現実を綺麗に魅せます!…映画『グレイテスト・ショーマン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2018年2月16日
監督:マイケル・グレイシー
恋愛描写
グレイテスト・ショーマン
ぐれいてすとしょーまん
『グレイテスト・ショーマン』あらすじ
貧しい家に生まれ育ち、幼なじみの名家の令嬢チャリティと結婚したP・T・バーナム。妻子を幸せにするため努力と挑戦を重ねるバーナムはやがて、さまざまな個性をもちながらも日陰に生きてきた人々を集めた誰も見たことがないショーを作り上げ、大きな成功をつかむ。しかし、そんな彼の進む先には大きな波乱が待ち受けていた。
『グレイテスト・ショーマン』感想(ネタバレなし)
ショーが始まる
「バーナム効果」という言葉を知っているでしょうか。星座占いや血液型性格診断で「あれ、なんか当たっている気がする…」という感じになるアレのことです。具体的には「誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格をあらわす記述を、自分だけに当てはまるものだと捉えてしまう心理学の現象」と説明されます。
この「バーナム効果」の名前の由来となった人物が興行師「P・T・バーナム」です。1800年代に活動し、アメリカのショー・ビジネスの創成期を築いた著名な人物と言われています。
そのP・T・バーナムの半生を映画化したのがミュージカル映画である本作『グレイテスト・ショーマン』です。
宣伝では『ラ・ラ・ランド』の製作チームが贈る!と大々的に掲げられていますが、ひとつ注釈をいれておくと、実は『ラ・ラ・ランド』の製作に関わった人たちは全然関わっていません。監督も脚本家も別ですし、製作会社も配給さえも別。唯一共通しているのは『グレイテスト・ショーマン』に音楽で関わっている“ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール”のコンビが、『ラ・ラ・ランド』では劇中で流れる曲の作詞を担当していたということ。
『ラ・ラ・ランド』の作詞家が贈る!が本当は正しいですよね。
若干の便乗商法の匂いが漂いますが、まあ、しょうがないか。宣伝する方も大変ですし。どっちかというと、『ラ・ラ・ランド』よりも2012年に公開されて日本では『ラ・ラ・ランド』以上に大ヒットした『レ・ミゼラブル』の方が関連させて語る価値があるような気もするけれど…。同じ“ヒュー・ジャックマン”主演ですから。
そんな宣伝のされ方ゆえに、『ラ・ラ・ランド』みたいな物語を想像する人も多いかもしれませんが、かなり趣が違います。『ラ・ラ・ランド』は綺麗な話に思えてその実態はデミアン・チャゼル監督の狂った世界がこぼれでる作品でしたが、『グレイテスト・ショーマン』はド直球の王道。これぞエンターテインメント!という感じです。豪華なセットや視覚表現の雰囲気としては実写版『美女と野獣』が近いと思ってもらえればOKかと。
ちなみに本作の監督である“マイケル・グレイシー”はこれが長編映画初監督作なのですが、今後は日本の人気忍者アクション漫画「NARUTO」のハリウッド実写化の監督候補になっているという点でも、日本では無視できない人物です。
“ヒュー・ジャックマン”以外の他の俳優陣は、“ミシェル・ウィリアムズ”、“ザック・エフロン”、“レベッカ・ファーガソン”、“ゼンデイヤ”、“ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世”、“キアラ・セトル”など。
ともかくシンプルなエンターテインメントの世界に浸りたいなら本作はおすすめです。
『グレイテスト・ショーマン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):いよいよ開幕のとき!
地上最大のショー(グレイテスト・ショー)。そんな夢が叶う…そんなことはあるのか…。
フィニアス・テイラー・バーナムという少年は貧しい暮らしでした。穴のあいた靴を履き、埃をかぶった服を着ている姿がいつもです。本心では夢を抱いていますが、夢想するだけの日々。
ある日、良家の令嬢チャリティと出会います。チャリティも厳格な父に花嫁学校にいれさせられることに暗い気持ちでいました。そんな沈んだ心をバーナムは歌で励まし、身近にあるステキな世界を見せてくれます。
チャリティが学校へ行ってしまった後もバーナムが手紙を書き続け、父を失って盗みをしながら生きることになっても諦めませんでした。どんなにどん底の生活でも手紙だけは出し続ける…。
バーナムは鉄道で働き、なんとかそれなりの成長を遂げました。そしてチャリティを妻として迎え入れます。
チャリティの実家の屋敷とは比べ物にならないほどに質素な家ですが、2人には前向きな未来が見えていました。そしてチャリティは妊娠します。
バーナムはデスクワークに飽きていましたが、貿易会社の突然の倒産で解雇となってしまいます。いきなりの苦境。しかし、これは新しい出発の機会ではないか。妻と子どもたちも無邪気に応援してくれます。愛する人の願いを叶えたい…。
そこでアイディアを捻りだすバーナム。自分がやりたいことはエンターテインメント。とにかく沈没した船の登録証を担保に銀行から資金を借り、事業を始めることにします。それは世界中のあらゆる奇妙なものを展示した「バーナム博物館」。ゾウやキリンの剥製もあるし、きっと盛り上がるはず。退屈な社会で事務的に生きている人たちに刺激を与えるために…。
しかし、家族で必死に客を呼び込むも関心は低く、このままでは経営は絶望的…。
さすがのバーナムの顔にも焦りが滲みます。家計が苦しくなっているのはわかる。でも何をすればいいのか…。
ある夜、娘たちの「博物館は死んでいるものばかりでつまらない。生きているものもいないと。奇抜なものとか」という言葉にヒントを得ます。
そこでバーナムはある人たちに出会うことに。それは一般とは見た目が異なる容姿ゆえに隠れながら生きるしかなかった人物であり…。
ビジュアル特化エンターテインメント
『グレイテスト・ショーマン』の“マイケル・グレイシー”監督はもともとアニメーター兼視覚効果の畑の人だそうで、そのせいか、本作も徹底的に映像の一瞬のワンカットにこだわっている意気込みがビシビシ伝わってきます。
例えば、光の陰影。ショーを行うステージは室内なので暗いわけで、そこに上手く光を混ぜながら印象的なシーンを作り出しています。“ザック・エフロン”演じるフィリップが、空中ブランコ(トラピーズ)をする“ゼンデイヤ”演じるアン・ウィーラーと目が合い、ズキューンとなる印象的な場面がありますが、あれなんて普通はなんてことはないのですが、絵の力だけで「おおっ」と持っていく勢いがありました。
他にも外でのミュージカルシーンも多くが夜間で、ちょっとマンネリ感もあります。それでも大勢でパフォーマンスを行うミュージカル特有のエモーショナルは、多少の粗でも吹き飛ばすものです。とくに多種多様な人間が団結するというのが大事。これを日本がやるとまずメンバーの多様性が弱いせいか、絵がつまらなくなるんですよね。本作とのコラボで、バラエティ界隈で話題の「登美丘高校ダンス部」が本作のテーマ曲「This is Me」を踊るという動画があるのですが、 もちろんダンスは上手いのですけど、絵が比べるまでもなく面白くはないという…。多様性をテーマにしている映画なのに、その宣伝に同じ制服の女子たちが踊るパフォーマンスを合わせるというのは、あらためて日本は多様性に無頓着なんだなと痛感する話でもありますが…。
パフォーマンス面でいうと、そういえば“レベッカ・ファーガソン”演じるジェニー・リンドが歌声を披露するシーンの歌は、“レベッカ・ファーガソン”本人ではないそうで、やや残念ではありますが、やむなしか…。
一方、パフォーマンスに全振りしているせいか、ストーリーについて超あっさり。主人公のバーナムはあっさり結婚、家庭をゲット。序盤のメンバー集めもあっさり揃い、極めつけは肝心のミュージカルさえもそこまでの練習もなく、完璧なショーが、はい、完成。なのでカタルシスが乏しく、もったいないなと思ったりも。個人的には『SING シング』のようなクライマックスの爆上げ展開を期待しただけに、残念ではあります。キャラの描きこみも非常に表面的で浅いまま終わってました。
エンターテインメントとしてのビジュアル的な完成度に特化した映画でしたね。
綺麗すぎるバーナム
エンターテインメントとしてのビジュアル的な完成度は非常に高いと褒めましたが、個人的には全く納得いかない決定的な点がひとつあります。
本作を観て「感動した!元気をもらえた!」と思った人には水を差すようでとても申し訳ないのですが、正直、P・T・バーナムの伝記映画として見た場合はあまり評価できないなと。
というのも本作はP・T・バーナムをかなり美化しています。
作中では純粋な「夢と愛に生きたエンターテイナー」として描かれていますが、実際のところはかなり違って…。例えば、ジョイス・ヘスという黒人奴隷の女性を160歳であると偽って見世物にしたりと、“普通ではない”身体的特徴を持った人を商品にしたフリークショーで儲けていた人物なんですね。日本でも最近話題になった顔を黒く塗って黒人のふりをして笑いをとるミンストレル・ショーのプロモーターでもありました。つまり、非人道的な詐欺師的側面があるわけです。他にもショーで一山当てる前も、いろいろ問題を起こしている人でした。
しかし、本作では「多様性は大事!」「みんな違ってみんないい!」みたいなポリコレ全開で彼を肯定的に描いています。もちろん、彼のショーで居場所を得た人も中にはいたでしょうが、そんな単純に多様性のシンボルにしていいのかとも思いますし、ショーメンバーと社会の差別主義者を対立させる展開も論点ずらしのような気もします。
やはりP・T・バーナムにこの映画は少し甘いかな。まず、“ヒュー・ジャックマン”を起用している時点でイケメン化していますし、それで“ミシェル・ウィリアムズ”と“レベッカ・ファーガソン”に言い寄られて両手に花ですからね。加えて“ザック・エフロン”ともバーでイチャイチャしてましたよ(それは違う)。もう結婚したらどうですか、“ザック・エフロン”と。
話を戻すと、本作でP・T・バーナムのイメージを固定化するのは危ういよということです。
もっとP・T・バーナムの複雑な人間性を描くことに真正面から挑むべきではなかったのか…今の時代ならなおさらそう思います。
逆に言えば、その現実的な事情を一切隠して、ショーとしてエンターテインメントに昇華させることで、観た人も無条件で拍手を送ってしまうパワーを持ったこの映画は、まさにP・T・バーナムの手口そのままといえるのかも。
あれっ、もしかして『ラ・ラ・ランド』の製作チームが贈る!という大仰な宣伝も、P・T・バーナムの詐欺師的手腕をリスペクトしたのかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 56% Audience 86%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation グレイテストショーマン
以上、『グレイテスト・ショーマン』の感想でした。
The Greatest Showman (2017) [Japanese Review] 『グレイテスト・ショーマン』考察・評価レビュー