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『Qアノンの正体 / Q: INTO THE STORM』感想(ネタバレ)…Qアノンを知るなら必見のドキュメンタリー

Qアノンの正体

陰謀論に飲み込まれる前にこれを観よう…ドキュメンタリーシリーズ『Qアノンの正体』の感想です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Q: Into the Storm
製作国:アメリカ(2021年)
配信日:2021年にU-NEXTで配信(日本)
監督:カレン・ホーバック
人種差別描写

Qアノンの正体

きゅーあのんのしょうたい
Qアノンの正体

『Qアノンの正体』あらすじ

アメリカのみならず世界中でセンセーショナルな論争を巻き起こしたQアノンと呼ばれる信奉者による陰謀論。その起源となった匿名掲示板「8chan」の創設者や管理人親子に2018年のQムーブメント初期から2021年の米連邦議会議事堂襲撃まで3年間にわたり密着し、オンライン上の言論の自由がもたらした顛末を解き明かしていく。そして、この陰謀論拡散の原点にいる正体不明の匿名投稿者「Q」の正体を探る。

『Qアノンの正体』感想(ネタバレなし)

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世界は「Q」に翻弄された

たった1文字のアルファベット。それがとてつもない意味を持ってしまうことがあります。

「Q」と言えば「クエスチョン」「Q&A」の「Q」が真っ先に思い浮かぶ人も多いでしょうが、もうそうも言ってられないかもしれません。「Q」という文字はあの人たちのせいで、悪い意味で塗り替わってしまいました。

それは誰のせいか? もちろん「Qアノン」です。

Qアノン…その言葉は日本でも聞いたことがある人は今では多いはず。でもなんとなくな理解なのではないでしょうか。「なんかの陰謀論なんでしょ?」「ドナルド・トランプを支持している人たちなんだよね?」…そんな漠然とした認識ではないですか。

そういう曖昧な“理解した気分”を放置するのはよいことにはなりません。誤解を招きやすいですし、それこそ陰謀論に付け込まれる隙になってしまったりします。

かといって専門書を読んで勉強するほどに本腰を入れる気分にはならない? であればこのドキュメンタリーがオススメです。

それが本作『Qアノンの正体』。原題は「Q: Into the Storm」です。

このドキュメンタリー『Qアノンの正体』はそこらへんの「Qアノン」に関する専門書籍にも引けを取らない、いや、それ以上に内容は充実していると思います。なにせQアノン関係者にかなり初期の頃から密着取材しており、どこよりも生々しい現場を撮らえ、Qアノンが拡大・発達していく様子を最前線で観察しているのです。メディアの一時的なインタビューとはまるで違う、長期間をかけた信頼関係構築による取材の努力あってこその「え? そんな発言までカメラにおさえたの!?」というスキャンダルなものもあったり…。間違いなくオリジナリティがダントツでズバ抜けているQアノン作品です。

報道番組のようなお堅い解説ではありません。わりと見やすいテンポと編集センスでまとまっているので、ドキュメンタリーがそれほど親しみのない人でも、「一体このQアノンの全貌はどうなっているんだ?」という好奇心さえあればグイグイ引き込まれるのではないかな。

ただし、ネックがひとつあって…。このドキュメンタリー『Qアノンの正体』、全6話で構成され、1話あたり約60分なので、計6時間の大ボリュームなんですね。だから観るうえでの体力面では骨が折れますよ。画面に映るのは、ろくでもない奴らばかりですので、気も滅入ってくるし…。一挙に鑑賞するのはさすがにハードなので少しずつ観る方がいいかも…。

そのぶんQアノンのことがこれでもかというほど濃密に情報満載で、見ごたえは保証されますが…。

本作では、Qアノンとは何か?…発端となった「Q」と呼ばれる人物の正体は誰か?…その疑問の答えを模索しながらQアノンの栄枯盛衰がアメリカの直近の歴史と共にジェットコースターの勢いで駆け抜けていきます。6時間、フルスピードです。

このドキュメンタリー『Qアノンの正体』を監督したのは、“カレン・ホーバック”というアメリカ人。過去には『What Lies Upstream』(2017年)という環境汚染を題材にしたり、『Terms and Conditions May Apply』(2013年)というIT業界を制する大企業を扱ったり、意欲的なドキュメンタリーを手がけてきた人物です。

製作総指揮には、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』では金融業界、『バイス』では政治業界、『ドント・ルック・アップ』では環境問題、『メディア王 ~華麗なる一族~』ではメディア大企業界隈を扱い、エグるような風刺をお見舞いしてきた“アダム・マッケイ”が名を連ねています。確かにこの『Qアノンの正体』にも“アダム・マッケイ”的なアプローチが見られ、複雑なテーマを万人に推奨できるような料理アレンジがされている感じです。

ドキュメンタリー『Qアノンの正体』はアメリカ本国では「HBO」で配信されましたが、日本では「U-NEXT」の独占配信となっています。

Qアノンに感染する前にQアノン耐性をつけておきましょう。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:無視できない題材です
友人 4.0:つい語りたくなる内容
恋人 3.0:さすがに長すぎるか
キッズ 3.5:社会問題の勉強のためなら
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『Qアノンの正体』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『Qアノンの正体』感想(ネタバレあり)

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そもそも「Qアノン」とは? 実態と仕組み

ドキュメンタリー『Qアノンの正体』はまず「Qアノンって何?」というところから話を始めてくれます。

発端は2017年の匿名画像掲示板サイト「4chan」でした。そこに「Q」と名乗る匿名アカウントが意味深なコメントを投稿しだします。抽象的で内容の掴めない文章です。ところがその「Q」の投稿するコメントについて、これは国家機密にアクセスできる権限「Qクリアランス」を持った人物がネット上に匿名で情報を投稿しているのだと解釈する人が出現。それは瞬く間に一部の人々の心を掴み、「Q」は「Qアノン」とも呼ばれ、熱狂的な支持を集めます。「Q」は不定期に意味深な投稿を続け、それは「Qドロップ」と呼称されます。

でもなぜいきなり「Q」が注目されたのか。普通だったらイタズラで無視されそうなのに…。

実は予兆がありました。初の「Qドロップ」は2017年10月28日。その月の5日にトランプ大統領が軍関係者と面会したとき「嵐の前の静けさだ」と何気なく口にします。これにトランプ支持者が“何か”を期待しだします。そこに飛び込んできた「Q」の存在。トランプ支持者はこれを嵐の始まりだと解釈したのでした。

ここで「Q」とその信者の自然形成されたコミュニティ・ネットワークの説明がなされます。まずQドロップだけだと抽象的すぎるのでそれを独自に勝手に解説する「Qチューバー」なる者が現れ、動画サイトで活動します。そのQチューバーたちの解説の中から「ベイカー」と呼ばれる支持者が最善の説を掘り起こし、お墨付きを与えて拡散。こうして延々と半自動的に陰謀論の物語が紡がれ、解釈が無限拡大していくという仕組みです。「Q」はほとんど何もしていません。周りが盛り上げてくれるのです。それに「Q」も便乗してまたQドロップする。陰謀論の永久機関みたい…。関係のない物事の間に意味や繋がりを見出してしまうアポフェニアの末路ですよ。非難してくる奴は「Qアーミー」を動員して攻撃するという防衛体制もあるし…。

興味深いのはこのQアノン信者の多くは「Q」の投稿発信源である匿名画像掲示板サイトを別に利用していないということですね(利用しなくても「Q」の投稿をまとめたサイトがあるし、アレックス・ジョーンズの「Infowars」などで触れられるので大丈夫)。「4chan」から「8chan」へと「Q」は活動場を変えますが、これらのサイトは俗にいう「CHANカルチャー」で成り立っているかなり異色の空間で、それこそグロ・エロ画像てんこ盛りで日々アニメや漫画の画像をぺたぺた貼ってふざけあっている世界です。Qアノン信者の多くはそういうノリは正直不快であり、ドン引きすらしているのが本作でも映されます。つまり、CHANカルチャー住民とQアノン信者は完全に重ならないコミュニティを形成しているんですね。これは結構大事なポイントだと思います。ネット上のCHANカルチャー住民がふざけてやっただけかもしれないノリが、本当に現実社会で深刻な影響力を外部の人間に与えるようになってしまったわけですから。

Qアノン信者の陰謀論の中身(当人は陰謀論だとは思っていない)はだいたい以下のとおり。

ハリウッドなどのセレブや民主党の政治家たちなどは、赤ん坊を食べたりする悪魔崇拝者や小児性愛者である。ディープステートと呼ばれる影の政府が世の中を支配している。

要するに保守派や右翼層が昔から嫌っているような人物や組織への敵意がベースになっています。ディズニーなんかもターゲットにされており、作中ではディズニー作品をQアノン的視点で考察する動画をあげるQチューバーが映っていました。

突拍子もない主張に思えますが、実はこの陰謀論は昔からあり、以前はユダヤ人差別とか魔女狩りという体裁で「赤ん坊を食べる」などのネタが使われていました。要するに流用なんですね。

「Q」の出現前からこの陰謀論は過熱した騒ぎを起こしてもいました。その象徴的なものが「ピザゲート事件」です。2016年10月、民主党ヒラリー・クリントン候補陣営の選挙責任者であった“ジョン・ポデスタ”の私的なメールアカウントがハッキングされて中身がウィキリークスに公開される事件が起きます。そのメールにはやたらとピザの話題が多かったのですが、これを民主党アンチの人々が「ポデスタとヒラリーがピザ屋の地下で子どもをレイプしており、ピザは子どもを指す暗号だ」と独自に解釈。なんでそんな解釈になるんだと思う話ですが、一応その前振りがあって、それは『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』でも題材になったあのアンソニー・ウィーナー下院議員のセックス・スキャンダルです。とにかくこれが過激にヒートアップし、名指しされたピザ屋のスタッフへの殺害予告やピザ店を襲撃する者まで現れて大騒動に。

ジェフリー・エプスタインの逮捕&自殺の一件(『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』参照)で狂乱するQアノンの支持者を見ていると、この人たちは児童性犯罪を政治信仰を補強する素材くらいにしか思っていないんだろうなと…。

ともあれ「Q」はもともとあった民主党アンチ集団の中の陰謀論にさらに燃料を投下して炎を大きくさせた存在なのでした。けれども今のQアノン支持者は多種多様な人たちで構成されています。隠れた真実を見せるレッドピル(赤い薬;『マトリックス』に由来)を飲んで「Q」が目を覚まさせてくれたと信じて…。

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Qアノンにつながるインターネットの不毛な争いと登場人物

そのQアノン・ムーブメントの発信源となったのはインターネットのアンダーグラウンドですが、ドキュメンタリー『Qアノンの正体』はその歴史も紐解いていきます。

まず匿名の存在が何かを暴露する快感を大衆に浸透させたのが2006年頃から登場した「アノニマス」。それはやりすぎて逮捕者続出して消沈。また「シケイダ3301」という正体不明の者が掲示板サイト内で謎解きゲームをだして、これが大衆を動かす力があることを立証します。

次に巻き起こったのが2014年の「ゲーマーゲート事件」です。これはゲーム批判をするフェミニストの口を塞ぐのが狙いであり、女性のゲーム開発者や批評家が標的になり、「4chan」のユーザーがハラスメント・キャンペーンを開始。ここには首謀者はおらず、フェミニストへの敵意だけで成り立つ匿名集団が存在しました。この事件はCHANカルチャー住民の右翼化を加速させ、オルタナ右翼を生み出し、今後もずっと尾を引く女性蔑視憎悪の土壌となります(これは反ポリコレの「コミックスゲート」にも繋がっていくのですがそれはまた別の話)。

そしてここに匿名画像掲示板サイトの競争という背景が大きく関わってきます。

そもそも匿名画像掲示板サイトの流れを最初に作ったのが日本では「ひろゆき」の愛称で有名な“西村博之”「2ちゃんねる」。この英語版のような感じで2003年に開設されたのが「4chan」でした。また、アメリカでは「Reddit」というフォーラムサイトも2005年から流行っていました。

「4chan」は匿名性が売りでしたが、決まりごとが多く、自由に個別の掲示板を内部で作ったりはできません。そんな中、ゲーマーゲート事件が勃発し、「4chan」は収拾がつかないほどに大荒れに。そこで「4chan」はゲーマーゲート関連の投稿を全部禁止削除します。

その渦中で、“フレドリック・ブレンナン”という「2ちゃんねる」にも関わり、「4chan」を利用していた人物が不満を持ち始めます。そして「8chan」という、「Reddit」の自由度と「4chan」の匿名性を合わせた言論の自由を完全に保証する匿名画像掲示板サイトを2013年に作りました。

ゲーマーゲートで追い出され、さらに「Q」が好きな人も「8chan」に大移動。結果、この「8chan」は過激な奴らの中でもとくにアレな人たちの巣窟となり、“フレドリック・ブレンナン”すらもコントロール不可能に陥ります。そして“フレドリック・ブレンナン”はビジネスパートナーとしてマニラを拠点に事業を展開しているビジネスマンの“ジム・ワトキンス”とその息子の“ロン・ワトキンス”と手を組み、後に事業を明け渡して、管理者から身を引きます。

ところがこれで終わらない。なんとブレンナンとワトキンス親子はしだいに対立を激化。結果、「8chan」は「8kun」に名称を変えるも、ブレンナンはマニラを追い出されてしまいます。

ちなみに“ジム・ワトキンス”は“西村博之”の「2ちゃんねる」も支援していたのですが、これも乗っ取り、「5ちゃんねる」に名称を変更。これに対抗してか、“西村博之”は「4chan」の創設者である“クリストファー・プール”からサイトを買い取り、今の「4chan」の管理人となっています。

結局のところ、インターネットのアンダーグラウンドでパワーが欲しい奴らの不毛な争いがずっと起きていて、その醜い戦争の最中に生じた歪みの奥底からQアノンは生まれてしまったんですね。

匿名、扇動、憎悪、競争心、自己中心的な自由…「Q」が登場する舞台は整いました。

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政治へと同化していくQアノン、そして自滅へ

このネットで特権が欲しい奴らの争い合いはQアノンを通して政治闘争へと波及していきます。

トランプ大統領政権下のアメリカでは、アン・アームストロング、アラン・ゴードン、ディアナ・ロレイン、マージョリー・テイラー・グリーンといったQアノン支持者が続々と出馬。赤い波が起きると支持者は盛り上がりますが、実際は民主党が優勢に。

そんな中、ワトキンス親子のサイト「ゴールドウォーター」で働いていた人物からトランプの顧問の“ロジャー・ストーン”から資金提供を受けているというタレコミが…。“スティーブ・バノン”もインセルを巧みに利用することに手慣れています。

「Q」はトランプ陣営の仕込みなのか。『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』でも映し出されたように今や政治はネットで大衆を操ることが可能です。

またその一方で、匿名画像掲示板サイトは犯罪の火種として炎上します。相次ぐ銃乱射事件。それを煽って面白がるCHANカルチャー住民…。

アメリカでは通信品位法第230条「サービス提供者は情報の発行者としては扱われない」があり、ユーザーの投稿で匿名画像掲示板サイトが訴えられることはなく、これがこのサイトの礎でもありました。しかし、この一連の問題で、政治家たちは第230条を問題視し始め、修正を検討し出します。

それに必死に反論して自分たちの権力の古巣を守ろうとするワトキンス親子。そんな親子は当初は政治に興味ないふりで、ノンポリを気取っていました。“ジム・ワトキンス”なんていかにも世間知らずでアホな金持ちの実業家の佇まいでしたし、“ロン・ワトキンス”はソープランドとオタクグッズ集めが好きな札幌住みの根暗なオタクに見える…。でも実際は違って、裏でかなりトランプ陣営と繋がっていることがわかってきます。

コロナ禍に突入し、トランプの政治基盤が揺らぎ始めると、ワトキンス親子は政治と関わりを隠す気さえもなくなり、露骨に。「Q」もトランプと付き合ったばかりのカップルなの?というくらいに互いを尊重し合います。

ワトキンス親子は差別的なものであっても言論の自由だとそのフリーダムを守ることを高らかに宣言しますが、ちゃっかり自分への厳しい発言は名誉毀損で訴えている。彼らの語る「言論の自由」の正体が如実によくわかります。

TwitterがQムーブメントの取り締まりを強化し、アノニマスが復活して「Q」を攻撃始め、Cloudflareの切断でサイト一時閉鎖したり、さらに自由は崇高な思想ではない気がしてきたと「8chan」の閉鎖を望む“フレドリック・ブレンナン”がワトキンス親子をあの手この手で攻撃。「青いQのプレゼント」の真相も暴露します。四面楚歌とはこのことです。

大統領選挙はバイデンが勝利し、トランプは懲りずに不正集計を訴え、ちゃっかりトランプ擁護の筆頭となっているロンが投票機器を調査し、ソフトウェアに問題があったと支援。

そして起こった2021年1月6日の議事堂襲撃。あの場に“ジム・ワトキンス”と本作の監督の“カレン・ホーバック”がいるのがなんかすごい…。

死者を出したその事件の後、Twitterはトランプやロンのアカウントを停止。「Q」の投稿も止まりました。

自信満々に自滅へ進んでいきましたね。

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「Q」の正体は…

ドキュメンタリー『Qアノンの正体』を見ている感心するのが、“カレン・ホーバック”監督の取材の熱意。私だったらこんな奴らと一緒に居たくもないし、疲れるだけだと音をあげますけど、しっかり長期取材を全うします(いつまで取材し続ける気だったのだろう?)。

その取材の苦労が絶妙な笑いのシーンを生じていたりもして、“ロン・ワトキンス”にソープランドに付き合わされるくだりとか、“フレドリック・ブレンナン”をマニラから国外に逃がす日にホテルが停電するとか、コメディ映画みたいになってる…。

でも“カレン・ホーバック”監督自身は陰謀論に染まらずに対象と信頼関係を表向きは構築しつつも距離をとっている(たまに愚痴がドキュメンタリーに混ざってる)。このあたりはさすがプロフェッショナルですね。

最終的に“カレン・ホーバック”監督は「Q」の正体は“ロン・ワトキンス”だと推論して答えを出します。言葉使いが変化した2018年にロンは管理者権限を駆使して「Q」を乗っ取り、以降は「8chan」が発展するように、そしてトランプが有利になるように暗躍したのだ…と。まあ、確かに「Q」はあからさまにオタクっぽさ全開だし(映画のセリフを引用したりとか)、該当候補は彼以外もはやないですけどね。

本作は「Qとは誰か」を突き止める趣旨があるのでこのドキュメンタリー自体が逆張りで別の陰謀論染みた雰囲気を帯びてしまうのが欠点なのですが、題材的にはしょうがない面もあるかなと思います。陰謀を解き明かそうとすること自体は悪いことではないです。問題はプロセスです。透明性・客観性・検証可能性を確保できているのか。そういうことの大切さをこのドキュメンタリーはあらためて提示しているという一定の効果があればいいのですが、でもQアノン信者には届かないでしょうけど…。

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その後…。そして日本は?

このドキュメンタリーでは映し出されないその後はどうなったのか。

“ロン・ワトキンス”は札幌からアメリカに引っ越して、2022年秋の米中間選挙に共和党の地盤であるアリゾナ州から出馬すると表明しています。

匿名画像掲示板サイトは相変わらず窮地です。「4chan」でもなおも続く銃乱射事件で激しい非難にさらされ、管理人である“西村博之”の責任がアメリカのメディアで言及されることも目立ち始めています。

「Q」は消えても「Q」が悪化させた状態はそのままです。

日本も例外ではありません。日本のQアノン派生団体「神真都Q」がワクチン接種会場を妨害して逮捕されたのはニュースにもなりました。また、日本社会全体がQアノン色に染まりつつあります。CHANカルチャーの生みの親である“西村博之”は日本では著名「論客」として活動し、ゲーム感覚な冷笑主義を助長し、そのムーブメントの中心人物として一部の信奉者やメディアに祀り上げられています。アノニマスのような暴露で支持を集めるパフォーマーも世間を騒がせています。そして、ゲーマーゲート事件のパクりのように「フェミニストがアニメや漫画を攻撃している! フェミはオタクの敵だ!」と煽って支持を集めて政治家になる人も出現。言論の自由を我が物顔で語るワトキンス親子と瓜二つです。

そもそも日本のアニメや漫画の多くはCHANカルチャーのオモチャになっており、『フィールズ・グッド・マン』で取り上げられたようにもはやヘイトスピーチの道具に利用される瀬戸際です。今度は日本のアニメや漫画がきっかけで次のQアノンに代わる何かが生まれてしまうかもしれない。ナショナリズムなオタクたちは「日本のアニメや漫画は世界的人気だ!」と豪語しますが、その文化が健全性を失って憎悪の玩具化するリスクに晒されていることを業界関係者ももっと自覚しないといけないのですが…。日本のアニメや漫画の文化を本気で守りたかったら、その侵蝕と戦うべきなのに…。

言論の自由は権力から弱者を守るためのものでした。でも今はその本来の存在意義は形骸化し、言論の自由はネットでしか威張れない住民の正当化の道具になりました。「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という他人の格言を都合よく引用する連中の…。

言論の自由は私物化され、民主主義は根本から崩壊し、政治は茶番となりつうある現在。人間の文明社会は核兵器でも気候変動でもない、こんなマヌケな理由でバッドエンドを迎えるのではないか。本気でそんな不安を感じるのは私だけでしょうか。

『Qアノンの正体』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 94%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)HBO

以上、『Qアノンの正体』の感想でした。

Q: Into the Storm (2021) [Japanese Review] 『Qアノンの正体』考察・評価レビュー