このAIの問題はいわゆる「ギグ・エコノミー」ですVariety。つまり、脚本家たちは自分たちの「ギグ・ワーカー」化が加速・悪化するのではないかと恐怖しています。ギグ・エコノミーとは長期的な雇用体制ではなく短期的な労働が行われる市場で、主にデジタルなプラットフォームや交流を通して正規の雇用契約無しで(もしくは雇用自体が曖昧に)仕事を請け負うことが多いです。

このような近年のテクノロジーによる急成長ギグ・エコノミーの先駆けとなったのが「Uber(ウーバー)」でした。Uberはアメリカのテック企業で、基軸はライドシェア・サービス。誰かの運転する車に他の人がサービスを使って相乗りするというもので、タクシーのような運転手という労働形態とは少し違います。あくまで相乗りなのです。この2010年前後に始動したUberは既存のタクシー業界を激震させ、庶民の交通の価値観を変えました

それだけでなく、シェアリング・エコノミーなどのギグ・エコノミーのパワーを見せつけ、このようにテクノロジーで業界が一変してしまうことをUberに因んで「Uberization(ウーバー化)」と呼ぶほどになりました。

しかし、そのテクノロジーの革命者の代表と思われたUberですが、その企業の内情はあまりにもズタボロで…。今回紹介するドラマシリーズは、そんなUberの立ち上げから急成長、そして転落を描く作品です。

それが本作『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』

本作は、Uberの創業者で問題児であった「トラビス・カラニック」を主人公としており、彼の破壊的でなりふり構わない経営を痛烈に描いていくビジネスものです。最近はもっぱらシリコンバレーなどテック系の起業家がこのジャンルの主題になることが定番化しつつあり、ドラマ『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』などがありましたが、それに続くものですね。

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』はUberだけでなく、ギグ・エコノミーというものがいかに壊滅的でコントロール不可能なものなのかを映し出しており、今やギグ・エコノミーはあらゆる業界にとって目前に迫る存在ですから、多くの人々にとって無関心でいられない題材なのではないでしょうか。

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』は、“マイク・アイザック”の2019年のノンフィクション「Super Pumped: The Battle for Uber」を原作としており、ドラマ化の原案はドラマ『ビリオンズ』“ブライアン・コッペルマン”“デヴィッド・レヴィーン”が先導しています。

Uberの創業者トラビス・カラニックを演じるのは、ドラマ『Mr. コーマン』“ジョセフ・ゴードン=レヴィット”。こういう役は大得意ですね。

共演は、『ミッドナイト・スカイ』“カイル・チャンドラー”『アルゴ』“ケリー・ビシェ”『ベイウォッチ』“ジョン・バス”、ドラマ『ニュー・アムステルダム 医師たちのカルテ』“ババク・タフティ”、ドラマ『Home and Away』“ブリジット・ガオ=ホリット”『キル・ビル』“ユア・サーマン”など。

ちなみに、“クエンティン・タランティーノ”がなぜかナレーションを担当していて、めっちゃ「fuck」と言いまくっています。なんだこの起用…。

あと、作中で“ダニエル・エスピノーサ”監督の『ライフ』(2017年)という映画のオチの完全ネタバレがぶっこまれているので、一応忠告しておきます。

ドラマ『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』はアメリカ本国では「Showtime」の独占配信で、日本では「U-NEXT」で取り扱われています。全7話で1話あたり約50~60分ほど。このシーズン1だけで完結し、以降は他のビジネスに焦点をあてるようです。

「Uber Eats (ウーバーイーツ)」でも使いながら視聴してもいいですけど、あまりいい気分にはならないかも…。

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『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』を観る前のQ&A

✔『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』の見どころ
★ギグ・エコノミーのリスクを思い知る。
★破滅的な起業モノのスリルあるストーリー。
✔『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』の欠点
☆セクハラを題材にしたエピソードがあるので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:起業モノが好きなら
友人 3.5:自由に語り合って
恋人 3.0:恋愛気分ではない
キッズ 3.0:ダメな大人だけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):成長か死か

「Uberで働きたいんだな? それじゃ質問だ。君は嫌な奴(asshole)か?

そんな意味ない質問を新入社員希望者にぶつけているのはライドシェア・サービス「Uber」を展開しているトラビス・カラニック。そこに同僚が安全面での懸念事項を持ち込んできます。

「うちの配車件数は1日100万件以上だぞ。いくら運転手を精査しても客に言い寄る奴もいるさ。うちの車に乗るのは危険だと世間は騒ぐが重要なことは安心より…」

そのトラビスの饒舌を遮る同僚は「TK、聞いてくれ。世間の認識を変え収益も上がる。安全保障料金だよ。乗車ごとに1ドル取るんだ」と進言。「それは名案だ」と、パークの駐車場を有料にしたディズニーの最高経営責任者だったマイケル・アイズナーの戦略だなとトラビスも大納得。「俺たちはファッキン・ミッキーマウスだ。一度客を虜にしたらカネをとり続けるのは簡単だ」と豪語します。

2011年、トラビスはベンチャー企業投資家のビル・ガーリーのもとへ行く予定でした。エンジェル投資家に気に入られて資金を貰わないと、今の自分がやっているタクシー・サービス「Ubercab(ウーバーキャブ)」の未来はありません。

一方、ビルは「配車アプリなんて他にもあるし、もっと有望なユニコーンを待つべきだ」と言われつつも、トラビスに会ってみます。「君はどんなCEOになるのか知りたい」と聞くと、自信満々なトラビスは「未熟な面は確かにある。でもあなたの助言があればどこまでも成長できる」「新しい交通手段であると同時に自分の都合で稼げる手段でもある。子どもが学校に行ってる間だけ働く母親。夕食の時間は家族と過ごしたい父親」と業界の可能性を誇ります。

まるでトラビスが優雅に着想をだしたかのような語り方でしたが、根本のサービスのアイディアは普通のダイナーでギャレット・キャンプから提案されたもので、最初は自分も乗り気ではありませんでした。しかし、トラビスは話を盛るのだけは得意です。

「助言は聞く耳はあるのか?」「良い案は聞きます。でも指図は受けません。客は利用したら2度と離れません」

トラビスとビルは対話を終え、ホテルをでます。タクシーが来ない中、トラビスはすぐにUbercabのアプリを使って車を呼び寄せました。降りるときも支払いは勝手に済ませているのでラクです。「この事業は長期的にみて合法的にいけるか?」と念押しされ、「YES」と答えるトラビス。「ホテル前のタクシーを事前に追い払ったか?」と聞かれると「どうかな」と濁します。

乗客感謝パーティーにてサンフランシスコ市交通局のランドール・ピアソンは、地元のタクシー事業に対する露骨な引き抜きに対して厳しい法的影響を与えると警告し、実際にタクシー業務の停止命令がでました。けれども、トラビスはその書類を張り付けて盛大に社員の前で宣戦布告。「世界は変化を嫌う、これは革命的ビジネスだ」と言い切ります。

姿勢を明確にしたトラビスを支援するべく、ビルはエミル・マイケルを連れて、事業に参加させます。エミルは「ライドシェアの事業にすればいい」と言い、さらに「UberCab」ではなく「Uber」と短縮した名称を提案。

会社は新たなスタートを切りましたが…。

この『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/06に更新されています。
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Apple最高裁判所でも止められない

ここから『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』のネタバレありの感想本文です。

シリコンバレーではカルトは珍しくないと言いますが、ドラマ『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』で描かれるトラビス・カラニックとその企業文化は、正真正銘のカルト120%でした。

他社の営業妨害、個人情報の不正アクセス、雇用契約無視、詐欺、隠蔽、脅迫、人種差別、性差別、ハラスメント…。ダメだと言われていることをあえて全部わざとやっているかのような…。しかも、それを平然と正当化する組織体質を築き上げ、トラビスは自身のカリスマ性(それが本当にあるのかは別にして)に自分で酔いしれています。

トラビスの脳内では自分は革命者であり、反逆者であり、創造的破壊者ということになっています。

最初の敵は行政です。古臭い官僚的な癒着を打倒する…聞こえはいいです。各地の行政を支配していくのはさながら征服者みたいなんですが…。そしてライバルの「Lyft」にも噛みつきます。続いて「Google」という巨人にも反抗し、あげくには「Apple」にもあの態度。

作中ではAppleがテック界の最高裁判所みたいになっていて、ちょっと面白いです。第5話でAppleの最高経営責任者(CEO)のティム・クックがトラビスのあまりの傲慢な態度に呆れかえり、「きみは権力者だ」と至極まともな評価を下すのも当然です。

トラビスは「俺が会社そのものだ」と言い切り、社員もドライバーも乗客も自分の軍隊だと思っています。実際のところトラビスの武器は屁理屈という名のレトリックであり、そんなに卓越したスキルはありません。Googleのラリー・ペイジに「君は実際にコードは書いてないんだね」と言われるとおり、見掛け倒しでゴリ押ししている人間です。

後にイーロン・マスクと一緒にドナルド・トランプの経済顧問団に参加しますが、イーロン・マスクと同類ですね(ただトラビスはメディアにあまりでてこないのが違うところ)。

皮肉なのはそんなトラビスの態度は、自信がやっているビジネスの基幹である「シェア」という概念とは最も程遠いということです。トラビスは自分が世界を乗せてやっているんだと粋がりますが、実際は相乗りは信頼関係で成り立つもので、どっちが上とかそういうものはないです。対等な関係性あってこその相乗りであり、上や下という構造を作ってしまうとそこで終わりです。

でもこういう「俺のおかげだろ!?」みたいな図々しい奴、普通に身近にひとりやふたりいるもんですよね。今回はそんな奴に何百億円もあげてしまった話なわけで…。

本作はそのトラビスの虚像というものを、グリーンバック撮影風景が露呈するという演出で示しており、虚しさと痛快さのバランスをとっていました。

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クソ野郎になりたくないなら降りよう

とは言え、実際の現場にいた人たちや関係者にとっては暴走する車の中にずっと取り残されていたようなものでしょう。ドラマ『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』では多くの犠牲者が描かれます。また、支援しようとして失敗した者たちもいます。これらの人間模様も本作の見どころでした。

社内におけるオースティン・ガイドスーザン・ファウラーのように女性差別に耐えつつづけた女性社員。冒頭の新入社員は不正プログラム「グレーボール」をついに告発し、トドメをさします。別に多くの社員は「嫌な奴」になりなかったわけじゃない…。

運転手の代表としてカメルが描かれ、ローンも返せず車を失うだけでなく、将来的には自動運転技術によってドライバーを切り捨てるという運命に直面する者も…。

一方で有害化を止める手立てはなかったのか。トラビスのサイドキック的な仲間であるエミル・マイケルは、いわばバットマンにおけるロビン。感化されてしまったのか、エミルもどんどんやりたい放題になっていき、ストッパーの役割を果たしません。投資家のビル・ガーリーも最後は匙を投げます。一時期は母親代わりのようになっていくアリアナ・ハフィントン(あのハフィントンポストを作った人)も最終的に見切りをつけます。ガビ・ホルツワースやアンジーなどプライベートなパートナーもどうしようもできません。

このジャンルは基本的にこのメッセージ性がメインではあるのですが、本作も「急成長ビジネスの脆弱性」「テクノロジー神話の崩壊」というものが痛烈に浮かび上がります。最近の作品は、そこにしっかりジェンダーや労働問題も明確に包括しているあたりが昔との違いでしょうかね。「#deletUber」のムーブメントが起きるのは、いかにもあの時代のアメリカ社会らしい現象です(トランプのイスラム教徒入国規制&ソーシャルアクティビズム)。

ただ、結局は多くの関係者は(もちろんトラビスも)巨万の富を手にしているんですよね。なんか複雑な気持ちになりますよ…。

最終話でトラビスは第4の壁を突破して、視聴者に顔を向けて「あんたらは俺の作ったものを使っているだろ、感謝しているだろ」と上から目線で語ってきます。こうやって後ろめたさを相手に与えるという常套手段です。

でもこういうときこそこう言えばいいのです。「利用者だからこそ、サービス責任者の不正に対して苦情を言う権利があるのだ」と。

だからやっぱり声をあげていかないとダメですねという話でした。

『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 64% Audience 62%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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「Showtime」のオリジナル・ドラマシリーズの感想記事です。

・『イエロージャケッツ』

作品ポスター・画像 (C)Showtime Networks スーパー・パンプト

以上、『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』の感想でした。

Super Pumped (2022) [Japanese Review] 『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』考察・評価レビュー