クリード3は暴力を咎める…映画『クリード 過去の逆襲』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年5月26日
監督:マイケル・B・ジョーダン
クリード 過去の逆襲
くりーど かこのぎゃくしゅう
『クリード 過去の逆襲』あらすじ
『クリード 過去の逆襲』感想(ネタバレなし)
現実の暴力にまず目を向けて
今回は『クリード 過去の逆襲』の感想なのですが、その前にこれは避けるべきことではないので、まずこの話題からしようと思います。
『クリード 過去の逆襲』にてメイン対戦相手として堂々の貫禄で出演する俳優“ジョナサン・メジャース”についてです。
“ジョナサン・メジャース”は『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』やドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』で一躍注目を浴び、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にて次のメインヴィランである征服者カーンに抜擢されるなど、キャリアが最も快調な若手俳優の先鋒でした。他にも『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』は公開済みですが、今後も主演作がいくつも待機しています。
誰もがこの“ジョナサン・メジャース”の大躍進を後は見守るだけだと思っていたところ、突然のニュースに不意打ちを食らうことに…。それは2023年3月25日、“ジョナサン・メジャース”が知人女性を暴行した容疑でニューヨーク市警に逮捕されたという一件。“ジョナサン・メジャース”はすぐに釈放され、後に被害にあったとされる女性は起訴を取り下げる旨を表明したのですが、これで終わりませんでした。
“ジョナサン・メジャース”は所属プロダクションとの契約を解除され、広告キャンペーンなども続々終了。その最中、他にも複数の女性が“ジョナサン・メジャース”から危害を加えられたと名乗りでているという報道が流れ、事態は水面下で動いているようです。
こうした俳優の不祥事などが明るみにでると、たいてい「この事件は本当に起きた? それとも冤罪?」みたいな推理ごっこや、「あの作品は降板になるのか」という芸能ネタなど、スキャンダルで消費される傾向があります。
しかし、こうした脊髄反射的な態度はとても良くないと私は思います。どんな事件であれまず気遣うべきは被害者とされる人物であり、そして(今回の事件の真相に限らず)紛れもなく社会に存在している問題性です。つまり、アメリカでは女性の3人に1人(35.6%)が、一生のうちに親密なパートナーからのレイプ、身体的暴力、またはストーキングを経験しているという統計的事実(The Hotline)。そして多くの被害女性が「自分が悪かったのではないか」と加害者に思いこまされる「ガスライティング」を経験しているということ。
私たちが気に留めるべきはゴシップではなく、これらの現実であり、メディアはその現実を話題性の高いネタで上書きしてはいけないです。「暴力は暴力なのだ」という単純明快な話を前提にしないと…。
だから『クリード 過去の逆襲』の感想に入る前に、私もそこはしっかり表明しておきます。
ましてや今回の『クリード 過去の逆襲』はこの「暴力」の問題も題材にしているので余計にね…。
では『クリード 過去の逆襲』の話に戻ります。おなじみ『ロッキー』シリーズから闘魂を継承した正統続編の『クリード』シリーズ。2作目『クリード 炎の宿敵』(2018年)から続く3作目、それがこの『クリード 過去の逆襲』です。
うん…みんな思ってそうだけど、「過去の逆襲」って邦題、なんだかな…。確かに作中では「過去」が重要になってはくるんだけども…。なんか「過去編」でも始まったみたいじゃないですか…(違いますよ。ちゃんと物語も2作目の続きです)。
今作『クリード 過去の逆襲』はいつもの“マイケル・B・ジョーダン”と“テッサ・トンプソン”が揃っているのですが、“シルヴェスター・スタローン”扮するロッキー・バルボアが登場しません(前作で綺麗に人間関係が落ち着いたからあれでいいでしょう)。3作目にしてついにクリード単体で独立した物語を構築するに至りました。
そして主演の“マイケル・B・ジョーダン”が監督まで手がけるという熱い展開。監督としての手腕が実感できる手ごたえのあるクオリティです。あなただけは裏切らないでくれ…。
ということで『クリード』シリーズ好きなら見て損なしの『クリード 過去の逆襲』ですので、“マイケル・B・ジョーダン”の若干のオタク愛がこぼれる熱戦をお楽しみください。
『クリード 過去の逆襲』を観る前のQ&A
A:1作目の『クリード チャンプを継ぐ男』、2作目の『クリード 炎の宿敵』は見ておけば世界観の理解が深まります。ただ、今回の『クリード 過去の逆襲』はロッキーがでてこないので単体として完結しており、過去作よりもシンプルで他作品を気にせずに観やすいです。これがシリーズ初作品という人でも大丈夫です。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ好きなら |
友人 | :初見も誘って |
恋人 | :家族愛要素あり |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『クリード 過去の逆襲』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):過去の男が現れる
2002年、ロサンゼルス。夜、15歳のアドニス・クリードは寝たふりをしていましたが、気配を隠してベッドから起き上がり、里親の家を抜け出します。外で車で待機していたのは親友のディミアン(デイム)です。
2人が向かったのは賭けボクシングをしている溜まり場。ここでデイムも参加しており、アドニスはセコンドについているのでした。デイムは力強いパンチで相手をノックアウトします。
見事に勝利をゲットし、ハイテンションな2人は上機嫌でその場を後にし、儲かったカネで飲んで食べようと店に車を止めます。ところが、その店の前で、ふと横切ったひとりの男。そのレオンを見かけたアドニスは急変したかのようにいきなりその男を押し倒して何度も殴りつけ始め…。
2017年、南アフリカ。ロッキーから闘魂を受け継いだアドニスはプリティ・リッキー・コンランと激しくラウンドを重ねて戦っていました。会場にはガールフレンドのビアンカも見守っています。すでに場数を積んで冷静になれているアドニスは相手の弱点を見抜き、正確なパンチで最終ラウンドで一気にダウンをとり、防衛戦に勝利します。
そして現在、アドニスは引退していました。今は妻のビアンカ、そして娘のアマーラ、祖母のメアリー・アンと落ち着いた邸宅で、殴り合いとは無縁の世界で生活しています。
ビアンカはプロデューサー業をしながら、空いた時間に音楽制作。関係は良好で、今も愛は変わらずです。
アドニスは元コーチのトニー・リトル・デューク・エバースJrと共にボクシング学校を経営。次世代として期待も高い新人のフェリックス・エル・ゲレロ・チャベスを鍛えていました。次の対戦予定相手はヴィクター・ドラゴなので気を抜けません。
ジムの外に出ると、アドニスを待っていたかのようにそこにいたのは、18年ぶりに出所したデイム。思わぬ再会。最初はわからず戸惑うアドニスですが、デイムは意気揚々としており、ちょっと時間をいいかと言われ、断るわけにもいかないのでダイナーで食事をとります。
デイムは子どものままのように気さくで、刑務所で手紙を書いたと言います。もらっていないと伝えるアドニス。過去が脳裏をよぎります。
ボクシングを再開したいというのでジムに連れて行くことにしました。
そんな中、アマーラは学校で絵を破ったいじめっ子を殴り飛ばし、少し問題になります。アドニスは自衛しただけだろうとかばいますが、ビアンカとはピリピリした空気に…。
デイムを家のディナーに招き、彼からもっと試合がしたいと言われます。そこでフェリックスとスパーリングさせることにしますが、デイムは反則に近い手段も平気でとり、乱闘になりかけてしまいました。 コーチは追い出せと告げますが、縁のあるアドニスにはそうもいきません。
ある日のパーティーの現場で、ヴィクターが突然男たちに殴りつけられ、怪我したため、フェリックスの対戦相手はいなくなってしまいました。そこでアドニスはデイムとの対戦というリスキーなアイディアを持ちかけます。
幼馴染への贖罪のつもりか、はたまた過去からの逃避か…。
いわば「ナルトとサスケ」
ここから『クリード 過去の逆襲』のネタバレありの感想本文です。
『クリード』シリーズは主人公はアドニス・クリードなのですが、なんだかんだ言ってこれまでの1作目と2作目は、初代主人公で今や老いたロッキー・バルボアの人生や因縁に巻き込まれるかたちで、アドニスが戦うことになっていました。
しかし、今回の『クリード 過去の逆襲』は、ロッキーを一切登場させず、ロッキー的な因縁も介在させません。完全にアドニスの物語。ノスタルジーに頼らず、アドニスが積み重ねてきた“モノ”で3作目を作っています。
これはとても順当な続編の帰結だと思います。いつまでもロッキーありきだど、さすがにアドニスが全然自立できていないみたいになりますからね。私は変にロッキーの物語を延々と引き延ばすよりは、あの2作目の『クリード 炎の宿敵』でスパっと終わらせたので良かったな、と。わざとらしく「死」を描くみたいなこともしなくていいしね。
では、ついに独立したアドニスの物語として、本作『クリード 過去の逆襲』は何をするのか。
本作は非常にベタな幼馴染のライバル・ストーリーとなっています。
10代だったアドニスにとっての親友にして悪友のデイム。そんな2人の青春時代の苦く悲しい決別の思い出。その過去を復讐心に変えてまた目の前に現れた幼馴染とどう向き合うのか。
まあ、これはあのアニメ『ホワット・イフ…?』でも唐突に「ガンダム」の話をしだしたことでも如実な“マイケル・B・ジョーダン”の本人自認「日本アニメ・オタク」の文脈で解釈するなら、『NARUTO -ナルト-』のナルトとサスケの関係性なんでしょう。かつての友情、今は敵対、でもその繋がりを切ることはできない…だから戦って取り戻す…そんなあれね。
そんな構図になっているせいか、3作目の『クリード 過去の逆襲』はこれまでのシリーズ作の中でも、一番無邪気というか、青臭いバトルになっている感じがしました。
だから外野からみていると、「いや、アドニスさん、絶対にデイムは裏切っているよ。黒幕だよ。信じすぎじゃない?」って口出ししたくなるくらいには思うのですけど、今回のアドニスは少年的な初心さでしか親友を視界に捉えていないので、もう一途です。
そして引退から復帰しての対決。お決まりのトレーニング・モンタージュ、派手な入場、さらに今作はラウンド中にちょっと2人だけの空間になるという粋な演出。「邪魔するんじゃない、俺たちの戦いだ」的な…。ほんと、ロッキーがいたらこんな演出はできないですからね。
こうなってくると「過去の逆襲」ってサブタイトルも消し飛んでしまうな…。
脇のキャラクターの扱いはやや散漫
『クリード 過去の逆襲』はこの幼馴染のライバル・ストーリーに特化するシンプルなものなので、これはこれで熱いものだったし、見ごたえはありました。『ブラックパンサー』みたいに国家レベルじゃないぶん、単純明快ですしね(でも人種差別の背景はもちろんありますが)。
ただ、個人的には最高の続編だと思っている『クリード 炎の宿敵』と比べると、今作は王道の続編ではありつつ、そのぶんの深みは減ったかなという印象でした。
「勝ち負けではない自己実現のためのロッキーイズムが宿る」という定番は最後にあるのですが、「劣等感に沈んだ男が“男らしさ”の呪縛から、まさしくリングから降りる物語」だった前作と比べると、今回はいささかあっさりしすぎな気もします。
デイムとは最後に控室で謝罪によって仲直りするのですが、結構いろいろやらかしているデイムに対して、そんなのでいいのか?とも思うし…。幼馴染のルーズな許容力が発動しちゃってますよ…。
何よりも「ヴィクターはあれでいいの?」と私は心配になりながら見てました。たぶんデイムに最も逆襲したいのはヴィクターだろうに…。
本作、全体的にアドニスとデイムのプライベートな幼馴染関係に重点を置きすぎているせいか、脇のキャラクターの扱いが少々粗雑で、ヴィクター以外にも、フェリックスは可哀想だなと思っちゃうし、ビアンカの物語も今回は停滞気味だったし、メアリー・アンももはやシリーズの恒例の「誰か死ぬ」枠にすぎないし、なんだか…うん…。
アマーラの暴力問題はアドニスとデイムの男たちのやらかした問題に対する未来的な解決の姿を提示したかったのでしょうけど、やはりここもアドニスとデイムの関係図が濃すぎて、おざなりになった感じはありました。
でもアマーラのキャラクターは次世代的な存在として非常に魅力的で、しかも今回のアマーラを演じている“ミラ・デイビス・ケント”はデフ(ろう者)当事者で、レプリゼンテーションとしても良かったです。このままアマーラを主人公に闘志が継承されていくシリーズ発展を遂げるといいな、と。
一方、シリーズの未来ですが、製作で権利を持つのは“アーウィン・ウィンクラー”なのですが、肝心の“シルヴェスター・スタローン”とは不仲のようで、“アーウィン・ウィンクラー”側はヴィクター・ドラゴのスピンオフなどを作って世界観を拡大したいみたいですけど…どうなるやら。正直、このシリーズ、あまり横に拡大させるのには向いてない作品だと私は思うんですけどね。ひたむきに前に、未来に継承するならわかるのだけど。
『クリード』シリーズもとうとう「どう終わらせるか」問題にぶつかってきたかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 96%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
以上、『クリード 過去の逆襲』の感想でした。
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