このホラー映画を見終えたあなたはどんな表情になる?…映画『Smile スマイル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:パーカー・フィン
動物虐待描写(ペット) 自死・自傷描写
Smile スマイル
すまいる
『Smile スマイル』あらすじ
『Smile スマイル』感想(ネタバレなし)
2022年の顔となったホラー映画
死ぬときは幸せな気持ちで死にたい…なんて思うのも理解できます。絶望に苦しんでこの世を去るよりも、晴れやかな心で命を全うしたい、と。
でもだからと言って、微笑みながら死んでいったら、それはそれで和やかだねと美談にできなくもないのですが、やっぱり死に顔が「笑顔」というのも冷静に考えるとそれはそれで不気味じゃないか?と思わなくもない…。
そもそも死ぬときの表情なんていちいち気にしたくないし、死んだ後に他人に表情をじろじろ見られるのもなんだか気分が悪いですけどね。
もし亡くなるときの表情がオプションで選べるとしたら、やっぱり「普通に眠っているような顔」を選択する人が多いのかな…。
今回紹介する映画はそうはいきません。「死」と「笑顔」が強烈に結び付けられる禍々しいホラー映画が出現してしまいました。
それが本作『Smile スマイル』です。
『Smile スマイル』はアメリカ映画でパラマウントの配給で2022年9月に公開されたホラー映画です。監督は“パーカー・フィン”という人で、「聞いたことないな?」と思うのも当然、本作が長編映画監督デビュー作となる新人です。
なのであまり公開前の期待値は低く、著名な俳優が揃っているわけでもなかったこともあり、話題性があるようにも思えませんでした。
しかし、いざ公開されるとその低いテンションを吹っ飛ばす大盛り上がりをみせました。小規模予算のホラー映画としてはこの年トップ級の大ヒットを記録し、公開2週目も勢いが落ちず、口コミでの観客殺到が起きたことがみてとれます。2022年に最も成功したホラー映画のひとつとなりました。
なぜこんなにも話題になったのかと言えば、それはやっぱり映画の中身が面白かったからに他ならないでしょう。
『Smile スマイル』は、物語自体はシンプルです。ある日、精神科病棟で働く心理カウンセラーである主人公の前で、ひとりの患者が不気味な満面の笑顔で自殺します。それ以降、この主人公の身にゾっとするような出来事が頻発していくことに…。
笑顔で死ぬ…というのがこの作品のコンセプトにあるわけですが、正直、このコンセプトを聞いたときは私も全然関心が湧くこともなかったです。不気味な笑顔で恐怖を演出するって、いくらなんでもありきたりすぎるし、そんなの凡百のホラーが手垢つくぐらいにやっていることですからね。今さらそんなことを堂々としたってチープになるだろうし、面白いの?…と。
そして案の上やってきました。「私は愚かでした」反省会…。
実際に鑑賞してみるとこの『Smile スマイル』、話題になるのもわかるな、と。ネタバレ厳禁の内容なので詳しくは言えないのですが、話題にしたくなる刺激を的確に与えてくれるんですよ。主軸の物語がミステリー性が強くて「どうなる?どうなる?」と展開にハラハラさせてくるのですけど、鑑賞後「あれはどう思う?」と誰かと語りたくなるような…。「あそこはああだったよね」「いや、あれはないでしょう」とか喧々諤々とトークするのも楽しい、そういう鑑賞者の心を翻弄するのが上手いホラー映画なのです。
もともと劇場公開の予定はなく、テスト・スクリーニングで好評で急遽劇場公開が決まったそうですが、本当に公開して幸いでしたね。これぞ映画館に観客を呼び込んで、業界を笑顔にしてくれる作品ですよ。
ところがです。問題は日本です。『Smile スマイル』は日本では劇場未公開で配信スルーとなってしまいました。パラマウントのホラー映画としては『スクリーム』に続く、映画館からのドロップアウトです。どちらも本国では話題沸騰なのに…。
パラマウントの映画は日本では「東和ピクチャーズ」が配給しており、ホラー映画には全然関心ないのかと残念でならないですが、全体的に日本映画界の大手は海外のホラー映画に冷たいです。有名な俳優がでているとか、国内的なネームバリューとか、それでしか判断していないのが丸わかりで…。これ、すごく商業的にもったいないことをしていると思いますよ。ホラーというジャンルほど今の時代と相性がよくて、宣伝しだいでいくらでバズるコンテンツもそうないのになぁ…。
ぜひホラー映画ファンに限らず、幅広い映画好きの人も、2022年のホラー映画の顔となった『Smile スマイル』を観てみてください。
一応、注意として、本作は家族や死に関連するトラウマを煽るような演出が多分に含まれます。また、ペットの死に関する演出もあります。その点は留意してください。
『Smile スマイル』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ホラー好きは必見 |
友人 | :語りたくなる |
恋人 | :怖さを一緒に共有 |
キッズ | :残酷な描写多め |
『Smile スマイル』予告動画
『Smile スマイル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):あなたの傍に笑顔がある
あるひとりの大人の女性がベッドの上に横向きに倒れています。床は散らかっており、部屋は汚いです。そこには家族の写真のほか、無数の錠剤が…。その部屋の入り口に立って、母の無惨な姿を見つめているのはひとりの少女…。
ローズ・コッターは過去を一瞬思い出していました。精神科病棟で心理カウンセラーとして勤務しているローズはすぐに仕事に戻ります。患者のカールという男と面談。この男は「みんな死ぬ」と早口で呟きまくっており、ローズは優しく隣で声をかけ、「死ぬなんてことはない」と言い聞かせます。とりあえずこのカールをこの病院に数日中は監視すると決めます。
上司に働きづめだろうと言われ、一旦帰ることにしたローズ。しかし、部屋を出た後にオフィスの電話が鳴り、思わずその電話をとってしまいます。
緊急の患者が運び込まれてきました。若い女性でローラという名だそうです。なんでも自分の教授が自殺するのを見た経験があるとか。カウンセリング部屋に行くと、部屋の隅で怯えて立っていました。
とにかく座らせると「私は学問を学んでいるし、精神がおかしいわけじゃない」とローラは必死です。加えて、「上手く説明できないけど、人のようで人のようでないものが見える」「いろんな人の姿をすることもある」「人の顔の仮面のようなものを被っている感じ」と言葉を絞り出します。そして“それ”は自分にスマイルを向けるそうで、最悪の笑顔と形容し、あんな怖い思いをしたことはないと言います。幻覚じゃなくて現実であり、支配されてしまうのだと伝えようとしますが、カウンセラーとしての見解を述べるローズの言葉に、なぜ理解してくれないのかと絶望している様子。
するとローズを見つめた瞬間に絶叫して後ろにひっくり返り、悶え苦しみ始めます。急いで緊急の助けを電話で呼ぶローズ。
ふと振り返るとローラがなぜか笑みを浮かべて立っています。そして割れた花瓶の破片で自分の顔をえぐって傷つけ、血が大量に流れても笑顔を崩さず、ゆっくり倒れるのでした。ローズはその笑顔のまま横たわって絶命したローラを茫然と見つめるしかできず…。
2人の刑事から事情聴取されるローズ。刑事はローラは狂っていたのだろうとあっけなく判断します。
帰宅し、猫に撫で、シャワーに入り、暗い部屋でゆっくり佇みます。何かいるような気配を感じますが、婚約者のトレバーに声をかけられ、何でもないふりをします。
今夜はディナーで、ローズの姉ホリーとその夫グレッグとレストランで食事です。しかし、全く心ここにあらずなローズは、ホリーの息子の誕生日の日に仕事を入れており、「勤務医じゃなくて開業すれば」「実家を売ればいい」と言われ、「それはできない」と大声で反論してしまいます。
また仕事場の病院。自分の部屋の窓から人がこっちを向いて立っているのが見えます。また、病室でカールが笑みを浮かべて座っており、反応なしと思いきや、「みんな死ぬ」と今度は笑顔で叫び出しました。
これはローズに起きる異変の始まりにすぎず…。
どこまでも追い詰めるエグさ
ここから『Smile スマイル』のネタバレありの感想本文です。
『Smile スマイル』は、私の印象としては『イット・フォローズ』と“黒沢清”監督の『CURE』の2作の掛け算というか、それらをあまりアーティスティックに寄せずに大衆向けにアレンジし直した感じだったかなと思いました。
物語の基本構造はオーソドックスで、主人公であるローズが怪奇現象とも言える「笑顔の“それ”」に付きまとわれ、精神的に追い詰められ、孤立していきます。誰に必死に訴えようとも信じてくれず、上司、恩師、婚約者、姉など親しい人から次々と距離をとられていく姿は可哀想です。でもこの孤立していく主人公も、このジャンルなら定番で、これ自体は新しくもないです。
この映画は“新しさ”という点ではそれほど際立ったものはなく、むしろ既存のジャンルにありがちだった展開や演出を、非常に的確に再構築して再表現するのが巧みな作品なんじゃないでしょうか。
とくにローズのあの追い詰められていくさまの描き方は見事で、ローズ自身も極端にたくましいヒーロー的なキャラでもなく、一方で極端に弱々しいキャラでもない、あの普通の人間(でも心理カウンセラーなのである程度は専門性を有するはずの人間)が追い詰められるからこそ、観ているこっちも不安が増幅してきます。
ローズを演じた“ソシー・ベーコン”の演技が抜群でしたね。ドラマ『思うままの世界』に続いて、良い演技する俳優だなと実感。ちなみに“ソシー・ベーコン”はあの“ケヴィン・ベーコン”の娘であり、本作でも恐怖に怯える表情の中にチラっと父親の面影があったな…。
異常者扱いで孤立する中、やっと協力者になってくれそうな元恋人のジョエルとこの「自殺を見た人がまたおかしくなって自殺する」(厳密には自殺ではないのだけど)という連鎖現象を解明する中、唯一の生き残りから「他者を殺すことで誰かに呪いを擦り付けて連鎖から外れることができる」とのショッキングな事実を教えられます。こうやって畳みかけていくのがこの『Smile スマイル』の手口。
終盤の実家でのパートも畳みかけがエグイです。「あ、これで解放されたんだ」と安心させてからの奈落の底に落とす。そして待ち受けるのは、この世界観においての最低最悪のバッドエンドで…。なんだろう、ここまで突っ切ってやり遂げるならこれもこれで良し!という清々しさですよ。
人を信じるのも信じないのも怖い
『Smile スマイル』はミステリアスな怪奇現象が作品の動力源ですが、物語としては「他人は都合よく信用してくれない。たまに信用してくれる人が現れてもそれは最悪の結果を生む」という、残酷な現実を突きつける寓話でした。
思えばあのローズも「助けを求める母」を子どもの頃に信用しきれずに見殺しにしてしまったことを悔いています。
現在のローズの職業はその贖罪なのかもしれませんが、しかし「信用する」とは違う、あくまで業務的な接し方に徹しているだけとも言えます。あのカールだって「みんな死ぬ」と狂気に憑りつかれたように言っていましたけど、あの「自殺連鎖」現象が確実に世界に蔓延すれば人類は破滅しますから、カールはもしかしたら未来予知できているのかもしれません。そうするとカールは狂っているのではなく、ちゃんと危険性を訴えているだけなのかも…。
ここでもやはりローズは他人を信じない。いや、人間というのは“怖さ”から他者を信用しきらないようにするのが本能的な振る舞いなのか…。
でもジョエルだけは信じて、実家まで助けに現れ、結局この連鎖を受け継いでしまうのですけどね。信じたら信じたで報われない結果が待つなんて、どうしたらいいんだよ、“パーカー・フィン”監督…。
『Smile スマイル』は、人を信じるのも信じないのも怖くなってくる…そんな映画でしたが、これも現代社会なら日々痛感できることなんじゃないかな。
他にも『Smile スマイル』は細かな演出も随所で良かったです。
あの序盤でオフィスにかかってきた電話(ローラの対応を要請するもの)をとらなければ、ローズの悲劇は始まらなかったのに、わずかなタイミングで電話にでてしまった…あの嫌な描き方とか。
ところどころで、笑顔のアイテムがさりげなく映し出される、これまた嫌~な演出とか。こうなってくるとあらゆる笑顔が不吉の予兆であり、皮肉に見えてきますが…。
ジャンプスケアに関しては本作はお約束的な使い方をしている感じでしたが、この演出は結構好みがあるのであれですが、本作のジャンプスケアはジャンプスケアとして王道に使いこなしたものだと少なくとも私は思ったかな。それだけに頼らずにきっちり主人公の精神的疲弊を巧みに描いているので、このドッキリ演出はむしろ「普通のホラーだ…」と少し安堵できる面も…。心理的に追い込まれるシーンの方が胃がひりひりしますからね…。
そして最後に“それ”を映像として見せてしまうのも賛否分かれそうですが、私はこのジャンルなら何かしらの視覚的にギョっとするものを最後に見たい派なので、本作のあのラストの“口ぐぱぁー!”のシーンは好きです。
ともあれ、“パーカー・フィン”監督という新しいホラー映画界の才能が登場したことで、ホラー映画ファンを笑顔にしてくれそうな楽しみが増えましたね。『Smile スマイル』の続編の可能性も無いわけではないようですが、“パーカー・フィン”監督なら何かやってくれるでしょう。とびっきりの笑顔で…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 77%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』
・『バーバリアン』
・『フレッシュ』
作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures
以上、『Smile スマイル』の感想でした。
Smile (2022) [Japanese Review] 『Smile スマイル』考察・評価レビュー