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ドラマ『リトル・アメリカ』感想(ネタバレ)…アメリカのかけがえのない一部である移民の物語集

リトル・アメリカ

アメリカにとってかけがえのない一部である移民の物語集…「Apple TV+」ドラマシリーズ『リトル・アメリカ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Little America
製作国:アメリカ(2020年~)
シーズン1:2020年にApple TV+で配信
製作総指揮:クメイル・ナンジアニ、アラン・ヤン ほか

リトル・アメリカ

りとるあめりか
リトル・アメリカ

『リトル・アメリカ』あらすじ

アメリカ合衆国は単一の国ではない。そこには数多くの民族が混ざり合って暮らしている。はるばる遠い地から渡ってきて細々とビジネスをやっている者。不法ゆえに正規の権利を持たずとも情熱だけは迸る者。母国の家族を思い出しながら自分らしさを見つけようとする者。思い出したくもない辛い過去を抱えて生きている者。自分のアイデンティティを認められずに逃げてきた者。その全てがアメリカを構成していた。

『リトル・アメリカ』感想(ネタバレなし)

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移民はいつもアメリカの地にいる

覚えているでしょうか、アメリカのドナルド・トランプ大統領を。え? 忘れた? まあ、別にそれでもいいんですけど。

そのトランプ大統領は就任前から「国境に壁を作る!」と大声で言い張り、それを自分の公約のように高らかに語っていました。彼の移民排斥を支持して投票した人も多いです。

では結局のところ、移民は排除されたのでしょうか。あれだけ豪語していた巨大な壁は実際は作られませんでしたが、他はどうなっているのか。

BBCがわかりやすく整理していましたので、以下に紹介します。

これによれば、メキシコからの移民は少し減少し、難民受け入れ数も大幅に減ったようです。でも強制送還は増えていません。それにともない、国境収容施設の収容件数が激増し、環境が悪化していることはメディアでも盛んに問題視されています。結果的に全体としてはアメリカに住む移民は微増しており、減少には全く至っていません。要するに移民への扱いが悪くなっただけで、移民自体の数は別に減りもしない。なんというか、移民融和派にとっても移民排除派にとっても損しかない顛末です。これがトランプの功績ですよ…。

ただ誰がどう思うにせよ、もはや移民はアメリカにとって欠かせない基盤です。それは移民を快く思っていない人も内心ではわかっています。最近は移民排除を支持する人は減りつつあるようで、なんだかんだで移民がいないとアメリカの経済も回らないことをわかってきたのか、それとも単に疲れたのか…。移民のことをもっと知れば知るほど排除なんてしても意味はないとわかりそうなものですが…。

でもそんなアメリカの移民のありのままを映し出す映像作品はまだ少なめ。なので今回紹介するドラマシリーズも貴重な一作でしょう。それが本作『リトル・アメリカ』です。

本作はドラマシリーズと言いましたが、実際はアンソロジーになっており、各話に繋がりはありません。1話1話が別の独立したショートストーリーです。1話あたり約30分なのでサクサクと鑑賞できます。

そしてここが肝心ですが『リトル・アメリカ』はアメリカに暮らす移民を題材にしています。中南米、アジア、インド、中東…などなど、ひとくちに移民と言ってもバラバラ。自ら望んでアメリカの地に渡ってきたものもいれば、半ば逃げるようにやってきた者もいるし、夢を持って足を踏み入れた人も、絶望的な状況で生きることになった人もいます。そのそれぞれの物語がお得な詰め合わせになっているのです。

もともとはアメリカの雑誌「Epic Magazine」に掲載されていたものだそうで、それを映像化しており、全ストーリーは実話ベース。知られざる移民たちのパーソナルな人生のドラマが覗けます。

製作総指揮に名を連ねるのは、ドラマ『シリコンバレー』で大活躍し、最近はパートナーと共同で脚本・主演を務めた『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』が称賛され、今やMCU最新作『エターナルズ』にも抜擢されている、最も勢いに乗っているパキスタン系アメリカ人のひとり“クメイル・ナンジアニ”

“クメイル・ナンジアニ”の妻である“エミリー・V・ゴードン”も製作総指揮に加わっています。

そして高評価を受けているドラマ『マスター・オブ・ゼロ』を手がけたことでも知られる台湾系アメリカ人の“アラン・ヤン”も参加。他にも『グッド・ボーイズ』の脚本を書いたイスラエル系の“リー・アイゼンバーグ”などもいたりして、製作トップがしっかり移民系の当事者で占められているのも凄いところです。

『リトル・アメリカ』は「Apple TV+」で配信中。ひとつ観る前に言っておきたいのは、移民の物語ですから「言語」が大事な要素になってきます。英語以外の言語もたくさん出てきますし、英語自体もその話し方や上手さなどがドラマを引き立てるエッセンスです。なのでなるべく吹き替え版ではなくオリジナル音声(字幕)で楽しんだ方がいいと思います。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:高評価ドラマを見逃さず
友人 3.5:関心がある者同士で
恋人 3.5:家族を考えるきっかけに
キッズ 3.5:大人のドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『リトル・アメリカ』感想(ネタバレあり)

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S1-Ep1:支配人(The Manager)

シーズン1第1話はインド系の家族のお話。クリシャン・ジャーを父に持つカビールという少年はアメリカの地でも元気いっぱい。ケンタッキー・フライド・チキンが好物で、すっかりアメリカ色に染まっています。父の経営するモーテルのお手伝いにも積極的です。しかし、その両親がインドへ強制送還されることになってしまい、しばらく親抜きでアメリカに残って暮らすことに。親のいない間にもなんとか自分でモーテルを守ろうとしますが、手続きが終わるまでほんの少しと思っていたものの、両親が帰ってくる気配はなく…。

主人公のカビールの幼い頃の健気さを象徴するアイテムとして登場する「辞書」。言葉を覚えることは移民にとっては最重要な事柄です。それを身を持って体現し、やがてはスペリング大会で優勝までしてホワイトハウスに招待されるも、その実績では両親を舞い戻らせることはできず…。事実、移民の行政上手続きは本当に煩雑かつ時間がかかり、当事者は忍耐を強いられると言いますから、この話は誇張でも何でもありません。

言葉が果たせる役割と、言葉でも解決できない問題。それがハッキリ示されるエピソードだったと思います。

この第1話の監督はアカデミー外国語映画賞ノミネート経験もある“ディーパ・メータ”でした。

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S1-Ep2:ジャガー(The Jaguar)

シーズン1第2話はラテン系の家族のお話。家政婦として働く母を持つマリソルは、実のところは不法移民。そのため社会保障番号はなく、正規の行政支援は受けられません。家は貧乏で苦しい状態でした。そんなとき、靴が貰えると聞いてスカッシュ教室にやってきます。ところが指導講師から「君の中にはジャガーが潜んでいる」と言われ、しだいにスカッシュにハマっていくマリソル。いよいよ初トーナメントを迎え、強敵相手に全力を出しますが…。

今度はなかなかに王道のスポコンなドラマです。それでも不法移民ゆえに立場が最初から弱いままのマリソルが、唯一フェアに扱ってもらえる場所としてスカッシュにのめりこんでいくという点を見れば、そこにはしっかり移民だからこそのカタルシスがあります。

勝ち負けじゃないし、2位でもいい。対等に勝負できる心地よさを手に入れたかった。何度でも打ち返すネバーギブアップの精神が移民のたくましさに直結していました。

この第2話の監督の“オーロラ・ゲレロ”はメキシコ系で、クィアなクリエイターです。

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S1-Ep3:カウボーイ(The Cowboy)

シーズン1第3話はナイジェリアからやってきた青年のお話。イウェブナはアメリカの大学で必死に学び、英語の喋りは決して上手くないものの、キャリアへの意欲はじゅうぶん。しかし、世間はあまり快く受け入れてくれません。そんなとき、ふと出会ったのがカウボーイの文化。母国ではよく西部劇映画を観ており、そのままカウボーイハットとブーツを購入して、完全にカウボーイになりきってみせます。そして身も心もアメリカに染まりながら、母国を思い出すことに…。

このエピソードはちょっとユーモアもありつつ、幻覚の家族がふいに出現するなど、どこかホラーテイストでもあります。実は母国は情勢が不安定で、そこから察するにイウェブナの家族も厳しい現実があったのでしょう。冒頭で示される1971年のナイジェリアは直前までビアフラ戦争が起きていましたし、国内は相当にズタズタになり、イボ族は差別の対象となります(だからイウェブナも逃げてきたのかな)。

それでも主人公は家族の期待を背負い、キャリアアップを目指す。移民の抱える裏側には表面からは見えない重いドラマがあるものですね。

ちなみにハンバーガーが嫌いで、チーズなどをわざわざどけて肉だけ食べるという嗜好を見せていましたが、こういう食文化のギャップも移民あるあるなのかな。

この第3話の監督は『Merry Christmas! ~ロンドンに奇跡を起こした男~』の“バハラット・ナルルーリ”です。

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S1-Ep4:沈黙(The Silence)

シーズン1第4話はこれまでとガラっと雰囲気が変わって珍妙な展開の連続。ある女性がなんだかよくわからない集団の中で瞑想しています。どうやらスピリチュアルな団体のようで、ここで共同生活しているっぽい…。しかし、この女性はどうも集中ができません。ハエが気になり、色欲めいた邪念が湧き、猿すらも見えてくる。ここでは一切のお喋り禁止。ひたすらに耐えます。そんな中、ひとりの新しい参加者の男が現れ、なんとなくフィーリングが合います。でも会話はできないので、変な空気が流れ…。

最後まで見ればこれは沈黙の修業だったことがわかります。ちなみにスピリチュアルなリーダーとしてみんなの前に立っていた男を演じているのは、『スター・トレック』のスポックでおなじみの“ザカリー・クイント”であり、もうこの時点ですでにシュールです。

この『リトル・アメリカ』は言語がひとつのキーワードですが、このエピソードではあえて言語が封じられるというシチュエーション。でもその言語がない世界の方が案外とコミュニケーションが上手くいったり、他者とのつながりを求める渇望の動機にもなったり…。ユニークな物語でしたが気づきの多いものでもありました。

主人公のシルヴィアンヌはフランスから単身でやってきたようで、彼女のバックグラウンドもいろいろ推察できますね。

この第4話の監督は『タルーラ 彼女たちの事情』の“シアン・ヘダー”です。

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S1-Ep5:クッキー店(The Baker)

シーズン1第5話はウガンダから渡米してきた女性のお話。1971年、ウガンダにてビアトリスは門出を父に祝福され、「お前は自分の道を切り開いてくれ」と言われます。しかし、いざアメリカの地に来たビアトリスはすっかり堕落。離婚後は夜遊び三昧で、子守りのユニスにカネも出せない懐事情。ダイナーもクビになり、しょうがないのでクッキーを売り歩くことにします。子どものブライアンと一緒の商売は手探り。でもふと頭に籠を乗せるとウケがいいことに気づき、それが思わぬ道を開いていき…。

このエピソードは女性が独立して生きるということの難しさをそのまま描いています。母国の母は女性が単身で生きるなんてとても考えられないと思っているのでしょう。しかし、アメリカにやってきて自分の娘が自分の店まで持っている姿を見て、大きくその認識を覆されます。家父長制に従うだけが女性じゃない、その枠を飛び越えることはできる。チョコチップクッキーが教えてくれた女性のエンパワーメントですね。

この第5話の監督は“チオケ・ナッサー”という人で、いくつものテレビシリーズを手がけてきたようです。

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S1-Ep6:大賞当選者(The Grand Prize Expo Winners)

シーズン1第6話は中国系の家族のお話。アイは無事に出産し、長男のボーに次いで娘を家族に迎え入れました。しかし、夫は出ていき、女手ひとつで子どもを育てることに。最初は仲良かったものの、ティーンになると親子の距離は広がるばかり。そんな中、ずっとエキスポの当選を毎年狙うアイ。そしてついにアラスカ・クルーズが当選。豪華なクルーズ船に大はしゃぎの子どもたち。けれどもアイはどこか浮かない顔で何か自分の過去と戦っていました。

このエピソードはアイの過去が重要で、実は彼女は男の子が生まれたからと親に捨てられた経験があったのでした(中国のそういう出生時の性差別と子ども売買についてはドキュメンタリー『一人っ子の国』を参照)。これは「家族」というもののおぞましさを描きつつ、それを乗り越える物語だったんですね。

その息子は実際に監督を手がけ、これによってドラマが完成した感じでもあります。

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S1-Ep7:岩(The Rock)

シーズン1第7話はイラン系の家族のお話。ファラーズは起業家精神あふれる男であり、今はアメリカの地でウズラの卵を売り歩いています。息子が何よりも自慢で、いっつも話のネタに。そして今度は自分の土地が欲しくなく。どでかい岩のある土地を思い切って買います。私が土地の所有者だと満足気でしたが、この岩をどうやって対処すればいいのやら…。

コミカルさで言えばこのエピソードはピカイチかもしれません。父の不屈の奮闘っぷりは笑いを誘いますし、しっかり家族もそこに同調しており、仲の良さが救いです。オチも決まってました。

この第7話の監督は『エージェント・ウルトラ』の“ニマ・ヌリザデ”です。

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S1-Ep8:息子(The Son)

シーズン1第8話はシリアに生きるある男の物語であり、最も残酷で悲痛さがあるものです。

ラフィークは実はゲイであり、それが父親にバレて命の危険を感じたのでダマスカスに逃げて暮らします。しかし、そこで出会った俳優志望でアメリカに行くつもりのゼインと親交を深めるも、自分の居場所が親にまたバレてしまい、国境を越えてヨルダンへ。難民申請をして、書類審査をひたすら待つことに…。

このエピソードは今まさに大問題になっている、LGBTQ難民のケースですね。日本はそれでも酷い差別がありますが、それ以上に命を失いかねない国も他所にはあります。極刑になりかねないような…。そんな国からなんとか逃げようとするLGBTQ当事者は大勢いて、ラフィークの物語は本当にその一例です。

『リトル・アメリカ』は「家族」を“良きもの”として一面的に描かずに、その負の側面も映しだすエピソードがあるのがいいですね。

移民はアメリカだけの話題ではありません。世界中にいます。他の国の移民事情を描く作品も登場しています(例えばイギリスなら『寄る辺なき者』など)。移民を描く作品は今後もっと増えるでしょうし、無関心ではいられません。

『リトル・アメリカ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 95% Audience 78%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)NBCUniversal Television Distribution, Apple リトルアメリカ

以上、『リトル・アメリカ』の感想でした。

Little America (2020) [Japanese Review] 『リトル・アメリカ』考察・評価レビュー