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『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』感想(ネタバレ)…民主主義が圧し潰される

連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間

アメリカの民主主義が圧し潰された日…「HBO」ドキュメンタリー映画『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Four Hours at the Capitol
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:U-NEXTで配信
監督:ジェイミー・ロバーツ
自死・自傷描写
連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間

れんぽうぎかいしゅうげきじけん きんぱくのよじかん
『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』のポスター

『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』簡単紹介

2020年のアメリカ大統領選の結果、大統領だったドナルド・トランプは敗北するが、その選挙は不正だと主張し、支持者を煽っていた。そして2021年1月6日、議会で選挙人の集計が行われる議事堂に向かって、トランプ支持者たちは大挙してデモ行進を始めた。その行進はしだいに激しさを増し、暴徒となって議事堂内へ侵入しだす。現場の警官を含めた関係者の証言でその状況を振り返る。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』の感想です。

『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』感想(ネタバレなし)

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あの日を忘れない

アメリカの政治の中心にして議会が行われる本拠地…それが「アメリカ合衆国議会議事堂」です。単に「キャピトル」と呼ばれることもあります。

ワシントンD.C.に位置し、新古典主義様式で建てられた白い外観の荘厳な建造物はあまりに有名です。中央にひときわ目立つドームがあり、その両隣にやや飛び出すようなかたちで、「上院議会」「下院議会」が行われる議場がそれぞれ設置されています。ここで議員が集まって日々政策に関連した議会を開いているわけです。

なお、ドームの下は円形ホール(ロタンダ)ですが、そのさらに地下は地下聖堂(クリプト)になっていて、“サミュエル・アダムズ”などアメリカの建国に携わった最重要人物の彫像が収容されています。アメリカの歴史の原点が鎮座する厳かな場でもあるんですね。

議事堂は西にそれぞれ正面があり、西側は大統領就任式を行う場として活用もされ、おなじみです。

あまりに議事堂が「顔」として象徴的ですが、議会の機能はあの建物ひとつに集約されているわけではなく、周辺にいくつも議会オフィスビルがあり、議事堂とは地下で繋がっていて、関係者は普段から地下で行き来しているそうです。

そして議事堂東側の広場や地下にはビジターセンターもあり、見学ツアーも行われています。そもそも議事堂周辺も建物すぐそばまで普通に観光で入ることができ、大勢がリラックスして記念撮影とかしているくらいなので、そこまで厳重な空間ではありません。

そのアメリカ合衆国議会議事堂は初期の建設時から今の姿だったというわけではありませんでした。まず1800年に上院棟(北)が完成し、1811年に下院棟(南)が出来上がり、とりあえずこの2つの建物は木造の仮設通路で繋がっていました。

ところが米英戦争終盤の1814年8月、イギリス軍がワシントンD.C.を攻撃するという通称「ワシントン焼き討ち」があり、アメリカ合衆国議会議事堂も燃やされて、一部焼失してしまいました

そのため1815年に再建が始まり、上院と下院も再設計され、その後も拡張工事を繰り返し、ドームなんかも増設され、今の見た目に至る…という流れです。結構、大変だったんですね。

そのアメリカ史をずっと見守ってきたアメリカ合衆国議会議事堂ですが、前述のワシントン焼き討ち以来、実に200年以上ぶりとなる大規模な損害を受ける事件が起きました。2021年1月6日の出来事です。それもよりによってアメリカ人によって暴力的に占拠されるという…。

その事件を関係者の証言を交えて克明に当時の現場を振り返るドキュメンタリーが本作『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』です。

2020年のアメリカ大統領選。初めての大統領の座を謳歌した当時の現職大統領“ドナルド・トランプ”と、それから席を取り戻そうとする“ジョー・バイデン”との一騎打ちとなった選挙ですが、“ジョー・バイデン”の勝利が報じられ、あとは議会で選挙人の集計を行って確定するだけの作業でした。

しかし、“ドナルド・トランプ”はその選挙は不正だと主張し(いわゆる「mules」陰謀論)、「負けていない!」と支持者を煽りました。そして2021年1月6日、議事堂に向かってトランプ支持者たちは大挙してデモ行進を始め、その行進はしだいに激しさを増し、暴徒となって議事堂内へ侵入まで行っていき…

ニュースで報じられたのを見た人も多いと思いますが、本作『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』で現場の人たちの実体験の語りを観ると、また別次元の感想になってくると思います。

『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』を監督するのは“ジェイミー・ロバーツ”で、最近だと『Escape from Kabul』(2022年)、『ビエラン・トミッチ: パリのスパイダーマン』(2023年)、『Ukraine: Enemy in the Woods』(2024年)、『This World』「Gaza: How to Survive a Warzone」(2025年)といったドキュメンタリーを手がけています。

あの出来事がアメリカに何をもたらしたのか、ぜひ知ってみてください。

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『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』を観る前のQ&A

✔『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』の見どころ
★暴徒と対峙した人たちの証言による生々しい緊迫感。
★それとあまりに真逆のデモ参加者の自画自賛コメント。
✔『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』の欠点
☆ショッキングな現場映像もいくつかあるので注意。

鑑賞の案内チェック

基本 生々しい暴力の現場映像が多く流れるので、心理的にショックを受けるかもしれません。
キッズ 2.0
暴力映像が多すぎるので、低年齢の子どもには不向きです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』のネタバレありの感想本文です。

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暴走した群衆の恐ろしさ

「この国を弱体化させるわけにはいかない。諸君の不屈の精神をみせてほしい。ともに戦おう。最後まで戦い抜いて我々の国を取り戻すのだ」

別の場所で行われていた“ドナルド・トランプ”の演説が大きなディスプレイに表示され、配信を支持者を見守る中、第一陣で議事堂に行進し始めたのは、極右団体「プラウド・ボーイズ」のメンバーでした。午後12時6分の出来事…。

本作では、取材に答えているそのプラウド・ボーイズの一員であるエディ・ブロック(電動車椅子に乗っている)が撮影係をしていたこともあって、その最前線がばっちり映像で映し出されます。プラウド・ボーイズのB・ピックルズも、「トランプに議事堂に行けと呼びかけられたらそれは行くに決まっています」と答えるように、トランプ本人がどういう意図であれ、あの支持者たちはトランプに命じられてあそこに行ったつもりだったようです。

後に暴徒に参加した一部は、「暴力をしたのはトランプ支持者という証拠はありません」とまで言ってのけるのですが(後に「ANTIFAが背後にいる」という陰謀論を流しました)、しっかり証拠を自分たちで撮っているのが皮肉です。

「Fuck ANTIFA(アンティファ)!」と罵声が轟く中、プラウド・ボーイズの群衆がまず対峙したのは、議会警察の数人の警官が議事堂に繋がる通りのちょっとした階段の前で柵を作って通行禁止にしている現場です。

前述したとおり、普段はここは観光客も出入りできる敷地で、本来はもっと近づけるのですが、この日は重要な議会もあり、行動制限をしていました。とは言え、通常と同じ体勢の人員だったと議会警察の当事者も語るように、不測の事態を想定はしていなかったようです。

集会の自由があるのでデモをするのは権利です。議事堂前でデモすることはよくあります。今回も単に集まるだけだろうと…。

しかし、怒れるプラウド・ボーイズたちはどんどん過激になってあっさり柵を押しのけ、通行禁止を無視します。バリケードといっても腰あたり程度の高さの簡易的な柵なので、簡単にどかせます。いとも容易かったことが本作にもよく映っていました。午後12時53分の出来事…。

多勢に無勢な警察は抑えきれず、後退を繰り返しながら、ヘルメット防護アーマーの警棒というわずかな装備で小競り合いが散発。ペッパー弾(ペッパーボール)と呼ばれる胡椒成分を含んだ弾を撃って威嚇するも、効果なし。殴り合いで血を流す暴徒もいる中、そうこうしていうちに後ろからどんどん人は膨れ上がり、ますますコントロールを失います。

本作を観ていると、本当に抑制を失った群衆の怖さが生々しくわかりますね。

議会警察から応援要請があって首都警察が駆けつけ、催涙ガスで対抗するも、暴徒側も熊撃退スプレーなどで反撃し、埒があかない状況に…。

首都警察のロバート・グローバー警視正も「こういう経験はない」と語っていましたが、未曽有の事態だったのでしょう。決して警察側が無能だったわけではなく、こういう暴走した群衆をコントロールするのがどれだけ困難かということです。

そして別に暴徒側を擁護するわけではないですけど、プラウド・ボーイズ側も最初からバリケードを破ろうと計画したわけでも合図したわけでもなく、本当にただその場の熱気と感情の高ぶりで突発的に行動していて、こういう指揮系統さえない群衆はやはり恐ろしいですよね。

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2021年にアメリカで起きた中世の戦争

議事堂の西側の大階段付近で、膠着状態になる中、一部が横から防衛線を突破。別に難攻不落の要塞とかではないので(そもそもかなり開放的)、正直、侵入できるルートはいくらでもあります。

午後2時13分、裏口から議事堂へ窓を割って侵入したのが始まり。その侵入時、暴徒はみんなキョロキョロとしており、どこに進めばいいのかわからず、とりあえず前の人についていくという姿が映っていて、本当に無計画かつ突発的に実行したのが伝わります。

ここでやはり印象的に際立つのは現場の警官たちの雄姿です。ハッキリ言って、もし警官が情け容赦なければその場で侵入者をがんがん撃ち殺していくことだってあり得たわけです。でも基本的に現場の警察は誰かを死傷させずに事を収めようとしていました。実際、射殺となったのは封鎖された扉の最前にいたアシュリー・バビットという人だけでしたし…。

とくに、ひとりで侵入者を誘導して議会から遠ざけたバイロン・エバンス巡査や、なるべく冷静な話し合いをしようと対面で呼びかけ続けたキース・ロビショー巡査など、議会警察の人たちは、名誉勲章ものの働きをしていたのではないだろうか…。

一方、下院議会の1階で椅子とかで封鎖したドアの前で銃を構えて睨み合いをしていた警官たちも凄まじい緊張感だったでしょうし(よく銃撃戦にならなかったですよ)、さらに大パニックだったのが、議事堂外の西側正面。

小さなトンネルと呼ばれる通用口で押し合いへし合いになっており、「中世の戦闘みたいだった」と警官が振り返っていましたが、本当にそうとしか言いようがない光景で…。

首都警察のマイク・ファノン巡査はその最前を交代し、押し合いによる力比べの中で、押し出していくことに成功するも、群衆の真っただ中に連れ込まれてしまってタコ殴りの集団リンチ状態に遭い、なんとか警官側へ返してもらうも、一時意識不明…。

壮絶すぎて言葉を失います。これは…控えめに言っても「戦争」だっただろう、と。

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民主主義はあなたの真上にあった

確かに数千人レベルの群衆パニックに対し、死者数はとても少なく、被害は奇跡的に少なく済みましたよ。議会もその日のうちに再開できました。

しかし、140人の警官が負傷し、さらに4人は事件のトラウマで自殺し、殉職とされた翌日に脳卒中で死亡したブライアン・D・シックニックも事件の影響があったことが示唆されました。

このドキュメンタリーを観るだけでもゾっとするのですから、現場にいたらどれだけトラウマになるか…。

死を覚悟して両親あてにメッセージまで書いていたスタッフや、愛する人に最後の電話をかける議員など、現場で取り残された者の恐怖も忘れることはできません。

しかし、それと対比するというか、あまりに真逆なのが、議事堂に侵入した暴徒側で、「あれこそアメリカの精神です」「最高にいい気分でした」とうっとりな言葉が本作の取材の前で言い放たれ…。

ここまで認識が食い違うだけでも、アメリカという国が決定的に壊れた瞬間を証明している気がします。繰り返しますけど、同じアメリカ人ですよ?

あのたったの約4時間で、アメリカの民主主義は圧し潰されて回復不能になったのかもしれない…。

この事件を教訓に州兵を配置して侵入を許さないように対応力を高める措置が講じられましたが、そういう問題ではない。壊れてしまったのではないか、アメリカは…。

本作で侵入した暴徒のひとりが議事堂内のドーム下のホールに辿り着き、感動しながら大麻を吸って自分に酔いしれる姿が映っていますけど、最初に述べたようにあの下は地下聖堂でアメリカ建国の偉人が讃えられている場です。アメリカ人でない私ですらそんな上で大麻を吸うのは冒涜じゃないかと思うのですけど、あの自称愛国者は気にしていません。

そしてそのホールの真上の天井には、“コンスタンティノ・ブルミディ”が描いた『ワシントンの神格化』というフレスコを見上げることができます(作中でもチラっと映っている)。南北戦争の終結後の1865年に書かれたものです。

その『ワシントンの神格化』には「E Pluribus Unum」とラテン語で書かれており、意味は「多数からひとつへ」。異なる価値観の者でもひとつの国を成すという精神が刻まれています。

「1776」とアメリカ独立宣言の年を連呼するだけでなく、アメリカの歴史の奥深さを知って帰ってくれれば、あの侵入者たちも何かを得られるかもしれないのになと思うのですけど、それは届かない願いなのでしょうか。

そのアメリカの歴史を間近でもっと知りたくなった人は、別にバリケードを突破しなくても、議事堂ビジターセンターで見学ツアーに応募してください。

『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

トランピズムを主題にしたドキュメンタリーの感想記事です。

・『Bad Faith』

・『Qアノンの正体』

作品ポスター・画像 (C)AMOS Pictures Ltd MMXXI フォー・アワーズ・アット・ザ・キャピトル

以上、『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』の感想でした。

Four Hours at the Capitol (2021) [Japanese Review] 『連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間』考察・評価レビュー
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