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『リメンバー・ミー Coco』感想(ネタバレ)…メキシコと死者への愛をこめて

リメンバー・ミー

メキシコと死者への愛をこめて…映画『リメンバー・ミー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Coco
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2018年3月16日
監督:リー・アンクリッチ

リメンバー・ミー

りめんばーみー
リメンバー・ミー

『リメンバー・ミー』あらすじ

天才的なギターの才能を持つ少年ミゲルはミュージシャンを夢見ているが、過去の悲しい出来事が原因で、彼の一族には音楽禁止の掟が定められていた。ある日ミゲルは、憧れの伝説的ミュージシャン、デラクルスの霊廟に飾られていたギターを手にしたことをきっかけに、幻想的な「死者の国」へと迷いこんでしまう。

『リメンバー・ミー』感想(ネタバレなし)

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やはりピクサーは強かった

2017年のアカデミー賞はいろいろと時代の変化を受けてノミネート作品の多様性が上がったように思えましたが、ひとつ気がかりな問題を残しているのが長編アニメーション賞部門です。2017年のノミネート作品は5つの枠のうち3つが大手のアニメスタジオで、インディペンデント作品やアメリカ外の作品があまりノミネートされませんでした。これは明らかに今年になってその傾向が強くなりました。以前は5つのうちほとんどがインディペンデントなんてことも普通にありましたから。

この理由。大手のアニメスタジオの組織票のせい…というわけではありません。実は投票できる人の数が大幅に増えたという事情があります。今まではアニメ業界の人が主な投票者でしたが、2017年は映画業界のほかの人も投票できるようになりました。専門の業界人ならまだしも、たいていの人は大手のアニメ映画しか見ませんから、大手のアニメスタジオが結果的に優遇されてしまうことになったというしだいです。それだけアニメ映画は皆、有名なスタジオの作品のものしか見ないという実態が浮き彫りになったかたちですが、この問題の解決は難しそうです。

そんな諸事情は置いておいても、今回の2017年のアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞したアニメ映画は、どういう投票者であってもやはり受賞は確実だったと予想されるほど、評価の高い作品でした。

それがピクサー19作目となる『リメンバー・ミー』です。

この映画はピクサー作品としてこれまでにない特徴があって、まず舞台がメキシコだということで、特定の国を意識した色が非常に濃いという点です。同じくピクサーの『メリダとおそろしの森』はスコットランド色が出ていましたが、『リメンバー・ミー』はそれ以上に強め。

具体的には、メキシコの祝日「死者の日」を題材にしています。故人のために家族や友人が飾り付けをしたり、歌ったりする日で、日本におけるお盆の風習にあたると日本では解説されていますが、厳粛な感じはなくどちらかといえばお祭り。特定の宗教に関連するものではなく、様々な歴史的経緯を辿って今の形になったそうです。

死者の日といえば『007 スペクター』の序盤で舞台として盛大に登場したりしていたのも最近では印象に残っています(ボンドがぶち壊してましたが)。

実は先行で同じ題材を扱ったアニメ映画がすでにあります。それは2014年に製作され、日本では劇場未公開となった『ブック・オブ・ライフ 〜マノロの数奇な冒険〜』。メキシコのアニメーターであるホルヘ・グティエレス監督が手がけ、プロデューサーにはあのギレルモ・デル・トロも名を連ねており、メキシコ体制で作られています。こちらはロマンスがメインでした。

もうひとつのこれまでのピクサー作品にない特徴は、音楽が重要になってくる点です。意外ですが、ピクサーは音楽はそこまで目立ってきませんでした。ミュージカルを特色とするディズニーとの差別化のためなのでしょうか。本作ではミュージカルではないにせよ、歌を歌うシーンがとても多くなっています。邦題になっている「リメンバー・ミー」も物語のカギを握る劇中歌です。ちなみに、原題は「Coco」なのですが、なぜこの邦題に変わったのだろう…。「Coco」も凄い重要な存在なのですけど。映画レビューサイトの「coco」か、カレーハウスCoCo壱番屋に配慮したのですか?(たぶん違う)

死者の日といっても怖い要素はゼロ。大人も子どもも楽しめるのでぜひ鑑賞してみてください。

なお、短編アニメ『アナと雪の女王 家族の思い出』が同時上映で流れます。こちらは吹き替えではピエール瀧が歌いまくります。20分もあるので、シアターを間違えたと思わないように注意です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『リメンバー・ミー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):音楽は禁止!

昔、ある家族がいました。父はミュージシャンで家族と一緒に歌って幸せに過ごしていましたが、世界中で歌うことを夢見て、ギターを手に家を出てしまいます。そして二度と戻りませんでした。残された妻は夫を奪った音楽を人生から締め出して、娘を育てるために必死に働きました。靴づくりを学び、靴屋として繁盛していきます。製靴業は娘や孫へと代々引き継がれ、商売と家族は拡大していきました。

その母というのが12歳のミゲル・リヴェラのひいひいおばあちゃんであるママ・イメルダ。ミゲルが生まれるずっと前に亡くなりました。

でも今でも思い出話をします。毎年の「死者の日(ディア・デ・ムエルトス)」に…。

ママ・イメルダの娘であり、ミゲルのひいおばあちゃんであるママ・ココはかなりの高齢で、すっかり物忘れも酷く、ミゲルの名前もよく間違えます。それでもミゲルはよくママ・ココとお喋りをします。

ミゲルの祖母であるエレナはママ・イメルダからママ・ココ、そして今の家族へと受け継がれている「音楽の禁止」のルールを厳しく守ってきました。音楽をここまで嫌う家族はこのメキシコではここだけかもしれません。

けれどもミゲルは音楽が好きでした。その理由はエルネスト・デラクルスという史上最高の音楽家への憧れを抑えられないからでした。映画で主役もやって最高の曲もたくさん書きました。とくに一番の曲は「リメンバー・ミー」。夢のような人生を生きた人です。1942年に大きな鐘が頭に落下して死んでしまうまでは…。

今は街の真ん中の広場にデラクルスの立派な銅像が立っており、ミゲルはそれをうっとりと眺めていました。自分もミュージシャンになれないだろうか…。

今夜は死者の日の音楽コンテスト。チャンスを掴むなら今しかない。そう他のマリアッチのミュージシャンに後押しされて少し気分が湧きたちます。しかし、祖母にキツく怒られ、しょんぼり。この家族では祖母の言うことは絶対なのです。

祭壇の部屋に写真を飾る作業を手伝わされます。祭壇に家族の写真を飾っておかないと死者の日に戻ってこれないのです。ここには家族全員の写真が揃っています。元凶となったママ・イメルダの夫である、ミゲルのひいひいおじいちゃんの写真は切り抜かれていましたが…。

それでも諦められないミゲルは屋根裏でお手製のギターを用意していました。それを知っているのは野良犬のダンテだけ。

歌わずにはいられない…。

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メキシコに詳しくなれる?

特定の異国の文化を題材にしたアニメ映画といえば、私たち日本人にとっては2017年は『KUBO クボ 二本の弦の秘密』という忘れられない作品がありました。

こちらも死者を偲ぶ文化という共通の題材で、しっかり異国の文化をリサーチして、リスペクトをしたことが伝わる素晴らしい作品でした。

『リメンバー・ミー』については、私はメキシコの文化にさっぱり疎いので、正直、どれほどの尊敬度があるのか判断は不可能なのが残念なのですけど、非常に念入りに調べて再現しているのだろうなということは察することができるほどのクオリティはありました。なんでも製作チームは何度もメキシコを訪ねているようです。

逆に本作をきっかけにメキシコの文化を知るのに最適ですね。いろいろ調べてみるのも楽しいです。

例えば、ビジュアルが非常に印象的な死者の国。とにかく派手で煌びやか。ディズニーとの関連も深いティム・バートンが描いてきた死者の世界とはまるで違います。この世界観は、メキシコにある「グアナフアト」という街からイメージをふくらましており、画像検索をしてもらえればわかるのですが、確かにカラフルな家々が連なる感じが似ています。

その死者の国と生者の世界をつなげるのに大切なアイテムとなる、オレンジ色の花。あれはセンジュギク(アフリカンマリーゴールドもしくはメキシカンマリーゴールドという別名も)といって、メキシコの花です。日本だとお供えには菊の花という印象ですが、メキシコでも同じなんですね。

また、死者の中にはメキシコの有名人がたくさん隠れているらしいのですが、これは全然わからない…。誰か教えてください…。

主人公ミゲルのパートナーになる、ハイテンションな野良犬ダンテは、メキシカン・ヘアレス・ドッグというメキシコ原産の犬種で、通称はショロ(英:Xolo)というそうです。一度も見かけたことないな…。

そのダンテが最後には変身してしまうカラフルな生物たち「アレブリへ」。これはとあるメキシコの芸術家が1930年代に生み出したものらしく、意外に歴史は浅いのですね。

とまあ、他にもメキシコ要素は数えきれないほどでした。

ちなみに、毎度おなじみピクサー小ネタもあって、過去作キャラの人形が店に飾ってあったり、最新作のポスターが隠れてたりしましたが、個人的にウケたのがこれ。イメルダが死者の国で出国できないことに怒ってコンピュータを破壊していたシーン。このガンガンぶっ壊されていたコンピュータは、アップルの「Macintosh」(しかも古いやつ)でしたね。アップルの創設者スティーブ・ジョブズはピクサーを成功に導いたゆかりのある人物。このピクサー流ブラックジョークに、きっと死者の国のスティーブ・ジョブズも苦笑いです。

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悪役は必ずマヌケに死ぬ

『リメンバー・ミー』の監督は『トイ・ストーリー3』を手がけた“リー・アンクリッチ”監督。『トイ・ストーリー3』が非常に傑作だっただけにどんな物語になるのかと思いましたが、想像以上に『トイ・ストーリー3』と同じでびっくりしました。

つまり、忘れ去られる存在と受け継いでいく世代交代。これが共通テーマですね。『トイ・ストーリー3』ではその題材が「おもちゃ」だったわけですが、今作では「死」。かなりダイレクトになってます。

話自体はかなりベタで、簡単に言ってしまえば「亡くなった人を忘れずにしよう!」というだけなのですけど、それまでに至るシナリオの積み上げ方が上手い。最終的に原題にもある「ココ」というキャラに集約させたのがスマートな脚本になった決め手な気がします。アルツハイマー病には音楽が有効という科学的知見もありますから、今作のオチは決してただのエモーショナルな勢い任せではないというのも気が利いてます

また、最近のピクサーやディズニーは「死」の扱いをどうするか問題というのがありまして、悪役との結末の付け方もかなり悩んでいることはこれまで窺えました。本作は珍しく「死」を直接的に描き、しかもこの問題に対するひとつの皮肉な答えを出しています。デラクルスのような悪党は“忘れてやる”っていうやつです。今作では良い人は天国に、悪い人は地獄に、というルールはない…つまり、神様的なジャッジをする存在を排除して善悪の判定を民衆の意志に委ねるという、実に教育的な下地がありました。これで神様的存在が出てきたら、全部結局は神様が決めるのかよってなっちゃいますから。子どもへの童話としてもとても優れていると思います。

まあ、記憶に残るか否かで全部決められるのはやや残酷すぎる極端さも感じますが…シナリオ上、仕方がないかな。

巨大な鐘の下敷きになるというマヌケな死に方をしている時点で、アイツは悪役だって決まったようなものですけどね。

ともかく、何より本作における死への価値観は日本人の死生観とかなり重なるため、とても理解しやすかったのではないでしょうか。日本人が毎年毎年墓参りを繰り返すのも同じ。最近は墓参りも面倒くさいと思っていたりもしましたが、本作を観たらちゃんと行かないとなと思いましたよ。

『リメンバー・ミー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 94%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. リメンバーミー ココ

以上、『リメンバー・ミー』の感想でした。

Coco (2017) [Japanese Review] 『リメンバー・ミー』考察・評価レビュー