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アニメ『ゆるキャン△』感想(ネタバレ)…意外とゆるくない趣味特化人生

ゆるキャン△

意外とゆるくない趣味特化人生…アニメシリーズ『ゆるキャン△』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Laid-Back Camp
製作国:日本(2018年~)
シーズン1:2018年に各サービスで放送・配信
シーズン2:2021年に各サービスで放送・配信
劇場公開日:2022年7月1日
シーズン3:2024年に各サービスで放送・配信
監督:京極義昭(第1期・第2期・映画)、登坂晋(第3期)
ゆるキャン△

ゆるきゃん
『ゆるキャン△』のポスター。5人の登場人物がキャンプする姿を映したデザイン。

『ゆるキャン△』物語 簡単紹介

女子高校生の志摩リンは、閑散としたオフシーズンのひとりキャンプが好きで、いつも各地を回っていた。ある日、富士山の麓で冬のひとりキャンプを楽しんでいると、慣れない場所に途方に暮れていた同じ高校の各務原なでしこを助ける。その出会いをきっかけに各務原なでしこもまたキャンプに興味を持ち始め、学校で少人数で活動していた「野外活動サークル」に勢いのままに飛び込んでみる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ゆるキャン△』の感想です。

『ゆるキャン△』感想(ネタバレなし)

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趣味アニメの究極的入門

2020年代にはいつの間にやらすっかり一般に知れ渡った用語になっていた「グランピング」。「グラマラス(glamorous)」 と「キャンピング(camping)」を掛け合わせた造語で、アメニティが整った設備などのサービスつきでキャンプっぽい雰囲気を楽しむことを指しています。

グランピングの普及はキャンプ・ブームの後押しがあったことが大きく、さらに感染対策で密集を避けることが求められるコロナ禍も噛み合いました。よりおカネを落としやすいグランピングはビジネスとの相性が抜群で、振興事業で儲けたい人たちがワッと押し寄せました。今では成長産業として補助金もでていることもあって官民一体で事業促進がなされています。観光庁のデータによれば、キャンプ市場は2022年は734億円まで成長(2019年比の156%の水準)。コロナ禍の解消で、従来のホテル産業に観光界は切り替えて戻し始めていますが、しばらくはグランピング産業も盛んになり続けるでしょう。

一方、昔ながらのテントを張ったり、個人の車などで駆使して、自身のアイテムでキャンプする行為も依然として人気の趣味です

そんなキャンプ・ブームの火付け役として貢献した存在のひとつが、本作でした。

それが『ゆるキャン△』です。

”あfろ”による2015年から『まんがタイムきららフォワード』『COMIC FUZ』と居場所を変えつつ連載している漫画があり、2018年にアニメシリーズ化して、一気に話題沸騰となりました。

中身は、女子高校生たちがまったりキャンプをしながら過ごしていく姿を描いた、いわゆる日常モノ(スライス・オブ・ライフ)。部活動としての側面も一部はあるので部活モノでもありますが、物語の多くは学校の範囲を飛び越えるので広い枠としては趣味モノのジャンルになります。

チルアニメとして視聴者側も何も考えずに眺めていられる心地よさがあります。女子高校生を主役にするという点では日本のサブカル・コンテンツにありがちですが、一方でセクシュアライゼーションなどは一切ないので、ノイズもなく見やすいです。そんな女子高校生を消費的に扱いませんし…。

アニメ化は好評を博し、2021年に第2期(シーズン2)、2022年に劇場版のオリジナル・ストーリー、さらに2024年に第3期(シーズン3)と順調にアニメも継続。かなりスローペースな話運びなので、原作も続いていることですし、まだまだ続きそうですが…。なお、劇場版は女子高校生ではなく社会人として成人となった主要登場たちが描かれ、この手のジャンルとしては珍しい作品アプローチですね。

『ゆるキャン△』は社会現象化したところもあり、キャンプをゆるく楽しむことをそのままこのタイトルで表現することが日本語表現の慣用句として恒常的に定着するんじゃないかな。

ちなみにタイトルの「ゆるキャン」の後に「△(三角マーク)」がついていますが、これはキャンプのテントを意味するピクトグラムとして付随しているようで、タイトルを言う際は発音しません。

『ゆるキャン△』は趣味モノのジャンルを突き詰めたような一作であり、他の同類ジャンル作品と比べてもその趣味への向き合い方が非常に丁寧です。独特の時間が流れている感じがあって、セカセカしたエンタメ・コンテンツらしい忙しさがあまりありません。そこが良さなのかなと思います。

キャンプ・マニアを満足させるディテールもあれば、マニアックすぎない初心者に優しい部分もあり、バランスもいいです。

ギャグについては北海道のローカル番組ながら全国的に知られるようになった『水曜どうでしょう』のネタが豊富なので(作者がファンらしい)、『水曜どうでしょう』を一切知らないと全く理解できないのでは?というギャグがいくつかありますが…。

もうひとつ、作風ゆえに感想までゆるいものを引き出してくる本作ですが、実は趣味に対するスタンスは全然ゆるくないんじゃないかとも思える部分もあり、そのあたりは後半の感想でもう少し言葉にして書いてまとめています。

とりあえず疲れたときに観るのが程よいアニメです。もちろんキャンプをしながらでも良いですけども。

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『ゆるキャン△』を観る前のQ&A

✔『ゆるキャン△』の見どころ
★気楽に眺められる見やすさ。
★趣味をとことん突き詰めた姿勢。
✔『ゆるキャン△』の欠点
☆キャンプがしたくなるが、実際にできるかどうかは…。
日本語声優
東山奈央(志摩リン)/ 花守ゆみり(各務原なでしこ)/ 原紗友里(大垣千明)/ 豊崎愛生(犬山あおい)/ 高橋李依(斉藤恵那) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:のんびり鑑賞
友人 4.0:リラックスして
恋人 4.0:信頼できる相手と
キッズ 4.0:子どもでも安心
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ゆるキャン△』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

女子高校生の志摩リンはひとり自転車で大荷物を乗せ、じゅうぶんな防寒を着込み、富士山の麓の坂になっている塗装道路を懸命に走っていました。傍には紅葉の森が広がる景色。トンネルを抜けると富士山が見えます。山頂は雲に隠れていました。

通りすがりの道のトイレ施設のベンチにひとり横になって眠りこけている少女がいました。ここで寝ているのは不自然です。思わず足を止めて見つめてしまいます。風邪をひくだろうなと思いつつ、その場を去ります。

そして民宿に到着し、1泊を申し込み。宿には止まりません。ここに来た目的はキャンプです。

シーズンオフなので本栖湖のキャンプ地にはほぼ誰もいません。貸し切り状態です。志摩リンはひとりキャンプを趣味にしていました。感覚でテントを張る場所を決め、慣れた手つきで道具を広げていきます。ひととおり終わると、チェアに座って本を読みながらのんびりと過ごします。しかし、カイロだけでは寒いです。

やむを得ず焚火をすることになります。肌が乾燥しますがしょうがないです。着火剤になる乾いた松ぼっくりを探し、薪となる木の枝を収集。全部自分でやります。

途中でトイレに寄ると、例の謎の少女がまだ寝ていました。なぜここにいるのかわかりませんが、随分と無防備でやっぱり変です。

火をつけることができ、焚火ならではの暖かさに満足。同じ学校の友人である斉藤恵那からメッセージがきて、いつものやりとり。

すっかり暗くなり、またトイレへ。するとあの謎の少女がすすり泣いて立っていました。とりあえずテントで面倒をみると、どうやら今日に山梨に引っ越してきて自転車で気軽に富士山を見に来たものの疲れて寝てしまったらしいです。しょうがないのでここで一緒に過ごすことにします。

その謎の子、各務原なでしこは志摩リンのカップラーメン(カレーめん)を用意する姿を物珍しそうに見つめます。志摩リンもソロ以外でキャンプしたことがないと思い出します。しかも、見ず知らずの同年代っぽい子と…。

各務原なでしこは美味しそうにそのラーメンを頬張ります。ただの市販の普通のカップラーメンですが、最高に口いっぱいに食べています。志摩リンはその姿に感心します。他人とキャンプするってこういうことなのか…。それにしてもこの子は変だけど…。

いつの間にか月に照らされ、今は富士山がくっきり見えました。

各務原なでしこは姉に迎えにきてもらい、車で去っていきました。去り際に各務原なでしこは連絡先を渡してきます。満面の笑顔で各務原なでしこは声をかけます。

「今度はちゃんとキャンプをやろうね!」

そんな変なヤツと大切な時間をこれからも過ごすことになるとは…。

この『ゆるキャン△』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/08/16に更新されています。
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ハードでストイックな趣味アニメの極み

ここから『ゆるキャン△』のネタバレありの感想本文です。

『ゆるキャン△』はタイトルが宣言しているとおり、ゆるいキャンプの模様を描いています。アニメ化したことで時間の流れが生じ、さらにゆるくなった気もします。

しかし、確かに表面上はキャラクターも何もかもゆるいのは間違いないですし、あの「野外活動サークル(野クル)」も他の登山部のような体育会系のスタイルは一切無く、何かの大会で優勝を目指すタイプでもありません。帰宅部に優しい部活モノです。

ただ、実際にやっていることは意外とゆるくない…というか、むしろハードでストイックな趣味アニメの究極系だなとも思いました。

本作の主要人物として初期からメインで描かれるのは、志摩リン、各務原なでしこ、大垣千明、犬山あおい、斉藤恵那の5人。それぞれキャンプの共通項があるものの、その熱意や関心のポイントは違っていて、ひとりキャンプが好きな人もいれば、みんなと行動が好きな人もいれば、犬同伴を好む人もいる。食事にこだわる人、道具にこだわる人、乗り物にこだわる人…こちらもいろいろ。キャンプから派生して、観光地めぐり、ツーリング、ロードバイク…と広がりもみせます。ひと口にキャンプと言っても実に多様です。

こうした差異を互いに尊重し、互いに支え合い、趣味の輪を深めていくのが『ゆるキャン△』の大きな魅力になっています。とくに多数の和気あいあいがそんなに得意じゃない志摩リンのソロへのアイデンティティを、ちゃんと棄損せず、それどころか各務原なでしこなどがソロキャンプの醍醐味に目覚めていく過程を丁寧に描くあたりは、こういうジャンルものではなかなかない感触でした。「寂しさを楽しむ」なんて境地、高校生には早すぎる気もしますが…。

で、本作がハードでストイックな趣味アニメの極みと言える理由は、こういう多種多様なキャンプへの姿勢を描きつつ、ある一点では非常に同質的な揺るぎない姿勢があるからです。それは「おカネの投じ方」

キャンプはおカネのかかる趣味であり、それは作中で幾度となく言及されます。高校生にはかなりキツイ出費であり、ゆえに各登場人物はそれぞれでバイトをすることになります。

そして、少なくとも本作で描かれるかぎりでは、そのバイトで稼いだ金銭をほぼキャンプの趣味一筋に費やしているんですね。

これ、簡単にやってみせていますけど、なかなかできないことで、というのも、普通、手にした資産はいろいろなことに消費されるものです。親の庇護下にある高校生でもそれは同じ。でも本作の登場人物はひたすらにキャンプに投資していきます。他には使いません。こういう趣味に特化する人生を送るというのは、ある種の趣味人にとっての理想形態ですが、現実では難しいです。

ひとりキャンプなんてその到達点です。趣味をひとりでも続けられるというのは、結構メンタル的にも金銭的にも大変ですから。

本作はそういう意味で、「ハードでストイックな趣味人生をそのハードさをあえて脱臭してゆるくみせる」というフィクションなんですね。

もちろん各登場人物はそんなに貧困層でもなく(今の平均的家庭経済状況の分布からみれば、各自はかなり裕福な部類にあると思う。とくに斉藤恵那が一番かな?)、その点でも都合のいいフィクショナルです。

なので『ゆるキャン△』のマネをしようとしても、案外とそれを恒常的に実現できる人は限られますね。

こんな感じで『ゆるキャン△』はお気楽なよくある日常モノに思えますけど、ギリギリの絶妙なバランスで成り立たせている器用な作品なのではないでしょうか。

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大人になっても趣味を維持すること

その『ゆるキャン△』のギリギリの絶妙なバランス感覚が揺れ始める事態となるのが、劇場版です。こちらでは社会人になった5人が描かれ、各自が就職し、それぞれでバラバラの地で生活しています。

親の庇護下から卒業したことで自由度は上がり、安定した自身の収入を得たことで、おカネも使いやすくなりましたが、良いことばかりではありません。劇場版は「大人になっても趣味を維持すること」の難しさを感じさせます。

これでも『ゆるキャン△』はまだ甘くて、各登場人物は恋人もいないようですし、結婚もしていませんし、親の介護を抱えている雰囲気もありません。体調や健康に大きな支障もないです。趣味を抑圧するものがほぼ仕事の忙しさに限定されています。

それでも5人は気軽に集えず、大人になって3年ぶりに地元でDIYのキャンプ場作りに参加する…というのが劇場版のメインストーリーとなります。縄文時代の土器が発掘されて、当初の企画どおりにいきませんでしたが、アイディアで再考し、難局を乗り越えていきます。

その流れは別にいいんですが、私は高校時代のアニメシリーズと違って、劇場版は元の方向性と真逆なことに手を付けているなと少しそこは残念でした。

それは社会への向き合い方。高校時代を描くアニメシリーズは、キャンプという趣味が当時のあの子たちにとっての社会である「学校」という空間からの逃避になっていました。無論、キャンプのマナーは守りますし、下手したら命を落とすので自然を舐めないようにはしていましたが、基本的にキャンプは社会の”外”にありました。『ゆるキャン△』の良さは学校をそんなに描いていないところにあると私も思いましたし…。

対する劇場版は、キャンプが労働や政治と接続し、社会貢献に従事するという社会の”内”に位置づけられて描かれている感じでした。ろくに労働契約も描かれずに働いてますからね。

これはおそらく『ゆるキャン△』というアニメが大ヒットし、聖地巡礼や実在のキャンプ場などへの波及効果を生み出し、地域貢献したことへのメタな物語的導入のつもりなのかもしれません。『ゆるキャン△』が地域に影響を与えたので、『ゆるキャン△』内で地域に影響を与える姿を描こう…みたいな。

その発想自体は良いのですが、アニメの価値は「経済効果をもたらしたかどうか」で決まるような面を強調してしまいますし、何よりも趣味さえもその「地域や経済への貢献」という物差しで評価される印象を強めてしまい、そこは『ゆるキャン△』の描いていた(と私は受け取った)趣味の哲学とズレるかな、と。

趣味は地域や経済に貢献しなくてもいいし、究極の自己満足というだけでいい。私はそう思っていますけども…。『ゆるキャン△』は高校時代から成人へと登場人物がステップアップする中で、ちょっと忖度や義理というか、お行儀がいい感じになってしまったところはありますね。

『ゆるキャン△』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『終末トレインどこへいく?』

・『ガールズバンドクライ』

・『星屑テレパス』

作品ポスター・画像 (C)野外活動委員会

以上、『ゆるキャン△』の感想でした。

Laid-Back Camp (2018) [Japanese Review] 『ゆるキャン△』考察・評価レビュー
#女子高校生 #キャンプ #部活