前よりバカな映画に!…映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年3月31日
監督:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー
ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り
だんじょんずあんどどらごんず あうとろーたちのほこり
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』あらすじ
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』感想(ネタバレなし)
あのRPGの元祖が大作映画でリベンジ!
「ロールプレイングゲーム(RPG)」は今も大人気のジャンルです。
日本であれば「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの王道のシリーズが昔からあり、現在も「エルデンリング(ELDEN RING)」などの最新作が世界的に高く評価され、中国からは「原神」といったRPGも人気を博しています。
RPGというのはざっくり言えば、プレイヤーが割り当てられたキャラクター(主人公)を操作し、冒険や探索、戦闘などをしていくゲームのこと。たいていは能力を数値化したステータスがあったり、武器やアイテムの概念があったりと、非常にゲーム性が細かく、さらに壮大な世界観やストーリーがセットになって、プレイヤーがそのキャラクターになりきって没入していくスタイルが定番です。
このRPGの原点とも言える重要なゲームが1974年に発売されたアメリカの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」という作品でした。これは略称で「D&D」とも呼ばれたりしますが、テーブルトークRPGとなっています。つまり、いわゆるゲーム機のようなコンピュータ上でプレイするものではなく、紙や鉛筆、サイコロなどの道具を基本は用いるアナログな方式で、人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶものです。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は「ファンタジー」の世界が題材になっています。ファンタジーであれば、『ロード・オブ・ザ・リング』でおなじみの“J・R・R・トールキン”の小説「指輪物語」など、ファンタジーの礎となった伝説的な作品が以前からありましたが、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はそこにゲーム性を追加したわけです。
このファンタジーにゲーム性を組み込んだ「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の功績は後のRPGに甚大な影響を与え、数多のコンピュータゲームはもちろん、日本の異世界ものアニメだって、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」無くして産まれなかったでしょう。最近だと『2分の1の魔法』は「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の影響が色濃かったですね。
その「ダンジョンズ&ドラゴンズ」が2023年にハリウッドで大作映画として実写化されました。
それが本作『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』です。
実は「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は過去にも映画化されたことがあります。それも3部作で…(厳密にはストーリーの繋がりはない)。2000年に映画『ダンジョン&ドラゴン』が公開され、2005年には『ダンジョン&ドラゴン2』、2012年には『ダンジョン&ドラゴン3 太陽の騎士団と暗黒の書』と続きました。「知らないぞ?」と思う人がいるのも無理はないです。あまり目立たずに終わりましから。評価も芳しくなく、すっかりゲームの実写化の失敗例の山の一部として埋もれました。
ただ、すぐにリブート企画が始動していたらしく、2013年から検討が進むも、権利関係で揉め、そうこうしているうちに2020年代。とりあえずパラマウント・ピクチャーズ配給で映画が完成しました。
過去の映画の評価が低かったこともあり、この2023年の映画も事前の期待は半信半疑でしたが、蓋を開けてみれば大好評。過去の悪いイメージを払拭しましたね。
一応は、2000年の映画のリブートになっていますが、あまり気にしなくていいです。『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』はそれほどマニアックでもなく、ファンタジーRPGをよく知らない人でも入り込みやすい構成になっています。
監督は『お!バカんす家族』や『ゲーム・ナイト』など、もっぱらコメディを手がけてきた“ジョナサン・ゴールドスタイン”と“ジョン・フランシス・デイリー”の2人。『スパイダーマン ホームカミング』の脚本メンバーにも加わっていました。
俳優陣は、『ワンダーウーマン 1984』の“クリス・パイン”、『ワイルド・スピード』シリーズの“ミシェル・ロドリゲス”、『名探偵ピカチュウ』の“ジャスティス・スミス”、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の“ソフィア・リリス”、ドラマ『ブリジャートン家』の“レゲ=ジャン・ペイジ”、『パディントン2』の“ヒュー・グラント”、『マイ・スパイ』の“クロエ・コールマン”、ドラマ『暗黒と神秘の骨』の“デイジー・ヘッド”など。サプライズゲストもいます。
だいぶバカ方向に突っ走っている映画なので、肩肘張らずに気楽に『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の世界を満喫してください。観てるだけならゲームに負けたりしませんから。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気分転換に |
友人 | :気楽なエンタメ |
恋人 | :軽く楽しむなら |
キッズ | :子どもでも笑える |
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):何度でも作戦を考えよう
吹雪の大地を走る重々しい馬車。その馬車は停止し、檻から厳重な警備で連れてこられた囚人を高くそびえたつ牢獄へと閉じ込めます。ここは監獄。極悪人たちが収容されている辺鄙な地です。
しかし、牢獄の一室には先客がいて、のんびりしていました。その盗賊のエドガンは軽口をたたき、入って来たばかりの新入りは同室のホルガという女にちょっかいをだし、あっけなくぶちのめされてしまいます。
凍てつく外での労働作業を終えるエドガンとホルガ。なぜ2人はここにいるのか。それには昔話があります。
エドガンは妻と幸せに暮らし、赤ん坊が生まれたばかりでした。しかし、妻は殺され、赤ん坊のキラだけが隠されていたので生き残ります。なんとかこの子を守って育てようとエドガンは奮闘。でも子育て生活は慣れません。
ある日、戦士のホルガと出会い、相棒になります。宝石を盗んだりして生計を立て、いつの間にか娘も成長していました。盗みは続けており、名家出身のアマチュアの魔術師サイモンと小悪党のフォージとチームを組み、楽しく窃盗をこなす日々。
しかし、「よみがえりの石板」という死者を生き返らせる宝物を狙ったのが運の尽き、罠が発動し、ソフィーナという闇の魔法使いに行く手を阻まれます。サイモンとフォージは逃げることができましたが、エドガンとホルガは捕らえられ…。
今に至るわけですが、エドガンとホルガは隙を見てこの監獄要塞から逃げ出す作戦を決行。かなり無謀な方法でありましたが、成功しました。
故郷に戻ってみると、フォージがキラの保護者となっており、しかもこのネバーウィンターの主になったそうで、ずいぶんと優雅に暮らしていました。しかし、ソフィーナもそこにおり、これはフォージが仕組んだものだと発覚したときには手遅れ。2人は拘束されます。
いきなり処刑されそうになるも、ホルガのパワープレイで危機を脱し、次の作戦を練ります。
とにかく仲間が必要だということで、魔法でコソ泥を続けていたサイモンを回収。そしてサイモンの提案で、自由に動物に変身できるティーフリングのドリックに加わってもらいます。さらに聖騎士のゼンクもリクルートし、ついにベストなパーティが揃いました。
これで今度こそ上手くいくはず。上手くいく…のか?
ダンジョンズ&ドラゴンズ&おバカず
ここから『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』のネタバレありの感想本文です。
ファンタジーゲームの実写化と言うと、『ウォークラフト』のように壮大な世界観になるのかなと思いきや、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』はわりとスケールはほどよく抑えられており、主人公のストーリーを中心に風呂敷を広げない方向性になっています。
そして2000年版の映画と比べると、だいぶおバカな方面に突っ走っており、ノリとしては『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に近いものがありました。もしくは日本の異世界ものアニメにかなり近い空気感というか…。
基本のジャンルとしては2000年版の映画と同じで強盗モノで始まります。なので「これを盗みます」という目的が明確で、良い意味であの広大な世界観とかを気にしなくていいという、初心者に嬉しい親切設計です。難しい世界観の専門用語とかも頻発しません。きっとこの映画を観た人はあまり専門用語が頭に残っていないと思います。
で、主人公のエドガンは毎度何かしらの作戦は考えることはするのですが、全然上手くいったためしがありません。この「毎回考えては失敗する」というオチを何度も天丼ギャグのように繰り返すのが、この『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』のお約束の得意技です。邦題も「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの漫才劇」に変えてもいいんじゃないかというほどに、他にもしょうもないギャグが連発します。
墓で死者と会話するくだりのアホなシーンといい、ダンジョン内でのバカ騒ぎっぷりといい、そもそもこのメンバーは全員がどこかしらバカとして認定されてしまっているので、もうどうしようもありません。知力のステータスが低すぎる…。
バカなのはわかった。否定もしない。でもバカなりに頑張るから!…という姿勢で突き進むので、観ているこっちも「そこまで開き直るならもう何も言わないよ!」と一緒に付き合ってあげられる。そんな優しくなれる映画です。まあ、こっちの知能指数も若干下がっていくので、もしかしたら私もバカになっているだけかもしれない…。
加えて敵であるフォージもあからさまに仰々しいチープさのある悪役ですからね。“ヒュー・グラント”はここぞとばかりに美味しい役を持っていくもんだ…。
ちなみに2000年版の映画では悪役は“ジェレミー・アイアンズ”で、今回の“ヒュー・グラント”はそれをパロディにしてしまっているような、そんなアホらしさがありました。
超軽いファンタジーの流れを作れるか
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』のチームメンバーのバランスも良く、一番の要になるのは“ジャスティス・スミス”演じるサイモンだったのかな。「魔法破りの兜」は全然似合ってなかったけど…。
“レゲ=ジャン・ペイジ”もゼンクを演じることで、超真面目系アホ聖騎士という役柄をしっかり開拓していたので良かったです。もう少し活躍を見たかったくらいでした。
“ソフィア・リリス”のドリックは、ハエ、ネズミ、鳥、猫、二本足鳥、鹿…と連続変身して偵察から逃げ帰る一連のワンカット風のシークエンスで見せ場を持っていきましたね。この映画、たまにものすごく気持ちのいい映像シーンを用意してくれるけど、だいたいはドリックの能力に依存してる…。
“ミシェル・ロドリゲス”演じるホルガは観る前からわかっていた超パワーキャラで、エドガンを外してこのホルガを2人にする方が絶対にパーティとしては最強なんですが、それはエドガンには可哀想な事実なので言わないでおこう…。
レッドドラゴン、ミミック、ゼラチナス・キューブといった「ダンジョンズ&ドラゴンズ」ではおなじみの(そして後の影響を受けた作品群にもこぞって登場する)モンスターたちも、あらためてシンプルに映像化されており(レッドドラゴンは太め)、なんだか懐かしさすら感じます。ゼラチナス・キューブって、実写で再現されると、ちょっと美味しそうな雰囲気がやっぱりでるな…。
欠点があるとすれば、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』として映画になったことで、当然ながらゲームの緻密な戦略性なんてものはとうてい再現できないということですかね。ただ、それに関して本作は「主人公はバカですから!」でわりと全突破するという正直な攻略法を見せており、これはこれでいいんだと思います。
最近のハリウッドのファンタジー大作は映画にせよドラマにせよ、ちょっと『ゲーム・オブ・スローンズ』の影響を受けすぎているせいか、何でもかんでも重々しくバイオレンスでハードに描く傾向になりがちでしたが、この『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の成功でそのテンプレにストップがかかるかもしれませんね。
もうすでに『ウィロー』などドラマシリーズでは先例がありましたが…。
子どもでも笑えるぐらいの超軽いファンタジーの在り方を提示してみせた『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』は今後のジャンル・トップランナーになるのか、果たして…。
パラマウント・ピクチャーズはこの成功をこの一発で終わらせる気は毛頭ないようで、すでにスピンオフのドラマシリーズも製作が決定しているとか。元の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」がかなり拡張性の広いコンテンツだという利点もあるので、今回の映画とはガラっと違った作品も作りやすいんじゃないでしょうか。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の次の冒険探索の行先が楽しみです。またバカでいくのかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 94%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ファンタジー作品の感想記事です。
・『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
作品ポスター・画像 (C)2022 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, DUNGEONS & DRAGONS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C)2022 HASBRO. ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ
以上、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の感想でした。
Dungeons & Dragons: Honor Among Thieves (2023) [Japanese Review] 『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』考察・評価レビュー