DC映画の引っ越し加速大作戦だと思ったけど…映画『ザ・フラッシュ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年6月16日
監督:アンディ・ムスキエティ
ザ・フラッシュ
ざふらっしゅ
『ザ・フラッシュ』あらすじ
『ザ・フラッシュ』感想(ネタバレなし)
そんなに高速とはいかなかった遍歴
やっとこの映画が公開される日が来たのか…。
ということで『ザ・フラッシュ』の話です。
もう散々話した気もするけど、これを説明しないと始まらないので、また言及しますね。DC映画の蛇行しまくった遍歴の過程。でも最速でまとめるならこんな感じです。
- 「ザック・スナイダーにシリーズを引っ張ってもらおう!」
<DCEU時代>※DCEU=DCエクステンデッド・ユニバース
『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』『ワンダーウーマン』『ジャスティス・リーグ』『アクアマン』 - 「ザック・スナイダーはクビです。なんか各自テキトーに!」
<DCEU自由気まま時代>
『シャザム!』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『ワンダーウーマン 1984』『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』 - 「ユニバース再始動するので、それまでの繋ぎね!」
<DCEU最後の片付け時代>
『ブラックアダム』『シャザム!〜神々の怒り〜』『ザ・フラッシュ』『Blue Beetle』『Aquaman and the Lost Kingdom』 - 「ジェームズ・ガンにシリーズを引っ張ってもらおう!」
<DCU>※DCU=DCユニバース
『Superman: Legacy』ほか、いろいろ…
本作『ザ・フラッシュ』はDC映画としてはマルチバースを本格投入する大作です。DCはドラマシリーズで既にマルチバースをガンガンぶっこんでいた先駆者なのですが、映画では随分後発となってしまいました。やっぱりシリーズ展開のゴタゴタのせいですかね…。
しかし、『ザ・フラッシュ』は主演の“エズラ・ミラー”の「女性の首を絞める動画(2020年)」「ハワイでの暴行&住居侵入(2022年)」「未成年へのグルーミング疑惑」「カルト的な言動」「子どもへの銃の安易な扱い」…こうした次から次へと沸いてでてくる問題行為が報道され、もはやヒーローには最もふさわしくない俳優とみなす人も少なくない状況に…。
結局、『ザ・フラッシュ』は俳優の差し替えも無く公開されましたが、『Batgirl』の公開中止や『ジャスティス・リーグ』に出演した“レイ・フィッシャー”によるパワハラ告発など、そうした問題には対処してこなかったDCの企業姿勢もあって、この“エズラ・ミラー”問題はかなり印象悪さを決定づけるものになってしまいました。
だからなのか今作の『ザ・フラッシュ』は宣伝に力が入っており、“トム・クルーズ”や“スティーブン・キング”の絶賛評が事前にネットに流れるなど、根回しがいいのが露骨です(たぶんこれは“エズラ・ミラー”をマスメディアに取材させられないので代用のマーケティングなんだと思いますが)。
一応言っておきますけど『ザ・フラッシュ』がどんなに傑作であろうとも、“エズラ・ミラー”の演技がどんなに名演でも、こうした問題を無かったことにはできませんし、「良い作品/演技だったからチャラだね」とするのは典型的なイネーブリング(不適切な行動を周囲が結果的に助長・擁護させてしまうこと)になるのでダメです。
それを忘れずに前提に置きつつ、後半の感想では『ザ・フラッシュ』について掘り下げていきたいと思います。映画としてはDCの歴史においても重要な一作であるのは間違いないですから。
『ザ・フラッシュ』を観る前のQ&A
A:本名はバリー・アレンで、超高速で移動できる能力を獲得した青年。あまりにも光速なので、移動中の本人には全てがスローで動いているように見えます。稲妻マークの真紅のボディスーツが特徴です。
A:今回のフラッシュが本格的に初登場した『ジャスティス・リーグ』(2017年)の鑑賞を推奨します。この映画で集う面々の話題がかなりでてきます。なお、『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』もありますが、こちらは『ザ・フラッシュ』と接続しないです。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズファン注目 |
友人 | :キャラ好き同士で |
恋人 | :過去作を知っていれば |
キッズ | :アメコミ好きなら |
『ザ・フラッシュ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):過去に戻ったら…
ヒーローチーム「ジャスティス・リーグ」に所属するバリー・アレンはフラッシュというヒーローとして活躍していました。現在は地面が陥没し、ビルが倒壊寸前の大事件に対処中。ブルース・ウェイン(バットマン)は悪人の車をバイクで追跡しているので、人命救助はバリーの仕事です。
支柱が粉砕し、傾き出すビル。空中に放りだされた大人と赤ん坊たち、そして犬をバリーは超高速能力で器用に丁寧に救いだします。
一方、バットマンのほうはバイクから飛び出し、ワイヤーで相手車両に飛び乗って制圧。ワンダーウーマンの手助けもあって解決です。
バリーはスーツを素早く着替え、いつもの日常の姿に戻ります。ピクチャー・ニュースのジャーナリストであるアイリス・ウェストに話しかけられますが、人との会話は苦手で動揺しまくってしまいます。
帰宅すると、母のノラ殺害の容疑で不当に判決を受け投獄されているバリーの父親ヘンリーと電話。
それもあって感情を刺激され、バリーは幼少期の家を再訪します。子ども時代を思い出すと穏やかで幸せな日々が蘇ります。キッチン前で母はナイフが刺さった状態で父に抱えられているあの日までは…。
思わずスピードフォースを全力で使ってしまい、過去の時間に戻れることに気づくバリー。ブルースに相談すると、タイムスリップは予期せぬ結果を招くので非常に危険だと警告されます。
しかし、過去に行けば母に会えるという発想で頭がいっぱいになればもう居ても立っても居られません。バリーは独断即決で実行し、生き生きとした母の姿を前に茫然とします。店で買い物中の母のかごにトマト缶を入れてしまい、買い忘れを防いで「死」の過去を変える行動をとってしまいました。
そのとき、別のスピードフォースの使い手のような何者かに弾き飛ばされます。辿り着いたのはかつての家。けれども母も父も健在で、この姿の自分に何も驚いていません。あり得なかった日常を満喫するバリー。
そこへこの世界の本来の自分を目撃し、対面して事情を説明。18歳と若く、生意気な過去のバリー。別の世界線の2013年のようです。この本来の自分にはまだスーパーパワーはなく、今日がその力を手に入れる日だとわかります。
そこでバリーは過去のバリーを急いでサポートし、能力を手に入れるきっかけとなる研究室での落雷直撃を体験させます。しかし、バリーにも貫通してしまい、バリーは完全に力を喪失していました。壁通過はおろか超高速もできません。
とりあえずこのスピードフォース初心者を真っ当に訓練してやるしかなく、スーツを渡します。過去のバリーは調子に乗ってばかりです。
ところがそこに最悪の事態が起きます。テレビでゾッド将軍の地球侵略放送が流れたのです。バリーの知る未来ではスーパーマンに倒されたゾッド将軍。でもこの世界にはスーパーマンはいないようです。
ネットで調べるとサイボーグのビクター・ストーンはまだ事故に遭っておらず元気そうですし、ワンダーウーマンは表にでてきていません。アクアマンことアーサー・カリーは生まれてもいません。
これではジャスティス・リーグは結成できない…。万事休すかと失望しつつ、最後の頼みの綱で、ブルース・ウェインの邸宅に向かってみますが…。
動きも速いが物語も忙しい
ここから『ザ・フラッシュ』のネタバレありの感想本文です。
『ザ・フラッシュ』の出来事の発端は、母の死、父の不当な逮捕という「悲劇を無かったことにしたい」という想いです。このへんは『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』などと同じ、この手のタイムスリップものにはよくある動機ですし、代償をともなう結果が待つというオチも珍しくもありません。
ただ、『ザ・フラッシュ』の場合は語らなければいけないことが多いので、かなり詰め込みまくって、急ぎ足です。なにせDC映画としてはこのバリー・アレンにとっては初の単独主演作ですから。2017年の『ジャスティス・リーグ』ではコメディリリーフな役回りでしかありませんでした。
ついに6年後の本作にてやっとオリジン・ストーリーが描かれるというのも気長な話でしたが、能力解説、能力獲得のヒーロー誕生譚、家族の物語、友人、恋人、職場、他のヒーローとの関係…語るべきことは山のように溜まっていて、それを序盤からどんどん消化していきます。
加えて、今作では別の世界線のバリーと邂逅し、半ば師弟関係を築くことになる、メタなバディ要素もあります。なので本作におけるコメディリリーフの座は弟子(過去の自分)に移っており、自分で自分のウザさを実感させられるという、かなり恥ずかしい経験をします。私なら耐えられそうにないな…。
そしてそれで終わらない。まだ半分。ここから「ジャスティス・リーグ2」ならぬ「ジャスティス・リーグ1.5」みたいな感じのチーム結成にまで物語は大忙しで飛び移っていきます。
『ザ・フラッシュ』は結構これまでのDC知識を総動員することを求められるので、期末テストみたいな映画でしたね。「このキャラなんだっけ?」とわからないことがあってもあっという間に置いてかれると思います。
あらためて『ザ・フラッシュ』という単独主演作を観ると、このフラッシュというヒーローの欠点も見えてきて、例えば、おなじみの超高速移動もここぞというときに挿入されると映像映えするのですけど、終始連発していると飽きてきやすいなとか。
あと、本作においてもこれはケアを描いているわけですけど(母の死を受け入れる)、ケアの描き方としてはいささか雑な感じではありましたね。バリーは非定型発達っぽいキャラクターなのでもっといろいろ深堀りできるはずなのに慌ただしく風呂敷を畳んでしまったような…。
偶然にも同じマルチバース映画である『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』と日本では同日公開だったのですが、あの映画と方向性がまるで正反対で、『ザ・フラッシュ』はどっちかと言えば挑戦をせずにお上品な着地になっていました(世界のルールには従えという納得)。
ファンサービスしきれていない面も
個人的には『ザ・フラッシュ』の最大の懸念は「ファンサービス映画なのは紛れもないけど、ファンにサービスしきれていない」ということではないかな、と。
“マイケル・キートン”のバットマンの再登場は本作における最大のファンサービスです。これは間違いないところ。さらに、終盤にはマルチバースの片鱗として、“クリストファー・リーヴ”演じるスーパーマンや、“ヘレン・スレイター”演じるスーパーガール、“ジョージ・リーヴス”、そしてまさかの“ニコラス・ケイジ”演じるスーパーマンまで顔を見せるという豪華&カオスっぷり。『マッシブ・タレント』のアイツ、きっと大歓喜してるな…。
これだけやればじゅうぶんという気もしますが、実のところ、これらのファンサービスは全て今後のDC映画のフランチャイズ展開に一切影響しない範囲の“配慮された”ファンサービスなんですね。
これは一部のファンが強く指摘している点でありますが、フラッシュは先行してドラマ『THE FLASH/フラッシュ』が作られており、そこでは“グラント・ガスティン”が演じています。シーズン9で完結したこのドラマは「アローバース」の基幹であり、壮大なシェアード・ユニバースを開拓したパイオニアにして、アメコミドラマのベンチマークとなりました。惜しくも今回のDC再編に合わせて終わってしまいましたが、スピードフォースの次世代としてノンバイナリーのジェス・チェンバースに継承するなど、残した成果は評価に値すると称賛もされています(The Maru Sue)。
にもかかわらず、このドラマの方は全く気にも留めないという映画『ザ・フラッシュ』の姿勢は残念ですよね。何よりもフラッシュの映画なのに…。
本作の原点にあるのは「フラッシュポイント(Flashpoint)」という原作コミックで、これは新しいユニバースの誕生に帰着するのですが、おそらく今のDC映画の不安定さあるからこそ、多くのファンは納得いく「引っ越し」と「お別れ会」が見たかったんじゃないかなと思います。
『ザ・フラッシュ』の結末はかなりフワっとした世界改変しか描いておらず、「結局どうなったの?」というファンのモヤモヤの大半は放置されたままです。
ラストの“ジョージ・クルーニー”のブルース・ウェインの登場はただのファンサービスなのか、それとも“アンディ・ムスキエティ”監督が次に担当する『Batman: Brave and the Bold』の布石なのか…。『THE BATMAN ザ・バットマン』が若いタイプで描いているので、“ジョージ・クルーニー”は差別化できていいとは思うけど…。
惜しいなと思うのはスーパーガール。今回の“サッシャ・カジェ”演じるラテン系のスーパーガールは、中性的でバッドアスで最高でしたが、今作限りならもったいない…。『ブラックアダム』の「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)」といい、最近のDC映画は良い新キャラが一発ネタで終わるのが寂しいです。
あと、『シャザム!神々の怒り』でも思ったけど、ワンダーウーマンの出番の扱われ方がなんか型どおりになってきているかな。あのBGM流しとけばいい感じになってるし…。
まあ、一番可哀想なのはゾッド将軍かもしれないけど…。
あと残るは、『Blue Beetle』『Aquaman and the Lost Kingdom』の2作。『Blue Beetle』は今後のDCUにも続投するらしいのでひとまず良しとして、「アクアマン」2作目で、なんの大団円もなく、静かにDCEUは解散してしまうのでしょうかね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 66% Audience 85%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
DC映画の感想記事です。
・『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』
・『ワンダーウーマン 1984』
作品ポスター・画像 (C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved (C) & TM DC ザフラッシュ
以上、『ザ・フラッシュ』の感想でした。
The Flash (2023) [Japanese Review] 『ザ・フラッシュ』考察・評価レビュー