日本の映画界も赤く光るか?…映画『インビテーション/不吉な招待状』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2017年1月28日
監督:カリン・クサマ
いんびてーしょん ふきつなしょうたいじょう
『インビテーション/不吉な招待状』物語 簡単紹介
『インビテーション/不吉な招待状』感想(ネタバレなし)
函館からの招待状
人間不信になりそうな映画ばかり観ていると実生活に影響がでそうなので、「みんな良い人…、みんな良い人…」と心に呪文をかけながら過ごしている…そんな今日この頃。
それでも本作『インビテーション/不吉な招待状』のように、面白い映画と聞きつければ、人間不信になるのもお構いなしに観たくなるのはしょうがない。
本作はシッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞した作品。この映画祭は主にホラー・スリラー・SFなどいわゆるサブカルっぽい位置づけのジャンル映画を評価する祭典です。過去の受賞作としては、1997年の『ガタカ』、1998年の『キューブ』、2003年の『座頭市』、2004年の『オールドボーイ』、2009年の『月に囚われた男』など、まあ、マニアが絶賛するような個性派映画ばかり。
こういう映画祭の存在はとっても大事で、なにせ大きい国際的な映画祭はジャンル映画にたいしての風当たりが厳しいですから。いつもアウェイな気分で肩身の狭い思いをしているジャンル映画諸君にとって、こんなお祭りはまさに自分らしさを全解放できるところ。無論、そこにいるのは生粋の目の肥えたオタクたちだったりするので、その鑑賞眼も容赦はしないですが、でも好きな者同士で感想を語り合えるだけでもハッピーです。
当然、『インビテーション/不吉な招待状』もそういうマニアが歓喜する映画に仕上がっています。内容としては、突然の知り合いからの好意的行動の裏には実はトンデモナイ惨劇が隠されていた…という話であり、最近だと『ザ・ギフト』を連想します。でも、『ザ・ギフト』とは話が全然違う…もっと“アッチ”方向にぶっとんでいく感じです。全然上手く言葉にできないけど、あれです、察してください(ネタバレしちゃダメな系)。
監督は“カリン・クサマ”というアメリカ・ニューヨークのブルックリン生まれの女性。なんと父親は北海道・函館出身の日本人だそうですね。自身のボクシング経験をもとに2000年に製作された『ガールファイト』というボクシング映画が長編初作品で、新人賞含む映画賞を多数受賞した人…らしい。私はこの人の作品を観るのは今回の『インビテーション/不吉な招待状』が初めてでした。 いやぁ、まだまだ知らない人がいっぱいいる、映画の世界って広くて楽しいなぁ。
本作もまたネタバレは絶対観てはいけない映画なので、気になる人は、よそ見せずNetflixで配信中ですのでGO(ただし配信は永遠には続かないので、もう終わっているかもしれません。そのときはレンタルで)。
ちなみに、劇場公開時は『インビテーション』、Netflix配信時は『不吉な招待状』という邦題となっていますが、どちらも同じものです(こういうのって本当に統一してくれないと、映画作品を整理する立場においても困るのですけどね…)。
『インビテーション/不吉な招待状』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):招待されて
ウィルは恋人のキラを助手席に乗せて、招かれた夕食会の家へと車を走らせていました。
「2年経って、突然呼び集めるなんて…」と本人はあまり乗り気ではない様子。
するとドンと何かが車に衝突します。停車し、状況を見に行くウィル。そこには息絶え絶えのコヨーテがいました。このままでは可哀想なのでトドメをさします。ホイールレンチで撲殺するウィルをキラはショックな顔を見つめるしかできません。そして動揺も冷めあらぬまま車を発進させました。
到着したのはハリウッドの高級住宅地を抜けた先にある家。エデン家は裕福で、それはもう立派なコテージのような住居です。少し圧倒されるキラ。
中へ招かれます。先客に挨拶します。ジーナ、クレア、ベン、トミー、ミゲル…。
チョイだけ遅刻しているようです。
エデンという女性とハグ。そこにデイビッドが来ます。ウィルの表情は堅いです。とりあえずチョイ抜きでパーティを始めます。高級ワインで乾杯。
さらにセイディがやってきます。共通の友達らしいです。
来る途中でコヨーテを轢いた話をすると、それぞれの反応が返ってきます。
ウィルは水を飲み、落ち着こうとします。しかし、どうしても頭に浮かべたくない光景が脳裏に舞い戻ってきます。
エデンと2人だけで話します。彼女はずいぶんと開放的になったようで、気分も良さそうです。
しかし、軽口を叩いてきたベンに対していきなりビンタするなど、行動が読めない面もあるエデン。
そんな中、プルイットという男も来訪してきて、パーティはますます人で増えます。
そしてこのパーティは普通のようで普通ではない事態へと傾き始め…。
映画界を密かに蝕む闇の正体
映画の冒頭でよくある、動物を車で轢いてしまう場面で幕を開ける『インビテーション/不吉な招待状』。私は冒頭で野生動物を轢く映画はたいてい良作だと勝手に思っているので、今回もこの時点で“これは勝ちだな”と心の中でガッツポーズしていました(なんだそれ)。
長髪男ウィルが恋人キラを乗せて運転する車が轢いたのはコヨーテ。とても助かりそうにない瀕死のコヨーテに対して、ウィルはレンチで撲殺して安楽死させます。まさにこの「安楽死」が本作のキーワードであり、ウィルたちは「飛んで火にいる夏の虫」ならぬ「飛んで車の前に出るコヨーテ」状態になっていきます。
さて『インビテーション/不吉な招待状』は、非常にゆ~~~~っくりなスリラーです。全体の上映時間は100分ですが、80分くらいまでは“事”が起きません。この構成はイマドキのどんどんノンストップで展開しまくるスリラーとは対極的。かなり人を選ぶのではないでしょうか。
スリラーは2種類あって、立て続けにドカンドカンと定期的に見せ場が起こって観客の目と耳を飽きさせないエンタメ型と、じんわりじんわりと精神力を彫刻刀で削っていくような長期戦を想定した心理型。この2種類に私は大別しますけど、本作は完全に後者。
それまで不吉なシーンは何度も挟まれますが、それよりもウィルとエデンの禍根ともいえる息子の死を乗り越えていくドラマに焦点をあてるかのような“素振り”をみせます。このままいけば、意外な感動をもたらすウェットなオチでも待っているんじゃないか、そんな期待もしたくなるじゃないですか。全然そうはさせてくれないのですけど。
それでもやっぱり絶対に変。この不吉な嫌な感じが観てるこっちも落ち着きません。エデンがおかしいのか、いやウィルがおかしいのか? そんな混乱が最終地点に到達した瞬間、惨劇。最終的には「予想を裏切る」展開というよりは「予想どおりにならないと見せかけてやっぱり予想どおりでした」展開といった様相でしたね。
最後の瀕死のエデンを見ていると、とうの昔に彼女の心は瀕死で、安楽死を求めていたのかもしれません。そして、そこに付けこむのがカルトです。
『インビテーション/不吉な招待状』の見どころはやはりラストのラスト。このラストの謎の世紀末感は、逆に突き抜けていて爽快とさえ思ってしまいました。
“あの家”での脅威が去り、ほっと一安心と外に目をやったウィルとキラの目に飛び込んできたのは、遠く暗がりの家々に不気味に光る赤いランプ。そして、叫び声、サイレン、ヘリ。
こういう主人公の想像を超えた事態が実は起こっていたとラストにスーっと見せていく映画が個人的には好き。ワールドクラスのバッドエンドといいましょうか、そこに救いもないような感じが。でも生きていくしかないという現実の残酷さも含めて、なんか、いい。
本作の舞台はハリウッドヒルズですけど、カルトの魔の手によってセレブたちは知らぬ間に侵食されている…。しかも、これは案外、フィクションともいえなくて、実際にハリウッドではカルトが流行ってきた歴史があります。詳しく知りたい人は『ゴーイング・クリア サイエントロジーと信仰という監禁』などを観てください。つまり、本作はハリウッドに巣食うカルトの闇をフィクションで描いた皮肉な映画なわけです。自分たちの業界を批判する意味もある、ハリウッド・アンダーグラウンドものですね。
「カルトって怖いね…」と思うと同時に、「あれっ、そういえば日本も最近…」なんて思うのでした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 70%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2015 THE INVITATION, LLC
以上、『インビテーション/不吉な招待状』の感想でした。
The Invitation (2015) [Japanese Review] 『インビテーション/不吉な招待状』考察・評価レビュー