いい笑顔です…映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:ベルギー(2017年)
日本公開日:2018年11月10日
監督:パノス・コスマトス
マンディ 地獄のロード・ウォリアー
まんでぃ じごくのろーどうぉりあー
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』あらすじ
レッドは、愛する妻マンディと人里離れた場所で静かに暮らしていた。しかし、マンディに固執するカルト的な集団の凶行により、レッドの前でマンディが惨殺されてしまう。怒り狂ったレッドは復讐を誓い、マンディを死に追いやったカルト集団に牙をむく。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』感想(ネタバレなし)
ニコラス・ケイジ、覚醒
2016年に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー主演男優賞を受賞し、映画人生の栄光を味わったはずのケイシー・アフレック。しかし、過去の自分の所業が再び注目を集めるような世論の変化もあってすっかりまたブルーな気分になっている…かもしれません。
そんな彼に「ま、いろいろあるけど元気だせよ」と肩を叩いてやれる男がいるとしたら、コイツしかいません。その名は“ニコラス・ケイジ”。
叔父は巨匠フランシス・フォード・コッポラであり、そんなビックすぎる名前を嫌ってか、わざわざアメコミのキャラクターから名前を持ってきて今の芸名を名乗っている彼はそれだけでもじゅうぶんな人生エピソードを持っているように思いますが、実際は絵に描いたような“富士山”形の“成長→凋落”人生を送っていました。
まず、デビューしたばかりの頃は少しずつキャリアを重ねて注目を集めていく極めて普通の道を歩んでいきます。そして、1996年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を受賞。その後も『アダプテーション』など個性派作で高く評価されたり、監督デビューしたり、映画プロデュースを手掛けるなど、映画人としてはピークを謳歌していました。ところが、ある日を境になのかは不明ですけど、いつのまにか坂道を転げ落ちていました。浪費、破産、暴力、女性、アルコール…とにかくスキャンダル話ばかりが目立ち始めます。そして、俳優活動で言えば、何を言おう2006年の『ウィッカーマン』の大コケ以来、ゴールデンラズベリー賞の常連になってしまいます。実際、それ以降、出演する作品も正直言って微妙なものばかりで、最近も…。もう「“ニコラス・ケイジ”=ネタ扱い」のような図式が成り立ってさえいる状態でした。
そんな“ニコラス・ケイジ”ですが、カルトが題材の映画が好きという趣味があり、あのいわくつきの『ウィッカーマン』も自ら製作を手がけたもの。だからこそそれが失敗したのは可哀想なのですが、呪われたのだろうか…。でも、彼はそれでもめげずに『ゴーストライダー』などオカルトな作品になおも出演し続け、やっぱり顔に泥を上塗りしていくばかり。
しかし。カルトの神様は彼を見放さなかった。ついに“ニコラス・ケイジ”、名誉挽回となる強烈な一作が生まれました。しかもカルトの映画で。それが本作『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』です。
あらすじを見た人は、よくある大切な人を奪われて復讐する男の話でしょと思っているかもしれません。でも、普通のリベンジ系アクションではないのです。また、邦題が「マッドマックス」風になっているので、その作品の雰囲気に近いのかなと予想している人もいるでしょうけど、確かにそんな要素も部分的にはありますが、それとも違う。まごうことなきカルトです、この映画は。
ネタバレなしでハッキリ言えるのは、“ニコラス・ケイジ”は吹っ切れたなと。いや、壊れちゃったのかもしれない。きっとなんかどうでもよくなったのじゃないかな。作中では役を演じているのですけど、もう本人の素にしか見えない。散々ネタにされて、とうとう臨界点を突破してしまった感じです。いじめられっ子が覚醒したみたい…。
監督は、あの『ランボー 怒りの脱出』や『コブラ』を監督したジョージ・P・コスマトスの息子の“パノス・コスマトス”だそうで、未知数なところも多いのですが、これまた凄い出自の人がとんでもない怪作を生み出しました。
“ニコラス・ケイジ”の狂いっぷりは、批評家を絶賛せざるを得ない空気感に強引に密封させるようで、とにかく「圧」が凄まじい本作。あなたもこの狂気のパワープレイに翻弄されてみてはいかがでしょうか。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』感想(ネタバレあり)
二人が創造している世界
最初、私は最低限の前情報しか入れずに観ていたので、普通のリベンジ系アクションの範疇だろうと思ってました。心のどこかで“ニコラス・ケイジ”主演ということで、バカにしていたのかもしれません。
謝罪します。この映画、とんでもない作品でした。観た人は序盤始まってすぐに「なんだこれは!?」となったはず。
まず舞台は1983年のシャドーマウンテンのどこか。「Shadow Mountains」という場所はカリフォルニア州のモハーヴェ砂漠に実在しますが、本作のそれがここのことを指しているのかはよくわかりません。とにかくその場所と時期を示す文字が普通の映画であればわりとさりげなく表示されるものなのに、本作はデーン!とやたらアーティスティックな方向性で主張してくるわけです。この時点で私は「!?」ですよ。
続いて林業系の仕事についているのか、木をチェーンソーで伐採している男・レッドが映ります。まあ、普通です。ただ、普通のシーンはここで終わりなのでした。
ここから山奥の森の中で暮らすレッドとその相手となる女性マンディの描写。これがまた強烈で独特なタッチで描かれます。「ここは異世界なのか?」と思ってしまうほど、現実離れした空間。二人が話す内容も、何か超越しているような常人のものではありません。なんなんだ、これ…という感じですが、回答がないし、回答する気も感じられない映画のトーンに、私はとりあえず考えるのを止めました。
ちなみにこのレッドとマンディ。日本の宣伝などでは夫婦と説明されていますが、ファミリーネームも違うし、どうやら「恋人」くらいの関係性のようです。身を寄せ合って同棲しているだけに愛情を感じますが、それ以上にこんな辺境で暮らさなければいけない事情を二人の会話の節々から察することもできます。“普通の”社会から逃避せざるを得ないことがあったのでしょう。
そんな二人にとってシャドーマウンテンの地は救いの場所なのか。木を伐採して開拓するレッドと、ファンタジーアートを描く仕事をしているマンディの姿は、この土地を自分だけの空間にリ・イマジネーションしているような解釈もできるのではないでしょうか。
壮絶…からのあの姿
しかし、二人の世界を脅かす異物が乱入します。
それが「Children of the New Dawn」という言葉を掲げる集団。雰囲気的にはLSDをやっている時代外れのヒッピーの集まりに見えますが、どこか狂気的。絶対に近づいてはいけない奴らです。
ところがこの後にもっと凄い奴らが登場。カルト集団のリーダーであるジェレマイアの指示でマンディを誘拐することを命じられたメンバー。実行部隊として協力を仰いだのが、笛の合図で闇夜から現れた謎のバイク集団。明らかに人じゃないような声で血を欲するその存在は、どう考えても『マッドマックス』の世界からワープしてやってきたようにしか思えないです。少なくともこの森にはいちゃいけないですね(コミコン会場ならいそうですけど)。
そのカルト集団&バイク集団のヤバい組み合わせによって、一瞬で拉致されたレッドとマンディ。
ここからはとにかく壮絶の一言。レッドは磔にされ、刃物で刺され、マンディを目の前で生きたまま焼かれ、放置され、なんとか縛りから脱するとそこには灰と骨になった愛する女性の姿が…。
今まで散々酷い目に遭い、それでもネタにされてきた“ニコラス・ケイジ”ですが、さすがの今作の“ニコラス・ケイジ”には同情してしまう…。ここまで最低最悪の行為を見せつけられると、こっちもふざけてられないし…。
とかブルーな気分で陰湿な感情にふけっていたら、この映画、そんなムードを何食わぬ顔でぶち壊してくるものだから、また「!?」ですよ。
意気消沈のまま絶望の崖底に人生が転落したレッドの姿。それがなぜか本作では、トラの顔のシャツに下半身は白ブリーフ状態で、アルコールをがぶ飲みして、「うぉおおおおーーー」と叫び、トイレに座り込み、また絶叫し、泣くという状態で観客に見せられます。あ、うん、えっと、これはギャグ…? カッコ悪い男を絵に描いてくださいというお題だとしたら、100点満点の絵なのですけど。すっかり直前にあった悲惨な出来事が頭から吹っ飛びました。
スマイルはサービスです
ダサい“ニコラス・ケイジ”の姿が頭からこびりついて離れないでいる私なんてお構いなしに、映画はどんどん進みます。
ここからはずっと“ニコラス・ケイジ”のターン。敵よりも狂っていきます。まずは戦闘用のやたらビジュアルがカッコいい斧をゲット。攻撃力が2倍に上昇。さっそくバイク集団のひとりを飛び道具と車で強襲。敵の陣地であろうがお構いなし。相手の首をスパッとして、血をドバァーと浴びますが、不敵に笑ってご満悦。楽しそう(つい最近、愛する人を殺された男の顔です)。
カルト集団が使用している謎のハチが入っていた瓶を指を突っ込んで舐めるという、“青酸カリだったら死んでいるパターン”を躊躇いなく行動に移してしまうレッド。ハイ、トリップ! いや、もうじゅうぶんこれまでの行為も常軌を逸していたと思いますが、ここからはもっとハイテンション。
斧で敵を切断。ふーっと一服。雑魚を殲滅。続いては、チェーンソーバトル。そうか、序盤の木こり描写はこの伏線だったのか~(棒読み)。仕事道具なだけあってチェーンソー使いはプロ(まあ、たぶん戦闘に使ったのは初めてでしょうけど)。このシーンで、相手の方がチェーンソーが長いとわかる演出には笑ってしまいました。いつからチェーンソーはリーチで勝負する武器になったのだろう…。
ラストはすっかり小物化したジェレマイアに対して「俺がお前の神だ」宣言を言い放ち、頭部破壊の刑。目玉が飛び出るほどの快感で死亡したのでした。まあ、コイツに関しては、捕まったマンディに“アレ”を小馬鹿にされていた時点でこの男の負けは確定していたようなものですから。あとは“やられ役”です。
復讐を果たしたレッドは、車に乗ると隣には愛する妻の幻覚。そして「俺たちが創った世界、ちゃんと守ったよ」と言わんばかりに、凄い血まみれで二カッと笑うレッド。いや~、“最もいい笑顔をしていた”大賞をあげたい。証明写真に使えそうだもん。
そんな男を見守る空は異世界のようで…。映画全編が酔い続けているような錯覚を観客に与え、最終的にはただの復讐の完遂というよりは世界の構築を完了したかにも見えるオチ。
この映画の世界こそ、創造主“ニコラス・ケイジ”の理想郷なのじゃないでしょうか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 70%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
(C)2017 Mandy Films, LTD. All Rights Reserved マンディ地獄のロードウォリアー
以上、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の感想でした。
Mandy (2017) [Japanese Review] 『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』考察・評価レビュー