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ドラマ『ガンニバル』感想(ネタバレ)…Disney+による全国の後藤さんに対する風評被害

ガンニバル

全国の後藤さんに対する風評被害だけれども…「Disney+」ドラマシリーズ『ガンニバル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Gannibal
製作国:日本(2022年~)
シーズン1:2022年にDisney+で配信
監督:片山慎三、川井隼人
性暴力描写 セクハラ描写 DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写 ゴア描写 性描写

ガンニバル

がんにばる
ガンニバル

『ガンニバル』あらすじ

阿川大悟は山間の村「供花村」に駐在として赴任することになり、妻と幼い娘と一緒に移り住んでくる。ここは人口も少なく、みんなが顔見知りになるような小さな世界だった。しかし、錯乱して失踪したという前任の駐在が残した「この村の人間は人を喰ってる」という不気味な言葉が大悟に疑念を抱かせる。閉鎖的な村社会で起きる違和感。一体この村にはどんな底知れぬ秘密が隠されているのだろうか…。

『ガンニバル』感想(ネタバレなし)

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後藤家の食卓(人間っておいしいな)

昔、「伊東家の食卓」というテレビ番組がありました。1997年から2007年の長期間にわたって放送された日本テレビ系列の情報バラエティ番組で、高視聴率を記録し、お茶の間で知れ渡っていました。私はテレビを見ない人間ですが、タイトルくらいはそんな私でも知っているくらい、一種の社会に浸透した番組になっていました。

なぜ「伊東家」なのかといえば、俳優でもある“伊東四朗”の冠番組だったからなのですが、この番組名があまりに認知されてしまったゆえに、日本全国の「伊東」もしくは「伊藤」さんはちょっと揶揄われやすい立ち位置になってしまった面もあったでしょう。そういうことって稀に起きますよね。

そして2023年は今度は「後藤」さんがそのターゲットにされそうです。

そんな作品が本作『ガンニバル』

本作はとある日本の田舎の集落に引っ越してきた駐在の男のその家族である妻&娘が、ある奇妙な事件に巻き込まれていく姿を描くスリラーサスペンスです。原作は“二宮正明”による漫画で、「週刊漫画ゴラク」で2018年から2021年まで連載されたもの。かなり手の早い映像化となりましたが、今回はドラマシリーズとしてたっぷり描かれます。

で、その物語内で舞台となる村で絶大な力を持っている家系が「後藤家」であり、作中で何度もくどいくらいに「後藤」の名が繰り返されます。もう「後藤」のネームバリューはだだ下がりですよ。

なにせ本作は、これはもう宣伝でも隠してないので書いてしまいますけど、食人…いわゆる「カニバリズム」を題材にしているのですから。ショッキングな題材で、なおかつこうも「後藤」が連呼されたら、きっと全国の「後藤」さんはネタにされてしまっている人もいるだろうな…。

この『ガンニバル』というドラマシリーズを制作&独占配信したのが「Disney+(ディズニープラス)」だというのも少し意外に思われるかもしれません。しかし、実は『ドライブ・マイ・カー』を成功させて世界的に有名になったプロデューサーの“山本晃久”は「ウォルト・ディズニー・ジャパン」に転職しており、そこで「Disney+」独占の日本ドラマの製作を手掛けるようになっていたんですね。

すでにいくつか製作して配信されていますが、今回の『ガンニバル』は「Disney+」オリジナルの日本ドラマの中では一番話題を集めたのではないでしょうか。ビジュアルからしてセンセーショナルな題材のものはやっぱりバズりやすい傾向はあります。

でもカニバリズムを題材にした作品、これ以外でも海外作品でも「Disney+」でわりと2022年は配信されていたんですよね。案外とカニバリズムが揃ってる「Disney+」なんです。

とは言え、ドラマ『ガンニバル』の話題性は日本での局所的なもので、さすがに海外ではそんなに注目されていません(アメリカでは「Hulu」配信)。というかアメリカ本国では2021年に『イエロージャケッツ』というカニバリズムなドラマシリーズがバイラルヒットしたのですでに先手をとられている感じかな。『ガンニバル』にハマった人は『イエロージャケッツ』も好みだと思うので、ぜひそちらも視聴してみてください(Disney+じゃないけど)。

とりあえず今は『ガンニバル』の話。このドラマ『ガンニバル』は日本製作なので低予算ではあるのですが、かなり上質に作られており、見ごたえはじゅうぶんです。

監督はあの“ポン・ジュノ”監督作の『TOKYO!』や『母なる証明』で助監督経験を経て、2019年の『岬の兄妹』で監督デビューした“片山慎三”。長編2作目で初の商業映画監督作となった2022年の『さがす』も一部の映画ファンの間で注目を集めました。

その作家性は日本の業界の中では異質な輝きで、それがこの『ガンニバル』という作品と非常に合っており、良い相乗効果を発揮できているのではないでしょうか。

脚本は『ドライブ・マイ・カー』の“大江崇允”です。

俳優陣は、主人公を熱演するのは“柳楽優弥”。今作はこれまた“柳楽優弥”だからこその存在感のなせる技が炸裂しまくっており、“柳楽優弥”を食べ尽くせるドラマになっています。

共演は、『見えない目撃者』『ハケンアニメ!』の“吉岡里帆”、『リング・ワンダリング』の“笠松将”、『半世界』の“杉田雷麟”、『護られなかった者たちへ』の“倍賞美津子”、『ウェディング・ハイ』の“六角精児”、『向田理髪店』の“田中俊介”、『孤狼の血 LEVEL2』の“中村梅雀”、ドラマ『魔法のリノベ』の“北香那”、『前田建設ファンタジー営業部』の“高杉真宙”など。

本作、限界集落が舞台なわりにはものすごく登場人物が多いので、なかなか最初は圧倒されますよ…。

ドラマ『ガンニバル』はシーズン1は全7話(1話あたり約30~70分)。ミステリーでぐいぐい引っ張っていくので第1話を再生すれば一気見したくなるでしょう。

なお、児童性犯罪の描写があるので、そのあたりは留意してください。

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『ガンニバル』を観る前のQ&A

✔『ガンニバル』の見どころ
★ミステリアスで不気味な物語に目が離せない。
★真意が読めない登場人物に翻弄される。
✔『ガンニバル』の欠点
☆児童性犯罪やDV描写があるので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:スリルを味わうなら
友人 4.0:一緒に食べよう
恋人 3.5:ジャンルが好きなら
キッズ 1.0:小さい子には不向き
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ガンニバル』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):人間を食っているんだよ!

ひとりの駐在所の警官がある家の敷地に入り、「開けろ!」と怒鳴ります。いらついたように敷地をウロウロし「でてこいよ!」と喚くも、人の気配はあっても誰も家からでてきません。「全部知ってるぞ、あんたら人間を食っている。認めろよ!」…拳銃を上空にぶっぱなす駐在。しかし、その首に鎌が迫り…。

山間を走る1台の車。運転しているのは、阿川大悟。妻の有希と娘のましろも一緒です。後部座席のましろは無表情で何も喋りません。橋を渡ると供花村(くげむら)という限界集落に到着。ここが今日からの暮らしの場です。

引っ越す家はもう村人が集まって準備してくれていました。「新しい駐在さんか?」「阿川大悟です。妻の有希と娘のましろです」…そう挨拶すると、みんな温かく迎えてくれます。

落ち着いた後、家の中に箱があるのに気づき、おそらく狩野という前の駐在の忘れ物だと察します。その駐在の男と妻と娘と思われる家族写真もありました。なんでもギャンブルで失踪したらしいです。

翌朝、制服を着た大悟はぞろぞろと住人に村を練り歩いて案内されます。野菜もたくさんくれ、ここで一番大きい工場に招かれます。林業でこの村は回っているそうです。

駐在所で談笑していると、長髪の後藤恵介という男が「うちの山で死体が見つかった」と慌てて駆け込んできます。山では猟銃を持った人たちが立ち尽くしていました。そこにあったのは無惨な死体。身元は後藤家の当主である後藤銀という高齢女性のもので「クマの仕業じゃ」と周囲の者はいいます。

しかし、阿川大悟は散乱していたちぎれた腕を見つめ、クマとは違う痕跡に気づき、誰かが噛んだような可能性を指摘。けれども「俺らが虐待したとでも?」と全員が銃を向けてきたので、とりあえず両手を上げ、謝ってこの場をおさめます。冗談だとみんな笑います。

阿川大悟は夜はクマ狩りの決起集会に参加しないといけなくなり、「ましろのためにこの村に来たのに」と有希は不機嫌です。

ひとり残った有希は家の柱に「ニゲロ」と刻まれた文字を見つけます。しかし、それ以上に困った事態が発生。ましろがいません。外を必死に探す有希。

その頃、ましろは夜の森で不気味な老人と遭遇していました。

ましろは無事に見つかり、大悟も帰宅。ところが、ましろの差し出したお菓子の箱の中に人の指が入っているのに気づきます。

翌日、みんなが集まり、狩りへ。村長の後藤清の長話に付き合わずに山へ入ると、大悟めがけて熊が突進して襲ってきますが、なんとかクマを仕留めます。

男たちはクマの胃を切り開き、中から眼鏡の一部を発見。後藤家の猟師たちは手を合わせ、クマの肉の一部を切り取り、食い始めます。大悟にも肉片を渡し、「こいつを食うことでばあちゃんは血と肉となってわしらの中で生き続ける」と言いますが…。

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「わしはやらにゃいけんのじゃ」

作品でカニバリズムが題材になっていると、そのカニバリズムは何かの暗喩だったりします。例えば、『フレッシュ』では女性を支配する男性的なパワーが示唆されていましたし、一方で『イエロージャケッツ』では抑圧されてきた女性たちが極限環境下で発露した禍々しいほどのパワーであったり…。

ドラマ『ガンニバル』のカニバリズムは何かといえば、これはもう超わかりやすい話で、日本の「村」という環境に象徴される閉鎖的な社会です。

日本は2020年代になってもなお非常に封建的社会が残存しており、家長を絶対主とする規律があり、従属と調和を優先し、主流の社会に逆らうことは許されません。それは地方の村だけでなく、国全体がそうだと言えます。2023年2月には、岸田首相は同性結婚を「社会が変わってしまう」という理由で慎重姿勢を崩さず、男性だけで構成される秘書官のひとりがぽろっと差別発言をこぼす事件がありました。その秘書官は更迭されたものの、あれは個人の失態ではなく、明らかに組織体質の問題でした。「この社会は異性愛を前提にすべきだ」という規律があり、それは不動なのです。行き過ぎた奴を処罰することはあっても、この体質を変える気は全くありません。

『ガンニバル』では後藤家が供花村を支配してきました。村人は一見すると平和に生活を営んでいますが、その後藤家には一切逆らえず沈黙します。実は密かな監視社会があり、山口さぶが村人の管理の中心にいるかのように描かれてもいました。

後藤家内部も表面上は礼儀を重んじているように見受けられます。後藤睦夫のような突出して過激な行動をとる同族の人間を仲間でないと切り捨て、調子に乗った行動をとった後藤龍二に制裁を加える。でもこれもまた後藤家の支配性の証です。ヤクザ的とも言える組織運営ですね。

自由へと旅立つ大胆な行動に出た母の後藤藍を子ども時代にかばった後藤恵介もこの脈々と続く体質に疑問を感じているだろうし、その弟の後藤洋介や、来乃神神社次期神主の神山宗近と、このしきたりを辞めようと模索する者もいる。でもやめられない、この底なしの社会の鎖の頑丈さ…。

それにしても猟師の数が尋常じゃないですよ。日本ってハンターの少子高齢化が著しいのに、あの村だけ異様に狩猟者が密集している…。

『ガンニバル』はこの不気味さをじっくり描いており、“片山慎三”監督を始めとする作り手が低予算ながらも上質に仕上げるのが上手いので、魅入ってしまいます。ヤクザ作品と違って予想がつきやすい型がないこともあって、終始「一体何なんだ…」という得体の知れなさだけが漂う…。

カニバリズムそのもののディテールよりも、この村は、そして後藤家は、この慣習を何が何でも維持するということに固執している…その怖さが生々しく描写されています。その強迫観念的な執念がまさに世界的に見てもすっかり異質化してしまった今の日本社会の正体なのでしょう。

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異様な者同士のモンスター対決

『ガンニバル』が面白いのはこの阿川大悟という主人公で、普通はこんな狂気の村に迷い込んだら、非道な実態に戦慄し、ギャーギャーと泣き叫んで恐怖し、しだいに自身さえもおかしくなっていきそうなもの。でもこの阿川大悟は違います。全くびびらないんですね。

異様なコミュニティに立ち入るもあまりびびらない主人公を描いた作品と言うと『ミッドサマー』を思い出しますが、そっちの主人公は不幸な出来事で心が麻痺している女性でした(本作のましろに通じるものがある)。一方で、『ガンニバル』の阿川大悟という男の芯にあるのは、村や後藤家とは別方向で異なる常軌を逸した正義への達成感。それは有希から「あんたさぁなんか楽しそうじゃない?」と指摘されるとおり、阿川大悟の中では不謹慎なくらいに楽しさへと昇華されてもいる。

このこちらも終始「一体何なんだ…」という得体の知れなさを全身から発する阿川大悟だからこそ、「異様(大悟)vs 異様(後藤家)」の戦いで全く予想がつかなくなってスリル満点になるという…。

なので本作を観ていても典型的なホラーみたいに視聴者を怖がらせる感じではないですよね。むしろモンスター同士がぶつかり合うバトルを観戦している気分です。大悟も無鉄砲なだけでなく、ちゃんと作戦を考えて捜査しているのがいいですね。

大悟の妻である阿川有希についても、乱暴な口調だったりするあたりがいかにも“片山慎三”監督っぽいですが、まだちょっと良妻賢母なステレオタイプが残存しているのでそこはあれかな…。ストーカー被害から救ってくれた大悟を慕うとか、娘を守ることを優先するとか、ベタすぎますしね。ここで有希のキャラクターも常軌を逸した素質を見せてくれたら、さらにスリル増し増しで楽しいんですけど。

女性で得体のしれないスリルを感じるという点では狩野すみれの方が面白かったかも。彼女は後藤恵介の子をお腹に宿していると連絡してきてまた戻ってきましたが、どうなるやら…。

匿われている有希&ましろのもとに後藤家の者が出現する一方で、大悟は単身で子どもが監禁されている秘密の檻の場所に向かうも、そこで「あの人」に襲撃され…。この続きは当然気になる、直球なクリフハンガーでシーズン1の最終話は終了。

ジャンルがジャンルなだけにあらゆる全方向を悪魔化し、スティグマをばらまきまくるのは多少は致し方ないのですが(でもオカルトサイト運営の宇多田学がゲイとして描かれても偏見的な描写にしないあたり、どこまでが良くて悪いのかの線はわかっているのでしょう)、シリアス度が強いのでユーモアは減退しているのはやや残念だったかな。“片山慎三”監督が脚本していたらもっと「笑っていいのか困惑する」シーンが増えていただろうな…。

それでもこのクオリティでこのジャンルが日本でドラマ化しているのは稀有です。テレビ放送ではできない配信ならではの挑戦でしょう。このまま『ガンニバル』は日本の『ウォーキング・デッド』になるといいですけど…。

『ガンニバル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Disney

以上、『ガンニバル』の感想でした。

Gannibal (2022) [Japanese Review] 『ガンニバル』考察・評価レビュー