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『弱くて強い女たち』感想(ネタバレ)…孤味の心で寄り添い合う台湾映画

弱くて強い女たち

孤味の心で寄り添い合う台湾の家族ストーリー…映画『弱くて強い女たち』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Little Big Women
製作国:台湾(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:シュー・チェンチエ

弱くて強い女たち

よわくてつよいおんなたち
弱くて強い女たち

『弱くて強い女たち』あらすじ

音信不通だった父が亡くなり、遺された母と娘たち。葬儀という不本意なかたちではあるが、再び一同で集まることになり、それぞれの人生が交錯する。自分たちの知らない父の暮らしと死の現実に向き合うことになった家族は揺れ動く。男という不在を抱えながらも、懸命に家を支えてきた母親は何を思っているのだろうか。その表情は簡単には読み取れない。

『弱くて強い女たち』感想(ネタバレなし)

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アジア版「若草物語」?

コロナ禍は映画祭の開催も困難なものにさせました。映画業界にとって映画祭は大切です。単に映画を上映するだけでなく、そのイベントを通して「人と人」「人と作品」を繋げ、さらなる映画を届ける架け橋になる場所ですから。それが無くなってしまうと作品は孤立してしまい、思うように観客に届かないことになってしまいます。

日本最大の映画祭である東京国際映画祭は2020年のコロナ禍においても完全オンラインになることなく、リアルな会場で開催されました。ただ、外国人の来日は当然のように厳しい状況だったので、コンペティションは中止。観客賞というメインを置くことでひとまず事なきをえている感じでした。これほど映画というものが感染症に弱いことを露呈してしまったので、もちろんスポンサーも多くが下りてしまい、どうしようもなかったと思います(なんでも2億円も予算が減少したとか)。

そんな中で、東京国際映画祭で観客賞を受賞した『私をくいとめて』の大九明子監督が日本映画界を取り巻く女性差別についてハッキリ問題を指摘して語ったのが印象深ったです。

「女性であることの不公平さを感じるたびに、私を導いてくれた大事な人はすべて女性だった。なので私はこれからも、女性の後輩には優しくたまに厳しく、道を照らしていきたい」

日本では映画で女性を取り上げたものが例年たくさんありますが、女性が抱える差別や苦悩を掬い取る作品は少ないように思います。どうも女性主体的ではありません。それは作り手となる製作陣にそうした女性差別への問題意識が欠けているからにほかならないでしょう。

そうした日本のなかなか改善する気配もない状況に頭を抱えつつも、東京国際映画祭で上映されたとある台湾映画のアジア社会で生きる女性に親身に寄り添った姿が心に残りました。それが本作『弱くて強い女たち』です。

監督を務めたのは、本作で長編映画デビューを果たしたという“シュー・チェンチエ”。2017年の同名短編映画を長編にした作品なのだそうです。

そして、プロデューサー兼主演、さらにはエンディングの歌まで歌っているのが“ビビアン・スー”。彼女は日本でもタレントとして有名で、1990年代から芸能界でも人気でしたし、今も『コンフィデンスマンJP プリンセス編』に出演したり、サプライズ枠な感じです。その“ビビアン・スー”、いつのまにか映画の製作にまで関わるようになっていたんですね。こういう女性のキャリアアップはとても素晴らしいですし、なによりこの『弱くて強い女たち』という映画には必要な才能だったと思います。

本作は台湾で暮らすとある家族の焦点をあてており、もっと言えば女性たちの物語です。英題が「Little Big Women」であることから推察できるように、最近もリメイクされて大好評だった『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』の原作「Little Women(若草物語)」を意識した命名です。

その「若草物語」と同様に、時代の流れ、社会の抑圧、人間関係に揉みくちゃにされながらも懸命に自分らしく生きようとした女性たちの物語になっています。アジア版「若草物語」でしょうか。

『弱くて強い女たち』は金馬奨(中華圏を対象とした名誉ある映画賞)で高く評価され、最優秀主演女優賞を受賞しました。

なかなかアジアのような保守的な家庭観が根強い環境で生きる女性たちは“モノ言えない”状態にあることが多いと思いますが、そんなアジア女性の心の内をスッとさらけ出すのを手伝ってくれる、そんな作品だと思います。

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『弱くて強い女たち』を観る前のQ&A

Q:『弱くて強い女たち』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixで2021年2月5日から配信中なのですが、Netflixオリジナル映画ではないので、いつか配信がいきなり終了する可能性が高いです(同様のケースの映画がこれまでもいくつもある)。観れるならなるべく早く観ましょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(心を揺れ動かす物語)
友人 ◎(女性同士で観るも良し)
恋人 ◯(ドラマに向き合える相手と)
キッズ ◯(子どもは退屈するかも)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『弱くて強い女たち』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):この人、だれ?

台南の魚市場。今日も水揚げされたばかりの新鮮な魚が並び、この地域の食文化を支えています。そんな市場でリンというひとりの老齢女性が海産物を見て回っています。このあたりではすっかり有名らしく、よく話しかけられています。「誕生日なのに自分で買い物か?」と声をかけられ、気さくに答えるリン。誕生日まで知られているくらいですから、かなりの地元の有名人です。

魚やエビなどを吟味し、どんどん大量に買っていくリン。市場の人はオマケまでしてくれるほど、優しい対応です。

家に帰り、食事を作ります。若い女性が現れて、「朝から伊勢エビ?」と朝食に一言。「市場に行ってきたの?」と聞かれ、「納品の確認に」と口にするリン。「店のことは私に任せてよ」とその若い女性は言いますが、リンは日課のようになっていることの市場との付き合いをそうそうやめる気もないようです。

リンはこの台南の地元でそれなりに歴史のある大きなレストランを経営しています。今は家には三女のワンジアがいるのみで、彼女が店を継ぐ気でいました。

今日はリンの70歳の誕生日。久しぶりに家族が集まる予定になっています。

長女のチェン・ワンチンはダンス講師をしており、次女のワンユーは美容整形の先生です。リン家はもともと医学の家系で、リン病院という大きな診療所を運営しているので、地域では知られています。

リンは駅で一足先に到着する孫のイーチョンを迎えます。「おばあちゃん!」と無邪気に抱きついてくるイーチョンはまだ10代ですが、親からアメリカへの留学を提案されているなど進路が差し迫っています。でも今はひたすらにおばあちゃんに甘えるただの孫です。

リンと孫のイーチョンは、タクシー内でカラオケを楽しみます。リンは気持ちよさそうに歌います。

このリンの家族。では夫は?

実は夫は昔に行方知らずとなり、妻と娘たちを捨てていました。なのでリンは話題にもしませんし、家を女手ひとつで切り盛りしてきたことを誇りにしています。

しかし、実は三女のワンジアは父の居場所を知っており、こっそりたびたび会っていました。病院にやってきたワンジアは「好物の寿司よ」とベッドに横たわる男性に声をかけます。その男、チェン・ボーチャンこそがリンの夫です。明らかに体調が悪そうで、辛そうな状況ですが、ワンジアの姿を見てホッとしているようです。

けれどもその面会の日、夫・チェンは亡くなってしまい…。

リンと娘たちにとってそれは唐突でした。再び相見えたと思ったら、夫(父)は遺体だったのですから。

「おばあちゃん、これだれ?」とイーチョンは棺の高齢男について尋ねます。「あんたの母さんの父親」と答えるリン。「私のおじいちゃん?」と初対面にびっくりする孫。

家族が議論します。祝いの日に家族の死が起きるとは思っていませんでした。「誕生日の宴会はやめる?」と聞くも、リンは「やめない」と頑な。

「十数年も音信不通で死んで戻るなんて…」

その夜、予定どおりリンの誕生日の宴会が始まります。親戚も続々。しかし、来ない親戚もいます。チェン・ワンチンは旧友だった男であるグワン・ジェンと20年ぶりくらいに再会し、少しテンションが上がります。

会場での食事。家族が揃うも、まだあの唐突な夫の死を引きずり、どことなく気まずい空気。宴会会場で前に立ち、リンを紹介する男が話し始めます。「女の細腕でエビ巻きの屋台から初めて店を構え、娘4人…3人を育てながらです。1人は台北の美容外科医。その婿は台南で名をはせる腫瘍科の名医です」…そう言ってワンユーの夫・ジョンシェンを紹介。

まだ喋っている最中でしたが、カラオケが始まり、リンは熱唱します。

その後、リンは孫のイーチョンとこっそり病院に。「チェン・ボーチャンの妻です」と説明し、「夫をここに運んだのは誰ですか?」と受付に聞きます。「ツァイ・メイリンです」と答えが返ってきて、電話番号も知ります。

家を出た夫と親交を深めていたツァイという謎の女性。リンは亡き夫と向き合わないといけないようです。

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女たちのアンサンブル

『弱くて強い女たち』の本題となる物語テーマに入る前に、各登場人物について語りましょう。本作はキャラクターのアンサンブルがとても良い作品です。

まず主役の祖母・リン。演じたのは“チェン・シューファン”で、大ベテランですが、さすがの貫禄で見事な演技でした。今作ではこのリンが主人公ながらもなかなかその心の内を見せてくれません。情報の少ない観客側はもちろん、あの娘たちにさえも母の本心が窺い知ることはできない。そういう感情を表に出さないというのは、まさにあのリンが生きてきた世界が「女性が声をあげる」ということを許さなかったからであり、だからこそ黙々と家族を支えるしかできなかった苦悩があります。その声なき苦しさを“チェン・シューファン”は完璧に表現していました。

長女のチェン・ワンチンを演じたのは“シエ・インシュアン”。長女は父と過ごした時間が長いせいか、父に同情的だったりします。また、ダンス講師をしつつも、どこか自分の生き方に彷徨いを感じており、男との関係に逃げるなど、それこそ父親と同質とも言えるような行動をとっていたり…。自由奔放さがあるのは長女としての期待から逃避したいからなのかも。

次女のワンユーを演じたのは“ビビアン・スー”。次女は医学家系どおりの道に進んでおり、一見すれば順風満帆。でも夫の方が何かと持ち上げられ(誕生日宴会でもそれがわかる)、どこか息苦しさを感じています。次女は父の醜態(母が包丁を持ち出す事件とか)を見ており、かなり父にはマイナスなイメージを持っている様子。

三女のワンジアを“ソン・カーファン”。頼りなさそうですが、実は父の愛人(?)のツァイと連絡をとっており、意外にもしっかり家族を客観視しています。彼女が家の店を継ごうとするのも、一度はダメになってしまった家族を再建したいという思いの表れなのでしょうね。今度は自分は家主になるという静かな覚悟も感じさせます。

そして孫娘のイーチョンを演じた“チェン・イエンフェイ”。典型的な「おばあちゃんっ子」。本作のユーモア担当であり、「これだれ?」とか、棺の周辺で何か動いているのを発見して「おじいちゃんかな?」と言って出てきたのがゴキブリだったり(そして躊躇いなく踏みつぶすリン)、病院のツァイの連絡先を淡々とスマホで撮るとか、イチイチ言動が面白いです。そのイーチョンも両親からの進路に関するプレッシャーが実はあって、そこから逃避できるのがおばあちゃんなんでしょう。

“チェン・イエンフェイ”(漢字では「陳姸霏」)、今作では愛嬌たっぷりの姿でしたが、同じく出演作である『無聲(The Silent Forest)』という別の映画では全く異なる強烈なキャラクターを演じており、なかなかに凄い才能。これは今後も期待の若手です。

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社会の抑圧が家族を覆う

『弱くて強い女たち』の物語は、主人公家族の歴史が少しずつ明らかになっていくのですが、そこにあるのは間違いなく社会の抑圧です。

リンは夫を嫌っています。憎んでいると言えるのかもしれません。それは浮気をしていたから、家を出たからという表面的な受け捉え方もできます。でも実際はもっと複雑です。

そもそもあの夫・チェン・ボーチャンはなぜ家出をしたのか。本作は男の視点がほぼ描かれないので、そこの真意はわかりません。しかし、推察はできます。あの夫は警察で働き、国家権力に帰属している人間でした。「父さんはなぜ転職したの?」という疑問には「警察は薄給だから」と答えが返ってきます。でも当時は台湾は民主化で揺れ動いており、社会は不安定でした。また、あの夫はどうやら文才があるらしく、芸術の道にも興味があったようです。するともしかしたら権力への反発があったのかもしれません。そういう板挟みが家主としての夫(父)というポジションからの逃避に繋がっているとも考えられます。

ではなぜ離婚しないのか。これは監督がインタビューで答えていますが、離婚なんて考えない世代であり、結婚は添い遂げるものという絶対的な固定観念があるので、だから去るしかないのだ、と。

結局、貧困に沈むことになったリンは、実はもうひとりいた娘(4姉妹だった)をシンガポールに送るしかできず、そうしなければならない状況を作った自分の夫への許せなさを抱えることに。

それでも最後はツァイに場所を譲る。この行動の動機は、私なりの解釈を言えば、リンは女性の居場所を奪うようなことはしたくなかったのではないかなと思います。そこには母長の家庭で生き抜いてきたこだわりがあるのではないでしょうか。

『フェアウェル』もそうですけど、アジア圏では母が家長になることがあります。これもまた家父長制と同類とみなすこともできますが、でもそれが完全に同質とは言い切れない。そういう内部のコンプレックスを映し出す側面がこの『弱くて強い女たち』にはありました。

監督いわく自分の祖母が愛人の葬式を無理やり手伝わされるという出来事があったというエピソードをもとに作ったそうです。

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青春の味は甘酸っぱく甘い

『弱くて強い女たち』は演出も良かったです。

例えば、食の要素も効果的でした。そもそも本作の原題は「孤味」。この「孤味」は、台南にあることわざで、“ひとつの食事を作るために頑張る”という意味だそうです。台南には看板料理を大事にする店が多く、ひとつの食事を極めれば全部良くなるという食の哲学のようなものがあるのだとか。これはつまりリンのこれまでの奮闘がその「孤味」という言葉で集約されます。

作中では食のシーンが多く、台南は日本で言えば京都みたいな場所でローカルフードが盛んであるというバックグラウンドと一致しています。誕生日宴会は賑やかだけど、どこか虚しい食事。母・娘・孫娘でのマクドナルドの食事ではちょっと打ち解け合います(あそこは役者が弁当に飽きたのでマクドナルドにしたらしい)。終盤で3姉妹が明星珈琲館の俄羅斯軟糖を食べるシーンがあり、そこは一番温かみがあり…。

また、歌の要素も大事です。

台湾のタクシーにはみんなカラオケがついているわけではないらしいですが、YouTubeでカラオケ搭載のタクシーの映像を見たのがきっかけだそうで、実際はもっと装飾が派手なようです。それでもあのタクシーでの歌唱がとても効果的に響いてくるあたりはお見事。途中までしか一緒に乗っていない人生だったけど、あの夫婦にとってはそれも大切な時間だったことがわかる、良い演出でした。

『弱くて強い女たち』は女性の撮り方が良くて、あざとく女同士で争わせるとか、そういうことをしていないのも印象の良さに繋がっていました。

個人的には自分の家族構成に似ていたので、妙に感情移入してしまったというのも大きいですけど…。

台湾は『幸福路のチー』や『ひとつの太陽』など、良質な家族映画が多いですが、今作もそこに新しく加わる一作になったでしょう。

『弱くて強い女たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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関連作品紹介

台湾の家族を題材にした映画の感想記事の一覧です。

・『幸福路のチー』

・『ひとつの太陽』

作品ポスター・画像 (C)弱くて強い女たち

以上、『弱くて強い女たち』の感想でした。

Little Big Women (2020) [Japanese Review] 『弱くて強い女たち』考察・評価レビュー