GOT前日譚は結末が決まっていても面白い…ドラマシリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン2:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ライアン・J・コンダル、ジョージ・R・R・マーティン
ゴア描写 性描写 恋愛描写
ハウス・オブ・ザ・ドラゴン
はうすおぶざどらごん
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』物語 簡単紹介
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』感想(ネタバレなし)
またあのテーマ曲が流れる!
ファンタジー二大対決が開戦だ!とドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』の感想で息巻いてしまいましたが、そのお相手となるドラマもさすがの貫禄を発揮してきました。
それが本作『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』です。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(略称は「HOTD」)はミレニアム以降、最大の成功作であるドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の最新作です。こちらも前日譚ではありますが、『ゲーム・オブ・スローンズ』の時間軸から約200年前を舞台にしており、シリーズとしての世界観の接続性もきっちりあります。
土台のジャンルがハイ・ファンタジーで一緒なのでドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』との対決と言ってしまいましたが、この2作は作品の立ち位置は全く違うのでわりと住み分けできています。
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』は基本は子どもでも見られる間口の広い王道のファンタジーですが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は『ゲーム・オブ・スローンズ』から暴力と性の苛烈な描写をしっかり継承しており、明らかに大人向けです。そして『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は『ゲーム・オブ・スローンズ』からさらにピンポイントな特化を見せています。
『ゲーム・オブ・スローンズ』では王座をめぐる複数の王国や家系が入り混じった巨大な継承者争いが描かれていました。一方の『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はターガリエン家を主軸とする継承者争いとなっており、より骨肉の争いの色が濃くなっています。しかも、ターガリエン家は近親婚や一夫多妻制が平然とまかりとおっている歴史があり、ドロドロ具合が類を見ないです。
ターガリエン家と言えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』では“エミリア・クラーク”演じるデナーリス・ターガリエンというターガリエン王朝の最後の末裔の一人という背景を背負ったキャラクターが、絶大な人気を獲得しました。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ではそのターガリエン家の最盛期から崩壊していく姿を眺めることができます。
かなり長期の年代を描くので大きなタイムジャンプが頻発し、ゆえに本作では同じ登場人物を年齢経過に合わせて複数の俳優が引き継いで演じています。『ザ・クラウン』と同じ方式ですね。
いくつか注意点があるとすれば、まずキャラクターの名前が一部似たようなものばかりなので最初は混乱しやすいです。レイニラ、レイニス、レーナー、レーナ、レイラ…とかありますからね。「U-NEXT」や「Fandom」に載っている情報を見ると把握がラクですけど、がっつりネタバレなのでそこは自己責任で…。
また、本作はシリーズ熟知している人はわかるでしょうけど、生々しいゴア描写がいくつか挿入されます。それはいいのですが、今回は出産トラウマ的な描写が何度か挟まれます。かなりエグい描き方ですので一部の人には留意がいると思います。
とは言え、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は2020年代の見逃せないドラマシリーズの一本なのは間違いないでしょう。
感覚としては大河ドラマの気分で見られますね。ドラゴンがでてくる大河ドラマだと思えば良し。『ゲーム・オブ・スローンズ』を見たことなくてもこの『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』から見始めて何も問題ないので安心してください。
シーズン1は全10話、シーズン2は全8話。1話あたり約60~80分と大ボリュームですが、圧倒される物語が幕を開きます。またあのおなじみのテーマ曲が流れると自然と興奮してしまいますね。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』を観る前のQ&A
A:いくつか専門用語が登場しますので以下に解説しておきます。
【ターガリエン家】
ウェスタロスという地の全七王国の上位の家として300年近くも統治していた由緒ある家系。本拠地はキングズランディングの王都とドラゴンストーンの島の砦。家系上位の者は1人1頭のドラゴンを率いている。
【政治】
七王国の統治は、常設の小評議会が王のもとで行う。王のほか、首相にあたる「王の手」、法相、蔵相、海相、スパイの頭、グランド・メイスター、「王の盾」総帥などが参加する。
オススメ度のチェック
ひとり | :新規の人も気軽に |
友人 | :ファンを増やそう |
恋人 | :愛憎劇だけど |
キッズ | :子どもには不向き |
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ターガリエン王朝の1世紀目が終わる頃、老王ジェヘアリーズの健康は衰え始めていました。ターガリエン家は最盛期にあり、成竜10頭を飼いならし、ウェスタロスの地に敵はいません。ジェヘアリーズ王は約60年間平和と繁栄を保ちましたが、息子2人が早々と死去。後継者問題が浮上します。
101年、ジェヘアリーズは後継者を選ぶため大評議会を開きました。1000を超える諸侯がハレンの巨城に集結。14名の候補者のうち2名が最後に残りました。それは王の子孫で最年長のレイニスとその従弟で男子では最年長のヴィセーリスでした。そしてヴィセーリスが鉄の王座の後継者となりました。
ヴィセーリス1世の即位から9年目。都の上空を竜「シアラックス」が優雅に飛びます。それに乗るのはヴィセーリス王の長女であるレイニラです。親友のアリセント・ハイタワーと合流し、母で王妃のエイマ・アリンのもとへ。母は妊娠中です。戦場でドラゴンに乗りたいと願うレイニラでしたが、女の役目は子を産むことだと母に諭されます。
小評議会ではドリフトマーク島の領主で海相のコアリーズ・ヴェラリオンは自由都市が同盟を組んで「三頭市(トライアーキー)」と称し、ブラッドストーン島に集結していると警告します。貴顕提督を自称するクラガス・ドラハール(蟹餌作り)が海賊を罰しているそうです。
しかし、ヴィセーリスはあまり気にしません。それよりも世継ぎを祝う槍試合の方に興味がある様子。まだ性別はわからないものの、息子が生まれると期待していました。
レイニラは玉座のある広間に足を運ぶと、そこに叔父のデイモンが座っていました。デイモンは谷間で妻レイア・ロイスと過ごしていましたが、馬上槍試合のために戻ったようです。「お前の母が男児を生むまで世継ぎは俺だ」と豪語します。
野蛮な振る舞いが目立つデイモンは罪人を殺すという名目で街で大殺戮をしでかし、王の手であるオットー・ハイタワーを挑発します。
いよいよ槍試合が開幕。戦に飢えた若い兵士たちは殺し合いに発展し、デイモンも暴れますが、あと一歩のところでクリストン・コールに負けてしまいます。
一方、エイマ・アリンは出産の時が到来。ところが全く生まれないので、子を死なすか、母を死なせて子を腹から取り出すかの選択に迫られます。ヴィセーリスは切開で子を取り出すと決め、男児ベイロンが生まれますが、母と共にこの男児も亡くなってしまいます。
後継者問題が今回も浮上します。デイモンか、レイニラか。デイモンは暴君だとヴィセーリスは難色を示しますが、重鎮たちはレイニラは女だと反対します。
結局、デイモンは死した男児を侮辱したとして追放され、レイニラを世継ぎとすることが決定。レイニラは初代王から伝わる秘密の予言を父から教わります。
大いなる冬が来たらウェスタロスは一丸とならないといけない…。
シーズン1:デイモンが美味しすぎる
ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』の感想でも同じことを書いたのですけど、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』でも、いかにして前作のレガシーを継承しつつ、現代の視聴者に訴求しうる作品へと進化させるか、作り手はかなり考え抜いていることを窺わせる内容でした。
とくにこの『ゲーム・オブ・スローンズ』は当時から問題点も指摘されていて、そのひとつが女性の扱いであり、作品全体がどうしても「male gaze」に溢れており、女性の存在はその二の次の見栄えにすぎないところもありました(シリーズ後半になるにつれて多少は改善はされたのですが…)。
対する今回の『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は第1話からフェミニズムが根幹を貫いています。女ゆえに最年長でも王位を継げないレイニスに始まり、“産み”こそ女の使命と徹したエイマ・アリンのあまりにも壮絶な出産という名の犠牲による死、そして女ゆえに下に見られ続けるレイニラの屈辱…。
そんなレイニラをヴィセーリスが世継ぎに選んだのは従姉と妻への後ろめたさのせいなのか…。とにかくレイニラは王位継承権を得ますが、相変わらず飲み物注ぎ係しかやらせてもらえず、意見も聞いてもらえません。それでもしだいに実力を身につけていく姿は圧巻。“ミリー・オールコック”の演技も素晴らしかったです。もっと見ていたかった…。
また、ここでレイニラに関して女性主体の性の悦びも描かれ、前作の男性消費的な残滓を軽く吹き飛ばします。
そうこうしているうちに、今度はあろうことかヴィセーリスの2番目の妻となってしまったアリセントとの「王妃vs王女」の対決が勃発。双方ともに男社会の中で女の誇りを見せたいのは同じ。でも後継者という点では対立する。しかも、その子どもたちも「誰がこのデカいドラゴンをモノにするか」合戦で喧嘩しだすし、それが最終話のあの惨劇に繋がり、レイニラとアリセントの決定的な開戦へと突き進む…。
こんなドラマチックに女と女が戦うなんてそれはもう楽しいですよ。
じゃあ、女ばかりが際立つドラマなのかというとそうでもない。ここでカルト的に大人気となる本作の男キャラを忘れてはいけません。デイモンです。
あのデイモンの、頑張っているんだけど報われずにやさぐれている感じとか、暴力性を纏っていてもどこか情けなさと寂しさが消せない感じとか、もう一部の観客の心を鷲掴みにしてきますよね。ほんと、“マット・スミス”が魅力的すぎる。
デイモンもまだ王位を諦めていないでしょうし、レイニラと結婚しつつ、裏では自分が操る気満々なのかな。またなんかやってくれそうで楽しみです。
シーズン1:気になる欠点
シーズン1からハイクオリティなドラマを濃密に見せてくれた『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ですが、気になる点もなくはないです。
まず出産トラウマ的な描写が多用されることについて。本当にすごい出産を強調しまくる作品なので「女とは出産の痛みを経験してこそである」みたいな「女性論」の補強に傾きそうで危なっかしくは感じます。また女の性の主体性を“悦び”ありきで描くとどうしたって無性愛不可視化に繋がるのでそれも危ういですね。
次回はもっと多様な女性を描いてほしいのですけど…。あの“ソノヤ・ミズノ”演じるミサリアとか、出番増やしてほしかったなぁ…。
また、レーナー・ヴェラリオンの最初の密かな愛人の男(ジョフリー)が、大筋の物語の邪魔者として無惨に殺されるだけで終わる第5話は、それこそ「bury your gays」の典型例でしたし、クィア表象として2022年の作品と考えても劣るかな。これだったらゲイのキャラクターなんて出さない方がマシだったのではとも思います。『鎌倉殿の13人』の方が究極の異性愛規範社会の中でゲイを描くという意味ではよっぽど上手くやっていたんじゃないかな。ただ、その後のエピソードで、レーナーは恋人(カール・コーリー)と死を偽装し、王室から解放されて一緒に新天地へ旅立つシーンがあり、そこは多少の救いになっています。
※一部のキャラクターの生死に関するミスを修正しました(指摘してくれた方、ありがとうございました)
あと、これは私の好みですけど、本作のドラゴンはどうしても家畜っぽい描かれ方なのが気になります。個人的には『ヒックとドラゴン』みたいに、ドラゴンとの親密な関係の構築の過程をもっと見たいんですが…。本作のドラゴンは野生動物としての存在感はほぼ皆無ですよね。あくまで効果的な演出でしかないみたいな感じがする…。
でも怪獣的な見せ場は良かったです。最終話のレイニスの乗るドラゴンの容赦ない暴れっぷりもまさに怪獣スペクタクルだし、ラストのドラゴン強襲も…。ヴァーガーってなんか黒歴史化したあのハリウッド旧ゴジラを思わせるデザインだよね…。
そう言えばこれは気になる点じゃなくて気にしないであげてほしい点なのですが、前作では「スターバックス事件」が起きたせいで、今回もVFXミスかないかと血眼で探す人もいたのですが(実際にあったみたいだけど)、そういうのを作品叩きに利用するのは製作側に不要なプレッシャーをかけるだけだから止めるべきだと思うんです。いいじゃないですか、CGIミスも作品の味ですよ。スターバックスがあの世界に出店していても私は全然いいですよ。
最終話で、レイニラの次男ルケアリーズがアリセントの第三子エイモンドの乗るヴァーガーに食い殺され、ついに「クイーンvsクイーン」として開戦が本格化しそうな手前で終わったシーズン1。ヴィセーリス王の死がターガリエン家の衰退を招いた内戦「双竜の舞踏」の歴史へと直結していく…。結末が決まっていても面白いのですからさすがです。
シーズン2:ドラゴン面接の時間です
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のシーズン2ですが、一旦、登場人物の整理をしましょう。混乱する私のために…。
前シーズン1のラストでついに、レイニラ・ターガリエン(演じるのは“エマ・ダーシー”)を支持する「黒装派」と、アリセント・ハイタワー(演じるのは”オリヴィア・クック”)を支持する「翠装派」に分裂し、対立構図が鮮明になりました。
レイニラはヴェラリオン家と繋がりが深く、ヴェラリオン家はコアリーズがレイニスと結婚し、レーナとレーナーの2人の子がいましたが、片方は死亡、もう片方は世間的には死んだことになっています。亡きレーナとデイモンとの間にベイラとレイラという子が産まれていますが、政治力はあまりありません。レイニラとレーナーの子(同性愛者のレーナーは実父ではなく、血縁上の父はハーウィン・ストロング)として、ジェセアリーズ、ルケアリーズ、幼いジョフリーがいましたが、ルケアリーズはシーズン1のラストで衝撃的に亡くなり、政治力を持つのはジェセアリーズのみに…。しかも、重鎮のレイニスがまさかの死を…。
アリセントは、エイゴン2世、エイモンド、ヘレイナ、デイロンという4人の子がいます。エイゴン2世とヘレイナの間には2人の子がいましたが、シーズン2の第1話で幼いながらそのうちひとりのジェヘアリーズが殺されてしまいます。今度はアリセントが女だからという理由で政治の場から排除され、エイゴン2世がなりふり構わず圧政してましたが、エイモンドとの兄弟対立が深まり、エイゴン2世は重体に…。アリセントの秘密の恋人である王の楯のクリストンがオットー・ハイタワーに代わって王の手になるも、大衆の政治支持率はどん底で、もう王政を維持できるかさえ怪しくなってきて…。
とまあ、こんなふうにシーズン2はレイニラもアリセントもいろいろ自身の派閥内で追い込まれており、「戦争している場合じゃないよね…」と内心で理解しています。でも戦争の準備もしないといけない…。
レイニラはドラゴン面接を実施(不合格だと焼き殺される)。実はコアリーズの婚外子であるハルのアダムがドラゴン「シースモーク」の乗り手になり、平民のヒューがドラゴン「ヴァーミサー」の乗り手に、平民のアルフがドラゴン「シルヴァーウィング」の乗り手に…。でも外野を取り入れたことでジェセアリーズはご不満。レイナも森でドラゴンを見つけたようだし、内部波乱が心配…。
最終話でアリセントはレイニラに交渉を持ちかけますが、2人の友情はもう戻らないのか…。
それにしてもレイニラとミサリアとの間でロマンスが生まれるとは…。何でも俳優2人が「クィア・ベイティングになるのは避けたい」とのことで、台本になかった情熱的なキス・シーンを即興で追加したらしいです(Them)。サブテキストじゃくなてメインでクィア・ストーリーをやってくれる…素晴らしいですね…。でもこの関係をもしアリセントが知ったらどうなるんだろうか…。なんにせよ女性同士の対立を主軸とする本作にこれまた良いクィアなサスペンスが上書きされました。
これ以外にも気になる勢力もいますけどね。「三頭市(トライアーキー)」のシャラコ・ロハー提督(演じるのは”アビゲイル・ソーン”)は関与してくるのかな。
あと、デイモン。最後はレイニラに忠誠を誓ったデイモン。信じていい…よね?
シーズン1のラストも「戦いだ!」と幕開けを匂わせていましたが、シーズン2のラストは「本当に戦いだ!」と真の開戦を告げる展開で終わり。駒も出揃い、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の本気はここからです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)HBO ハウスオブザドラゴン
以上、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の感想でした。
House of the Dragon (2022) [Japanese Review] 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』考察・評価レビュー
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