手を繋いだことは忘れない…映画『ロボット・ドリームズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:スペイン・フランス(2023年)
日本公開日:2024年11月8日
監督:パブロ・ベルヘル
ろぼっとどりーむず
『ロボット・ドリームズ』物語 簡単紹介
『ロボット・ドリームズ』感想(ネタバレなし)
あなたの寂しさに寄り添ってくれる
2024年に授賞式が行われた第96回アカデミー賞。主に2023年に公開された映画を対象としていますが、その長編アニメーション賞を受賞したのは『君たちはどう生きるか』でした。
世界中で愛される作品を送り出してきた大ベテランの“宮崎駿”監督への功労賞的な意味合いが濃かった受賞でしたが、そちらの映画は徹底してリアルからファンタジーへと突き抜けていくアニメーションが凄まじい濃密な物量で描かれており、見ている間はそのクリエイティブの気迫に圧倒されっぱなしでした。
一方、この第96回アカデミー賞の長編アニメーション部門にはもう一作の有力候補があり、多くの推しファンを抱えていた映画がありました。
それが本作『ロボット・ドリームズ』です。
『ロボット・ドリームズ』は『君たちはどう生きるか』とは真逆のような作品です。『ズートピア』のような動物を擬人化したキャラクターが日常をおくる世界観になっていますが、ニューヨーク・シティを舞台にしており、その生活風景は生々しいくらいに私たちの世界と地続きです。ニューヨークらしさがあちこちに溢れています。
そしてその絵のタッチは、子ども向けの絵本のように親しみやすくデフォルメされています。ニューヨークはリアルでも、温かい絵のレンズを通して見ることになります。
こうなってくると「キッズが楽しむアニメなのかな?」という感じなのですが、実際は大人が号泣するという…。あれです、子どものアニメに思わせて大人を泣かしにくるやつ…。
と言ってもわざとらしい感動の売りつけはなく、本当に心に染み入る物語が丁寧に描かれています。
しかも、セリフ無しで物語が展開するというのも『ロボット・ドリームズ』の持ち味。こういうセリフを一切使わないというのは、アニメーションの表現力をもろに問われることになるのですが、本作は見事に観客を惹きこみます。
主人公は犬のキャラクター。ある日、ロボットの友達ができ、毎日が楽しくなってくるのですが、ある出来事が起き…。そんな大事件というほどでもなく、多くの人の日常で起きうる普遍的な話題でありながら、それを上手く抽象化しています。
この『ロボット・ドリームズ』、一体どこが作っているのだろうと思ったら、スペインとフランスの合作なんですね。
監督は、本作で初めてアニメーションを手がけたスペインの“パブロ・ベルヘル”。この“パブロ・ベルヘル”はヨーロッパ映画界では著名な人物で、2003年に『Torremolinos 73』で長編映画監督デビュー。2012年の『ブランカニエベス』、2017年の『アブラカダブラ』と、長編実写映画を作り上げ、スペインのゴヤ賞で高く評価されてきました。
“パブロ・ベルヘル”監督は独特なセンスで社会風刺をするのが得意で、いつも絶妙なユーモアが混じり、その世界で生きる人間の営みや心情がこぼれだします。
その“パブロ・ベルヘル”監督がアニメーションを作ると『ロボット・ドリームズ』のような作品になるのか、と。でも納得ではありますけどね。
なお、この『ロボット・ドリームズ』は“サラ・バロン”というアメリカの作家&イラストレーターの2007年のコミックを原作にしているそうです。ただ、私はその原作を読んでいないので、あまり原作と映画版の比較などはできませんが…。
小さい子どもでも鑑賞できる映画ですが、ぜひ人間関係に疲弊して心に不安が溜まっている大人に届いてほしい一作です。『ロボット・ドリームズ』が約100分、あなたの寂しさに寄り添ってくれます。
『ロボット・ドリームズ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :疲れた心を癒す |
友人 | :涙を見せあえる相手と |
恋人 | :隣の人を大切に |
キッズ | :出会いの価値を学ぶ |
『ロボット・ドリームズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
ニューヨークのマンハッタン。ドッグはひとり寂しくこの大勢がごった返す大都会で暮らしていました。とくに遊ぶ相手もおらず、部屋で地味にゲームをしながらも気分は全く盛り上がりません。冷蔵庫から冷凍食品を取り出し、電子レンジで温め、食事をします。テレビをつけますが、画面の光が暗い部屋を照らすばかりで、どのチャンネルも面白くはありません。
ふと隣の家の窓をみると、どこかの2人が寄り添って生活している光景がありました。自分とは正反対です。
そのとき、「孤独ですか?」と目の前のテレビに表示されます。それはドッグにとってぴったりなチャンス。目を輝かせ、思わずその表示された番号に電話します。そしてドキドキしながらベッドに入るのでした。
翌日、窓から今か今かと身を乗り出しながら待っていると、荷物が届きます。かなり重たく大きいです。箱には「AMICA2000」と書いてあります。
開封すると、たくさんのパーツが梱包されていました。それを工具で手順どおりひとつひとつ組み立てていきます。なかなかに骨の折れる作業でしたが、ついに形になりました。
あとは頭部をつけるだけ。それはロボットです。
頭部を捻って電源がオンになります。ロボットはゆっくりと体を起こし、立ち上がりました。微動だにしません。
しかし、こちらを向き、笑顔で一緒に飲み物を飲んでくれます。
こうしてドッグはロボットという友人ができました。外を出歩けばみんなの注目を集めます。地下鉄に行くと、ロボットは反対ホームで演奏する人に夢中になり、足を止めます。電車の中にはいろいろな人がいました。ロボットは視界に入るもの全てが新鮮でワクワクしているようです。
続いて都会の真ん中にある公園を散歩します。子どもが手を繋いでいるのをみて、ロボットもドッグの手を握ります。ロボットは見るものをマネながら交流を覚えていきます。
ドッグとロボットは音楽にノってローラースケートで踊ったり、友情を深めていきました。
別の日、遊園地の浜辺に行ったドッグとロボット。海に飛び込むロボットは潜って楽しそうです。それが終わると寝そべって日光浴。
いつの間にか日が沈んでいました。ドッグは起きますが、ロボットは錆びたのか全く動けないです。重くて移動も無理。周囲に誰もいません。
困り果てたドッグはしかたなく今夜はロボットをここに置いていくことにします。明日になったら対策を考えてすぐさま助ければいい…。ロボットもドッグを信頼していました。
それが別れとなってしまうとは…。
他者と上手く触れ合えなくても…
ここから『ロボット・ドリームズ』のネタバレありの感想本文です。
『ロボット・ドリームズ』は本当に絵柄からは想像もつかないほどに深みのある作品なのですけど、ものすごく味気ない言い方をすれば、孤独な主人公がロボットとの交流でその心の隙間を埋める物語です。
そうした構図の作品はすでにたくさんあって、『ベイマックス』から最近だとドラマ『サニー』まで、とくに目新しいものではありません。
『ロボット・ドリームズ』がユニークなのはセリフの無さもあるのですが、あえて非説明的に流している部分が大きいこと。そしてその余白がまた多くの観客を惹きつけることです。
例えば、主人公のドッグは冒頭から寂しそうな独り身生活を送っていますが、なぜこうも虚しそうなのかはわかりません。どうやら何かしらの「別れ」を経験し、ナイーブになっている感じは察せられます。もしかしたら恋人と別れたのかもしれませんし、親友に裏切られたのかもしれない…そこは観客の想像しだいです。なので観客が主人公を自身の経験で補完できます。それがまた感情移入を刺激するのだと思います。
こういう構図の物語は、「孤独は良くない!誰か触れ合おう!」という、下手すれば恋愛伴侶規範的なお節介な話に人によっては感じ取りかねないのですが、私の感触だとあまりそんな感じはせず…。
なんでかなと考えてみると、まず本作のキャラクターが動物で擬人化されており、そのうえ露骨に性別が際立つようなデザインになっていないのが緩衝材になっているのかな、と。年齢さえもよくわかりませんし…。
作中でロボットとやむを得ず離別したドッグが凧をきっかけにダックと知り合って一時だけ親交を深めますが、そこもベタベタなロマンスにできそうなものを、あえてさっぱり流しています。
そして何よりも本作でメインで描かれるのが、ドッグとロボットの関係性なのです。この二者はドッグがロボットを購入しているところからわざわざ描いているように、「購入者 」と「購入品」の関係であり、単純に考えれば明確な主従関係があり、不均衡です。
なのにこの二者は出会ってすぐに対等な関係を築けています。しかも“Earth, Wind & Fire”の「September」が2人を象徴する曲となり、誰よりも深いリレーションシップを強調します。それはフィクトセクシュアルのように捉えてもいいですし、観客個人で好きなように解釈していいでしょう。
結果、他者と交流するのが苦手な人でも、他にも触れ合える相手がどこかにいるし、それはロボットのような存在でもいいんだよ…と、優しく肯定してくれる肌触りがあるなと思いました。
そんなわけで孤独を否定するわけでもないんですね。独り身でも、好きな趣味に没頭するとか、バーチャルキャラクターを推すとか、お気に入りのアイテムと一緒に旅行を楽しむとか、それだけでもじゅうぶん充実しているし、悪い人生ではない、と。
ドッグは最初のロボットとやむを得ずの離別を経験した後、次はティンという名前の新しいロボットと過ごすようになります。薄情にみえるかもですが、でも実際はそういうものじゃないですか。ずっと保持できる関係なんてないです。
本作は人間関係にせよモノにせよ、永遠の所有なんてものはなく、出会いと別れの繰り返しを必ず移り変わる季節のように描き、どこか心の憂いを気持ちよく振り払ってくれます。どんな小さな出会いや別れでも過剰に恐れることはなく、またそれは個人によってとても大きな経験として心に刻まれ、次の出会いの糧になる。
この普遍性がさまざまな人生経験があるであろう多様な観客に「私にもこんな存在があったな…」と感慨にふける余韻を与えてくれるのではないでしょうか。
ロボットのささやかな成長
『ロボット・ドリームズ』がもうひとつ印象深いのが、ドッグの視点だけでなく、それと対等なボリュームで、ロボットの視点を描いてくれること。このロボットの視点が本当に良くて…。
本作はとにかくロボット愛が詰まっていて、それは作中の随所に『オズの魔法使い』から『天空の城ラピュタ』までいろいろなロボット作品が散りばめられていることからもわかります。
ロボットは一見する無邪気な追従者です。無垢で何でも学んで受け入れていきます。
しかし、比較的序盤(バスでの移動中)で、ロボットが他の車の中にいるロボットを見かけて、その別ロボットが楽しくなさそうで無表情で席に座り、後ろの子どもに叩かれている姿を映し出します。かなり嫌な感じのシーンであり、現実を突きつけます。ロボットがモノとして消費されるだけの現実を…。
そして実際、浜辺でロボットは数カ月放置されます。この放置は結構残酷ですよね。
しかも、夢オチをくどいくらいに連発する嫌らしさ。現実ではウサギが船の穴に埋めるためという理由だけでロボットの片足を切断するなど、酷いことも起こります。
そして猿が金属探知機で砂に埋まったロボットを掘り当て、ワニに投げ飛ばされ、廃品場でバラバラになるという衝撃の展開。「ここも夢オチだよね?」と観客の切なる願いも虚しく、これは夢オチにしない意地悪さ(オイルが手足や首の付け根に滲んでいる描写のミスリードがまた…)。“パブロ・ベルヘル”監督流の風刺がグサグサくる…。
そんな経験をしてもなお、あのロボットは拾ってくれたラスカルとの第2の人生に意味を見い出し、ドッグの次の出会いをこっそり祝福するだけの余裕もみせる(この脳内イメージだけの再会シーンもまた切ない…)。これほど成長していることに、観客としてはこちらはこちらで感動してしまう…。
ときに抗えぬ存在によって蹂躙されてしまうモノ側の視点としての本作のロボットの描写は、『トイ・ストーリー』のオモチャの立ち位置を彷彿とさせますが、こちらのロボットは喋らないので余計に無力なのですが、無感情ではないんですよね。
このロボットにここまで心を掴まれるとは…。目をくいっとあげる仕草だけでも愛しくなってくる…。
そんなこんなで『ロボット・ドリームズ』はロボット映画としてはベスト級に突き刺さる一作でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL ロボットドリームズ
以上、『ロボット・ドリームズ』の感想でした。
Robot Dreams (2023) [Japanese Review] 『ロボット・ドリームズ』考察・評価レビュー
#ロボット #楽しい