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『ファミリー・クライム ある家族の過ち』感想(ネタバレ)…Netflix;見えていない事件がある

ファミリー・クライム ある家族の過ち

見えていない事件がある…Netflix映画『ファミリー・クライム ある家族の過ち』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Crímenes de familia(The Crimes That Bind)
製作国:アルゼンチン(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:セバスチャン・シンデル
性暴力描写

ファミリー・クライム ある家族の過ち

ふぁみりーくらいむ あるかぞくのあやまち
ファミリー・クライム ある家族の過ち

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』あらすじ

裕福な環境で平穏に暮らしていたアリシアは、元妻をレイプした罪で起訴されたひとり息子ダニエルの無罪を勝ち取るため、ありとあらゆる手を尽くしていく。必死に策を講じる中でアリシアのもとで働いていた家政婦の身に起きた事件がきっかけで思わぬ事実にたどり着いてしまう。自らが目を向けようともしなかった真実を知ってしまったとき、アリシアがとるべき道はあるのか。

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』感想(ネタバレなし)

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アルゼンチン映画でもどうですか

もし自分の家族が犯罪を犯したとしたら…。

それは絶対に考えたくないシチュエーションですが、絶対に起きないとも言い切れません。私たちは何事にもついつい他人事になってしまいますが、そうも言ってられない事態もあります。自分が犯罪者にならないためにはいくらでもできることはありますが、自分と近しい人、とくに家族となるとどこまで自分事にすべきか、それともやっぱり他人なので他人事なのか、その線引きは難しいです。

家族だからこそ無罪を信じてあげるべきなのか、それとも罪を償わせるために向き合うべきなのか。または、罪を許すか、罪を許せないか。複雑な立場に追い込まれます。

そうした状況に陥った人間を描く映画は多いですし、邦画であれば最近だと『ひとよ』など、とくに日本映画はそれを題材にすることも目立つ気がします。もちろんそれは日本だけの話でもなく、海外でも同様の映画はたくさんあります。

今回紹介する映画はアルゼンチンの作品です。それが本作『ファミリー・クライム ある家族の過ち』

物語は、ある裕福な家庭の年配の女性が主人公です。ある日、自立したひとり息子が元妻を性的暴行したという罪で逮捕されたと知らせを受けるところから始まります。ここから裁判劇になってくるのですが、ただの司法ドラマでは終わりません。さらに別の事件が絡み合い、主人公の女性は大きな葛藤に苦しむことに…。あとは観てのお楽しみに。

どうやら実際に起きた事件がベースになっているらしく、脚色はされているでしょうけど、ストーリーはリアリティゆえの重々しさがずっと漂っています。

監督は“セバスチャン・シンデル”という人で、過去には2015年に『El patrón, radiografía de un crimen』というこちらもクライムドラマ映画を手がけ、2019年には『El Hijo』というスリラーを監督。もともとドキュメンタリーを数多く手がけてきた人だそうで、確かにこの“セバスチャン・シンデル”監督の最新作である『ファミリー・クライム ある家族の過ち』も実話としての事件を丁寧に描いているあたりに、ドキュメンタリー畑の人らしい手際を感じます。

俳優陣は、残念ながら私はアルゼンチン映画界隈には全然疎いのであれですが、主役の人は聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。“セシリア・ロス”というアルゼンチン生まれの女優で、『セクシリア』『オール・アバウト・マイ・マザー』『アイム・ソー・エキサイテッド!』『ペイン・アンド・グローリー』など、ペドロ・アルモドバル監督作品によく出ていますね。もう結構古い付き合いなのかな? 1970年代のアルゼンチン軍事政権から逃げるようにスペインに移住、それ以来ずっとスペイン圏あたりで俳優業をしていましたが、最近はすっかりアルゼンチン映画にカムバックしてます。実際はもっとたくさんの出演作があるのですが、私は多くを観ていないのであまり語れない…。とにかく大ベテランの実力派ということです。

司法ドラマは地味なので役者の力量がフルに試されます。“セシリア・ロス”のようなトップ俳優にとっては腕を見せる格好の場ですね。

他にも“ミゲル・アンヘル・ソラ”、“ソフィア・ガラ・カスティリオーネ”など出演作品の多い熟練の俳優が揃っており、物語を引き立てています。

題材としては性暴力を扱っているのですが、しっかりその犯罪の特性に焦点をあてたものになっており、単にネタとして性暴力を扱っているわけではありません(作中でレイプシーンの直接描写もない)。性被害の問題について興味があったりする人には良い作品ではないかなと思います。

99分と短めの作品なので法廷モノにしてはかなり見やすくコンパクトにおさまっているのも嬉しい部分です。

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』はNetflixオリジナル映画として2020年8月21日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(性犯罪事件に関心があるなら)
友人 ◯(シリアスなのでそのつもりで)
恋人 ◯(重たい話ではあるけど)
キッズ △(大人のドラマです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』感想(ネタバレあり)

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2つの事件、2つの裁判

アリシアは今日も女友達と一緒に自宅でヨガ体操のコーチのもとでレッスンに励んでいました。それが終わった後はのんびりと仲間の女性たちでお茶会です。

そこへ幼い子どもがトコトコとやってきて自分が描いた絵をもってきます。続いて家政婦らしき女性が追ってきて「すみません」と謝ります。とくに怒ることなくアリシアは男の子の相手をしてにこやかに対応。本当に仲良さそうです。

仲間の女性のひとりが「そういえばお孫さんは?」「マルティンも同い年よね」と何気なく尋ねますが、「2人とも3歳よ」とアリシアは答えるも、どこか表情は複雑な気持ちが裏にありそうです。

友人たちが帰った後、台所で作業をする家政婦のグラディスと小話。あの子はこのグラディスの息子のサンティで、この二人はアリシアの広い家で住み込みで働いています。アリシアはサンティを非常に可愛がっており、地元の幼稚園にも通わせ、自分で迎えにいくほどです。

ある日、留置所より電話がありました。相手はダニエル。アリシアのひとり息子です。

さっそくアリシアは夫のイグナシオとともに面会に向かいます。連行されてきた赤い服の男、ダニエルはすっかりみすぼらしい顔で、疲弊しているようでした。「ダニエル、かわいい息子、痩せちゃって」と母親として心配するアリシア。「何があった?」と聞くと、ダニエルは怒りを押し殺すように「マルセラだ」と吐き捨てました。「また訴えられた」「彼女のやり口だ」…と。勾留から早く解放されたいダニエルは親にせがみます。弁護士を雇うカネがないと言われ、アリシアたち両親も「任せて」と息子を安心させました。

保釈はないようで公判まで待つしかなく、いよいよ裁判が開始。「被告人、ダニエル・アリエータ」と呼ばれて前に立った息子。起訴内容が読み上げられます。「侵入、銃器所持、性的暴行と近親者に対する傷害、いずれも接近禁止命令の違反を伴なう…保護対象はマルセラ・ソーサ」…ダニエルは自分の元妻に対する罪を問われていました。

しかし、発言を許されたダニエルはきっぱりとこう反論します。「全部でっちあげです。僕をハメたんだ」…なんでも妻のマルセラは職場の同僚と浮気しており、結婚は破綻していたそうで、自分は精神的苦痛のせいで薬物依存症になった。さらに息子マルティンはもうパパと呼んでくれないし、妻と義母が洗脳をしたんだと訴えます。自殺も考えた…とも。息子マルティンのことで話があると家に呼び出され、結果、起きてしまったことで全てはマルセラの巧妙な悪意である、そう涙ながらに弱々しく語るダニエル。

その息子の痛々しい姿をアリシアもツラそうに見つめていました。なんとしても息子を救わねば…。

一方、別の事件が起きます。留置所から出てきたのがペレイラと呼ばれた女性。フルネームはグラディス・ペレイラ。アリシアの家政婦です。

弁護士との会話もろくにできないほどに塞ぎ込むグラディス。彼女に問われているのは、近親殺人の罪。アリシアのバスルームで起きた衝撃的な悲劇。一体何がどうなってそんなことになったのか。

2つの事件は思わぬかたちで交差することに…。

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性犯罪を過小評価すると…

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』は2つの事件の裁判が時間軸をズラしつつ描かれるという、かなり変則的な法廷ドラマであり、初見時はやや混乱します。

そもそも事件の全容は観客には提示されず、ダニエルの一件に関しては全く描写もなく、グラディスの一件は冒頭から合間合間に挿入される意味深なバスルームに続く廊下から映すショットのみ。観客にしてみれば一体どんな事件だったのだろうと想像するしかありません。

つまり、善悪のジャッジが観客にはできないように意図的に情報制限がされており、あくまで法廷での証言のみに頼るしかない状態です。どちらの事件も被害者と加害者の存在は明確であり、あとはこれが罪なのかどうかを決めるのみ。証言しか判断材料はありません。ということは、観客は裁判官と同じ立場に立つことになります

ダニエルの証言はいかにも感情に訴えるもので、母親でなくとも同情したくなるほどに可哀想な雰囲気を漂わせています。

本作の事件は何よりも「元妻」へのレイプというところが肝です。赤の他人ならまだしも、相手は元妻。家族です。こうした相手への性暴力を世間は軽視しがちであり、どうせいざこざがあって、相手の女性がいちゃもんをつけたのだろうと考えてしまうわけです。

当然というか、アリシアもそう考えて息子のために全力を尽くします。賄賂まで使って、罪を晴らすために家の裕福な生活さえ手放していいとも考え、夫と対立することにもなります。

しかし、終盤に明かされる真実。グラディスが自分が生んだ赤ん坊をバスルームで死なせた一件。あの子どもの父親はダニエルであり、彼は夜な夜な家に忍び込んでおカネをくすねており、自分を脅してレイプもした、と。完全な常習犯でした。

アリシアの母親ゆえの愛情が目を曇らせたのか、目の前にいる下劣な人間に気づけませんでした。こうした事件は実際のところ、かなりリアルな話です。専門家によれば、性犯罪における加害者と被害者は常に1対1の関係ではないそうで、加害者1人に対して被害者が数百人いることは珍しくないそうです。なので性犯罪の疑いがある人間が1人浮き彫りになれば、当然のように他にも性暴力を周囲でしているのではと疑うのが普通です。

ダニエルの事件を単一の出来事としてしか見なかったあまりに、最も身近で起きている陰惨な犯罪を認識もできなかった。これはアリシアだけなく、この世の全ての性犯罪に当てはまるよくある現象です。

もし自分の家族が性犯罪を犯したとしたら…それはもしかしたら他の家族の誰かも被害を受けているかもしれない。そう考えないといけないのに…。

そういう「もし自分の家族が性犯罪を犯したとしたら…」というシチュエーションで起きうる最悪の認識ミスを、ダブルの事件の並行で巧みに描いてみせる一作でした。

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母親は家族を捨ててもいい

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』がユニークだなと思うのは、主人公のアリシアの立ち位置です。

最初はいかにも息子をかばう母親そのものであり、ここはベタではあります。しかし、終盤で全てがわかってしまったとき、アリシアはきっぱりと息子を捨てます(電話に出ないというシーンでしっかり示される)。

最近でも『許された子どもたち』や『ひとよ』でも指摘したのですが、保守的な家庭観だと、どうしても母親というのは育児などの責任を物語内でも押し付けられがちです。自分のせいでこうなってしまったと悩む母親、そしてそれゆえの暴走というのはよく題材になります。ただ、そこからの飛躍がとくになく、そのまま母親のせいというポジションは変わらずに物語が終わってしまうことも多く、そこは私もなんだかなと不満なところではありました。

それに対してこの『ファミリー・クライム ある家族の過ち』は明確に母親の自立というか、家族という鎖からの脱出を描いており、そこは良いなと思える展開でした。マルセラの家族と関係を再構築していく結末も含めて。

もともとアリシアは裕福な家庭ですが、あのグラディスの親子にも親切すぎるくらいに優しく、偏見もなく接しており、とても受容性の高いリベラルな家庭に見えます。

ところがそんなアリシアにも大きな欠落があり、とんでもない過ちを犯してしまった。これはまさに自分は正しいことをしていると思っている人たちへの警鐘みたいな物語です。正しさの裏にある無自覚な罪というべきか、人は常にあらゆる過ちに気づけるわけではないという現実というか。

同時にこれはアルゼンチン社会への問題提起でもあるのでしょう。アルゼンチンは南米の国です。日本は南米というと、発展途上国みたいなイメージで下等にみなしがちですが、アルゼンチンは結構進んでいる面がいっぱいあります。例えば、夫婦別姓ですし、同性結婚も認められています。教育制度も充実しており、その気になればたどり着ける家庭観は極めて前進的です。あのアリシアの家庭はそういうアルゼンチン社会の最も最先端の象徴みたいな存在ですね。

でも、性犯罪に対してはやはり甘いところが多く、それは本作にもどっぷりと提示されるとおり。母親が犯した非常にやむにやまれない事情のある近親殺人には厳しい刑が下され、本当に醜悪な性犯罪は軽い扱いで片づけてしまう。この理不尽さ。

ラストに絶望に沈むアリシアの背後には性暴力で苦しむ女性を救う支援サービスのキャッチコピーなどがあちこちで見受けられますが、それが届かないなら根本的には全然意味をなさない。その虚しさ。

日本も同様の問題構造を抱えており、どこの国も同じなのかと胸が苦しくなるような映画でした。

日本では某ネット番組で「(レイプは)拒絶しなかった女の問題だ」と堂々と言い放つ“識者”のコメントが最近も無邪気に流れています。これが現状。だとしたら、これは家族や社会というコミュニティの過ちである…そういう認識を広げていかないとなと思うばかりです。

『ファミリー・クライム ある家族の過ち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

性暴力問題を扱った作品の感想記事の一覧です。

・『アンビリーバブル たった1つの真実』

・『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』

作品ポスター・画像 (C)Buffalo Films ファミリークライム

以上、『ファミリー・クライム ある家族の過ち』の感想でした。

The Crimes That Bind (2020) [Japanese Review] 『ファミリー・クライム ある家族の過ち』考察・評価レビュー