15代目ドクターです!…「Disney+」ドラマシリーズ『ドクター・フー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2023年~)
シーズン1:2023年~2024年にDisney+で配信
製作総指揮:ラッセル・T・デイヴィス
恋愛描写
どくたーふー
『ドクター・フー(15代目ドクター)』物語 簡単紹介
『ドクター・フー(15代目ドクター)』感想(ネタバレなし)
15代目ドクター、始まりました!
ドクター! 助けて! 『ドクター・フー』の新作の話題が日本では少なすぎるの!
…でも私もわかってる。日本ではそんなに有名じゃないことくらい…。
それでも私は『ドクター・フー』の感想を書き続けるのです。私だけが楽しんでいればそれでいいという気持ちで…。
そんなこんなで、はい、『ドクター・フー』です。
『ドクター・フー』の初歩的な紹介は前回やったので、そちらを読んでください(あんまり基本を説明できていない気もするけど)。
そこでも書きましたが、2023年末から「Disney+(ディズニープラス)」で日本も含めて世界的に新作の『ドクター・フー』が一斉配信されることになり、これまでになく見やすくなりました。『ドクター・フー』をまだ1度も見たことがない初心者の人も、今が『ドクター・フー』の入り口として最大のチャンスです。
ただ、『ドクター・フー』はシリーズ構成が少々ややこしいので、そこを整理しないと混乱します。
まず2023年にスペシャル回(全3話)として「14代目ドクター」が登場しました。その中で「15代目ドクター」も顔見せ。2024年からはこの「15代目ドクター」を主人公にした新シーズンの本格的な開幕です。新シーズンのナンバーとしては「14シーズン(新S14)」となります(シリーズ14と表記する場合もある)。
「15代目ドクター」に大抜擢されたのは“チュティ・ガトゥ”(ンクーティ・ガトワ)。ドラマ『セックス・エデュケーション』でも魅力全開でしたが、今回はシリーズ初の黒人であり、そしてシリーズ初のオープンなクィアです。とにかくエポックメイキングな作品史の塗り替えとなりました。
その“チュティ・ガトゥ”とタッグを組んで一緒に冒険するシリーズ恒例の相棒(コンパニオン)を演じるのは、若手俳優の“ミリー・ギブソン”。ドラマ『コロネーション・ストリート』などこれ以前もキャリアはありましたが、この『ドクター・フー』で完全にブレイクしたでしょうね。
今作はこのドクターとコンパニオンの関係性がすごく良いです。役者自身は10歳ぶんは年齢差があるし、表面上は男女の構図であるのですが、恋愛でも上下でもない対等なリレーションシップを築いている感じが随所で伝わってきて…。眺めていて幸せになれる…。
今回の新シーズンを製作で引っ張るのは、時代を切り開くベテランの“ラッセル・T・デイヴィス”。ドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』、『2034 今そこにある未来』、『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』とクィアな作品を生み出し続けていますが、今作でも当然期待に応えてくれます。
“ラッセル・T・デイヴィス”の製作陣は今回の新シーズン14だけでなく、次の新シーズン15も続投し、“チュティ・ガトゥ”の「15代目ドクター」はしばらく続いてくれそうです。
「Disney+」では新シーズン14が2024年5月から第1話が始まり、全8話となっています。ただし、「15代目ドクター」の登場は前回のスペシャル回(全3話)からなので、余裕があればそちらの鑑賞を推薦します。そして、その直後にクリスマス・スペシャルとして特別回が配信されており、こちらが実質的にはエピソード0とも言える「15代目ドクター」とコンパニオンの出会いを描く始まりの物語となっています。ということで最低限、まずはこのクリスマス・スペシャル特別回「The Church on Ruby Road(ルビー・ロードの教会)」から鑑賞してみてください。
以下の後半の感想では、クリスマス・スペシャル特別回も合わせて、作品のあれこれを掘り下げています。
『ドクター・フー(15代目ドクター)』を観る前のQ&A
A:『ドクター・フー(2023年スペシャル)』のエピソード「スター・ビースト」「ワイルド・ブルー・ヨンダー」「ザ・ギグル」の計3話を観ておくとよいです。
オススメ度のチェック
ひとり | :楽しく気楽に |
友人 | :初心者に薦めて |
恋人 | :同性ロマンスもあり |
キッズ | :少し難解な物語もある |
『ドクター・フー(15代目ドクター)』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
クリスマス・イブの真夜中、ルビー通りの教会に女の子の赤ん坊を置いていったフードの謎の人物。赤ん坊は教会の人に保護され、ルビーと名付けられました。親の姿を見たものはいません。そこにタイムトラベラーが降り立つまでは…。彼の名前はドクター…。
2023年12月1日、19年後のルビー・サンデーは自分の生い立ちを名司会者のダヴィーナ・マッコールのテレビ番組で饒舌に語っていました。DNAで親を探せるかもしれないと言われ、ルビーも期待します。
そのとき、急に照明が倒れ、トラブルが続出します。12月22日にも、ステージで演奏していたルビーは機材トラブルが起きます。その後もやたらと不運が続いていきました。
その姿をドクターは密かに監視し、命の危険レベルの事態から守っていました。
そして12月24日、ルビーは養母のカーラのもとに帰ってきます。カーラの母のチェリーも同居しています。カーラはまた新しい赤ん坊を引き取ることにしたようです。その自分と同じクリスマスイブの新生児にルビーのテンションも上がります。ルルベル(ルル)という名でした。
カーラはルルのためにクリスマスプレゼントを買いに出てしまい、ルビーが留守番で赤ん坊の面倒をみることになります。そんな中、ダヴィーナから電話があり、データベースを照合しても親の手がかりは見つからなかったと言われます。残念ですが仕方ありません。
加えて、何か不運なことが起きてないかと聞かれます。どうやらダヴィーナもあのインタビューから酷い目に遭い続けているようです。そして会話中、クリスマスの下敷きになり…。
ルビーには身に覚えがありません。混乱していると、赤ん坊のルルがゴブリンに誘拐されているのを目撃。ますますわけのわからない事態に、慌てて屋根の上まで追いかけてしまいます。
ゴブリンたちは空からたれてきたハシゴで上へ移動。ルビーも思わず後先考えずに登ります。その瞬間、どこからともなくドクターが屋根から現れ、一緒にハシゴに飛びついてくれました。
インテリジェント手袋でハシゴに固定し、どんどん上昇。雲の上にはゴブリンの船が飛んでいます。
2人は船内で捕まって拘束されました。ドクターのスキルとアイテムで自由になり、船の中を探索。ゴブリンたちは大盛り上がりで宴会の真っ最中です。ゴブリン・キングが登場し、このままでは赤ん坊は食べられてしまいます。
2人はゴブリンたちの前に姿をみせ、歌でノリノリになって誤魔化し、ロープで降下し、家に帰還。
ところがホっとしたのもつかの間、ルビーの存在が消えてしまい…。
新シーズン14:ドクター・クィア
ここから『ドクター・フー』のネタバレありの感想本文です。
さあ、始まりました。15代目の『ドクター・フー』。まず楽しい話からしましょうか。
本作で私がやっぱり楽しみにしていたのはクィアな盛り合わせ。何よりも主人公であるドクターが今回は堂々たるクィアそのものですから。なんとなくクィアっぽいかも…なんて微かな期待で読み取っていたかつての時代はもう終わりにしようじゃないか!という清々しい新時代のオープニングです。
“チュティ・ガトゥ”演じるドクターは足のつま先から頭のてっぺんまで、振る舞いも何もかも全てがクィアに満ち溢れていますが、第6話「Rogue」では1813年のイギリス貴族社交界を舞台に賞金稼ぎのローグとロマンチックかつドラマチックな展開を真正面から描いてくれます(明白な相互恋愛感情をともなうドクターの同性キスはシリーズ初)。この時代では世間から驚かれる男性同士の愛を見せつけてやろうじゃないかという、非常にわざとらしい行動を仕掛けるのですが、本作の姿勢がハッキリでていて良かったです。
ルビーも『ブリジャートン家』みたいとハシャいでいましたが、その対抗馬の『ブリジャートン家』も同時期配信のシーズン3で同性ロマンスを描いてみせてましたけどね。
ローグとの出会いはこのエピソードで急になのですが、たっぷりひとめ惚れのムードを作ってみせているせいか、終盤のローグの犠牲的な別れは切なくて…。また可愛い意地の張り合いを眺められる日が来てほしい…。
もうひとつ本作には大きなクィアのエピソード・アークの軸があります。それがルビーの物語です。ルビー自身がクィアかは現時点でわかりませんが、ルビーの生い立ちはクィアに支えられています。
というのも、ルビーの養母となるカーラ。2023年から2024年時点では独り身のようですが、第2話でルビーが養母はクレアという女性と付き合っていた過去があるとさりげなく語り、第4話ではカーラ本人も男には無縁の人生だったと語っています。なのでおそらく同性愛者なのかなと推察できます。ちなみに第2話でルビーが弾くのは失恋したレズビアンの友人のための曲ということになっていました。
つまり、養子縁組に積極的に協力するゲイ当事者に恵まれてルビーはすくすくと成長したわけです(作中では33人の子どもを育てたと言及される)。
現在、「同性愛カップルが育てる子どもは不幸になる」などと保守的な人たちは反”同性愛”な言説を主張しています。本作はそれに対する力強いカウンターです。
クリスマス・スペシャル特別回ではルビーの存在が消え、カーラの善意までも消えてしまう現象が起きますが、それがいかに幸せな未来を損失することになるか。本作は静かに示唆していました。誰が何と言おうとクィアは幸せを育んでいる。ゴブリンには奪えないのです。
他にも第2話「The Devil’s Chord」の1963年のロンドンにてビートルズやシラ・ブラックなどのアーティストから音楽愛を奪ったマエストロ。代名詞は「they/them」で、演じるのはトランスフェムでドラァグクイーンの“ジンクス・モンスーン”。“ラッセル・T・デイヴィス”製作の『ドクター・フー』のトイメーカー系ヴィランはいっつもキャンプ全開で愉快でいいな。ドラァグを元ネタにしたヴィランは他作品でも見られるけどドラァグ当事者を起用することはなかなかないですが、当事者に演じてもらったらこんなに楽しいじゃない?っていうお手本。
第7話からUNIT本部で勤務している顔の中に、前回の14代目ドクターで登場した“ヤスミン・フィニー”演じるトランスジェンダー女性のローズも登場。また会えて嬉しいです。それ以外にも、クィアな俳優が演じているキャラはいくつもでてきています。
こんな感じで本作はクィアに困りません。LGBTQ表象を視聴者に探させることなく、明快に物語やキャラの核とする。それを有名作のタイトル下でやってくれるから最高なのです。
新シーズン14:普通でもじゅうぶん
クィアで選り取り見取りな15代目の『ドクター・フー』ですけども、シリアスな方面では昨今の政治情勢を反映させながらの社会批評も鋭さを持ち合わせています。
第3話「Boom」では、近未来のIT企業とアルゴリズムに支配された戦争の恐ろしさで私たちの足を止めます。生成AI時代を迎える現代の私たちにとって、全く荒唐無稽と言えないリアルがありました。
第4話「73 Yards」では、フォークホラーが始まったかと思いきや、2046年に時代は流れ、イギリス総選挙でロジャー・アプ・グウィリアムが圧倒的に支持される社会を漠然と眺めつつ、いかにこの世界は過激な主義を黙認してしまうのか…そういう無関心の怖さを映し出します。
第5話「Dot and Bubble」では、リンディ・ペッパービーンという主人公が、文字どおりバブルのフィルターの中で悠々自適に生活する中、ドクターとルビーは人食いナメクジの危険を知らせようと奮闘します。しかし、白人特権階級のデジタル空間しか知らない者たちは、ドクターの肌の色に不信感を示し、自ら警告を無視して破滅に進みます。非常に人種差別のおぞましさも染みでるゾっとするプロットでした。
そんな新シーズン14の終盤を飾る大物ヴィランは、死の神「スーテク」。時空規模の犬の散歩みたいなやり方で倒しましたが、まあ、『ドクター・フー』らしいと言えばらしいけど…。
それよりもこの終盤のエピソードではいよいよずっと謎を引っ張ってきたルビーの母親の正体が明らかになります。その答えはごく普通の女性(ルイーズ・アリソン・ミラー)。特別な出自は何もないものでした。
これは製作の“ラッセル・T・デイヴィス”いわく、『スター・ウォーズ』新三部作のレイの親の正体を意識したアプローチだそうで、今回の『ドクター・フー』では「平凡だった」という事実だけでもじゅうぶんその当事者にはドラマチックでしょ?という味わいがあり、とても良いエンディングだったと思います。なんで『スター・ウォーズ』にはこのオチができなかったんだよ、本当に…。
こうしてひとまず幕を閉じたシーズン。ちゃんと若いルビーの主体性を尊重するドクターの当然の人権意識に安心しますが、でも旅は続く。隣人のフラッドの怪しい第4の壁突破もありつつ、次回のクィアな冒険も待ち遠しいです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
◎(充実)
作品ポスター・画像 (C)BBC ドクターフー15
以上、『ドクター・フー(15代目ドクター)』の感想でした。
Doctor Who (2024) [Japanese Review] 『ドクター・フー(15代目ドクター)』考察・評価レビュー
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