ディズニーの中心でゲイを叫ぶクリエイターを応援したい…「Disney+」アニメシリーズ『アウルハウス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年~)
シーズン1:2020年にディズニー・チャンネルで放送 / 2022年にDisney+で配信(日本)
原案:ダナ・テラス
恋愛描写
アウルハウス
あうるはうす
『アウルハウス』あらすじ
『アウルハウス』感想(ネタバレなし)
#disneydobetter
2022年3月、エンタメ業界の巨大帝国であるディズニーが揺れました。事の発端は、アメリカ・フロリダ州で3月8日に小学校で性的指向や性自認について議論することを厳しく制限する法案が可決されたことです。これは巷では「Don’t Say Gay」法案と呼ばれ、性的少数者当事者の子どもたちにとって生活を脅かす深刻な事態になりかねないことが危惧されています。
そこでなぜディズニーが槍玉にあがったのかと言うと、ディズニーが「Don’t Say Gay」法案を支持する議員に献金をしていたことが明らかになったためです。表向きは多様性を推進しますと優等生ぶりながら裏ではしっかり差別的な勢力にカネを渡していた現実に、ディズニーファンやディズニー社内の一部のクリエイターは怒り、抗議の声をあげました。
結果的に、ディズニーの代表兼CEOの“ボブ・チャペック”は謝罪し、政治献金を一切辞めると宣言したのですが、その程度の対応ではこの非難は止みません。
同時に、これはディズニー史において大きな出来事になったと思います。今回の騒動を受けて、ディズニーのクリエイターの中には、ディズニー上層部からLGBTQの描写を排除するような指示を受けていたことを告発する者も現れました。これはじゅうぶん察しがついていたことですが、この騒動でそれがハッキリ可視化されたかたちに(ポリコレのせいで多様性が押し付けられていたわけではもちろん無かったのです。むしろディズニー上層部が多様性の表現を押さえ込んでいたのでした)。
こういう「クィアを描きたいクリエイター」と「クィアを隠したい上層部」との密かな対立はおそらくディズニーだけでなく現在の全ての大企業内部で生じているのでしょう。とくにディズニーは日和見的な態度をとることでのらりくらりと交わしてきましたが、ついに堪忍袋の緒が切れて社内従業員が明確に反発したことで、その従来の調和は崩れました。「クィアを自由に描かせろ!」というクリエイティブな渇望の声はますます無視できないものになると考えられます。変革の時が迫っています。
そんな中、今回の「Don’t Say Gay」法案でも真っ先にディズニー上層部に反対の姿勢を表明したディズニーのクリエイターがいました。それが“ダナ・テラス”です。
“ダナ・テラス”は今やディズニーとLGBTQをテーマに語るうえで外せない人物です。1990年生まれでまだ若いクリエイターなのですが、“ダナ・テラス”が2020年に原案で企画を生み出して制作したアニメシリーズ『アウルハウス』は、ディズニー初の主人公がオープンな性的少数者であるアニメシリーズとなりました。
一応、2017年に『アンディ・マック』という実写ドラマシリーズが、2020年には『殻を破る』(原題は「OUT」)という短編アニメ…それぞれの作品が性的少数者を主人公に据えていました。『アウルハウス』はアニメシリーズでそれを初めてやってのけて道を切り開いたのです。なお、主人公ではない脇役として性的少数者のキャラクターが登場するディズニーのアニメシリーズは以前からあって、『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』や『悪魔バスター★スター・バタフライ』などが挙げられます。
『アウルハウス』の主人公はバイセクシュアルで、“ダナ・テラス”自身もバイセクシュアルであることをオープンにしています。
この『アウルハウス』の企画を通すにあたって、“ダナ・テラス”は「セクシュアル・マイノリティの主人公はちょっと…」とディズニー上層部から否定的な反応を受けていたことを前から語っており、いわば“ダナ・テラス”は「Don’t Say Gay」法案の件で明るみになる前からずっと前線で戦ってきたクリエイターなのです。
私も現在の“ボブ・チャペック”を始めとするディズニー首脳陣の態度は全く1ミリも許せません。ライトセーバーで微塵切りにしてやりたいくらいです。
作品を愛する者として私みたいな人間でもできることは何かを考えると、やはりそういう抑圧的な社内で闘っている「クィアを描こうとするクリエイター」を応援することなんじゃないかなと思っています。
ということで『アウルハウス』を観てみませんか?というお誘いもかねてのこの感想記事です。
幸いなことに『アウルハウス』を観る機会は向上しました。以前は「ディズニー・チャンネル」だけの放送だったのですが、2022年に日本でも「Disney+(ディズニープラス)」で配信がスタート。見やすさとしてはちょうどいいです。
『アウルハウス』自体は魔法好きな子どもが魔界に迷い込んでそこで魔法を学ぶという、王道の異世界モノのファンタジー。個性豊かなキャラクターもたくさん。とても馴染み深いと思いますのでぜひどうぞ。
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に観られる |
友人 | :カートゥーン好きに |
恋人 | :同性ロマンスもあり |
キッズ | :魔法好きな子どもに |
『アウルハウス』予告動画
『アウルハウス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):変わり者同士で助け合おう!
14歳のルース・ノセダは校長室に呼び出され。魔法や魔女が大好きで何かとトラブルを起こしがちなルースは、教室をクモでいっぱいにしたり、廊下をヘビが暴れまわったり、周囲を気持ちわるがらせて大失態。
「サマーキャンプに行きなさい」と母に言われ、それが嫌なルースは「もう変わり者にならないから」と懇願しますが、結局、3カ月も行くことになってしまいます。「空想ではなく現実世界で友達を作ることを大事にしなさい」…そう怒られて…。
お気に入りのファンタジー小説「よい魔女 アズーラ」を渋々捨てるルース。でも心の奥底では納得できない…。そのとき、そのゴミ箱に捨てたばかりの本をフクロウが持って行ってしまいます。取り返すべく必死に森へ追うルース。辿り着いたのは不気味な家。中は怪しげなモノばかりで、謎の女の人がいます。隙を観て本を取り返してドアから逃げるも…そこは見慣れない風景が…。
変な生き物だらけの世界。「ここはどこ?」
「私はアウルレディのイーダ、魔女よ」…その謎の女性はここは「ボイリング島」だと説明します。この島は死したタイタンの血と肉から生まれ、島は魔力を持ち、全ての生き物は魔法を手にしていました。妖魔(デーモン)がうろつくのも普通。ある時、島の声が聞こえるという男が現れ、権力の座に就いたのが皇帝ベロスです。そのベロスは異なる魔法の組み合わせを禁止して、カヴン制度を作りました。
イーダはその決まりに全く従っておらず、お尋ね者になっているようです。イーダの家は「アウルハウス」と呼ばれており、元魔界の王を自称する小さな妖魔・キングと暮らしていました。キングは王冠が盗まれて力が弱まったそうで、番人から王冠を取り返せるのは人間だけだと言います。
しょうがないのでルースは手助けすることになり、番人の塔へ。そこには捕まった人が大勢いて、犯罪はしていない、ただ変わり者というだけの理由でした。番人は「社会にお前たちのような変人の居場所はない」と言い放ち、それが許せないルースは「変わり者同士で助け合おう! 自分らしく生きて捕まるなんて!」と反発。みんなを逃がしました。
とりあえず事が終わり、イーダは約束どおりルースをうちにかえしてあげようとポータルを開きます。
でもルースはここが気に入りました。自分が夢に見ていた奇妙な魔法だらけの世界が目の前にある。ちょっと不気味で怖いこともあるけど、自分の居場所はここではないだろうか。
「ここに残って魔女になる。修行させて」
こうしてルースの魔法見習いの人生が始まります。半人前で植物学に詳しいウィロー、人間に興味あるオーガスタスといった同世代の子と触れ合いながら…。
ダナ・テラスもオタク女子だった
『アウルハウス』は世界観としてはかなりベタな異世界モノです。主人公がある日突然に現実社会とは異なる異世界に迷い込んでそこで生きることになる…というやつ。
ディズニー・チャンネルはなぜか知らないですけど、こういう異世界モノ作品が多いです。『ふしぎの国 アンフィビア』もそうですし、『悪魔バスター★スター・バタフライ』もほぼ同じ。定番で面白いからなのかな。
“ダナ・テラス”の作家性として特徴的なのは「オタク女子」を主役に据えることでしょうか。実は“ダナ・テラス”が過去に手がけた作品も似たような傾向のあるキャラクターが見られました。
“ダナ・テラス”初のアニメ制作参加作品である『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』では、メイベルという夢見がちでアニメのアイドル的キャラクターを理想の男子とする女子が主役で登場し、監督としても関わっている『ダックテイルズ』では、ウェビー・ヴァンダークワックという非常に活発的な女子を描き、さらにとても高い評価を受けてLGBTQ表象としても語らないわけにはいかないオタク女子暴走ムービーである『ミッチェル家とマシンの反乱』でもストーリーボードアーティストを務めました。
“ダナ・テラス”自身も日本のアニメを観ながら育ってきた世代であり、やはり『私ときどきレッサーパンダ』の感想でも書きましたが、こういうファンガールなオタク女子経歴を持つ若いクリエイターがハリウッドを変える時代が来ているんですね。
『アウルハウス』は魔界といってもそこまでおどろおどろしいわけではなく、かなりデフォルメの効いているデザインです。“ダナ・テラス”は「ポケモン」が子どもの頃から好きだったそうで、言われてみるとこの『アウルハウス』の妖魔関係のキャラクターもどことなくポケモンっぽいですよね。
とくにみんなのマスコットであるキングなんてすごくポケモン風。このあとどんどん進化していきそうな匂いがプンプンします。
個人的には扉のドアノッカーみたいなフクロウのフーティのあの奇想天外な存在感とか好きですけど。
シーズン1:クィアのための魔法の世界
前述したように『アウルハウス』の主人公であるルースはバイセクシュアルです。
それがハッキリ明示される一歩となるのがシーズン1の第16話「グロム・パーティー(Enchanting Grom Fright)」のエピソード。この物語では、「GROM」というイベントがヘキサイド魔法魔術学校で開催されることになります。人間のルースはてっきり「プロム」みたいものだと思っていたら、このイベントでクイーンに選ばれた人は「グロメシアス」という恐怖を操るモンスターを倒さないといけないことになるのでした。
優等生のアミティ・ブライトはクイーンに選ばれてしまい、自身の恐怖が周囲にバレるのを怖がります。このアミティは設定上はレズビアンだそうで、作中でもクローゼットな存在なのかなと示唆する場面が多いです。自身の心の声である日記を専用の図書館に保存していたり、自分の好きなものを人に言わずに無理して人間関係を持とうとする傾向が観察できます。
そんなアミティをルースはかばい、スカート&タキシードな衣装のルースは一緒にダンスを踊ります。とてもロマンチックな名シーンですが、実はアミティは「一緒にグロムに行ってくれないか」という誘いの手紙をルースに書いていました。完全にルースにぞっこんです。ここからのデレのスピードがめちゃくちゃ速いですが…。
また、この世界観そのものがそもそもはみ出し者のクィアを応援するストーリーになっています。私は本作はとても「アンチ・“ハリー・ポッター”」というか「アンチ・“JK・ローリング”」な作品だと思いました。作中に随所に「ハリー・ポッター」パロディがあるのですが、この世界は皇帝ベロスのもとで魔法能力で組み分けをする(カヴンに分類する)というのが常識となっており、これ自体が社会的抑圧として描かれます。組み分けを前提としていた「ハリー・ポッター」の世界とは対照的です。
シーズン1ではイーダの怪物化の呪いが姉のリリスによるものだと判明し、2人の和解がラストで描かれます。ルースのエンペラーズ・カヴンを主軸とするこの世界との対峙はここから本番です。
なお、シーズン2でもさまざまなクィアが登場します。ノンバイナリー&トランスジェンダーなキャラクターもでてきますし、あのリリスはアセクシュアル&アロマンティックであることが製作陣から発表済み。
古臭い魔法の王国を内側から変えようとしている“ダナ・テラス”のマジックにこれからも魅了されたいものです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 93%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Disney アウル・ハウス オウルハウス
以上、『アウルハウス』の感想でした。
The Owl House (2020) [Japanese Review] 『アウルハウス』考察・評価レビュー