ジョシュ・ブローリン主演作…ドラマシリーズ『アウターレンジ ~領域外~』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
原案:ブライアン・ワトキンス
性描写 恋愛描写
アウターレンジ 領域外
あうたーれんじ りょういきがい
『アウターレンジ 領域外』あらすじ
『アウターレンジ 領域外』感想(ネタバレなし)
帰ってきたジョシュ・ブローリン
私が子どもだった頃、西部劇のような感じでカウボーイ風の男たちがたくさんでてきてなんだか戦っているようなそんな海外ドラマをぼんやり見たことがありました。といっても全話をきっちり鑑賞したのではなく、おそらく数話だけかいつまんで視聴した程度…そのはず。それくらいにうろ覚え。でも子どものときに見たものは妙に部分的に記憶に残っていたりするものです。
しばらくずっとこのドラマのタイトルはわからなかったのですが、後に自分で海外ドラマの情報を調べられるぐらいには行動力が身について、それで判明しました。そのドラマは『ヤングライダーズ』でした。
これは1989年から1992年までABCで放送されたアメリカのドラマで、日本では90年代にNHKで放送されていました。内容は南北戦争の時代を舞台としており、当時の歴史上の人物も多数出演するなど、さながらアメリカの大河ドラマです。今なら全話をしっかり鑑賞したいなと思うのですけど、正規で観る手段は日本では乏しく…たまにチャンネル系で放送される機会を待つくらいですかね(放送はABCだからディズニーが権利を持っているのか、はたまたスタジオはMGMだからそっちの権利なのか、よくわからない…)。
その『ヤングライダーズ』で主要キャラのひとりである有名なガンマンの「ワイルド・ビル・ヒコック」を演じていたのが若かりし頃の“ジョシュ・ブローリン”でした。
“ジョシュ・ブローリン”と言えば、デビュー作の『グーニーズ』(1985年)が何よりも印象的ですが、最近の若い映画ファンにとってはアベンジャーズと激戦を繰り広げたあのサノスの人と言う方がわかりやすいのかもしれない…。
けれども“ジョシュ・ブローリン”はやはり西部劇のイメージが強い人もいまだに多いと思います。お父さんの“ジェームズ・ブローリン”は『ウエストワールド』(1973年)にもでていたし…。
そんな“ジョシュ・ブローリン”が古巣のようなアメリカの田舎の世界に帰ってきました。
それが“ジョシュ・ブローリン”自身が主演&製作総指揮を務めたドラマシリーズである本作『アウターレンジ 領域外』です。
『アウターレンジ 領域外』はワイオミング州の典型的なアメリカのド田舎が舞台なのですけど、ジャンルはいわゆるスーパーナチュラル・スリラーとなります。広い意味でのSFです。アメリカではドラマ『イエローストーン』と『スーパーナチュラル』を足したような作品だと評されていましたが、まあ、日本ではその『イエローストーン』のドラマは観る機会が全然なくて話題にもなっていないので、その例えだと宣伝効果はなさそうですね…。
要するにあれです。馬が広大な平地を走っているだけのようなアメリカの田舎でSFチックなことが起きるんです。こういうのはアメリカの伝統芸ですよね。「スーパーマン」の始まりとかもまさにそうですし…。
『アウターレンジ 領域外』でどんなことが具体的に起きるのか、それはネタバレすると面白くないので言わないでおきます。超常現象的な何かです。『カトラ KATLA』や『ダーク DARK』などの作風が好きならハマるでしょう。
ただ、『アウターレンジ 領域外』はかなりゆっくりしたペースで進行し、とくにシーズン1はプロローグみたいなものなので根気よく視聴しないといけませんけどね。シーズン1最終話で一気にアクセル全開になります。
本作は製作があの“ブラッド・ピット”設立の「Plan B」であるところも注目です。製作総指揮に“ブラッド・ピット”もクレジットされています。ドラマシリーズとしては『地下鉄道 自由への旅路』に続いての製作ですね。前回は黒人社会と白人社会の構図を描きましたけど、今回はガラっと変わって白人社会の暗部を炙り出しています。
エピソード監督には、『Museo』の“アロンソ・ルイスパラシオス”、ドラマ『ウエストワールド』の“ジェニファー・ゲッツィンジャー”、ドラマ『アトランタ』の“エイミー・サイメッツ”、ドラマ『ペアレントフッド』の“ローレンス・トリリング”が揃っています。
“ジョシュ・ブローリン”以外の出演陣は、ドラマ『ペリー・メイソン』の“リリ・テイラー”、ドラマ『オザークへようこそ』でおなじみの“トム・ペルフリー”、『荒野にて』の“ルイス・プルマン”、『ビバリウム』の“イモージェン・プーツ”、『ハロウィン』の“ウィル・パットン”など。
『アウターレンジ 領域外』のシーズン1は全8話(1話あたり約40~60分)。「Amazonプライムビデオ」で独占配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :超常現象SF好きなら |
友人 | :ジャンル好き同士で |
恋人 | :相手が好きそうなら |
キッズ | :大人のドラマ多め |
『アウターレンジ 領域外』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):なぜ穴があるのか
ワイオミング州の田舎町。牧場を営むアボット家は、ロイヤルとセシリアの老夫婦、その息子たちで今は大人の長男ペリーと次男レット、そのペリーの娘である幼いエイミーという家族構成でした。
ある夜、セシリアは夢で目覚めます。それはペリーの妻で突然失踪してしまったレベッカが闇から現れるという内容で、エイミーもペリーも嬉し泣きで抱きついていました。「この夢、ペリーには内緒ね」と口にするベッドの妻を置いて部屋を出るロイヤル。
早朝から馬でかけ、放牧の家畜を双眼鏡で観察。するとロイヤルは何か不吉な音と気配を一瞬感じ取ります。
ロイヤルは帰宅して「さっきの聴こえたか」と聞きますが、家族は反応薄め。もう教会にでかけないといけないとセシリアは言い、「まだ8時にもなってないのに?」とロイヤルが口にすると、エイミーが「おじいちゃん、もう10時だよ」と教えてくれます。時計を見ると確かにそうです。
夜は家族でレットのロデオを見守ります。家に帰ると馬小屋に行き、馬たちが騒がしいのでなだめます。その夜遅くに長年対立しているお隣のティラーソン家の家長であるウェインから「何かが来る」と意味不明な電話がきます。
翌朝、牛の数が2頭足りないことに気づき、探そうとします。すると家の前に重そうなリュックを背負った女性がふらっと現れ、「アボット牧場を探している」と言います。キャンプにいい場所はないかというので紹介することに。その若い女性はオータムと名乗ります。
ロイヤルたちは消えた牛を探して自分の農地を馬で探し回ります。そこへバギーに乗ったティラーソン家の息子3人、トレヴァー、ルーク、ビリーがやってきます。柵の境界線が食い込んでいると注文をつけてきて、郡の査定官の通知を渡してきます。この農地の一部の所有権を主張しているのです。
今はそんなことを考えている暇はないので、引き続き分かれて牛探しを続行。するとロイヤルはまた謎の気配と音を感じ、巨大な穴を発見します。自然にできたものとは思えない、綺麗な円。底は見えず、モヤが表面に覆っています。石を投げ入れてみるも反応なし。
ひとまず帰ると保安官代理のジョイが来ており、ペリーの妻レベッカの捜索をFBIは打ち切ると報告してくれます。失踪から9ヶ月。他にも周辺では失踪者がいるそうですが、手がかりはゼロです。
一方、夜のバーでペリーがトレヴァーと喧嘩。レベッカを侮辱されてペリーは怒りのあまりトレヴァーを殴り殺してしまいました。
レットとそのトレヴァーの死体をロイヤルに見せると、ロイヤルはひとりでその遺体を処理すると言い張り、密かにあの得体のしれない穴に捨てます。
ところがその姿をオータムに見られました。しかも、オータムはロイヤルをあろうことか穴に突き落としてきて…。
シーズン1:アメリカバイソンの意味
鎌で穴を開き宇宙に裂け目を作って現世と来世を切り離す「クロノス」というギリシャの神の話で始まるこの『アウターレンジ 領域外』。超常現象の中心にあるのは「穴」。ぽっかり空いた穴というだけでなく、それはなんとタイムスリップに繋がる穴でした。
そんな中、本作では第1話から最終話まで「アメリカバイソン」が印象的に登場し、これが本作の土台となるSFの仕掛けを暗示する存在になっています。でも作中で説明はないので前提知識がないと何もわかりません。
一応、簡単に解説すると、アメリカバイソンはアメリカ大陸に普通に生息している大型哺乳類でしたが、1800年代に乱獲によって絶滅の危機に瀕します。その過程では白人入植者たちが先住民を飢えさせるためにわざとアメリカバイソンを殺しまくったという酷い歴史もあります。結果、6000万頭ほどいたと推定されるアメリカバイソンは1890年代にはわずか1000頭にまで激減。1900年代に保護へと転換し、今は徐々に一部地域では個体数が回復しつつあります。
なので本作のようにアメリカバイソンが、しかも矢が刺さった個体がいきなり存在するのは時代的におかしいのです。1800年代ならわかるのですが…。そして最終話ではものすごい数のアメリカバイソンの群れが出現し、それが穴から発生していることが明かされます。ネイティブアメリカンのジョイ・ホークがその光景に茫然としつつも感動している姿が映りますが、それは先住民の旺盛だった時代が目の前に再現されているからです。
この舞台の地域は現在は寂れてしまい夢も希望もありません。ロデオしか娯楽もない。『ザ・ライダー』で描かれるものと同じですね。
そんな地域にとってあの穴はある種の「アメリカンドリーム」の再来。「古き良きアメリカ」が戻ってくるかもしれないという希望となります。油田のようなものがでるようですし、もっととんでもない潜在的価値があるのかもしれない。しかし、そう単純に喜んでいいのか…。
『アウターレンジ 領域外』が描いているのはそういう今の時代ならではの憔悴したアメリカの保守地域の現状と一発逆転のチャンス、そしてその狂気さえ発現させかねない危うさ。つまり、とてもドナルド・トランプ現象を風刺するような物語でもありますね。トランプじゃなくて今作は穴だということです。
シーズン1:続々と明かされるあの人物の正体
『アウターレンジ 領域外』は最初は失踪事件に傷を残す家族の物語ですが、穴を中心にそれはどんどんと引き返しようのない狂気に突き進んでいきます。トレヴァーの死体の隠蔽どころではないほどに…。
人物の秘密も後半で続々と明かされます。以下は核心的なネタバレです。
まずロイヤルは実は1886年の時代の生きていた子どもでした。そこで父をうっかり狩猟中に誤射してしまい、その罪悪感から家に帰れずに、穴を発見。そこに自ら飛び込んで気が付くと1968年。そしてアボット家に拾われ、そこで家長になったのでした。要するに今回の“ジョシュ・ブローリン”は『ヤングライダーズ』の世界から現代に現れたわけですね。
次にオータム。初登場時から謎めいた女性で、やたらとこのアボット家の土地に執着し、アボット家のマークを体に刻んだりとしだいに狂信的な行動に出始めます。オータムのおでこには傷があり、それはエイミーと同じものだとロイヤルは気づき、「オータム=エイミー」だと示唆されます。大人になったエイミーなのか。だとしたら未来からやってきたのか。でもなぜ…?
そのヒントになりそうなのが第2話で描かれる穴に落ちてからロイヤルが見た光景。未来のようで、そこかしこで油田採掘が行われ、なぜか軍隊の警備があり、さらに謎の集団もいる。そこでセシリアは「あなたは死んだの、2年前に亡くなった」と告げる。
何やら意味不明ですが、穴の価値に気づいたことで世界は変わったのでしょうか。オータムはその穴を崇めるカルト的な何かなのか。
そして最終話でやっと顔をみせたレベッカ。エイミーを抱きしめ、「隠れるために行かなきゃいけなかった」と言って、どこかにエイミーを連れて行くレベッカの真意とは…。
ジョイもどうするのでしょうかね。ジョイは同性のパートナーがいて(レズビアンかどうかは知りませんが少なくともサフィックなクィアではある)、娘までいます。でも、あの保守的な地域では表向きは平静ですが、教会のシーンからもわかるように明らかに対等には扱っていない。こういうクィアかつ先住民という複雑なマイノリティ性を扱う西部劇になるとは…。ジョイの活躍も重要そうです。
こんな気になるラストを見せられたら『アウターレンジ 領域外』のシーズン2が欲しくなりますよ。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 80% Audience 75%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon アウター・レンジ
以上、『アウターレンジ 領域外』の感想でした。
Outer Range (2022) [Japanese Review] 『アウターレンジ 領域外』考察・評価レビュー