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ドラマ『キャシアン・アンドー<シーズン2>』感想(ネタバレ)…銀河でも戦争は政治だ  

キャシアン・アンドー シーズン2

そして虐殺だ…「Disney+」ドラマシリーズ『キャシアン・アンドー』(シーズン2)の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

この感想はドラマ『キャシアン・アンドー』の「シーズン2」のものです。「シーズン1」の感想は以下の別記事にあります。
原題:Andor
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
原案:トニー・ギルロイ
性暴力描写 人種差別描写 恋愛描写
キャシアン・アンドー(シーズン2)

きゃしあんあんどー
『キャシアン・アンドー』シーズン2のポスター

『キャシアン・アンドー』(シーズン2)物語 簡単紹介

自分を育ててくれた大切な人の反抗の意思を受け継ぎ、銀河で強大な権力を拡大している帝国に対するレジスタンスに身を投じることにしたキャシアン・アンドー。仲間と協力しながら、一歩間違えれば敵に捕まってしまう極限の緊張の中、潜入工作活動に専念する日々を送っていた。一方で帝国も各地で沸き上がる抵抗の火花を観測しつつ、あらゆる手段で支配しようと画策する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『キャシアン・アンドー』(シーズン2)の感想です。

『キャシアン・アンドー』(シーズン2)感想(ネタバレなし)

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「スター・ウォーズ」はもともと政治的だ

シーズン2、待っていました…!

なにがってこの『キャシアン・アンドー』のことです。

『キャシアン・アンドー』のシーズン1を観たときの私の大興奮はシーズン1の感想で書いているのでそっちを見てもらうとして…。当初からシーズン2も制作が決まっていてセットで企画・撮影されていた本作ですが、絶対に期待を裏切らないだろうなというのは確信していました。あれだけのクオリティを前シーズンで見せられてしまうとね…。

「“スター・ウォーズ”に政治思想の話を持ち込むな」なんて戯言がいまだにネットのどこかから聞こえてくることがありますけど、『スター・ウォーズ』はそもそも政治が欠かせない作品です。なにせ『スター・“ウォーズ”』です。「戦争(war)」の話なのですから、当然、政治が背景にあります。

“ジョージ・ルーカス”は最初の3部作はレジスタンスを主役にし、政治権力を打倒しようとする抵抗運動に身を捧げる者たちを描きました。プリクエル3部作映画では、関税率を巡っての宇宙規模の対立に最初は言及され、しだいに民主主義がファシズムへとすり替わり、最終的に巨大な独裁帝国が誕生するさまを描いていますThe Mary Sue

2022年に始まった『キャシアン・アンドー』はその『スター・ウォーズ』における「政治」の部分をとことん極めきって描き抜くという、非常に挑戦的なドラマシリーズでした。

2025年配信開始のシーズン2も非常に硬派なポリティカル・スリラーはそのままにさらに研ぎ澄まされています。帝国主義、そして植民地主義の非道さを描くという点に関して、これはもうフィクションではありません。ただでさえ、2025年もイスラエルによるガザなどパレスチナでの虐殺が陰惨に置き続けているわけで…。『キャシアン・アンドー』のシーズン2を観ていると、その現実と重ねるなというほうがはるかに無理で、フラッシュバックさえしてくる…。

もちろん使われている武器はブラスターだし、ドロイドがでてきたりするし、絵柄はいつもの『スター・ウォーズ』です。夥しい出血や残酷な人体破壊の描写もないです。

でもきっちり「恐ろしい」という感情を刻ませるんですね。それだけ政治的暴力性から逃げずに作品を作りこんでいる証拠だと思います。

『キャシアン・アンドー』のシーズン2は全12話で、3話ずつで大きなまとまりがあり、実質的には4本の映画があるような、とんでもなく贅沢な構成です。

いつかこのドラマを劇場で観てみたいなぁ…。

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『キャシアン・アンドー』(シーズン2)を観る前のQ&A

✔『キャシアン・アンドー』(シーズン2)の見どころ
★徹底的にリアルに描き抜かれた帝国主義と植民地主義の非道さ。
★それぞれの抵抗者たちの生々しい感情と心理。
✔『キャシアン・アンドー』(シーズン2)の欠点
☆みんなの人生の結末が察せてしまうのが悲しい…。

鑑賞の案内チェック

基本 性暴力が一部のシーンで描かれます。PTSDなどのトラウマの描写もあります。
キッズ 3.5
全体的にやや大人向けの話です。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『キャシアン・アンドー』(シーズン2)感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

モーラーナ星系の自由交易区フェリックスで民衆が帝国の支配に怒り、決起した出来事から1年後。

サイナーの帝国のテスト施設73でキャシアンは整備士のニヤの協力で新しいテストパイロットとして潜入していました。目的は最新試作戦闘機を奪取することです。ニヤはキャリアを捨てる賭けに緊張しているようでキャシアンは優しく落ち着かせます。

「帝国に勝利は渡せない。自分に忠実に生きるんだ。君は恐怖を乗り越えた」

戦闘機に乗り込み、起動。発進のつもりが後退してしまい、激しく壁にぶつかります。大騒ぎでトルーパーも駆けつける中、なんとか格納庫シャッターを強引に武器で破壊して外へ。離陸できずにあたふたしつつも敵機の攻撃を寸前で回避し、敵に追われつつ、相手を瓦礫で倒し、飛び立つことに成功します。

その頃、外縁部のミーナ=ラウという星では、フェリックスでのキャシアンの親友ビックスブラッソウィルモン、ドロイドのB2EMO(ビー)たちが移住して隠れていました。普段は農業を手伝って、帝国に目立たないようにしています。キャシアンは反乱工作に参加し、今はここにいません。心配ですが、待つしかできませんでした。ビックスは以前に受けた拷問がトラウマになっており、ときおり悪夢を見ます。

ところかわってパルパティーンが実質的に統治する帝国に政治的に対抗する元老院議員のモン・モスマの私有地シャンドリアでは、モン・モスマの娘のリーダの結婚式が行われ、大勢の客人たちが集っていました。そこに反乱工作組織のリーダーで古物商としての仮の姿で合わせ持つルーセン・レイエルが現れ、彼もキャシアンを気にかけていました。連絡はまだないのです。ルーセンの腹心の部下のクレヤも立ち回って情報収集にあたっています。

一方、マルティーン・ディヴァイドでは、帝国の上層部の責任者であるオーソン・クレニックが秘密の会議を行っていました。フェリックスの決起を目の当たりにした帝国保安局のデドラ・ミーロも参加しています。

この会議の議題は鉱物資源が眠るゴーマンという惑星です。帝国は資源のためにこのゴーマンを支配したいと考えていますが、地元のゴーマン人たちはそう簡単に帝国に屈しないことは明らかでした。反帝国を掲げて裏で活動している者たちもいるようです。

さまざまな意見がだされますが、デドラは反帝国活動者を炙り出し、帝国が支配する口実に利用する策を提案します。

こうして帝国は暗躍していくことに…。

この『キャシアン・アンドー』(シーズン2)のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/05/16に更新されています。
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シーズン2:「虐殺」と告発すること

ここから『キャシアン・アンドー』(シーズン2)のネタバレありの感想本文です。

『キャシアン・アンドー』は前シーズンから一貫して植民地主義の恐ろしさを突き付けてきましたが、シーズン2はそれが極致に達しました。

第1話~第3話の主な舞台であるミーナ=ラウでは、元フェリックス民であるビックスたちはいわば「不法移民」とレッテルを貼られる立場と同じであり、帝国のやり口は完全に現実社会の移民難民の弾圧と変わりません。

さらにビックス(演じるのは“アドリア・アルホナ”)は帝国士官から性的加害に遭い(ビックスの口からハッキリと「レイプ」という訴えの言葉もでてくる)、戦時中もしくは難民時の性暴力というこれまた現実の問題が生々しく躊躇なく描かれるのも、作り手の本気が伝わってきました。

そして今作の帝国は単なる軍隊というだけでなく、植民地主義を実行する組織として非常にリアルに内情や戦略が映し出され、その細部のディテールがまた説得力を与えてもいたと思います。メディアによる印象操作などプロパガンダ・キャンペーン…とくに「物語」を作って大衆を掌握し、同時に大衆の政治的無関心も上手く利用する…。これも現実と同じ。

そこからの第8話のゴーマンで本作はピークを迎えます。虐げられる側の当事者の抗議運動は「分断を煽る危険因子」とみなされ(実際に分断を煽ったのは権力側なのですが)、そしてついに帝国は「物語」の転換点を作ります。地元民は社会秩序を乱す敵対者であったという筋書きを…。

第8話のラストのラジオから流れる「これは虐殺。殺戮だ。助けて…」という悲痛な叫び。これまでの『スター・ウォーズ』はデス・スターの攻撃で一瞬で星が滅んだり、非人間種族が犠牲者だったりして、あまり生の声が伝わりづらかったわけですけども、メタファー抜きで直球で描き抜きましたね。

さらにこれで終わらず、第9話がまた名エピソードです。この回はモン・モスマ(演じるのは“ジェネヴィーヴ・オーライリー”)が主人公であり、権力の横暴を前に「黙らないこと」の意味を示します。「客観的現実が失われ、真実が死んだ時、悪が勝利を収める」と演説し、ゴーマンで起きたことを「正当な理由なき虐殺(ジェノサイド)」と定義し、「パルパティーン皇帝」と権力の首謀者を名指しする。シーズン1でマーヴァがやってみせたことをより政治の中心で実行したわけですが、この行為の困難さ…今の現実を噛みしめてしまう…。

『スター・ウォーズ』は実のところ、初期3部作でもプリクエル3部作でも常に植民地主義による人権侵害を下地に世界観が構築されていたのですけども、世界観があまりに見どころありすぎて、そのエンターテインメントの眩さに目移りして忘れそうになってしまいがちでした。

それに対して『キャシアン・アンドー』は、ほんと、「これが“スター・ウォーズ”の神髄だ」と証明してみせるような作品で、このドラマがあるおかげで、『スター・ウォーズ』全フランチャイズ作品の質が数段跳ね上がってみえるくらいの功績を残したのではないでしょうか。

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シーズン2:「希望」の重みが変わる

『キャシアン・アンドー』のシーズン2は前シーズンで象徴的に使われていたあの鐘の音とともに1年ずつ進みます。抵抗のカウントダウンです。

アニメ『スター・ウォーズ 反乱者たち』で描かれたようにこの時期にはジェダイ組も密かに活動しており、抵抗運動に貢献はしているのですが、『キャシアン・アンドー』はあくまで市井の人々が主役です。そこが本当に良いところです。

光る剣を振り回せばヒーローになれるわけじゃない。選ばれし者がふらっと現れてたちまち解決してくれるわけでもない。キャシアン(演じるのは“ディエゴ・ルナ”)だって、メッセンジャーとは言え、普通の男です。K-2SOみたいな愛嬌のあるロボットに好かれる男だけど。

誰でもこの抵抗に加わることはできる。ただし、覚悟さえあれば…。

本作は抵抗運動をヒロイズムに安易に描いておらず、その闇深い部分すらも隠さずに曝け出してきます。「革命は正気ではいられない、使い捨てだから、俺たちは燃料だ」と陶酔的に言い放つソウ・ゲレラの信条はわかりやすい極端さですが、本作の顔はやはりルーセン・レイエル(演じるのは“ステラン・スカルスガルド”)。

このルーセン、シーズン1の頃からかなり嫌な奴というか、下手したら皇帝並みに酷い存在じゃないかと思わせるほどに他者を道具として扱ってきます(服装もなんかダークサイドだし)。でもルーセンの本質が浮かび上がる第10話…結構他と比べると地味な回ですけど、本作のテーマ上の重要なエピソード立ったと思います。

つまり、ルーセンは元帝国軍曹で加害者側だったわけで、そんな彼がトラウマを負いつつ、己の犠牲も躊躇わず、実行したこと…それは「社会構造を根本から変えないといけない」ということです。ちょっと反省しました…程度ではダメ。抵抗というのは気軽な反発心の捌け口では片づけられない。抵抗運動もまた人を疲弊させ利用するし、人権が守られる世界のために自分や他人の人権を捨てることも覚悟しないといけない。そこまでやって初めて社会が根元から変わるんですね。

個人的にデドラ(演じるのは“デニース・ゴフ”)とシリル(演じるのは“カイル・ソーラー”)の存在も良かったです。あの2人は帝国の規範からはわりと外れており、異端なのですが、シリルはゴーマンで帝国の蛮行に倫理を揺さぶられたまま死を迎え、デドラは権力が己の居場所と信じすぎるあまり、最後は収容されるという、「規範から外れた女性が精神科病院に送り込まれる」結末の犠牲者となりました。

たぶんデドラとシリルはほんの少し運命がズレていれば、抵抗運動に加わっていたかもしれない逸材なんだと思います。些細な道の分岐点。ルーセンとデドラ&シリルの差は意外に小さなものかもしれません。

だからこそルーセンの言葉を借りますが、今この瞬間を考え抜いて「自分で選択しろ」ってことですよね。それが自由。

最終的に『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』に繋がるので、当然、多くの抵抗運動に身を投じたキャラクターが亡くなります。ブラッソを失い、シンタも失い(ヴェルとのレズビアン・ロマンスはシーズン2ではより明確に描かれ、2019年の『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』で背景キャラの女性同士のキスから飛躍的に表象は進歩しました)、ルーセンも亡くなる…。ヴェル、クレヤ、ビックスなどのリタイア組も残された者として辛い運命が待っていますけども…(B2EMO、元気でね…)。

『キャシアン・アンドー』、「希望」の重みが変わる…良い『スター・ウォーズ』でした。

子どもの頃に観ていたら「全然面白くないな、このスター・ウォーズ」って思っていたと思うのです。あらためて今の年齢でこの『キャシアン・アンドー』に出会えて良かったなと実感しました。

「勝つために負ける」…この言葉を胸にしばらく私も抵抗の火を燃やし続けることができそうです。

『キャシアン・アンドー』(シーズン2)
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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作品ポスター・画像 (C)Lucasfilm キャシアンアンドー

以上、『キャシアン・アンドー』(シーズン2)の感想でした。

Andor (2025) [Japanese Review] 『キャシアン・アンドー』(シーズン2)考察・評価レビュー
#スターウォーズ #ディエゴルナ #ステランスカルスガルド #ジェネヴィーヴオーライリー #植民地主義 #レジスタンス #レズビアン