無垢な悪意が真の闇を目覚めさせる…映画『ロッジ 白い惨劇』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・イギリス(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:ヴェロニカ・フランツ、セヴリン・フィアラ
ロッジ 白い惨劇
ろっじ しろいさんげき
『ロッジ 白い惨劇』あらすじ
リチャードは長男のエイダンと長女で年下のミアの2人を連れて、雪深い森にあるコテージにやってくる。これは家族では恒例のことだったが、今回は新しい恋人のグレイスを連れてきたため、子どもたちは不満だった。リチャードは休暇を3人と一緒に楽しむつもりだったが、ある理由でそれができなくなり、グレイスに子守を任せて一旦戻る。そして惨劇が起こる。
『ロッジ 白い惨劇』感想(ネタバレなし)
今度のロッジでは何が起こる?
なぜアメリカのホラー映画は高確率で「ロッジ」が舞台になるのでしょうか。
そもそもロッジに泊まるという文化が一般的であるという前提がありますが、何かとホラーにはうってつけな場所です。閉鎖的な空間にポツンとあることが多いですし、万が一危険が迫った時は逃げ場も乏しいです。その狭い空間で人間関係がギスギスすればたまったものではありません。まさに袋のネズミ。ネズミを窮屈な場所に押し込めれば共食いするんですよ…。
だったらなおさら「どうしてロッジに泊まるんだろう?」と私は常々疑問なのです。デメリットしかないのではないじゃないか…。
でもアメリカ人的には「ロッジに泊まるものである」という習性が優先されるのかもしれませんね。ヨーロッパ人の別荘バケーション文化の残滓なのか、とりあえず自分たちもそんな感覚を味わいたくて、無理やりにでも別荘っぽいことをしているのかも。うん、不思議だ…。
今回紹介する映画も定番どおりロッジが舞台になっているホラー映画です。しかもそのタイトルは『ロッジ 白い惨劇』。原題は「The Lodge」です。またそのまんまなタイトルできたな…。よく似た題名の映画が多いので誤認しないようにしてくださいね。ただ、このタイトル(原題)は実はダブルミーニングにもなっているので、そこはちょっと留意してみるといいと思いますが…。
本作の物語の導入はだいたいこんな感じです。あるシングルファザーと子ども2人、それに父の新しい恋人がロッジにやってきます。そこで…ホラー的な何かが起こるのです。以上。
う~ん、やっぱりネタバレなしだと全然何も言えない。むしろロッジで何も起こらない方が稀ですよ。
作品の雰囲気は、いきなり殺人鬼や怪物が襲ってくるマンハント系ではなく、精神的にジワジワ攻めてくる心理スリラーと言ってもいいのかな。シンプルな心霊現象ものでもなく、人間の心の闇が見えてくるタイプのやつです。こういう系はたいてい人を選ぶのですよね。確かに『ロッジ 白い惨劇』は万人受けする作品じゃないし、みんなで鑑賞してギャーギャー恐怖に盛り上がるようなものでもないです。でも好きな人は大好きだと思います。かくいう私もこういうのは好物で…。
映画のビジュアルはちょっと『ヘレディタリー 継承』に近いものがあると指摘する声もあります。確かにところどころセンスが似ています。でも物語は全く異なるので二番煎じではないですからご安心を。
ホラー映画好きにとって本作の監督は押さえておくべき人物と言えるでしょう。“ヴェロニカ・フランツ”と“セヴリン・フィアラ”というコンビです。2人ともオーストリア人で、“ヴェロニカ・フランツ”の方は1965年生まれ、“セヴリン・フィアラ”は1985年生まれで全然世代が違うので、どういう関係性なのだろうと思ったら、“セヴリン・フィアラ”は“ヴェロニカ・フランツ”の甥らしいです。“ヴェロニカ・フランツ”の夫は、あの『パラダイス』3部作など独創的な映画作家性で知られる“ウルリヒ・ザイドル”なんですね。
この監督コンビを一躍有名にしたのが長編デビュー作である『グッドナイト・マミー』(2014年)です。こちらもネタバレ厳禁ですが、非常に胸糞悪い心理スリラーの秀作でした。『ロッジ 白い惨劇』も『グッドナイト・マミー』に通じる要素があったりして、前作が好きならきっと満喫できるはず。
俳優陣は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で注目を集め、その後も『アンダー・ザ・シルバーレイク』などで印象的に活躍している“ライリー・キーオ”。彼女が今作ではなんとも不気味な主役として才能を発揮。怪演に期待してください。
他には『IT イット』2部作でピエロと大熱戦を繰り広げたばかりの“ジェイデン・マーテル”がまたもホラーの世界に…。これもピエロのせいなのか(違います)。
ちなみに『ロッジ 白い惨劇』の制作をしているのは「Hammer Film」という会社で、これも熱心なホラー映画ファンならご存知でしょう。あの「フランケンシュタイン」や「ドラキュラ」シリーズなどクラシックホラーの黄金期を支えた有名企業です。1970年代あたりには映画制作から身を引き始めたのですが、また2000年代になって復活し、ペースは遅いですが徐々に映画を送り出すようになり、『ロッジ 白い惨劇』のような意欲作も牽引。頑張ってほしいですね。
『ロッジ 白い惨劇』は日本では劇場未公開で、デジタル配信スルーになってしまいましたが、2020年の代表的ホラー作品のひとつなのでぜひともチェックしてみてください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(ホラー好きは要注目) |
友人 | ◎(心理的な恐怖を共有するなら) |
恋人 | ◯(薄気味悪いスリルを一緒に) |
キッズ | ◯(怖い作品が好きならいいけど) |
『ロッジ 白い惨劇』感想(ネタバレあり)
悔い改めよ…
「ミア? エイデン? いくよ」と子どもたちに呼びかける女性。ローラ・ホールは息子のエイデンと娘のミアを車に乗せてどこかへ出ていきます。家を出る前、ローラは鏡の前で頭を抱えてひとり泣いていました。彼女の心の中には絶望が充満していることは誰も知らず…。
車がたどり着いたのはある家。ドアを開けて出迎えたのは父であり夫であるリチャードです。子どもたちは無邪気に駆け寄りますが、父にお菓子を買っておいでと言われ、二人で出かけます。
ローラとリチャードは夫婦ですが別居中でした。「お茶?コーヒー?」とリチャードは気軽に聞いてきますが、ローラの方は不安そうな顔で張りつめています。「話したい」と切り出し、今後の関係性について聞きますが、すでにリチャードは新しい恋人がいるらしく、離婚を持ち出されました。
その言葉に全てを悟ったローラはひとりその場を去り、ある部屋で椅子に座ります。そして、おもむろに銃を取り出し、何も躊躇することなく自分の口に当てて即座に発砲。即死でした。
葬儀は粛々と行われました。残された子どものショックは大きいです。ベッドで泣きはらすミアは「きっと天国に行けなかった」と母の死を嘆き、父の寄り添いも拒絶。そのミアの部屋にエイデンが入ってきて静かに隣で寝てあげます。
その悲劇から6か月後。
父は子どもたち2人にある計画を話します。今、父が交際しており結婚も考えているグレイスという女性を、ロッジでクリスマスを過ごす恒例の家族イベントに同行させる、と。それを聞いて大きく動揺するエイデン。まだ自分たちは母を忘れていないのに、父はもう次の相手なのか…口汚い言葉を放って立ち去るのでした。
その後、こっそりインターネットでグレイスについて調べる子ども二人。ある記事にたどり着きます。それはとあるカルト団体が起こした集団自殺を報じるもので、動画もありました。さっそく再生すると、映像では何人もの人が眠るように横になっており、紫のひし形の布がかぶせられており、口には「SIN」と書かれたテープのようなものが貼ってありました。このカルトにグレイスも参加していたらしく、生存者ということのようです。父はカルトを調査している中で、このグレイスと知り合いました。
他に選択肢もなく、出かけるしかない子ども二人は荷物を準備。車で出発し、途中でグレイスをピックアップします。助手席に乗ってきたグレイスは後ろを振り返り(犬を抱えている)、ハイと挨拶してきますが、子どもたちは無言。
雪深い森を夜間に進み、やっとロッジに到着しました。部屋にはこの家族の熱心な信仰を示すようにあちこちにカトリック系の品々が置いてあります。食事をするためにみんなで机につき、ミアは慣れた感じで「アーメン」と祈りを唱えます。そのとき、グレイスは鼻血を少しだし、拭います。
イチャイチャする父とグレイスの物音、楽しそうな笑い…それらが聞こえてくる子ども部屋の二人は心底嫌そうです。
翌朝、4人で外で遊んでいると、それはママの帽子だとエイデンはグレイスの被っている赤い帽子を指摘し、ミアは容赦なくぶんだくりました。ミアはひとり人形遊び。その人形が氷にあいた水に落ち、ミアがひとりで取ろうとするのを目撃したグレイスは止めます。そしてグレイスが取ろうと這いつくばっていきますが、氷が割れてグレイスは落ちてしまいます。なんとか父が助け出し、その場はセーフ。
そんなこともあった中、リチャードは仕事関係で出かけないといけないことになり、グレイスに子どもの世話を頼みます。万が一を考えて、グレイスに銃の使い方を教えますが、グレイスは結構躊躇いなく撃つことができました。
出かける父。残された3人。気まずい空気。
グレイスはなんとか距離を縮めようとしますが、子どもたちの心の壁は分厚いです。
ところがある朝、目覚めるとロッジにあったいろいろなものが消えていました。電力なし、冷蔵庫も空、スマホも使えない、グレイスの衣服も薬もありません。グレイスはエイデンを疑いますが、子どもたちの荷物もないので明らかに変です。そして、グレイスの犬も姿がありません。
不信感。恐怖。敵意。不穏な感情がロッジを漂い、それは思わぬ闇を呼び覚ましてしまうことに…。
諸悪の根源はお前だ
『ロッジ 白い惨劇』はざっくり感想をまとめると「人の心を気安く弄んではいけない」ってことだと思います。なんだか子どもへのお説教みたいですけど、実際にまさに子どもに対する教訓(それも極端なほどにおぞましい最悪のカタチ)になる物語でした。
序盤から示される家族の不幸、そこからのぎこちない再生への一歩。こう書くとさも“良いこと”のように思えますが、かなり理不尽に見える話です。本作は終始子ども目線になっているところがあり、観客もどちらかといえば子どもに同調しやすいです。
となると、あの父リチャードの行動はいささか無頓着すぎますよね。いくら自分の人生だからといって早々と新しい女性を家に連れてきて、しかも大事な家族行事に同行させるなんて。これがホラーでなくとも気まずい空気ですよ。さらに肝心のリチャードはロッジを放り出して出かけてしまいます。
つまり、リチャードは家族の再構築から逃げており、その重荷を全部女性であるグレイスに丸投げしてしまっています。子どもの世話は女の仕事だろと言わんばかりに。
なので諸悪の根源はそもそもこのリチャードにあると言ってもいいくらいです。
弄んだ報いを受ける
しかし、子どもたち二人は父親に当初は不満をぶつけるも、やはりそこは父親なので逆らえることもできず、結局は最も敵意を向けるのに都合がいい相手、つまり「よそもの」であるグレイスに憎しみを募らせていきます。
そしてやってしまうのが例の“でっちあげ”。それはかなり突拍子もないもので、ちょっと疑えばすぐにバレそうなものです。いかにも子どもが考えそうな…。
でもこの“でっちあげ”をやろうと思ったのは、おそらく子どもたちの中にある「どうせカルトにハマる女なんてチョロいだろう」という見下しがあったのでしょう。このへんの軽蔑意識はインターネットでの断片的な情報でしかカルトを知らないことも下地にあるのだと思いますが、すごく今のSNS世代感が出ているなと思います。他人を知ったような気になってその相手をおちょくる、貶す、咎める…というのは現代のネット文化では日常風景になってしまっていますからね。
本作ではそれがああいうかたちでリアルで具現化しているわけで。悔い改めよと圧力をかけて精神をいたぶっても、愛する母親が帰ってくるわけではないのですが、それでも何かこのイライラをぶつけていきたい。この未熟ゆえの残酷な心理の怖さが前半は非常に滲み出ていました。
ところが、子どもたちの無垢な悪意は思わぬ形で最悪の闇を呼び起こしてしまいます。子どもたちは侮っていました。人間の心はそう容易く弄ぶものではないことを知りませんでした。
せっかくカルトから抜け出そうと努力し、必死にプレゼントまで用意して人生をやり直そうとしていたグレイスの心を追い詰めた結果、自業自得ではあるのですが、大変な闇を解き放ってしまいます。
後半の終盤は完全に立場が逆転。事態は最低最悪へと真っすぐ突き進み、もう後悔しても遅い状況に。
“ヴェロニカ・フランツ”と“セヴリン・フィアラ”監督コンビは、『グッドナイト・マミー』でもそうでしたが、こういう子どもという最も無邪気な存在に理不尽に責められてしまう「女性・母」を描くのが上手く、もはや十八番なのかもしれないですね。
あのカルトは実在した
『ロッジ 白い惨劇』は心理スリラーなのでわかりやすいエンターテインメント性はないのですが、演出面はとても上手く、監督の力量の確かさを実感できました。
例えば、音の演出。あまり大きな音をいきなり鳴らして恐怖感を出すのはチープに受け取れるのでホラー映画では下手な演出の定番になっていますが、本作では音の使い方が面白いです。
まず氷がいきなり割れてグレイスが落ちるシーンでびっくりサウンド。このへんはまだ普通。ところがこれ以降、「え、そんな音が鳴るの?」と意表をつくようなサウンドの挿入で観客を揺さぶってきます。しかも、それらの音はただ瞬間的に怖がらせるものではなく、全部グレイスという人間の精神が崩壊していくことを示すアラートみたいなものでもあって…。
それから精神崩壊していくグレイスが見る幻覚じみた映像の数々。一番私が怖いなと思ったのはスノーエンジェル(新雪の上で手足を広げて仰向けに寝そべって腕を上下に動かしたり、脚を開閉させたりしてできる、天使みたいな形の跡のこと)がズラっと並んでいる光景。あんな視覚的恐怖は初めてでした。部屋にあるカトリック物品よりも怖い…。
あと、3人で『遊星からの物体X』を観ているシーンがありますけど、なんであれを観ようと思ったのか…(まあ、後の犬の消失にもつながる伏線とも言えますけど)。
『グッドナイト・マミー』のときは虫を巧みに使った恐怖演出でしたけど、この監督は毎度ながらそのシチュエーションで使えるもので心理的恐怖を煽るのが上手いですね。
私は経験がないのでわからないのですが、ああいうグレイスが経験する心理的な強迫観念のようなものは、カルトみたいなものにハマった過去がある人はフラッシュバックしたりするものなのだろうか…。
ちなみに作中でグレイスが信者だったと思われるカルト団体。おそらくモチーフになっているのはアメリカにあった「Heaven’s Gate」という宗教団体だと思われます。この団体は1997年に集団自殺を行ったことで有名で、その手口も本作に似ています。
全然どうでもいい情報ですが、作中でカルトのリーダーの男を演じているのは“ライリー・キーオ”の実の父の“ダニー・キーオ”だそうです。なんだこの親子共演…。
『ロッジ 白い惨劇』ではまさに新たなカルト支部の誕生と、自殺の継続が行われます。本作の原題は「The Lodge」ですが、「lodge」は秘密結社などの地方支部を示す意味もあるので、まさにそういうこと。
カルトはいつでもどこでもやってくる。バカにしないで助け合わないとね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 51%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Lodge Distribution, LLC. All Rights Reserved.
以上、『ロッジ 白い惨劇』の感想でした。
The Lodge (2019) [Japanese Review] 『ロッジ 白い惨劇』考察・評価レビュー