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『THE QUAKE ザ・クエイク』感想(ネタバレ)…ノルウェーでも地震映画はやはり怖い

THE QUAKE ザ・クエイク

ノルウェーでも地震映画はやはり怖い…映画『THE QUAKE ザ・クエイク』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Skjelvet
製作国:ノルウェー(2018年)
日本公開日:2019年4月26日
監督:ヨン・アンドレアス・アンデルセン
自然災害描写(地震)

THE QUAKE ザ・クエイク

ざくえいく
THE QUAKE ザ・クエイク

『THE QUAKE ザ・クエイク』あらすじ

ノルウェーのガイランゲルを襲った巨大津波から3年。地質学者のクリスチャンは、救えなかった人々がいることへの自責の念にかられ、前向きに人生を送ることもできずに、家族とも距離を置いていた。ある日、不慮の事故で亡くなった知人の研究者が残したデータから、クリスチャンは新たな地殻変動の予兆をつかむが…。

『THE QUAKE ザ・クエイク』感想(ネタバレなし)

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今度は地震だ

日本漢字能力検定協会が毎年発表している今年の漢字。2018年は何だったか覚えていますか?

「災」でした。

2018年は地震や異常気象による自然災害が日本で多発。いろいろと被害を受けたり、不安な気持ちになった人も多い年でした。でもすっかり忘れてしまった人も少なくないのではないでしょうか。ただでさえ“令和”の新元号に切り替わり、リセットした感覚が強いですから、たとえ1年前のことでも記憶の山に埋もれてしまったかもしれません。

皮肉なことに自然災害は起こった瞬間は強烈にインパクトを残すわりには、時間とともに急速に風化し、また忘れきったあたりでドカンと新たな自然災害が襲ってくるのですよね。嫌がらせにもほどがありますが、これに対処する手段はひとつだけ…“常に警戒心を持つこと”です。

そんなとき、(私はもう腐るほどこれを書いていますが)映画を観ることで危機意識を回帰させることができます。行政の広報や避難訓練、災害発生日の黙祷よりも、はるかに効果的だったりするのが、災害を題材にした映画です。

ただ、日本では自然災害をダイレクトにテーマにした映画が少ない(間接的に扱ったものはありますが)ので、素材不足に困ったりします。

でも大丈夫。ぴったりの映画がノルウェーから届きました。それが本作、その名もストレートな『THE QUAKE ザ・クエイク』です。

ノルウェーという北欧の国の製作する自然災害映画というのも珍しいのですが、実は『THE QUAKE ザ・クエイク』は続編モノでこれで2作目となります。1作目は『THE WAVE ザ・ウェイブ』という映画で、公開当時はノルウェーで歴史的な大ヒットを記録し、本国の映画館が盛り上がりました。

1作目の『THE WAVE ザ・ウェイブ』は津波を描いた作品なのですが、その起きる原因がノルウェーらしいというか、少し日本には馴染みのないものです。それは、岩盤崩落による湖での大規模津波。そのため、災害大国である日本人の目で見ても、かなり新鮮な恐怖があります。私もあらためて災害はどこでどう起こるかわからないものなんだなという気持ちを強くしたものです。

この1作目の『THE WAVE ザ・ウェイブ』でメガホンをとった“ローアル・ユートハウグ”監督はこの後にハリウッドにピックアップされて、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の監督をつとめています。

そして『THE WAVE ザ・ウェイブ』の続編である『THE QUAKE ザ・クエイク』。今度は王道というか、ズバリ“マグニチュード8の巨大地震”に襲われます。

監督は前作と違っていて、『特捜部Q Pからのメッセージ』(これも素晴らしい北欧映画シリーズのひとつ)で撮影を担当した“ヨン・アンドレアス・アナスン”にバトンタッチ。といっても、前作の雰囲気をそのまま引き継いでいるので安心を。ハリウッドのディザスター映画は基本エンタメに走ることがほとんどですが(最近だと『ワイルド・ストーム』とか)、北欧映画である『THE QUAKE ザ・クエイク』は真面目に“もし自然災害が起きたら”をシミュレーションした真剣なドキュメンタリーテイストの映画です。

とくに前作を観ておかないとストーリーについていけないことがあるわけではないので大丈夫ですが、主人公が共通しているので、より物語に入り込むなら事前の鑑賞も良いでしょう。

災害はいつくるかわかりませんからね。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(じっくり集中して楽しめる)
友人 ◯(ディザスター映画がお望みなら)
恋人 ◯(ディザスター映画がお望みなら)
キッズ ◯(災害シーンなどシリアス多め)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『THE QUAKE ザ・クエイク』感想(ネタバレあり)

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滅多に起こらないからこそ

本編の話に入る前に、ノルウェーの地震事情について少し調べてみました。

作中でも部分的に説明がありましたが、そもそもノルウェーでは滅多に大規模地震は起こりません。最も最近に起こった巨大地震は、今から100年以上も前の1904年。オスロフィヨルドで起きたマグニチュード5.4の地震。ただこれも建物に被害は起きた記録がありますが、死者は1名のみ(それも心臓発作)。それより前となると、1819年1759年に同規模の地震が発生しているようです。

どれも致命的な死傷者を出していない理由は、ノルウェー自体が人口密度も低く、そこまで人工物が密集していないからかもしれません。

これだけ巨大地震が起こらないノルウェーを見ていると、しょっちゅう地震に見舞われる日本としては羨ましくなるし、日本の危険性が際立ちますね。

それでも地震の危険性がないわけではなく、スカンジナビア半島特有の粘土状地質や活動断層などの要因が組み合わさることで、ノルウェーの有史において経験したこともない大地震が起こる可能性がかねてから専門家によって指摘されているみたいです。

地震を監視するシステムもあるようですが、やはり実際の経験が乏しいのは痛手。科学的な研究と現場の防災意識の乖離は、日本でも身に染みるほど体感していることですから。

そんなリアルな現状がある中での『THE QUAKE ザ・クエイク』。その最悪の地震がもしノルウェーの首都オスロのど真ん中で起きてしまったら、どうなるのか…それを映像化したものです。

なので作中の主人公や家族、その他の一般人もみんな、全然地震を経験していない国の人たちなんだということを頭の片隅にとどめて見る必要が日本人にはありますよね。なにせ100年以上も巨大地震は起きていないのですから、“まさか”と思うのも無理からぬ話。まあ、日本人も油断してばかりなのでこればかりは他人のことを偉そうに言えないのですが…。

でも『THE QUAKE ザ・クエイク』がノルウェーで興行収入ナンバーワンを記録したという事実は、それだけノルウェー国民の間で“来るかもしれない恐怖”に関心があるという証拠ともいえるのかも。無関心ではないのだからむしろプラスか。

いずれにせよこういう映画がしっかりヒットするのは良いことですね。

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あの有名な建物も破壊!

物語は前作から3年後。

美しい観光地ガイランゲルを襲った津波の被害からなんとか生き残ったクリスチャンとその家族…妻のイドゥン、息子のソンドレ、幼い娘のユリア

家族はオスロに移り住むのですが、クリスチャンだけはあの時の惨劇を忘れることができず、ガイランゲルで独り暮らしています。心配してユリアが訪ねてきますが、その娘の気づかいも受け止められないほど心の傷跡は深く…。

しかし、オスロのトンネルで事故死した昔の同僚コンラッドのニュースを見て、不審な予感がしたクリスチャンは独自に調査を開始。彼の残した資料には異変の記録が克明に記されており、彼の娘のマーリットに案内されて家へ行くと、そこにはものすごい数の資料とデータサンプルが部屋中にあるのでした。それはノルウェーでは経験したことのない未曽有の大地震の発生を予測するもの。

マーリットの協力で、問題のトンネルへ向かうと、そこには生々しく残る崩落事故現場。奥に進むと採りかけのサンプルを入手。危険な直感がして、クリスチャンはイドゥンに電話をかけていると突然の大規模停電。そして揺れ動く大地。ちょうどステージでバレエをしていたユリアを必死に探すイドゥンは、ステージに隠れていたユリアを発見し、連れ出します。

その時は多少の揺れでいったんは収まったものの、クリスチャンはその危険性を確信。しかし、周囲は誰も聞いてくれません。またもや浮いてしまうクリスチャン。災害に憑りつかれているだけなのか。

そして、ついに“それ”は起こるのでした。

『THE QUAKE ザ・クエイク』は前作の話をなぞった構成になっており、とても続編らしいテンプレ。例えば、クリスチャンとユリアが災害直前に離ればなれになる展開や、クリスチャンとイドゥンの確執などは同じ。前作にもあった、前半でたっぷりとそれこそ少し科学解説的にも見えるほど時間を掛けて災害発生のフラグをたてていく展開も共通です。後半の舞台であるビルでは、災害発生前に全員がすれ違っていくので、観ている側としてはハラハラしてきますね。ディザスター映画の基本をバッチリおさえた構成はさすが。

また、本作が凄いなと思うのは、ちゃんと実在の建物を使っている点。

最初の地震時のユリアがバレエをしている建物は、あのユニークなデザインで有名な観光名所にもなっている「オスロ・オペラハウス」。どんなに建築的芸術性が高くても地震には無力ですね。

そして、後半の大規模な破壊シーンの見せ場となる舞台。クリスチャンたちが取り残されるあの高層ビルは、観光地にもアクセスしやすく満足度も高い「ラディソンブループラザホテル」。で、そのホテルに倒壊してくるお隣の高層ビルはショッピングモールでもある「Biskop Gunnerusgate」。Google Mapとかで立体地図で位置や高さを確認すると臨場感がわかりやすいです。

こういう風に本物の実在商業ビルを映画に出して、なおかつ大変なことにさせてしまうというのは、どうなのでしょう、許可をとっているのかな?

ただ、ノルウェー国民にとっては恐怖度のリアリティは尋常ではないでしょうね。

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災害に真摯に向き合う

建物などのリアリティ以外にも『THE QUAKE ザ・クエイク』の良かったポイントは他にもあって、前作を踏まえて被災者の苦悩を描いている点がひとつ。

クリスチャンとイドゥンは被災した経験に対する受け止め方が違います。もちろんショックを受けたのは同じですけど、それを比較的前を向くことでダメージを修復しているイドゥンと、科学者体質ゆえなのかロジカルな理屈にとらわれて前を向けないクリスチャン。

その被災者のすれ違う感じは、まるで311後の日本映画の姿を見ているようです。こうした側面にも言及していくあたりは、このノルウェー映画の災害への真摯な向き合い方を強く感じますね。

また、今作でいざ災害が起きた際、またなんだかんだで家族が生き残って終わりなのかと思ったら、そうはさせないという、極めて突き放した非エンタメ感。お約束を許さず、死ぬときはあっけなく死ぬのだというリアルは、災害の暴虐性をハッキリ提示するようでもあり、可哀想ですけど、でも事実ですよね。

どうしてもアクション映画化したり、メロドラマ化したりとジャンルに傾倒しがちな、災害を題材にした映画ですが、そこは変にお茶を濁さないのも『THE QUAKE ザ・クエイク』の真面目さじゃないでしょうか。

それにしても個人的には前作に引き続き本作の主人公を演じた“クリストッフェル・ヨーネル”は良い役者だなとしみじみ。なんかこう“父親”としても“夫”として“科学者”としても普通というか、変なヒーロー性が全くないのがよいですよね。このどこにでもいそうな男が懸命に圧倒的な絶望状況下でも努力するからこそ心にくるわけで…。

ディザスター映画ですからご都合的な展開はあります。前作もそうでしたが、災害が主人公の予想と同時にタイミングどおり起きるのはいかにもですし、あのビルの最上階からどうやって脱出するのかというのも本来は重要な気がしますし。息子側の被災エピソードは全然絡んでこないのはもう少し工夫をしてほしかったところですけど。

でも“災害への備えをせよ”と映画で訴えるその価値はとても高いし、その社会的な意義のある挑戦を映画界がしているのは素晴らしいなと思います。

日本も自然災害大国ならディザスター映画を毎年1本は作らないとダメだなぁ…。

『THE QUAKE ザ・クエイク』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 53%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED

以上、『THE QUAKE ザ・クエイク』の感想でした。

Skjelvet (2018) [Japanese Review] 『THE QUAKE ザ・クエイク』考察・評価レビュー