14代目ドクターです!…「Disney+」ドラマシリーズ『ドクター・フー(2023年スペシャル)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2023年)
シーズン1:2023年にDisney+で配信
製作総指揮:ラッセル・T・デイヴィス
LGBTQ差別描写
ドクター・フー(2023年スペシャル)
どくたーふー
『ドクター・フー(2023年スペシャル)』物語 簡単紹介
『ドクター・フー(2023年スペシャル)』感想(ネタバレなし)
14代目ドクターはお祭りです
『ドクター・フー』です。『ドクター・フー』ですよ!
書かないといけないことが多すぎるので、いきなり本題から入りますね。
『ドクター・フー』はドハマりしている人もいれば全く聞いたことがないという人もいると思います。なるべく初心者にもわかりやすく紹介しますね。
イギリスのフィクション作品でファンダムのデカいものは、『007』シリーズから『ハリー・ポッター』シリーズまでいろいろありますが、『ドクター・フー』はイギリスで長年愛されている国民的ドラマの代表格です。
BBC制作でその始まりは1963年でした。主人公は「ドクター」と呼ばれる人物で、「タイムロード」と呼称される種族であり、タイムマシンを用いて時空を自在に旅して、地球から宇宙の果てまで大冒険する…そんなSFファンタジーとなっています。
子どもでも見られる作品なのですが、大人のファンの熱量のほうが強いくらいで…。『ドクター・フー』の熱狂的なファンは「フーヴィアン」なんて呼ばれています。
この『ドクター・フー』、設定上基本的に何でもありな作品なのですが、ひとつの大きな特徴として主人公のドクターは代替わりします。これはシーズンごとに演じる俳優が切り替わることを作中の設定として盛り込んだもので、「再生」によって別人になるのです。『007』でも主役の俳優は変わるものでしたが、『ドクター・フー』は世界観設定に組み込んでいるのが面白いですね。
そのため「●代目ドクター」といった言い方で区別されます。これまで『ドクター・フー』の流れは以下のとおり。(シーズン=S)
- “ウィリアム・ハートネル”、“リチャード・ハーンドール”、“デイビッド・ブラッドリー”がS1~4までの「初代ドクター」(初代だけ3人の俳優で変則的)
- S4~6までの“パトリック・トラウトン”の「2代目ドクター」
- S7~11までの“ジョン・パートウィー”の「3代目ドクター」
- S12~18までの“トム・ベイカー”の「4代目ドクター」
- S19~21までの“ピーター・ディヴィソン”の「5代目ドクター」
- S22~23までの“コリン・ベイカー”の「6代目ドクター」
- S24~26までの“シルベスター・マッコイ”の「7代目ドクター」
- 1996年のテレビ映画版の“ポール・マッガン”の「8代目ドクター」
- 新S1の“クリストファー・エクルストン”の「9代目ドクター」
- 新S2からの“デイヴィッド・テナント”の「10代目ドクター」
- 新S5~7までの“マット・スミス”の「11代目ドクター」
- 新S8~10までの“ピーター・カパルディ”の「12代目ドクター」
- 新S11~13までの“ジョディ・ウィテカー”の「13代目ドクター」
※50周年記念スペシャルだけに登場した“ジョン・ハート”の「ウォードクター」といった特殊ケースもある。
そして2023年冬、「14代目ドクター」がいよいよ登場です。しかも「Disney+(ディズニープラス)」で日本も含めて世界的に一斉配信となり、新作『ドクター・フー』を一緒に楽しめるようになりました。まさにお祭り。
これは初心者にも『ドクター・フー』をオススメする最大のチャンス!…と言いたいところなんですが、今回の新作、ちょっと立ち位置がかつてないほどに特殊なんですよね。
まず「60周年スペシャル」の枠で「14代目ドクター」が描かれます。これまで『ドクター・フー』はスペシャル回は何回かありましたが、今回は3話分もあります。ボリュームのあるスペシャル回(全3話)です。
そのうえ、「14代目ドクター」を演じるのは「10代目ドクター」を演じた“デイヴィッド・テナント”なのです。でも「10代目ドクター」と同一というわけでもない。もちろんこれはシリーズの中でもとくに人気な「10代目ドクター」にあやかって“デイヴィッド・テナント”の再登板というファンサービスなのですけど、初心者には「?」ですよね。
ということで非常にファンのためのお祭りムードな立ち位置で、物語も前作のクライマックスの勢いのままに進むので、ここから始めて『ドクター・フー』に足を踏み入れた人は相当な置いてけぼり気分を味わいますが、まあ、すぐに「15代目ドクター」に接続しますから。2024年からの「15代目ドクター」シリーズの準備運動だと思ってください。
「14代目ドクター」シリーズ(そして「15代目ドクター」シリーズも)を手がけるのは、『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』『2034 今そこにある未来』『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』とクィアな作品を生み出し続けている前衛ベテランの“ラッセル・T・デイヴィス”。『ドクター・フー』には“デイヴィッド・テナント”と共にカムバックしました。
新作もさすが“ラッセル・T・デイヴィス”、クィアの濃度がたっぷりですよ。
さあ、『ドクター・フー』の世界へ飛び込んでみてください。
ただ、日本の「Disney+」は少々わかりにくい表示なので気をつけて…。「スター・ビースト」が第1話(2023年11月26日配信)、「ワイルド・ブルー・ヨンダー」が第2話(12月3日配信)、「ザ・ギグル」が第3話(12月10日配信)です。
『ドクター・フー(2023年スペシャル)』を観る前のQ&A
A:「10代目ドクター」と「13代目ドクター」の作品と接続がありますが、全部見るとなると大変。気にしないでいきましょう。
オススメ度のチェック
ひとり | :初心者も覗いてみて |
友人 | :ファン同士で |
恋人 | :オススメし合って |
キッズ | :子どもも一緒に |
『ドクター・フー(2023年スペシャル)』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):なぜここに?
タイムマシンである「ターディス(TARDIS)」から降りてきてロンドンの街を久しぶりのようにウロウロするドクター。顔が見えないほどの荷物を抱えていた人を思わず助けると、それはドナ・ノーブルでした。
昔々、ドクターはドナとは宇宙を旅した仲間として信頼し合っていました。しかし、そのドナはタイムロードの知識を吸収して宇宙を救い、その余波でドナの記憶は消すことになってしまいました。もしドナがドクターを思い出したらドナは死んでしまいます。こうしてドクターは別れを告げ、別人としてドクター自身も再生したのですが…。
なぜまた自分がかつてのような見た目で現れたのかわからない中、ドナとの遭遇に動揺するドクター。今のドナは夫ショーンと娘ローズと暮らして幸せのようですが、わずかな違和感も感じているようです。
そのとき、空に何か墜落するのが見えました。とりあえずドナの件は放置し、墜落現場に向かってみます。墜落現場はものものしい空気で、ドクターは敷地に侵入すると、宇宙船が直立で不時着していました。
一方、ローズは路地裏で脱出ポッドらしきものとひとりのエイリアンに出会います。「ミープ」と名乗るその毛むくじゃらのエイリアンをひとまず家に連れ帰るローズでしたが…。
「スター・ビースト」
ここから『ドクター・フー(2023年スペシャル)』のネタバレありの感想本文です。
2023年の「60周年スペシャル」の第1話「スター・ビースト(The Star Beast)」。
14代目ドクターの本格的出番です(3話しかないけど)。物語としては、2022年10月放送の2022年スペシャル回の第3話「The Power of the Doctor」で描かれた13代目ドクターから14代目ドクターへの再生…その続きとなります。
このエピソードで私が語りたいポイントはやっぱりトランスジェンダー関連ですかね。
本作ではドナの娘としてローズが登場しますが、彼女はトランス女性です(演じているのも『HEARTSTOPPER ハートストッパー』で話題となったトランスジェンダー俳優の“ヤスミン・フィニー”)。
作中では通りすがりの同級生らしき集団からトランスフォビアな嘲笑を受けたり、祖母シルビアからの何気ないマイクロアグレッションを浴びたりと、じわじわと差別や偏見に苦しんでいる様子が描かれ、本物のエイリアンを前に「私も異星人みたいだと言われる」とこぼします。
このエイリアンであるミープに対して、ドクターは「he」という代名詞を使ってしまい、ローズが「決めつけるのはよくない」と注意し、あらためて質問するとそのミープは「代名詞は使わない。ミープはミープ」と返す場面があります。
これは『ドクター・フー』のクィアなファンへの目配せで、『ドクター・フー』はこれまででもクィアな展開が描かれることがチラホラあったのですが、この「エイリアンの代名詞」問題は実は過去に描かれていたのです。
1972年のシーズン9における「The Curse of Peladon」というエピソードにて、あるエイリアンを前にして代名詞の話題となり、そのエイリアンは「it」を使っていることが明らかになります(ScreenRant)。
なのでこの2023年の60周年スペシャルはその過去作をあえて再現するようにピックアップしているわけですが、当然、「架空のエイリアンじゃなくて、現実の地球の人間に対しても代名詞は気遣う必要があるよね」という現代の視点を届けているのが本題です。
他にも前回の13代目ドクターが女性だったこともあり、14代目ドクターとして再生で女から男へと変わったため、そのファンタジーな展開と現実の性別移行を並べて描くという面白さ可笑しさも提供しています。このへんは“ラッセル・T・デイヴィス”らしい遊び心(ドクターが身分証の性別の更新が遅れていることに文句を言うとか、ちょっと社会制度への小ネタも入ってる)。
そしてミープというエイリアンが本性を現すと、その中身は支配を企むちっこいヒトラーみたいな奴だと判明するのですが、ここもナチスがLGBTQ迫害をした歴史(『エルドラド:ナチスが憎んだ自由』を参照)と重なります。
最終的にローズが知識解放の過程で「ノンバイナリー」と言及したり、このエピソードは性同一性を意識した仕掛けが満載でした。
もちろんこれはイギリスで吹き荒れる反トランスジェンダーに対する、本作からの「差別には屈しませんよ」という毅然とした態度なのは言うまでもありません。
「ワイルド・ブルー・ヨンダー」
2023年の「60周年スペシャル」の第2話「ワイルド・ブルー・ヨンダー(Wild Blue Yonder)」。
このエピソードでは前回の慌ただしさとは一転して、14代目ドクターとドナという久しぶりにまた一緒になった2人の関係を再構築する回となっていました。登場人物もほぼドクターとドナだけです(原型のない変幻自在の「Not-Things」も実質ドクターとドナだし…)。
“キャサリン・テイト”も久々のドナの再演でしたが、相変わらず息の合ったコンビネーションで安心します。
再演と言えば、ウィルフを演じた“バーナード・クリビンス”。残念ながら2022年7月27日に亡くなってしまって、本作でも本当はもっとウィルフを描く予定だったらしいのですが、撮影段階ですでに体調が悪く、物語を変更したそうで…。少しでも顔が見られたから良かったのかな…。
ちなみにこのエピソードの冒頭で、1666年のイギリスにターディスが突っ込み、そこでリンゴの木の下に佇むかの有名なアイザック・ニュートンに遭遇します。実在の物理学者であるニュートンも『ドクター・フー』では何度かでてきた存在なのですが、“ラッセル・T・デイヴィス”がニュートンを描くと、やっぱりクィア好みな雰囲気になるんだな…。
「ザ・ギグル」
2023年の「60周年スペシャル」の第3話「ザ・ギグル(The Giggle)」。
シーズン3から登場してきたトイメーカーが今回も再登場して暴れます。やけにキャンプなトイメーカーに様変わりしており、ゲイなパーティ全開ですが…。
このトイメーカーは、人を極端な至上主義に変えてしまう力で社会に争いを生み出しており、それがテレビの発明に寄与した実在の技術者であるジョン・ロジー・ベアードの話題からスタートし、今ではあらゆるモニターのメディアに罠が潜んでいることが暴露されます。
これは当然ながら過激主義を煽っているメディアの有害性への風刺です。BBCも反トランスジェンダー的な記事をだしていると批判されていますからね。“ラッセル・T・デイヴィス”的にはそこもお灸を据えたいところでしょう。
同時に「誇れる良いメディア」を作っていこうという所信表明でもあるのかな、と。
そして最後に描かれる恒例の再生の儀。15代目ドクターはシリーズ初の黒人で、ドラマ『セックス・エデュケーション』の“チュティ・ガトゥ”(ンクーティ・ガトワ)が、“デイヴィッド・テナント”の陽気さを受け継ぐように顔見せ。
しかも、14代目ドクターは存在したまま、バイ・ジェネレーション(二重再生)という珍事が発生(ここでもわざわざクィア好みな用語センス)。楽しければいいのだと言わんばかりに15代目ドクターはパンイチで全力でしたけども。
こうして「ドクター・フー・ユニバース(DWU)」には14代目ドクターも残存したままですが、2024年は“チュティ・ガトゥ”の15代目ドクターがメインでシリーズを引っ張ります。いや~、楽しみ。絶対に楽しいし、絶対にクィアだもん。最高かよ…。
あらためて作品が味方をしてくれることの喜びを噛みしめられる、良いスペシャルだったと思います。
スペシャルは懐古だけでなく、これくらい新しい飛翔を遂げないと! あなたのことだよ? 聞こえてる? 本作世界配給のディズニーさん…!
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 44%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)BBC ドクターフー
以上、『ドクター・フー(2023年スペシャル)』の感想でした。
Doctor Who (2023) [Japanese Review] 『ドクター・フー(2023年スペシャル)』考察・評価レビュー