MCUドラマシリーズの第2弾は政治から目を背けさせない…「Disney+」ドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にDisney+で配信
原案:マルコム・スペルマン
人種差別描写
ファルコン&ウィンター・ソルジャー
ふぁるこんあんどうぃんたーそるじゃー
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』あらすじ
未曽有の事態に見舞われた世界は少しずつ元の姿に戻ろうとしていた。その復興の最中、アベンジャーズの一員だった「ファルコン」ことサム・ウィルソンは「キャプテン・アメリカ」としてヒーローの象徴だったスティーブ・ロジャースが引退したことで、そのシンボルの盾をどうするか悩んでいた。一方で、スティーブの旧知の親友であり、一時は敵対もしたバッキー・バーンズもまた次の人生に葛藤しており…。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』感想(ネタバレなし)
今度はあのコンビ!
もう前置きはいいでしょう。「マーベル・シネマティック・ユニバース」、通称「MCU」のドラマシリーズ第2弾です。
それが本作『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』。
こんな駆け足になるのも無理はないのです。語りたいことなんていっぱいあるし、何よりも観たいという気持ちがウズウズしていましたから。私たちの待望である『ブラック・ウィドウ』も7月に公開延期となり(当初予定どおりだったとしても緊急事態宣言が発令されたので当初の4月末公開は実現しなかったのですけどね)、MCU不足状態。
でも大丈夫。ドラマシリーズがあります。2021年1月から「Disney+」で配信が始まった『ワンダヴィジョン』が想像以上に大盛り上がりし、ファンを考察と熱狂で翻弄させてくれたので、この第2弾となる『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』も期待高まるのも当然。
今度はあの2人が主役。ファンの間では「サム&バッキー」とか「ファルバキ」とか「バキ翼」とか愛称で呼ばれているらしいですね。
けど、私、正直に告白すると、タイトル発表時、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』ってそこまで面白いのかな…とややテンション低めだったのです。いかにもスピンオフ的だし、サブエピソードが描かれる程度なんじゃないの、と。
…私が間違っていました(恒例の懺悔)。思いっきりMCU世界のメインコースを高速で飛び立っているじゃないか…。
物語としては完全に「キャプテン・アメリカ」シリーズの正統続編です。過去作と何の遜色がない映画級の大スケールな展開あり、そして「キャプテン・アメリカ」シリーズらしいヒーローと政治を複合したポリティカルなテーマ性あり。とくに後者は過去作からさらに踏み込んでおり、「ついにMCUもここまでやってしまうのか…」と衝撃でした(詳細は後半の感想でたっぷりと)。
全6話(1話あたり40~60分)と少なめですが、ボリュームはじゅうぶんすぎるほど。
全エピソードを監督するのは“カリ・スコグランド”という人で、 過去には『インファナル・ミッション テロ組織潜入スパイの真実』(2008年)を手がけており、ポリティカルサスペンスを得意としています。マーベルも良い才能を引っ張ってきますね。
そして脚本・原案を担った“マルコム・スペルマン”という人物の功績ももちろん大きいでしょう。ドラマ『Empire 成功の代償』を手がけた人ですが、今後はMCUで活躍していくのかな。
MCUファンは当然ですし、最近興味を持った人も『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の勢いに飛び込めば一気に最高速度で吹っ飛ばされますよ。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を観る前のQ&A
A:初登場は『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』。当初は退役軍人でしたが、キャプテン・アメリカと出会った縁で「ファルコン」として活躍。ウィング・パックを駆使して空を自由自在に飛び回ります。これまではユーモアのあるサイド・キャラクターでしたが、今作では主役として掘り下げられ、ファンも激増しそうな予感…。
A:初登場は『キャプテンアメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』。スティーブ・ロジャーズの大親友。しかし、第2次世界大戦中にヒドラに捕まり、「ウィンター・ソルジャー」として超人兵士として悪用されることに。その後はなんとか洗脳を解くべく努力し、ファルコンたちの仲間として戦いました。今作では苦悩を抱えつつも、お茶目さもアップ?
A:サムはアベンジャーズの一員としてスティーブにリクルート。バッキーは最初は敵対し、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』ではアベンジャーズの仲間割れの原因になったりするも『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』では共闘します。アベンジャーズの古株たちが引退した今、この2人がチームを引っ張っていくベテランになるのか…。
A:MCU作品全部…と言いたいところですが、『キャプテンアメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ エンドゲーム』…この5作は観たいところです。でも大事なのはシリーズ過去作を鑑賞することよりも、アメリカの社会問題に関する知識かもしれない…。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズファンは大興奮 |
友人 | :ファン同士で白熱 |
恋人 | :趣味の合う者同士で興奮 |
キッズ | :MCUキッズ、集まれ~ |
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):世界は正しさの象徴を求める
突如地球に襲来したサノスという異星人が、かき集めたインフィニティ・ストーンを使って指パッチンすることで、全宇宙の生命の数を半分にした事件。その事件から5年後。復活したアベンジャーズの激戦によってサノスは倒され、消えた半分の生命は戻ってきました。
それから半年後(ちなみに『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は8か月後、『ワンダヴィジョン』は2週間から1か月後でした)。世界は復興に向けて動き出しており、世界再定住評議会(GRC)という組織は5年間消えていた人々が元の暮らしができるように支援していました。一方でその消えた人々を優遇する政策を快く思わない集団「フラッグ・スマッシャーズ」も活動を活発化させており…。
そしてひとりの男も悩んでいました。その名はサム・ウィルソン。スーツを着て、ベッドの上にはいかにもアメリカらしい星条旗柄の盾。それを大事に鞄にしまいます。「借り物みたいだ」
アベンジャーズの一員だったサムは今もファルコンとして任務についていました。しかし、複雑です。引退した友人である「キャプテン・アメリカ」のスティーブから渡された盾。それはつまり「キャプテン・アメリカ」を受け継ぐことを意味していますが、月日が経ってもそういう気持ちにはなれません。
ワシントンで演説するサム。「新たなヒーローが必要です。シンボルには意味を持たせる人間が必要です」…そして盾を手にし、「それは使いこなした男がいてこそであり、彼は去った」「ありがとう、キャプテン・アメリカ。これはあなたのものだ」
こうして盾を寄贈することにしたのでした。
そこに同じくアベンジャーズの一員だったローディが話しかけてきます。「なぜ継がなかった?」「盾はスティーブのものだ」…しかし、ローディは言います。「世界は壊れた。直してくれる人間を待っている。新たな時代だ」
一方、バッキー・バーンズはかつてのヒドラに支配された自分の行いがトラウマとして残っていました。カウンセリングを受けるも身は入りません。「人を信用しなさい、友達を大事にしなさい」と言われてもずっと孤独だった彼には無理難題。
サムは地元のルイジアナ州デラクロワに帰り、姉のサラのもとへ。サラは船を売る気のようで、サムは銀行からおカネを借りようとします。ファルコンとしての知名度もあるし、きっと大丈夫。しかし、サムも5年間消失していたため、5年間分の収入は一切なし。融資はできませんと断られます。
そんな中、フラッグ・スマッシャーズを偵察していたトレスから、その集団の何人かは超人兵士ではないかという不穏な情報を聞かされます。
その頃、政府は記者会見を実施。
「シンボルになる人物が必要です。アメリカ合衆国に新たなヒーローが誕生しました。新しいキャプテン・アメリカです」
そして颯爽と出てくる男。その格好はかつてのスティーブと同じ、その手には寄贈したはずの盾。
これが新しい世界の正しさとなる「キャプテン・アメリカ」なのか…。
ヒーローはスピーチをするものだ
最初に私なりの『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の総論をまとめてしまいます。本作が良作か傑作かそんな評価は置いておいて、私は作品の姿勢というものに素直に敬服してしまいました。別に「アメリカ、すごい!」とかそんな雑な褒め方をする気は毛頭ないのですが、やっぱりこういう自己批判的作品を作れてしまうアメリカの創作業界というものには感心するしかないです。しかも、今、この時代にこれを作るのかっていう…。
でも間違いなく必要な一作でした。いきなり最終話の話をしてしまいますけど、サムが世界再定住評議会のメンバーを前に長々と語るシーンがあります。それは説明台詞的に見えますが、違う、つまりスピーチなんですよね。政治的な演説。これを最後に持ってくるところがいかにもアメリカらしいじゃないですか。派手なシーンでもなく、アガる演出でもない、静かなスピーチを主人公に語らせる。
「人類はやっと同じ困難を共有できる」「力をどう使うのか、よく考えるべきです」
あの演説を持ってサムは「キャプテン・アメリカ」になったんですね。超人血清も金髪も青い目もない、肉体的パワーが重要なのではない。世界に“正しさ”を示せるか。これぞ新時代のヒーローなのは間違いありません。
私なんか「投票しないと…」と思わせられました。いや、アメリカ国民じゃないけど…。サム、大統領になるべきでは…?
ただひとつ思うのは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は作中でも言ってましたけど、社会の複雑性を理解することを求められるストーリーなんですよね。これ、アメリカ人ならまだしも、日本人の大衆にわかるのかな…。いよいよ日本社会の政治への無関心さがエンタメからも置いていかれ始めたのではないか。となればかなりヤバイ状況だと思うのです。政治がわからないって一番救いようがないですから。それはヒーローでも救えない。日本映画大作はいまだに「豪華なキャスト」と「驚異のアクション」しか売りにしていないですからね…(映画ファンが無理やり考察を捻くりだしているのに頼っている感じ)。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』…なんかよくわからなかったな…そうならないためにも、この感想でも私の稚拙な文章ですけど作品を語っているのですけど…。
黒人に盾を渡す意味
まず『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の主要なテーマとなっているのが人種問題、とくにアフリカ系アメリカ人への差別です。
今作では「キャプテン・アメリカ」を誰が継ぐのかが軸となります。でも最初は思ったものです。え?『エンドゲーム』のラストでスティーブがサムに盾を渡すシーンを見た時に、私たち観客は「次のキャプテン・アメリカはサムなのか~」って受け取ったのに? 振り出しに戻って焦らすの?…と。
…私が間違っていました(今回は懺悔が多いです)。
第5話でバッキーが「黒人に盾を渡す意味をスティーブも俺もわかってなかった」と反省しますが、全くそのとおり。何も理解していなかった…。まあ、無知な私なんかどうでもいいのですけど、ここであのスティーブの正しさですらもカバーできていない欠落があるとハッキリ提示するのが挑戦的です。それは無論「人種差別」です。
サムはこれまで“白人”トニー・スタークのリッチな庇護の下にあったのでおカネに困っていませんでした。しかし、それが消え、露骨に人種差別がサムにすらも立ちはだかります。サムですら融資を受けられず、不審人物として警察に銃まで向けられる。
この構造的差別についてはクドイですけどドキュメンタリー『13th 憲法修正第13条』を見てねという話。
そして極めつけは、かつて超人兵士として実験台にされて歴史から抹消されたイザイア・ブラッドリーの存在。もちろんこれは非道な実験を受けた黒人の実際の歴史をベースにしています。
イザイアが語る言葉は重いです。「時代が違うって? 白人の盾だ。奴らは絶対に黒人をキャプテン・アメリカにはしない。自尊心のある黒人は引き受けるわけがない」
それを重々理解したうえでサムは盾を手に取る。同じ黒人からバッシングを受けることを承知の上で。この決断はこれまでのヒーローの誰とも違う、とてつもない覚悟だったと思います。『ブラックパンサー』が理想論的な黒人ヒーローだとしたら、今回のサムはすごく現実論で立とうとする黒人ヒーローでした。
社会から捨てられた者たち
『アベンジャーズ エンドゲーム』は「ヒーロー最高!」「3000回愛している!」「アッセンブル!」と超大ハシャギなお祭り映画でした。それに対して『ワンダヴィジョン』そして『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はガラッとテンションが違います。フェーズ4はこういうノリなのか。
つまり、「お祭りモードでしたけど、そう浮かれていられない人たちがいるんじゃないですか?」という、静かなお説教を食らうような…。
本作は「社会から捨てられた者たち」の物語の群像劇でもあります。
イザイアの話はすでに語ったとおり。
もうひとりはカーリ・モーゲンソウを始めとするフラッグ・スマッシャーズの面々。急進的リバタリアンというか、アナーキストな思想の持主ですが、ただの暴力騒ぎでアクセス数を稼ぎたいパフォーマーとかではありません。この人たちは自己満足で動いているわけでもない、「指パッチン中の世界の方が良かった」という劣等感もまた切実で安易に切り捨てられないものがあります。そんな人がいるなんて『アベンジャーズ エンドゲーム』の時は考えてもみなかった…。私が間違っていました…。
もうひとりは『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の黒幕だったジモ。彼も信念があり、「超人になりたいという願望は至上主義者と同じだ」という絶対的なアンチ・ヒーロー観は揺るぎません。故郷のソコヴィアがいまだに見捨てられている事実を突きつけられると、本当にそのとおりで…。私が間違っていました…。今後のMCUはたぶん超人が増えまくると思うのですが、ジモの思想は新たな超人フォビアとして火種になりそうです。ずっとダンスしているぶんにはすごく良い人なんだけど…。
もうひとりはシャロン・カーター。彼女こそ多くの人も失念していた存在なんじゃないでしょうか。確かに『シビル・ウォー』以降は出てきてません。どうしたのかと思ったら、マドリプールでパワー・ブローカーとして裏社会を取り仕切るまでになっていたとは…。シャロンの背景にはもちろん女性差別があり、それは大戦時から見られる女性スパイへの非道な扱いと同じです(『戦時下 女性たちは動いた』参照)。私が間違っていました…。
もうひとりはジョン・ウォーカー。キャプテン・アメリカになろうとしたけどなれなかった白人。彼の存在は白人的な持たざる者の劣等感の代弁者です。白人至上主義的な匂いも漂う…。でもそんな彼も最後がヒーローとして人助けをとる瞬間があり、あそこはサム以外でアガるシーンで良かったですね。ヒーローの本質ってここだよねっていう。相棒のレマー・ホスキンスの死は引きずっていますし、それこそ黒人のステレオタイプな犠牲という意味でも今後に響いてきそうです。ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ヴァル)の接近もありますし…。
結局、サムはこれらの「社会から捨てられた者たち」を救えたわけではないです。むしろこれからが大変。でもそれをわかったうえでキャプテン・アメリカになった。そこが大事なんでしょう。
そして忘れてはいけないバッキー。バディとして互いの背負うものを分かち合う。こういう関係は実はスティーブにはなかったものであり、2代目キャプテン・アメリカの最大の武器かもしれません。バッキーとサム、もう付き合えばいいんじゃないかな…。対立するとはいえ、トニー・スタークとスティーブほどの深刻な確執でもない、この絶妙な小学生レベルの喧嘩っぽさ。ずっと見ていたい…。
これほどまでに善悪の議論を切り捨てたことはMCUでも初の挑戦であり、もはやどうシリーズを広げるのか、誰にもわからない。もう『エンドゲーム』をお気楽なノリで鑑賞する気分じゃなくなる。ヒーローがヒーローだった時代は終わったんだな、と。
でも次のヒーローを夢見てしまう。「社会から捨てられた者たち」をサムひとりでは救えないけど、チームになればそれができる。そういう展開になるのかな。
ジモ、ごめんね…。ヒーローはやっぱりワクワクする…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 87% Audience 74%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
MCU作品の感想記事です。
・『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』
・『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』
・『アベンジャーズ エンドゲーム』
作品ポスター・画像 (C)Disney ファルコン・アンド・ウィンターソルジャー
以上、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の感想でした。
The Falcon and the Winter Soldier (2021) [Japanese Review] 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』考察・評価レビュー
#MCU