実写映画は簡単には錬金できない…映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2022年)
日本公開日:2022年5月20日 / 2022年6月24日
監督:曽利文彦
鋼の錬金術師 完結編
はがねのれんきんじゅつし かんけつへん
『鋼の錬金術師 完結編』あらすじ
『鋼の錬金術師 完結編』感想(ネタバレなし)
日本は漫画の2部作実写映画化が流行り?
ハリウッドではヒーロー系のアメコミの実写映画が所狭しとスクリーンに並んでいる現状ですが、かくいう日本もそんなに変わりません。日本の映画界では、既に人気のある漫画の実写映画化がやはり話題作として押し出されており、映画館を埋め尽くしています。日本の方がオリジナルの大作映画は少ないと言えるかもしれません。それだけ日本の映画界は漫画に依存しています。
そして昨今は2部作企画が目立つ印象があります。この同年中に2部作を公開する手段を戦略的に打ち出しているのが「ワーナー ブラザース ジャパン」です。日本のワーナーは結構前から漫画実写映画の2部作を展開していました。例えば、2006年の『デスノート』『デスノート the Last name』、2014年の『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』です。
しかしここ最近はこの2部作企画に味をしめたのか、毎年何かしらの展開を用意してきています。2021年の『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、2022年の『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』、さらに2023年も『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』…。
こうやって2部作実写映画企画を連発する背景には、おそらく2部作の方がまとめて撮れるのでコストを抑えられること、また、原作漫画のボリュームをなるべく省略せずに映画に盛り込みやすいこと…などの理由があるのだと推察されます。
ともかく日本映画界は漫画実写映画化に「同年2部作公開」というアプローチで攻略していく算段であり、このスタイルはしばらく続くのではないかなと思います。
ではこの「同年2部作公開」はどれくらい企画として上手くいっているのか…それはまたいろいろ議論もあるでしょう。
今回は2022年の5月と6月に連続公開した『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』を軸に、感想としてあれこれ考えてみたいと思います。
『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』は、2017年に公開された実写映画『鋼の錬金術師』の続編となる2部作。1作目の5年後にいきなり「完結編」と銘打った2つ作品が登場するとはなかなかに急展開ですが、「終わらせます」という意思が明確で潔いんじゃないでしょうか。
原作は“荒川弘”による「月刊少年ガンガン」にて2001年から2010年まで連載された大人気漫画。略称は「ハガレン」で、その魅力的なキャラクターと世界観から多くの人に愛されました。アニメ化も既にされており、こちらも人気に。
物語は、架空の国家を舞台にしており、この世界では錬金術が存在し(作中ではある程度の科学の法則を無視して魔法みたいなことができる)、政府に所属する「国家錬金術師」もいるという設定。そんな中、あるひとりの錬金術に長けた少年が自分の過ちを向き合いながら、国家規模の陰謀に巻き込まれていく、壮大なファンタジーアクションです。
それを実写映画化する指揮として大変な仕事を任されたのが、“曽利文彦”監督。『ピンポン』(2002年)、『ICHI』(2008年)、『あしたのジョー』(2011年)と手がけてきましたが、実写映画『鋼の錬金術師』3作全部を抜擢されたのはやはりCGが専門だからなんでしょうね。
主人公を演じるのは「Hey! Say! JUMP」のメンバーである“山田涼介”。2022年は『大怪獣のあとしまつ』も主演していました。“本田翼”、“ディーン・フジオカ”、“蓮佛美沙子”、“本郷奏多”、“内山信二”といった1作目の出演陣も続投する中、この『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』では“渡邊圭祐”、“黒島結菜”、“舘ひろし”、“新田真剣佑”、“内野聖陽”などが参戦。とにかく役者が多いです。
後半の感想では「同年2部作公開」のスタイルが本作のクオリティにどう影響しているのかをあれこれ語ってます。
『鋼の錬金術師 完結編』を観る前のQ&A
A:原作の読破済かはさておき、1作目の『鋼の錬金術師』の鑑賞がまず先です。物語は完全に続きから始まります。
オススメ度のチェック
ひとり | :気になるなら |
友人 | :好きに語り合って |
恋人 | :仲良く一緒に |
キッズ | :子どもでも見られる |
『鋼の錬金術師 完結編』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):錬金術師を殺すのは…
夜の街道。銀(しろがね)の錬金術師との異名を持つジョリオ・コマンチの目の前にイシュヴァール人の男 が現れ、攻撃を仕掛けてきます。しかし、その男は圧倒的に強く、錬金術師を葬ってしまい…。
別の場所。エドワード・エルリックは駅にいました。弟で鎧姿のアルフォンスも一緒です。国家錬金術師の査定日で、セントラル行きの列車に飛び乗ります。
ところが車内で空腹で倒れていた男を助けます。リン・ヤオと名乗り、隣国のシンからこのアメストリスの国の錬金術を調べに来たそうです。
リンは何気なく「賢者の石って知ってる?」と質問してきます。「知らないな」とエドはそっけなく答えます。エドとアルは幼い頃に亡くなった母を蘇らせようと禁忌の人体錬成を試み、エドは片手と片足、アルは全身を犠牲にした過去があります。賢者の石は錬金術にとって強力ですが危険です。
「賢者の石を手に入れて何をするんだ」とエド。「不老不死の法を手に入れる。家庭の事情でどうしても必要なんだ」とリンは口にします。
そのとき、荒くれ者が乗り込んできて、武器で脅して乗っ取ってきます。しかし、突然現れた仮面の戦闘員に倒されます。リンの仲間のようです。
力技でエドから賢者の石の情報を聞き出そうとして、取っ組み合いになる一同。爆弾を容赦なく使ってきて、列車の車両は一部大破し、エドは手加減無しで列車の屋根で戦闘することに。
エドは列車から落ちそうになりますが、ヒューズ中佐が落ちそうになったところで助けてくれます。でもヒューズ中佐は死んだはず。それはエンヴィーの変身でした。
「人柱なんだから死なせるわけにはいかない」とエンヴィーは言います。エンヴィーはホムンクルスと呼ばれる存在で不気味に暗躍している謎だらけの奴らのひとりです。
「変わった体だな。お前その体の中に何人いる?」とリンはエンヴィーを問いただし、ホムンクルスだと聞いてリン一同はエンヴィーを列車から突き落として確保しに行ってしまいました。
放置されたエドですが、このままだとブレーキ爆破でセントラル駅に列車が突っ込んでしまうので、錬金術で線路終着を上方向に拡張し、列車を強引に止めます。
ホームで息を整えていると「やあ、鋼の」と国家錬金術師のロイ・マスタング大佐と部下のリザ・ホークアイがやってきました。そして列車から降りてきたのはキング・ブラッドレイ大総統。事実上の国家元首です。大物にエドとアルも緊張しますが、「楽しませてもらったよ、鋼の錬金術師」とブラッドレイは立ち去ります。
その後、マスタングから不審な話を聞きます。なんでも国家錬金術師を狙った連続殺人が起きているそうで、セントラルだけでも10人の犠牲者がでているとか。犯人は額に大きな傷があり、スカーと呼んでいるとのこと。
マスタングからは大人しくしているように言われましたが、エドとアルの前にもスカーが出現。激しい戦いとなってしまい…。
VFXは錬金できない
『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』、2作合わせて267分の大ボリュームです。
この2作、もちろん前作となる1作目も観たうえでの私が思うのは、まず「VFX」のミスマッチ。
今やハリウッドでもVFXを駆使するのは当たり前。日本の映画でもVFXは珍しくなく、作品によってはガンガン使っています。
この『鋼の錬金術師』は錬金術という存在が根幹にあるのでVFXでの表現は避けて通れません。本作における錬金術は物質の形状変化を含むかなり大規模な映像アクションを要求され、その表現難易度はかなり高いと思います。単に爆発があればいいとかそういうものではないので、SFXではカバーできません。ハリウッドで言えば『ドクター・ストレンジ』などと同系統のVFXジャンルでしょう。
本作『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』のCGを「しょぼい」とかそう感想を述べるのは簡単ですし、確かに品質はお世辞にも高いとは言えません。戦隊シリーズとかの特撮テレビシリーズ・クラスのクオリティだと私も思います。大作映画級と言い切るには寂しいです。本作の場合はVFXとアクションを織り交ぜないといけないので余計に粗が目立ちます。
でも一応言っておくと、日本はアメリカと比べてVFXの技術が低いというわけではありません。個々のクリエイターのスキルは日本でも高い人はいっぱいいますし、良質なスタジオだってあります。
問題は予算と時間であり、これは「同年2部作公開」というスタイルでなおさらマズいことになっているのではないかと思います。
基本的には「同年2部作公開」なら全体の予算を抑えられるかもしれないですが、上映時間は普通に映画2本分です。当然VFXもたっぷりです。となってくるとVFXを手がけるクリエイターに負担が重くのしかかってきます。2作分の作業に追われ、質を高めている暇もないかもしれません。「これくらいしか作れないな…」とどこかで妥協することになるでしょう。
VFXを多量に要求される原作の実写映画化と「同年2部作公開」という組み合わせは非常に相性が悪いのではないか(少なくとも今の日本の業界構造では)と思うのはそのためです。
キャスティングは錬金できない
『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』を観ていて次に気になるのは「キャスティング」のミスマッチです。
実写映画にキャスティングの合う合わないの話題はつきものです。個人の好みもあります。ただ、私が今回は言いたいのはキャスティングが世界観のテーマ自体を棄損しているのではないかということ。
この『鋼の錬金術師』はそもそも原作からして非常に政治的なテーマをバックグラウンドに持っています。錬金術という生命倫理の問題もありつつ、軍国主義で成り立つ独裁政権、少数民族の虐殺などの加害史など。とてもコントラバーシャルな題材を題材にしながら、エンターテインメントとしても面白くアレンジしているというのが、この『鋼の錬金術師』の原作からの魅力でしょう。
なのでこの作品のキャラクターたちはとても人種的にも多様で、明らかに意図的な配置がなされています。イシュヴァール人という迫害を受ける少数民族がいたり、隣国シンは中華大陸風だったり、北方の強敵はソ連っぽいですし、アメストリスという国はドイツ・ナチスを思わせます。
にもかかわらず、このキャラクターたちをほぼ日本人という単一の人種キャスティングにしてしまうと、せっかくの作品が持つ政治的緊張感が絵面的に台無しになります。本作で唯一それなりにしっかりしているのはメイ・チャンを演じた“ロン・モンロウ”くらいですが、本来はシンの王位継承で苦戦する女性というマイノリティとちょっとクィアネスすら匂わせるイシュヴァール人の外れ者の男が連帯するからこそ意味ある2人の関係性が、実写映画では“新田真剣佑”のスカーとペアになると全く感慨も何もありません。
結果的に、実写にするならもっとダークなトーンにしていいのに、妙に小学生向け感が漂っているような…。
「同年2部作公開」の弊害としてはボリュームが2倍になって、時間的に原作を映像化しやすくなったぶん、原作のシーンを再現して消化することに必死になってしまい、映画としての個性が無いこともあるでしょう。今回の2部作も、俳優がコスプレして名シーンを再現する映像を連発で流しているだけな気もする…。
こういう諸々がなんとも締まりのない実写映画にさせてしまっているのではないか。結局は企画時点のミスだと思うのです。「この原作を実写映画化するならこれくらいの予算で、これくらいのキャスティングにしないと、最低限の説得力がでない」と判断できるかという…。今回の場合は、原作の要求レベルの高さと企画規模(作り手のできること)が全然噛み合っていませんでした。たぶん『鋼の錬金術師』はハリウッドでも相当な製作費を確保したドラマシリーズとかにしないと映像化できないと思う…。
日本には魅力的な漫画がたくさんあります。その世界観もかなり壮大なものが数多くあります。しかし、日本映画界はそれを理想的に映画化できるほどの企画規模がありません。これは日本にとっては宝の持ち腐れですし、エンターテインメントの構造的な問題だと思います。日本のエンターテインメントは業界の上限のせいで作品品質の発展が抑えつけられており、その“そこそこ”で稼げればいいと業界主要陣が満足してしまっている。
これでは個々の「もっと上を目指したい」というクリエイターも浮かばれませんし、ファンも納得いかないと思います。私たちは国土錬成で捨て駒にされる者たちではないのですから、もっと製作のトップはクリエイティブのために正しい勇気ある決断ができるようになってほしいな、と。
今こそ等価交換、いや全部あなたにあげるよの精神で、クリエイターにおカネを注ぎ込んであげてください。
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会
以上、『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』の感想でした。
Fullmetal Alchemist: The Revenge of Scar / The Final Alchemy (2022) [Japanese Review] 『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』考察・評価レビュー