新しい世界が映像化…ドラマシリーズ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
シーズン2:2024年にAmazonで配信
製作総指揮:J・D・ペイン、パトリック・マッケイ ほか
自然災害描写(津波) 恋愛描写
ろーどおぶざりんぐ ちからのゆびわ
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』物語 簡単紹介
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』感想(ネタバレなし)
ファンタジー二大対決、開戦!
2022年は二大対決の時代が来ました。いや、何の話かって「ファンタジー・ドラマ」対決です。
以前から巨額予算の大作ファンタジー・ドラマシリーズ戦争に突入した!とこの感想サイトでも書いていたのですが、Netflixでは『ウィッチャー』、BBCでは『ダーク・マテリアルズ ⻩⾦の羅針盤』と送り込んできましたけど、やはりあの二大巨頭が参戦すれば、全ての話題はそっちに持っていかれるのも当然。
その二大ファンタジー大作というのは、『ロード・オブ・ザ・リング』と『ゲーム・オブ・スローンズ』です。そして両者ともにこの2022年の同時期に新作ドラマシリーズを配信開始させ、激しくぶつかり合っています。
今回紹介するのは『ロード・オブ・ザ・リング』の方です。それが本作『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』。
『ロード・オブ・ザ・リング』はタイトルは聞いたことはあるでしょう。“J・R・R・トールキン”の小説「指輪物語」を原作とし、2001年から2003年にかけて、『ロード・オブ・ザ・リング』『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』として三部作で映画化。その後に前日譚となる『ホビット』三部作も製作され、2012年から2014年にかけて公開されました。大作ファンタジー映画の金字塔として今も刻まれています。
その『ロード・オブ・ザ・リング』作品群が今度はドラマシリーズとなったのですが、これまでの映画とは違う時代を描いており、映画よりももっと前の話(数千年前の第二紀)となります。
ただ、ちょっとややこしい事情があって、実は映像化権利が揉めていて…。映画の方を製作したのはワーナーですが、このドラマシリーズはAmazonが製作しています。権利者が別の状態であり、よって映画とドラマシリーズが完全に接続して一体となって製作されているわけではありません。いわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)みたいな感じにはなっていないということです。
まあ、そうは言ってもイチ視聴者が気にすることではないでしょう。このドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』は初心者でも本作から入れて楽しめますし、問題なしです。かなり親切に作ってあり、RPGみたいに新しい街に着くたびに簡単な背景をキャラが解説してくれますよ。
配信前からすでにシーズン5までの製作が決定済みらしく、ドラマ史上最高額となる10億ドルを超える予算が投入されるそうで、ドラマ史においてかつてない歴史をその目で拝めるのですから見て損はありません。
製作総指揮&エピソード監督としてまとめるのは、『永遠のこどもたち』『怪物はささやく』などファンタジーを得意とし、『インポッシブル』『ジュラシック・ワールド 炎の王国』などダイナミックな作品も上手く扱えるスペインの“J・A・バヨナ”。
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』は、シーズン1・シーズン2は全8話。1話あたり約60~70分と大ボリュームなので、じっくり堪能してください。とくに映像はとにかく美麗で圧倒されます。なるべく大きい画面を用意しましょう。
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』を観る前のQ&A
A:いくつか専門用語が登場しますので以下に解説しておきます。
【中つ国(なかつくに)】
この作品の舞台となる広大な地域。エルフ、ヌーメノール人、南国人、ハーフット、ドワーフなどの種族が暮らしている。
【モルゴス】
世界を荒廃させた恐ろしい冥王。敗れたがその力は今も残っている。
【サウロン】
モルゴスの強力なしもべ。姿を消したが信仰者もまだいる。
オススメ度のチェック
ひとり | :初心者でも |
友人 | :ファンタジー好き同士で |
恋人 | :一緒に鑑賞会 |
キッズ | :子どもでも見れる |
『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
エルフのガラドリエルは幼い頃、闇に沈まないように己を導いてくる光の大切さを兄から教えられました。
しかし、悪しきモルゴスが故郷ヴァリノールから光を奪い、混沌に包まれます。エルフは軍を結成。故郷を離れ、見知らぬ地へと旅立ちました。その地は「中つ国」と呼ばれていました。
この戦争は中つ国を荒廃させ、何世紀も続きます。モルゴスを倒せたものの、新たな災いが広まっていました。邪悪な種族オークが中つ国の隅々まで散らばり、モルゴスの忠実な存在の指揮下に入ったのです。それは残虐で狡猾な魔法使いサウロン。ガラドリエルの兄はサウロンに倒されます。その兄の亡骸には刻印が刻まれており…。
ガラドリエルは復讐心と共にサウロンを追うことに決めます。しかし足取りは掴めず、何世紀も経ちました。数多のエルフさえもサウロンは遠い記憶の彼方に忘れ去られていき…。
極北の荒れ地フォロドワイス。隊長のガラドリエルとその部隊は氷壁を登っていました。部下は「敵は滅んだのでは?」と発言しますが、ガラドリエルは諦めず進軍を指示。猛吹雪の中、オークがいたらしい廃墟の根城に到着。黒魔術の痕跡を感じ、兄の遺体にもあったサウロンの刻印を見つけます。
そこで雪トロルが出現。ガラドリエルの軽やかな剣さばきでトロルを撃退し、「前に進みます」と頑なに任務続行を判断します。ところが部隊は指示に従わず、やむなく帰還するしかなく…。
撤退命令に渋々従って「上(かみ)のエルフ」の都であるリンドンに戻ったガラドリエル。友人で高官のエルロンドに再会し、エルフの上級王ギル=ガラドに謁見します。ギル=ガラドは「戦いの日々は終わった」と一方的に宣言し、ガラドリエルらにヴァリノールに戻る褒賞を与えますが、ガラドリエルは全く納得できません。
一方、南方国ではエルフの部隊が駐留し、かつてモルゴスに味方した人間たちを見張っていました。ここではエルフは歓迎されておらず、緊張感が漂います。「過去の話にいつまでこだわっているんだ」と人間の若者に怒鳴られるたのは、シルヴァン・エルフの戦士アロンディル。実はアロンディルは密かにこの地の人間の治療師ブロンウィンと恋仲となっていました。
アロンディルの同僚であるメーゾルは「人間との恋は悲劇になるからやめておけ」と忠告しますが、そこに解散命令が届きます。駐屯して79年。やっと帰れるのか…。しかし、ブロンウィンの息子テオはサウロンの刻印に似た奇妙な代物を見つけていました。
船で帰る途中だったガラドリエルはやはりサウロンの存在が気になり、「分かちの海」を西に行く船から海中へと飛び降りて独断行動をとります。そして大海原で漂流するハルブランドと名乗る人間に救われます。
また、エルロンドはギル=ガラドに高名な鍛冶のケレブリンボール卿を助力するように命じられ、さらにドワーフの地へ足を運ぶことに…。
中つ国のいたるところで降り注ぐ赤い隕石。その隕石は大河アンドゥインの東の荒れ地、ロヴァニオンに落下。近くで隠れて暮らすハーフット族である、外の世界への好奇心旺盛なノーリは隕石落下地で、横たわる大男と遭遇し…。
シーズン1:サウロンを探せ!
ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』は映画『ホビット』三部作から10年以上が経過し、いかにして原作のレガシーを継承しつつ、現代の視聴者に訴求しうる作品へと進化させるか、作り手はかなり考えているのだろうなと思わせる出来栄えでした。
一番それが際立つなと思ったのが、物語の大きな軸となる対立構図です。どうしてもこの手のファンタジー世界観では、良い種族と悪い種族がいて、それがぶつかり合うのが定番。しかし、本作は一見するとエルフという善良な種族とオークという邪悪な種族、その二者の対決に思えますが、実際の物語で描かれるのはもっと複雑で、そのドラマ性が過去作と比べるとはるかに深みを増していました。
例えば、本作のヴィランはサウロンですが、サウロンはシーズン1最終話まで明らかになりません。その代わり、サウロン的な思想に共感する者たちがこの世界にはうようよと生じていることが描かれます。そのサウロン支持者には色々な種族の者たちが集っており、オークを従える「尊父」と呼ばれるアダルもエルフでしたし、南方国の人間たちはサウロンを支持するかしないかで分断してしまいます。
本作は種族が邪悪なのではなく、誰しも有害な思想に傾倒してしまう恐ろしさを持っている本質と向き合わせる。まさしく現代社会で差別主義や排外思想に染まってしまう人がいる現状と重なるでしょう。
で、肝心の「サウロン、どこ?」問題ですが、最後は南方国王の血筋を自称していたハルブランドこそサウロンだと判明する衝撃の展開が待っていました(演じるのは“チャーリー・ヴィッカース”)。このハルブランドはいかにもサウロン的な思想そのものであることは登場時から暗示されていて、それこそ血縁主義的な立場をとること自体さえも、サウロンらしいですよね。
火山灰で陽の光が消えた南方国はモルドールとなり、その地に降り立ったハルブランドことサウロン。最大の悪の出現をシーズン1かけてたっぷり描く、濃厚なヴィラン・プロローグだったと思います。
シーズン1:団結はまた今度
一方で、サウロンに対抗する側の者たちをドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』はどう描くのか。シーズン1では、団結して対抗すべきなのにまとまらない苦悩が映し出されます。
まず本作のメイン主人公であるガラドリエルのキャラがスゴイですね。「え? トム・クルーズですか?」と思うくらいにアクティブで、氷壁を登るし、海にも飛び込むし、何でもあり。しかもサウロンへの敵意は凄まじく、第6話の一大戦闘シーンでは「殺し尽くす」と口走りますから。『進撃の巨人』の主人公かよ…。周りのエルフがドン引きするのも頷けます。そんな戦闘狂であるガラドリエルを演じた“モーフィッド・クラーク”、ハマってました。ちなみに“モーフィッド・クラーク”は失読症とADHDであることを公表しているのですが、このガラドリエルもどことなく非定型発達っぽさがある感じだなと思いました。
ガラドリエルとヌーメノール艦隊の遠征によって一時は連帯が達成されたかに見えましたが、敵の策略に陥り、火山噴火で手痛すぎる絶望的な敗北を経験します(直撃しても死んでいないガラドリエルはあれはあれで強すぎだけど)。ディザスター描写があるのは“J・A・バヨナ”だからなのかな…。
そんな中、エルフではギル=ガラドが、ドワーフではドゥリン3世が…と、それぞれの種族の閉鎖性を浮き彫りにするようなリーダーシップの欠如が身内同士の連帯を妨げる様子も描かれます。先にその閉鎖的思考から脱したのはハーフットであるというのもこのシリーズらしいです。
また、それに関連して、種族を描写するにあたって対等さをだそうと作り手も意識している感じもありました。例えば、ドワーフはどうしてもこれまでは劣った種族感が滲み出ていましたが、今回はかなりドワーフの文化的な描写が丁寧で、とくにドゥリン王子の妻であるディーサの前進的な存在感もあって、シリーズ・ベストなドワーフの描き方になっている気がします(まだ全体のキャラ数が少ないのですが)。
エルフに関しては、「エルフで黒人だなんてポリコレだ!」と喚く連中は火口にでも放り込めばいいとして、アロンディルの出番がやや薄いのは気になりましたけどね。オークに奴隷にされるとかはちょっと類型的すぎる気もするし…。次シーズンの活躍に期待です。
他の先進的な作品と比べるとこの『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』はまだまだ保守的で、マイノリティな人種やクィアの活用は弱いので、ここからどう変われるか…。
視力を失って王亡き故郷へ帰還したミーリエル、強大な魔術師「イスタル」だと判明した「よそびと」と旅するハーフットのノーリ…そしてケレブリンボール卿がミスリルで生み出した3つの指輪。
プロローグとして最高の高揚感と共にスタートを切った『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』。やっぱりハイ・ファンタジーは楽しいですね。
シーズン2:リメイクの希望を捨てない
ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』のシーズン2は、昔にアダルによってやけに尖ってて凶器にしてくれと言わんばかりのデザインの「闇の王の王冠」に突き刺されてデロデロ状態になる屈辱を経て復活したサウロンの視点で開幕。ついに指輪支配を確立すべく作戦を本格決行します。
何と言ってもシーズン2最大の可哀想な目に遭うケレブリンボール卿。アンナタールとして美麗エルフ風に変身したサウロンが、鍛冶師ケレブリンボールをこれまた巧妙にマインドコントロールしていき、「力の指輪」であるドワーフの指輪と人間の指輪を作らせます。「理想的な指輪が調和をもたらしてくれるはず」と設計至上主義の完璧さを利用されるあたり、なんか生々しかった…。
結局は、アダルのオーク軍勢もサウロンの配下になって、アダルはかつての同胞に殺され、エレギオンも陥落。サウロンの手のひらの上でした。
それでも「壊されたらまた作り直せばいい」と剣を掲げて立ち上がるガラドリエル含めた生き残りのエルフたち。現在の政治情勢とこのドラマ化そのものと、それぞれでのリメイク信念が掲げられているように感じるラストです。
指輪に憑りつかれたドゥリン3世が邪悪な存在バルログと対峙して散り、ドゥリン4世王子は自分がカザド=ドゥームをまとめないといけなくなりますが、最後もドワーフの不和がチラつきます。
海の女王として無罪になったはずのミーリエルを敵視するあまり、節士派を反逆者とみなす強硬策で、ついに独裁統治にでたファラゾーンも危うい存在です。イシルドゥルも可哀想だ…。
イスタルはトム・ボンバディルという謎の男(ついに映像化!)と出会って、魔法使いの真髄を学び、最後はやっと杖を手にして「ガンダルフ」と名を改めます。役者が揃ってきました。リューンの地の闇の魔法使いとの対決が次なのか…。
ノーリとポピーはストゥアと呼ばれるハーフリングのコミュニティと旅を続けますが、こちらは他の陣営と絡むのかな…。
ちょっと陣営が多すぎてまとまるのか不安になってくるのですが、全シーズンのエンディングまで考えて製作しているでしょうし、壮大な物語の行く末に期待です。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Amazon ロードオブザリング
以上、『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』の感想でした。
The Lord of the Rings: The Rings of Power (2022) [Japanese Review] 『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』考察・評価レビュー
#エルフ #ドワーフ