でも平穏が一番だぜ…映画『ハンサム・ガイズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2024年)
日本公開日:2025年10月3日
監督:ナム・ドンヒョプ
はんさむがいず

『ハンサム・ガイズ』物語 簡単紹介
『ハンサム・ガイズ』感想(ネタバレなし)
あの映画を韓国がリメイクする!?
「ハンサム」という言葉があります。日本でもカッコいい男性のことをもっぱら「ハンサムだね」などと言ったりしますね。
もとは英語で「handsome」と綴ります。この単語の意味の変移は面白く、1400年頃のこの言葉が生まれた時は「扱いやすい」という意味だったそうで、1550年代には「適切な」という意味が加わり、1580年代には「見た目が美しい」という意味にまで広がったそうです。
今も英語では意味合いは広いです。「寛大な」や「道徳的に正しい」という意味で使われることもあります。なので男だけでなく女にも使われますし、モノにも、はたまた概念にすらこの「handsome」がつくこともある…。案外、いろいろとハンサムなんです。
今回紹介する映画の主人公は、顔はハンサムじゃないかもしれないけど、性格はハンサムな野郎たち…。そんな奴らが大暴れします。
それが本作『ハンサム・ガイズ』。
本作は韓国映画なのですが、とあるカナダ・アメリカ映画のリメイクです。韓国映画をハリウッドがリメイクすることはわりとありますが、韓国側がリメイクするのは珍しい気がします。それも「なんでこの映画!?」というチョイスで…。
そのリメイク元が、2010年の“イーライ・クレイグ”監督が脚本も合わせて手がけた『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』。だいぶマニアックな映画だと思うのですが、どうしてこの映画をリメイクしようと思い至ったのだろうか…。
『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』自体は、若者が恐怖を味わうキャビンものを盛大にパロディにしており、見た目は怖いけど実際は何の変哲もない無害なむさくるしいだけの男2人がホラー的な殺人者だと勘違いされるというコメディです。
それを韓国がリメイクした『ハンサム・ガイズ』ですが、単に舞台を韓国にしているだけでなく、物語に新要素を加え、もっとふざけまくって楽しませてくれます。
正直、「どうして元映画はこの要素を入れなかったんだ」というくらいには、今回の『ハンサム・ガイズ』は元映画よりも面白さが格段に増していると思いますし、近年まれにみる良リメイクだと私は感じました。
『ハンサム・ガイズ』を監督したのは、助監督で経験を積み、今作で監督デビューした“ナム・ドンヒョプ”。脚本も手がけていますが、これはなかなか良い才能の誕生で今後に期待大じゃないでしょうか。
主演は、『ソウルの春』の“イ・ソンミン”と、『バッドランド・ハンターズ』の“イ・ヒジュン”。今作でのおバカ演技は印象が強烈すぎて、これからのシリアスな映画で顔を見たときに、笑ってしまわないかちょっと心配…。
共演は、『おひとりさま族』の“コン・スンヨン”、『ハンサン 龍の出現』の“パク・ジファン”、ドラマ『サムシクおじさん』の“イ・ギュヒョン”、ドラマ『トリガー』の“チャン・ドンジュ”、ドラマ『マスクガール』の“ジョンファ”、ドラマ『財閥家の末息子~Reborn Rich~』の“カン・ギドゥン”など。
不謹慎に人が死にまくるノリなので(たいてい死ぬのは嫌な奴です)、気楽に大笑いしてください。
『ハンサム・ガイズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 人が残酷に死ぬ描写があります。 |
『ハンサム・ガイズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
山間の小さなスーパーマーケットは買い物客で賑わっていました。しかし、2人の女性客は見るからに怪しい形相のひとりの帽子男に驚き、硬直します。まるで人でも殺しそうな強面で、目つきが悪いです。
一方、別のコーナーでは大学生の若者グループが小型犬をカートに乗せたこれまた人相の悪い長髪のサングラス男と対峙していました。体格ががっちりしており、力がありそうです。
そこにあの帽子男も加わり、どうやらこの2人は仲間だとわかります。帽子男は購入したハンマーを肩に乗せ、「何の用だ」と凄みます。若者たちは危険を感じ、そそくさとその場を去ります。
若者たちは車を飛ばしていると、道路上にいた黒いヤギを轢き殺してしまいます。ミナ以外の者たちは呑気で、気にもせずに写真を撮っています。そしてヤギの死体を放置して車をまた発進させます。
その後、あの男2人も車で移動していました。ジェピルとサングは引っ越し初日でここに来たのです。車内では自分たちが他人になぜ警戒されるのか、納得がいっていない様子。自分たちはハンサムなほうだと思うのに…。
ジェピルとサングは道中であの轢かれたヤギを見つけ、可哀想なので回収してあげることにします。墓を作って埋めてあげよう…。その現場をたまたま警察車両が通りかかり、チェ所長とナム巡査は目を丸くします。見るからにガラの悪い男2人が血のような汚れのある袋を2人で運んでいる…これはもしかして犯罪の現場?
すぐさま銃を突きつけ、ジェピルとサングを停止させ、状況を確認。すぐにヤギだとわかり、緊張が解けます。身分証明書を確認しながら、会話しますが、やっぱりこの男2人は雰囲気が怖すぎます。とりあえず解散するも忘れられそうにはありません。
ジェピルとサングは新居に到着。森の中にあり、ツタが絡まりまくっており、かなりボロボロな家です。インターネットに掲載されていた写真はステキな外観でしたが、実物は違いました。でも2人は大満足。サングは大はしゃぎです。
アメリカ人宣教師が建てたらしいこの家を自分たちで綺麗にしようと張り切ります。室内も柱が折れるほどに荒れ果てていますが、ふと地下室の床戸を発見。開けてみると、地下の床に謎の紋章が刻まれていました。妙にここだけ不釣り合いです。
実はこの家の地下では過去にとんでもないことが行われていて…。

ここから『ハンサム・ガイズ』のネタバレありの感想本文です。
予想どおりが楽しい
何が起こっているんだ? 全部事故だって? そんな都合がいいことあるわけないだろ!
それがあるんです!…というのがこの『ハンサム・ガイズ』のだいたいの全容。映画は全編ボケに徹し、ツッコミは観客にお任せしています。
やたら勢いよく人がどんどん死にまくりますが、その死に方はもうドリフのギャグみたいなノリです。今回の舞台となるあの森の家が、すでに笑いのためのセット同然なんですね。
家内部の仕掛けを最初にみせ(それは後半にしっかり活かされる)、徐々に周囲の小道具を利用したギャグ死を展開し(粉砕死が一番綺麗なギャグだったな…)、最終的にはパトカー大爆発や銃撃戦まで勃発する…この広げ方もさりげなく整っていて良かったです。滅茶苦茶な内容ですけど、実は見せ方は用意周到に考えられています。
しかも、今作『ハンサム・ガイズ』は、単にどうでもいい奴らが凡ミスのようなかたちで無残に死んでいくだけでなく、その死があの家の地下の悪霊(バフォメット)復活の儀式の生贄になっていくという裏展開も並行します。
つまり、リメイクで『死霊のはらわた』へと方向転換しているわけですが、これは単なるオマージュで終わらず、脚色としてとても理にかなっていたと思います。
まずひとりひとりの死がその場の一発ネタで片づけられず、最終的な大いなるオチへと繋がるカウントダウンとして機能し、観客にとっての「わかったうえで眺める」楽しさが倍増しになっていること。ちゃんと「死んだと思ったら死んでいませんでした」という外しギャグもあったりして、5人の死が必要ながら、それが誰の死が該当するかで、観客をワクワクさせてくれるのもサービス精神豊富。
いかなる死を無駄にしないスタイルですよ。良かったな、あいつら…お前たちの死はしっかりエンターテインメントになってるよ…。
そして悪霊モノにしてしまうと、必然的にそれをどうやって解決するのかを考えないといけません。「悪霊が蘇りました! おしまい!」でエンディングにするほど、丸投げな映画でもありません。
『ハンサム・ガイズ』は、悪魔祓いのお札的なアイテムとか、事情に精通していそうな神父とか、そういうよくある「解決手段」を事前にプロット内で散りばめておきつつ、それらは全然役に立たないという、こちらも外しギャグで楽しませてくれます。正直、そういう「役に立たず」のオチなんだろうなと予想は容易につくのですけど、その予想どおりのことが起こってくれるのがなんか嬉しいという…。
基本的にこの悪霊モノの構成は『死霊のはらわた』だけでなく、韓国名物のオカルト・ホラーへのジャンル・パロディにもなっているので、むしろ韓国映画本場のセルフ・ユーモアをたっぷり拝めるところが贅沢かもしれませんね。
ただ、『ハンサム・ガイズ』自体はそこまで韓国映画界のこのジャンルを結集したゴージャスな大作とかではありませんし、わりと小粒なのですけども、その身軽さがプラスになったのではないかなとも感じます。
韓国映画はまだまだホラー・コメディが伸びていきそうなポテンシャルはありそうですね。
劣等感よりも人生を謳歌しよう
『ハンサム・ガイズ』がオリジナルと明確に変わらないのは「誤解されそうな強面の男性たち」を主役にしているところ。
こういう男性像をギャグにしながら描くのは、ある種のコメディの鉄板ネタではあるのですが、難しいバランスを要求されますよね。場合によっては、すごく男性差別的になりえますし、一方で女性差別に傾くこともあります。どちらにせよそれは「ルッキズム」を内面化しやすいゆえなのですが、ただただ「あの男はブサイクで怖そうな顔つきだから笑い者にしよう」では、それは蔑視になってしまいます。
『ハンサム・ガイズ』は、その蔑視的な空気を上手く浄化していたとは思います。
今作のジェピルとサングを熱演した“イ・ソンミン”と“イ・ヒジュン”は間違いなく見た目だけで笑いをとれます(ズルいくらいに存在感だけで面白い)。本作はこの2人を序盤はわざと他者化して、他人の目からは「ヤバそうな男2人」にみえることを提示しつつ、次に当人の視点になることで、徹底してそのイメージを取り払います。
それは単にギャップで遊ぶにとどまらず、劣等感を本人がそんなに引きずっていないのが良いのだと思います。
「他人に何と言われようと、自分が楽しければそれでいい」という生き様を清々しくみせられることの気持ちよさというか。単純すぎるかもしれないですけど、やっぱりこういう考え方が最後は大事だと思うし…。
ここ最近の韓国映画界はこういう「誤解されそうな強面の男性(でも中身はチャーミング)」という筆頭は“マ・ドンソク”であり、その人気っぷりがこの男性像を売りにした今作のような他の映画にも波及しているのだと思いますが、楽しませ方がすでにテンプレ化しつつあるのかもしれないですね。
今回のジェピルとサングのコンビもひたすらに楽しく、嫌味を感じさせません。コンビになるともっと可愛く面白いことがわかりましたよ。
今作の韓国リメイク版は、オリジナルにあった恋愛的な要素をバッサリ削っており、そこも良い改変でした。こういう男性像の承認を「若い女性に慕われる」という一点だけで示してしまうのは危ういのですが、本作ではミナという若い女性が配置されるも、わりと対等な関係を維持します。
逆に男性の劣等感みたいなものの陰湿さは、あの若者グループの男性陣で描写されているので、そこはカバーしています。
まあ、でも結局はこの主人公の男2人を過大評価することもないのです。良い奴だけど、せいぜいそれくらいまで。“マ・ドンソク”みたいに強くもない。でもOK。ヤバい事態はなんだかよくわからない超越的な存在が手をだせばそれで収まる。ちっぽけな私たちにはどうすることもできない…。
だったらやっぱり楽しんだほうが勝ちだね!ってことで、ジェピルとサングと一緒に人生を謳歌しましょう。周りが指をさしてくる? なにか陰口を言っている気がする? 平気です。心はハンサム。寛大に!
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『ハンサム・ガイズ』の感想でした。
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Handsome Guys (2024) [Japanese Review] 『ハンサム・ガイズ』考察・評価レビュー
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