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『FREAKS フリークス 能力者たち』感想(ネタバレ)…アイスが欲しかった

FREAKS フリークス 能力者たち

アイスが欲しかった…映画『FREAKS フリークス 能力者たち』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Freaks
製作国:カナダ・アメリカ(2018年)
日本公開日:2020年1月12日
監督:ザック・リポフスキー、アダム・B・スタイン

FREAKS フリークス 能力者たち

ふりーくす のうりょくしゃたち
FREAKS フリークス 能力者たち

『FREAKS 能力者たち』あらすじ

父と2人で暮らす7歳の少女クロエは、外の世界は危険だと厳しく教えられ、一切外に出ることなく家の中だけで過ごす寂しい毎日を送っていた。そして、その退屈な暮らしに不満を溜めこむ中、ある日、父が眠っている隙に家を抜け出す。家の前に停まっているアイスクリームトラックの老人に声を掛けられたクロエは、意外な世界の真実を知る。

『FREAKS 能力者たち』感想(ネタバレなし)

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新鋭監督の能力を垣間見る

特殊能力を手に入れるならどんな能力がいいですか?…これはまあ定番の質問ですが、何のリスクもないと仮定するならば何だって思いつきます。怪力、空を飛ぶ、瞬間移動、時間停止、テレパシー、透明化…このあたりは定番。私は分身をして映画を複数作同時に鑑賞できると効率的でいいなぁ…。たまに2本3本同時視聴する人の話を聞きますけど、私にはそんな芸当、とてもじゃないけど無理です。

そしてリスクがないと仮定…なんて書きましたけど、実際デメリットがないわけないんですよね。だから葛藤が、苦悩が、対立が生まれる。迫害されたり…。ほんと、世の中、よくできている。いや、よくできていないか、どっちなのか。

分身して映画でも見ようものなら、きっと映画の評価をめぐって自分の中で肯定派vs否定派の戦いが起こってやがて精神が壊れるんですよ、たぶん。なんて惨めなシネフィルの末路なんだ…。

ということで今回の紹介する映画もそんな特殊能力に関係するシロモノです。それが本作『FREAKS フリークス 能力者たち』

邦題が相変わらず過剰に説明ぎみですが、原題は「Freaks」。「freak」は奇人とか要するに異常な変わった人を指すもので、侮蔑的なニュアンスを含むので、あんまり普段は使うのは遠慮したい単語です。

『FREAKS フリークス 能力者たち』はおそらく超マイナーな作品なので内容を少し知りたいと思うでしょうが、でもシンプルなのです。能力者の物語。具体的にどういう能力なのかは秘密にしておく方が面白いと思うので書きませんが、とある家族が主人公。個人的にはこれ以上のネタバレはオススメしません。じんわりと世界観が明らかになっていくタイプのストーリーなので。

日本のポスターはやたらと仰々しい大作アクション映画風になっていますが、そういう映画ではなく、非常にスケールの小さい舞台です。インディーズ映画なので予算に見合った範囲という感じ。でもチープな出来ではありません。それどころかこれが実に巧妙にできており、限られたリソースの中でいかにして面白くみせるかという創意工夫に満ち溢れており、製作陣の能力の高さを感じさせます。ジョシュ・トランク監督の『クロニクル』(2012年)とか、そういう系列ですね。そういえば『ドクター・スリープ』も能力者モノだった…。

その『FREAKS フリークス 能力者たち』の創作者が監督である“ザック・リポフスキー”“アダム・B・スタイン”です。もともとスティーブン・スピルバーグとマーク・バーネットがプロデュースした「On the Lot」というクリエイターを見いだすリアリティショーで発掘された逸材。そのとき審査員だったキャリー・フィッシャー(女優)やゲイリー・ロス(監督)も称賛し、業界で注目の的になりました。

その“ザック・リポフスキー”と“アダム・B・スタイン”は2019年もディズニーチャンネルのオリジナル映画『キム・ポッシブル』を監督し、確実にキャリアを伸ばしているのですが、二人が2018年に作った長編監督作がこの『FREAKS フリークス 能力者たち』です。

今のハリウッドの傾向を見ているとこの二人もいつ大作映画デビューしてもおかしくないですね。注目しておくにこしたことはないでしょう。

出演している俳優陣は、まず『ジェーン・ドウの解剖』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも印象的に活躍していた“エミール・ハーシュ”。メインキャラのひとりです。そして『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』で素晴らしい名演を披露した“ブルース・ダーン”。彼もかなり重要な役どころ。

ただ一番の最重要キャラクターを演じるのは“レクシー・コルカー”という子役の少女。これから才能を輝かせるのか、見逃せない怪演で存在感を放っています。

他にも、ドラマ『シリコンバレー』の“アマンダ・クルー”や、韓国系カナダ人女優の“グレース・パク”も共演。とくに“グレース・パク”は物語上の立ち位置もあってなかなかに凄みがあり、惹きつけるものがあります。

マニアックなSF好きならば気楽に楽しめるでしょう。鑑賞しても能力が開花することはありませんが、スッキリはすると思います。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ユニークなSFを楽しんで)
友人 ◯(マニアなSF好き同士で)
恋人 ◯(マイナーな映画を観るなら)
キッズ △(結構、人が残酷に死にます)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『FREAKS 能力者たち』感想(ネタバレあり)

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アイスが欲しい

『FREAKS フリークス 能力者たち』は観客への情報の明かし方が丁寧で、少しずつ世界観を読み解いていく楽しさがあります。

まず冒頭。ひとりの少女が窓から外を覗いています。その少女がいる家は妙に散らかっており、とくに異様なのが窓がカーテンで密閉されて外が見えないようになっているところ。少女はその隙間から外の世界を見ます。そこはどうやら普通の昼間の住宅街で、家の前の道路にはアイスクリームトラックが止まっています。しかし、何かが変です。空を飛ぶ鳥が動いていないような…。

しかし、すぐに男が少女を叱ります。クロエという少女を怒るその男はどうやら父親のようです。「悪い奴らに見られる」と言い聞かせる父ヘンリー・ルイス

一見するとまるで親から虐待でも受けて軟禁されているように思えます。また、その直後、クロエは「自分の名前はエレノア・リード」「母はナンシー、姉はハーパー」と完全に嘘のプロフィールを暗唱しており、わざわざ質問への回答訓練までしています。「話を作れ、嘘をつけ」とここまでまだ幼い少女に父が教え込むのは異常です。こうなってくると何かヤバい事件に巻き込まれ、父であるこの男は傍にいて守ってあげられない状態になるのを予期しているのか…。

さらに謎は増えます。父は目から出血しだし、クロエも「私も血が出る?」と心配。そして「お前は普通じゃない!」と高圧的に言われても耐えて平然とするという意図のよくわからない訓練までしています。

しかし別の謎も追加で投入。クロエはポロっと「山」に関する話をし、「山について話したことはないぞ」とこれまた怒る父。なにやらクロエに外の情報を見せるのはかなり制限しているようです。ところがこの「山」。ただの山ではなく、最後まで鑑賞した方はわかるように、とても重要な場所の「山」なのでした。

夜、物音を聞くクロエ。不安そうに懐中電灯を持って音のした場所に接近し、ドアを開けると広めのクローゼットの中に誰か女性のような人間がいます。幽霊に消えろと念じる怯えきったクロエ。後で父と確認するも何もいません。この時点だとクロエは「幽霊が見える」能力なのかなとも思いますよね。

恐怖を経験したクロエが目覚めると、玄関ドアの郵便受け口から何かが投入されるのを目撃。それは「Mr. Snowcone」と描かれた手作りな飛び出す絵本。それはまさに外で見たアイスクリームトラックのものでした。思わずまた窓から外を見て「アイスクリームを持ってきて、ハーパー」と「please」を連呼してお願いするクロエ。なんとも可愛らしい光景なのですが…。

ドンドンとドアを叩く音。なんと少女が本当にアイスを持ってきたではありませんか。ただやっぱり変です。何かに操られているのか、チョコアイスが溶けて手がベタベタな状態でも一切気にせずに差し出しています。それでも受け取ろうとした瞬間、父が血相を変えてやってきて止められます。そこへそのアイス少女ハーパーの親らしいナンシーという女性もやってきます。なんとかその場を誤魔化し、家に引っ込める父。

ここでわかるのは冒頭のクロエの嘘プロフィールは真っ赤な虚偽ではなく、向かいの家に住んでいる“リード”一家の話だったということです。そしてクロエの能力は「人を操れる」というものなのか…。さらに父親はそんな娘の能力を全然把握してもいないらしく…。

「外に出たのか?」と疑われ、罰でクローゼットの中に閉じ込められるクロエ。するとなぜか先ほどのハーパーという少女が横で眠っています。寝ぼけているのか意識はぼんやりしており、クロエの「ママになれ」という要求に身を任せつつ…。

どんどん強気になり、父への反抗心を増していくクロエは、アイスクリームトラックの中には凍った子どもがいるという父の脅しも通用せず、アイスを要求。根負けした父はアイスを買ってくると約束し、外へ出かけます。

しかし、父がいきなり帰ってきたかと思えば、服は血まみれで、追われているかのように大慌て。買い物カートを放置して怪我の治療をし始めます。けれどもアイス以外眼中にないクロエは、買い物カートの中にアイスないことに激昂。出血のせいか気を失った父。

クロエは意を決して外の世界へ自ら足を踏み出すことに。ただアイスが欲しい。それだけでしたが、そこに待ち受けていたのは少女の頭では想像もできない世界の真の姿で…。

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頑張れ、レイ捜査官

『FREAKS フリークス 能力者たち』はスケールの管理がとてもスマートです。いよいよクロエが外の世界に飛び出したとき、大方の観客は「お、ここから一気に物語が広がるのかな」と期待しますが、それは予想外の事態と謎の発生でお預けとなります。それこそエンディングまで。

この世界の詳細はわかりません。クロエが聞いたニュース映像からは、どうやら「フリークス」と呼ばれる特殊能力を持った人がこの世界に突如出没。世界はこのフリークスとどう向き合うかで対立しているらしく、危険視して排除しようとする者もいれば、研究材料として有効活用しようとする者まで。とにかくアブノーマルな集団として特殊扱いされているのは事実で、専門の取り締まり部隊もいるようです。なんか『プロメア』みたいな世界ですね…。

ただこの作品ではそこまで世界という大舞台で暴れまわるものではなく、ずっとあの家を中心に展開します。それはもちろん予算上の都合が大きいのでしょうけど、これがまた能力を活かして上手く演出していました。

とくに後半にかけてはクロエの「空間を一部共有化する」という能力が大活躍。遠く離れた拘束された母とシンクロし、そこでの脱出を援護しながら、今まさに家に突入しようとしている戦闘部隊にも対処しなくてはいけない。この緊迫したサスペンスはなかなかに見物。序盤では想像もつかない大激闘です。

父ヘンリーの時間停止能力も、単純に攻撃と止めたり、危険を回避したりだけではなく、クロエの成長にまで関わってくるあたりが新鮮(時間停止した家でずっと暮らしていたので外界では数か月でも家では7年間経過した)。

あえてツッコむとすれば、あの家族、本気を出してチームを組んだら最強すぎやしませんか。もう隠れる必要がないくらい敵なしじゃないですか。アイスクリーム屋の祖父の透明化はあまりバトル応用は効かないですけど、ヘンリーの時間停止、クロエのマインドコントロール&空間共有、そして母メアリーの飛行スキル。アベンジャーズもびっくりですよ。

まあ、もしかしたら対フリークス用の兵器があるのかもしれませんけどね。それにしてもあのレイ捜査官の只者じゃないオーラは良かったです。言ってしまえば悪役にあたるのですが、普通に考えればあの家族に勝てるわけがない(案の定、無残に殺されてしまいますが)。でもレイのあの毅然とした存在感があるおかげで、常に緊張感が漂います。私はもしかしたらこのレイも実は能力者なんじゃないかとひやひやしました…(それでも良かった)。

私の中の勝手なエピローグでは、あのドローンによるヘルファイアミサイル爆撃で爆散した家のがれきからムクッと起き上がるレイ捜査官の姿でエンドですよ。

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最強チート少女クロエ

『FREAKS フリークス 能力者たち』を一番に引っ張るのは最強チート少女クロエです。

私はクロエというキャラにおいて好きなのは、親にベタベタな甘えっ子では決してなく自立しているという部分。そもそも今回の家出トリガーとなるのも「アイスが食べたい」という衝動なんですよね。凄いですよ、このアイス・ガール。でもこういう子どもの「欲しいものに対する執念」は親経験のある人は痛いほどわかりますよね。私も小さい頃はわがままを言って親を困らせたなぁ…。

一方でその年頃らしい甘えもある。母親への強い衝動は人一倍ですが、ただここでもあの「愛していると言え!」というヤンデレの具現化みたいな行為といい、とにかく危うい感じが本当にハラハラします。

スペシャルなジュースをプレゼントする作戦があっけなく失敗するあたりは、すごく子どもらしい稚拙さで可愛いのですけど。

この残酷性と愛嬌が同居する感じ、最近でいうところの『ブライトバーン 恐怖の拡散者』のあの主人公少年をすごく連想させます。ほぼほぼ同じです。もうこれはあの少年とクロエでカップルになるか、激突するか、そのクロスオーバーがみたいです。絶対に面白い。

外の世界を知り、自分がどう見られるかを自覚したことで幼年期とは別れを告げたクロエ。「フリーク」と軽蔑されるたび「フリークじゃない!」と否定し、やがては隠れるのをやめて自らの普通さを示すかのように世界に飛び立ちます。これからは母と一緒に次なる試練を挑むのです。

なんかこうドラマシリーズでいいので、物語を続けてくれないかな。

『FREAKS フリークス 能力者たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 86%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 ABNORMAL DEFENSE FORCE INC. 2018 RELIANCE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS 12 LIMITED

以上、『FREAKS フリークス 能力者たち』の感想でした。

Freaks (2018) [Japanese Review] 『FREAKS フリークス 能力者たち』考察・評価レビュー