良き男の絆が再び飛来…Netflix映画『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:J・D・ディラード
人種差別描写
ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン
でぃぼーしょん まいべすとうぃんぐまん
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』あらすじ
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』感想(ネタバレなし)
あの男、また飛んでます
1930年代後半までアメリカの軍隊はほぼ完全に白人で構成されていました。しかし、第二次世界大戦が勃発すると陸軍は方針を修正し、黒人部隊を採用することにしました。
それでも黒人の部隊は白人部隊とは隔離され、扱いは平等ではありませんでした。そんな中、1941年にはアフリカ系アメリカ人の戦闘機部隊を編成する決定を下されるなど、軍内部では黒人の活躍は徐々に増していきました。
そしてある日、事件が起こります。1945年4月、フリーマン・フィールドにてアフリカ系アメリカ人の部隊が不平等に不満の声をあげ、抗議活動を展開したのです。これによって100名以上が逮捕され、大きなニュースとなりました。
このフリーマン・フィールドの反乱は転機となり、アメリカ各地で黒人の軍人が続々と抗議を表明し、人種的な差別の撤廃を求め始めました。
そしてついに1948年7月26日、ハリー・S・トルーマン大統領は「大統領令9981」を発行し、アメリカ軍における「人種、肌の色、宗教、または出身国に基づく差別」を廃止すると宣言。当時の陸軍長官であったケネス・クレイボーン・ロイヤルは黒人差別の立場を続けていたため、1949年に退陣を余儀なくされました。
つまり、この1948年以降のアメリカ軍では黒人の扱いが良い方向へ変化していたのです。もちろんこの時期に綺麗さっぱり差別が消えたわけではありません。一度染み込んだ差別は簡単に抜け落ちません。まだまだ残存する差別の中で耐えながら軍に従事する黒人たちがそこにはいました。
今回紹介する映画はその時代の実在の黒人戦闘機パイロットを描いた伝記作品です。
それが本作『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』。
原題は「Devotion」。「献身」などの意味ですね。
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』は軍事史が専門である“アダム・マコス”が2015年に執筆した「Devotion: An Epic Story of Heroism, Friendship, and Sacrifice」を原作としており、1950年代初めに活躍した海軍所属の黒人パイロットである「ジェシー・ブラウン」とその同僚パイロットであった「トム・ハドナー」の友情に焦点をあてています。
2022年はどうしても『トップガン マーヴェリック』が圧倒的な存在感を放ってしまったので、このもうひとつの戦闘機映画である『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』は影に隠れてしまったのですが、こちらは実話モノですし、見逃せない魅力があります。
しかし、この『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』でも『トップガン マーヴェリック』に続いて“グレン・パウエル”が良い男を熱演しているんですよ。なんだ、お前、どこにでもいて男同士の絆の要素を提供してくれるじゃないか…働き者だな…。
主人公の黒人パイロットを演じるのは、ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の“ジョナサン・メジャース”です。彼は今後はMCUでラスボスのヴィランであるカーンを怪演してたくさん大暴れしてくれるはず。今回は真っ直ぐな人間性を持った善人ですけど。ちなみに“ジョナサン・メジャース”の父は空軍に所属していたそうです。
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』の監督は、『インフィニット』(2016年)、『Sweetheart』(2019年)を手がけてきた“J・D・ディラード”。この監督の父も海軍のパイロットで、アクロバット飛行隊「ブルーエンジェルス」に選出された2人目の黒人パイロットなのだとか。
撮影を担当するのは、『Mank マンク』でアカデミー撮影賞に輝いた“エリック・メッサーシュミット”。
空戦シーンを始め、映像が迫力たっぷりで見ごたえある『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』なのですが、日本では劇場未公開でNetflix独占配信になってしまいました。残念すぎる…。絶対に劇場公開していれば『トップガン マーヴェリック』効果で“グレン・パウエル”見たさに一定の観客はスクリーンに押し寄せたのに…。
なるべく大画面での鑑賞をオススメします。
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年1月20日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :戦闘機映画が好みなら |
友人 | :王道の友情を満喫 |
恋人 | :夫婦愛の要素あり |
キッズ | :飛行機が好きな子なら |
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』予告動画
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):いつも隣で
1950年3月、ロードアイランド州ノースキングスタウンにあるクォンセット海軍航空基地にやってきたトム・ハドナー中尉。彼は今日からここの第32戦闘飛行隊(VF-32)に転属となったのです。
ハドナーがロッカー・ルームに入るとまだ誰もいません。しかし、どこからか急に罵声が聞こえてきて、奥から現れたのはひとりの黒人でした。自己紹介すると、相手も「ジェシー・ブラウンだ」と名乗って握手してくれます。すぐに他の兵もぞろぞろと入ってきて、ブラウンとの会話はそこで打ち切りとなりました。みんなと気さくに挨拶するハドナー。この顔触れが第32戦闘飛行隊です。
さっそく戦闘機へ乗り、ハドナーはブラウンと並んで離陸することになります。軽やかに地上を離れ、機体は空へ。
ブラウンはハドナーの飛行の腕前を試すように飛び回ります。海面ギリギリを翼でかすめるように飛んでみせるブラウンについていくハドナー。今度は上昇して住宅地へ降下し、一気に急上昇。ブラウンは相当な実力の持ち主で、ハドナーもなんとか飛行を完了します。
ブラウンは夜に近くの家に帰宅。外に出ていた隣人に手を振るも無視されます。家では妻のデイジーと幼い娘のパムが温かく出迎えてくれます。しかし、妻と楽しく家で戯れていただけでしたが、隣人に警察を呼ばれてしまい、玄関で対応することに。人種差別は身近にありました。
第32戦闘飛行隊の面々はこれから乗ることになる機体を前にします。「F4U コルセア」という機体で、扱いづらいことで有名で、それゆえに「widow-maker」の異名を持っていました。それを乗りこなせるようにハドナーらパイロットたちはひたすら飛行を繰り返して慣れていきます。
ある日、ブラウンは帰り道で自分の車が故障してしまい、立ち往生していました。そこにハドナーは通りかかり、家まで乗せてくれます。家の前で妻のデイジーを紹介。その日はハドナーは家に入らず、帰っていきます。
クォンセット海軍航空基地では、対ソ連のために地中海に配備される空母USSレイテに着任する飛行隊を選抜することになりました。ハドナーやブラウンもテストに臨みます。
最大の難関は着艦試験です。空母に着陸する難易度の高い技術を備えていないと意味がありません。ハドナーは成功させ、次はブラウンの番。多くの黒人の水兵が見上げる中、ブラウンは1度目に失敗。緊張が走るも2度目で成功させます。
無事にテストに合格し、晴れてUSSレイテでの任務で基地を離れることになります。ハドナーはブラウンの家に招かれ、そこでデイジーはハドナーに夫の傍にいてほしいと約束させます。
5月。地中海に配備された空母内での生活。艦内でも人種差別的な居心地悪さを感じるブラウンは苛立ちつつも任務に集中します。
ある日のこと、飛行隊のメンバーであるモーリングが着艦を試みようとして墜落し死亡する事件が発生。海に浮かぶ残骸を茫然と眺めながら、ハドナーとブラウンは命の危険と隣り合わせにいることを痛感しますが…。
ずっと傍にいる…それは愛では?
『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』の映像映えする見どころはやはり飛行シーン。本作の飛行は、訓練でも空戦でも『トップガン マーヴェリック』で見たような構図によく似ています。
それもそのはずで本作で空中スタントコーディネーターを務めた”ケビン・ラローサ”は『トップガン マーヴェリック』でもフライト・シーケンスを監督および設計した人なのでした。
と言っても『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』の場合は実際に飛行機に乗って飛んでいる本物の飛行シーンはほぼ無く(なにせ機体がそもそも昔のものですから)、飛行シーンのほとんどはCGI を使用しているとのこと。
CGでも迫力はじゅうぶんですね(だから余計にあの本当に戦闘機に俳優を乗せて飛ばした映画のクレイジーっぷりがあらためて実感できるけど)。
しかし、そんな飛行シーンよりもスリルはないけど魅力は負けていない、本作の注目ポイントはブラウンとハドナーの関係性。むしろこここそが最重要です。
「男と男」の熱烈な一心同体の友情を超えた絆が少しずつ形成されていく過程を、今作もたっぷり描写。濃密なミリタリー・ブロマンス作品として、こちらも一級品でした。
最初はよそよそしい空気です。ファースト・コンタクトとなるロッカールームでの事務的な挨拶。しかし、いざ一緒に飛行すると「お、こいつやるじゃないか」と言葉を交わさずとも認め合い始める。このあたりでもう関係性ゲージが50%は一気に溜まってますよ(私の勝手な妄想)。
でも車で送ってあげるというかなりの親密行為の一歩を経験しても、なお家には上がり込まない。焦らしてきますね…。
そしてテストに合格した後、初めてハドナーはブラウンの家にも招かれる。つまり、これはブラウンのテストにハドナーが合格したも同然です。しかも、妻デイジー公認の間柄ですよ。ブラウンとハドナーの関係性ゲージは80%は超えてますね(私の勝手な妄想)。
こうして赴任して異国を2人で満喫。フランスのカンヌでは新婚旅行感すらある。ハドナーの女性へのアプローチを指南してやるなど、ブロマンスの定番のイベントもきっちりこなします。エリザベス・テイラーがブロマンスを強化するための女神みたいに登場するのも不思議な光景でしたね。
終盤は朝鮮戦争へ駆り出され、運命の時であるブラウンの不時着へと移ります。ここで最後まで忠実にブラウンの不時着手順を指示してあげるハドナーの頼もしさ。さらにコクピットからでられないブラウンのためにわざわざ自分まで不時着して傍に駆け寄る。愛だ…愛がデカい…。ラストの関係性ゲージは200%は軽く振り切れてる…(私の勝手な妄想)。
微笑みのグレン・パウエル
こんな感じで『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』は「男と男」の熱烈な一心同体の友情を超えた絆が燃料漏れしまくりながらも謎の推進力でぐんぐんぶっ飛んでいってます。
ただ、そんな熱くなりがちですが、実話モノとしてのシリアスさも兼ね備えているのが本作のもうひとつの側面です。
とくにブラウンの苦悩は物語にズシンと圧し掛かっています。前述した時代背景もあって、軍隊内での人種差別は公のルールとしては禁じられましたが、それでも差別が消えたわけではありません。職場でもプライベートでも常に差別がつきまとってきます。
加えてブラウンの飛行の雄姿を見つめる大勢の空母内の黒人労働者たち。どれだけブラウンのような存在が希望となっているのか。白人のパイロットでは決して経験しえない重圧でしょう。
そんな中でブラウンは誰もいないロッカー室の鏡の前で、人種差別的な言葉を自分で口にして涙を流しつつ気合いを入れるのを日課にしています。ある種の精神的自傷行為みたいなものです。
それをハドナーは黙って理解しながら、そっと少しだけブラウンに圧し掛かった重みの一部を持ってあげる。全部は持てません。白人と黒人の壁はあります。それでもできることをしてあげる。ケアとしての仕事も的確なハドナーなのでした。
あえて苦言を言えば、このハドナーは「人種差別をしない善良な白人」としての役割ありきで成立しており(多少の無自覚な人種的差異に気づかされるシーンもあるけど)、それ以外が無いので、キャラクターとしてやや浮き出すぎている感じはあります。当然、ハドナーにだってもっと個人的な人生の葛藤やら何やらがあったわけですから。あくまで「メダル・オブ・オナー」を与えられる、良きアメリカ軍人の見本としての存在ですね。
ただ、アメリカはこういう模範になる人物像を描きたがる傾向が強いですし、まあ、伝統なのかもしれないですが…。
終始微笑みを崩さない“グレン・パウエル”はそういう役回りには引っ張りだこなのかも…。『ドリーム』のときもそういう役柄でしたもんね。『ドリーム』よりは深みあるキャラにはなっているかな。
一方でこうして白人と黒人の融和が描かれる傍らで、アジア(北朝鮮)は嫌な存在として暗に用いられているという点は、アジア系のことを考えるとちょっと複雑な気分にさせられますが…。
ジャンルとしては超王道な構成で、捻った部分もほとんどない直球な作品でしたので、フレッシュな刺激が薄いのは昨今の類似作品と比べると物足りないところ。『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』は黒人パイロット主役でもベタなハリウッドの軍隊映画は作れますよということを証明した感じですかね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 92%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Columbia Pictures, Black Label Media ディボーション デヴォーション
以上、『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』の感想でした。
Devotion (2022) [Japanese Review] 『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』考察・評価レビュー