幽霊の人生もいいかな…映画『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2018年11月17日
監督:デヴィッド・ロウリー
A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー
あごーすとすとーりー
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』あらすじ
田舎町の一軒家で若い夫婦が幸せに暮らしてたが、ある日夫が交通事故に遭い、突然の死を迎える。病院で夫の死体を確認した妻は、遺体にシーツを被せて病院をあとにする。しかし、死んだはずの夫はシーツを被った状態の幽霊となり、妻が待つ自宅へと戻ってきてしまう。
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』感想(ネタバレなし)
仮装ではなく、本物の幽霊の話
2018年の日本のハロウィンは世間を賑わしたようですね。なんというか「荒れる成人式」に代わる「荒れるハロウィン」として新しいネタになりつつあり、マスコミもネットもなんだかんだノリノリで食いついている光景が広がっていました。まあ、私はそんな喧騒関係なしで生きているので、どうでもいいのです。犯罪があろうと、それは警察の仕事。粛々と任せればいいだけ。
それよりも気になることがあります。これだけハロウィンという文化が若者を中心に定着してきたわりには、全然ハロウィンに関連した映画が公開されていないじゃないですか(怒)。アメリカなんて必ずこの時期はホラー映画を公開するのがお約束で、今年はそのものズバリ『Halloween』というジョン・カーペンター監督の名作の続編が公開されて、ヒットしています。
なのになんですか、10月後半の日本の映画館の醜態は。猫と旅する映画とか、遊園地を運営する映画とか、モロッコに行く映画とか、そんなハロウィン要素が微塵もない作品ばかりです。
そのせいなんじゃないのか。若者たちがただ仮装だけしてゾロゾロ街中を歩く状態になっているのは、ハロウィンに対する溢れるエネルギーをぶつけるものが不足しているからなのでは。そんな風に考えなくもない。これはエンタメ業界も本腰を入れてハロウィンに向き合うべきです。
そこで今回、紹介する映画『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』ですが、見てください、このビジュアル。見た目だけで言えば100点満点のハロウィン感があります。幽霊のコスプレとしては難易度「易しい」レベルの、超テンプレな姿の幽霊が映っています。でも本当にこんな幽霊が出てくる映画なのです。
ただ、注意があって、これは事前に知っておいた方がいいですし、変に知らずにこのビジュアルだけで想像して作品に期待するとガッカリすると思うので、ハッキリ書きますが、本作はこの見た目に騙されないでください。
まずホラーではないです。恐怖で驚かせるようなジャンルではありません。そういう意味では全くハロウィンにふさわしい映画ではないですね。最初の前振りはなんだったんだって話です。
またファンタジーでもないです。もちろんリアルではありえないことが起きるのですが、子どもも楽しめる不思議な体験!みたいな感じではありません。
それにコメディとも言えません。ゲラゲラ笑う要素は皆無に近いし、シュールなのかもよくわかりません。
じゃあ、なんなんだよという話ですが、ジャンル分けしづらいですけど、俗に言う「ヒューマンドラマ」です(つまらない語彙力)。しかも、とても“詩”的な静かなテンションでゆったりと進んでいく物語です。なので非常につかみどころがなく、観た後も語りづらい、なかなか困った映画です。
ですが、批評家らの評価が非常に高く、特定のマニアからの評判もいいのです。ちょっとカルト映画的な支持のされ方といえるでしょう。
ということで、とにかくヘンテコな映画を観たいという気分の人は、本作はベストマッチするはずです。
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』感想(ネタバレあり)
何かが起こり、何も起こらない
私、幽霊って見たことがないのです(唐突な告白)。なので、ちょっと見たことがある人に聞いてみたいのが「幽霊ってどんな見た目をしているの?」ということ。とくに服。死んだときの服装で現れるのですかね? じゃあ、もし死亡時に超ダサい恰好をしていたら、凄い恥ずかしいですね。死ぬときは衣服に気をつかわないといけないじゃないですか。
そうやって考えたとき、一体この『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』はどうやってあのビジュアルになるんだと、鑑賞前は疑問が頭に渦巻いていたのです。
そしたら、いとも容易くスルッとあの白布ゴーストが現れたものだからびっくり。静かな家で暮らす夫婦、その夫が交通事故で死亡、病院で遺体と対面する妻、残された夫の遺体、ぬくっと起き上がる…この一連の流れがあまりにも滑らかに展開されます。
本作はとにかく「平然と変なことが起こる」のが特徴のひとつ。白布ゴーストがその姿のまま病院内や外を徘徊するシュールさはもちろん、隣の家にいた別のゴーストと対話し始めたときは「どうなってるんだ、この映画は…」と困惑しました。このシーン、かなり好きですけど。
そんな風に散々驚かせたと思えば、今度は「平然と何も起こらない」シーンも続きます。未亡人となった妻をただジッと見守る夫(白布ゴースト ver.)。まあ、他に何もできないからどうしようもないのですけど、本当に見ているだけで、加えてそのシーンもじっとり長く時間をかけて撮っているので余計に印象に残ります。
その最たるシーンが、妻がひとり残された家で床に座り、チョコレートパイを黙々と食べている長い場面。口に押し込むように食べまくり、食べまくり、そしてトイレに駆け込み、吐く。そんな妻を見守る夫(幽霊)。そんな妻と夫(幽霊)の映像を見守る観客…。
なんなんだろう、この時間。
こうやって観ていると、観客自身もゴーストになったような感覚です。そもそも映画において観客は物語に干渉できないので幽霊も同然なのですが。本作の場合は、特殊な画面サイズということもあって、観客の視線をより強調させていました。とくに映画館で鑑賞した時の違和感は格別です。
幽霊の人生はこうなっている
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』を観る前は、幽霊になった夫が、残された妻の喪失感を救ってあげるような、優しい物語が待っているんだと薄っすら想像していました。この手の「生と死の世界」を描く系のストーリーでは定番だと思います。
ところが本作は全く違うものが展開されて、私の安直な推測は粉々に打ち砕かれるわけで…。
まさにタイトルどおり「A GHOST STORY」そのもの。ひとりの幽霊の物語なんですね。
幽霊になった後も人生がある…という言い方は変ですが、仮にあったとしたらこういうことなのではないか。そういう意図のもと、作られたような物語でした。
本作の場合、とくに妻が家を去ってしまってからが本作の独自性が濃くなるのですが、その後も家に残り続けた夫(幽霊)の前に、新しくこの家に住み着いたいろいろな人が現れます。ヒスパニック系の家族、無人、賑やかな集団、無人。そして、家がついに解体されてしまい、瓦礫の山になっても、そこに居続ける幽霊。さらにそこに巨大なビルが建って景色が一変しても、やっぱり幽霊はいる。
かと思いきや、全く未開拓の開けた土地が広がり、いつの時代かもわからない世界で暮らす一家の顛末を目撃する幽霊。
最後には、またあの家が健在の世界に戻り、新居に入ってくる自分と妻の姿を見ながら、悲劇の後にまた出ていく妻を見ます。そこにはもうひとりの幽霊がいて、自分を凝視。妻が柱に挟んで残したメモをとり、広げた瞬間に幽霊の“中身”は消え、残ったのは布だけ。これで終わり。終わりってどういうこと?っていう話ですが、終わりは終わりです。
意味深すぎる物語ですが、本作は監督である“デヴィッド・ロウリー”の夫婦観などプライベートなことを元に温めていた脚本を映画化したものだそうです。つまり、ここのこのシーンはこういうメタファーだとか、そういう考察に頭を捻らせてもあまり意味ないタイプの映画ともいえます。
ちなみにあの最後のメモも、何が書いているかは、監督は知らないとのこと。
ただ、私が思ったのは、作中で、とある無神論者がベートーベンの交響曲第9番の話を引き合いに、「神などいない」とうんたらかんたら連呼してまくしたてるシーンがあったように、本作自体に宗教的な要素が皆無に等しいのが不思議でした。こういうジャンルの作品には、絶対に宗教が絡むことが多いのですが、それがないんですね。
だからこそのあの味気ない幽霊のビジュアルデザインなのでしょうし、鑑賞後の何とも言えない“つかみどころのなさ”を生むのではないでしょうか。そういう意味では、宗教アレルギーな日本人でも親しみを持ちやすいかもしれないです。
変わった映画といえば、この会社
一応、俳優にも言及しておきましょうか。
役柄としては「M」ということになっている妻を演じた“ルーニー・マーラ”。今まで『ドラゴン・タトゥーの女』から『キャロル』と、挑戦的な役も演じてきましたし、『LION ライオン 〜25年目のただいま〜』のようにパートナー役としても存在感のある女優でしたが、今作はファンも困惑する出番の少なさで、結構薄味。収穫は、パイをひたすら食べる彼女が拝めたくらいでしょうか。まあ、あのシーンは地味に大変だと思いますけど…。
そして役柄としては「C」ということになっている夫を演じた“ケイシー・アフレック”。今作では主役であり、ずっと画面に出続けているはずなのに、顔は序盤にちょっと映るだけという、役者として良いのか悪いのかよくわからないポジション。それも“ケイシー・アフレック”らしいといえばそうですけど。リアルでは過去のあれこれのせいで、映画業界からも幽霊的な存在感になっているような気がしないでもないですが、こうやって静かにキャリアを重ねていけばいいでしょう。たぶん本人もそれが一番幸せな気がする…。
今回、このユニークすぎる映画の配給を手がけたのは「A24」。最近は『ムーンライト』や『レディ・バード』など賞レースに名前が上がる作品に積極的に手を出すことで、映画ファンの間では知られてきた会社ですが、『スイス・アーミー・マン』『パーティで女の子に話しかけるには』『アンダー・ザ・シルバーレイク』と変な映画も選ぶことが多く、この会社も幽霊のようにつかみどころがありません。
Appleと映画制作で協力するという話もありますし、今後は資金力最強のパトロンも手に入れたことで、さらに大胆な映画をガンガン作ってくれることでしょう。
今後も「A24」作品は、個性派映画ファンにとって注目リストに優先的に入れておくべきですね。もう映画配給会社も「A24」作品です!とバンバン宣伝していっていいですよ。
次回のハロウィンは、本作にちなんで、幽霊の格好でひたすら黙って何もしないというパフォーマンスをするのはどうですか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 65%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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以上、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』の感想でした。
A Ghost Story (2017) [Japanese Review] 『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』考察・評価レビュー