3作目はクリスマス・アートをどうぞ…映画『テリファー3 聖夜の悪夢』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年11月29日
監督:ダミアン・レオーネ
ゴア描写 性描写 恋愛描写
てりふぁー せいやのあくむ
『テリファー 聖夜の悪夢』物語 簡単紹介
『テリファー 聖夜の悪夢』感想(ネタバレなし)
テリファーの降誕(3度目)
イエス・キリストの誕生なんて大半の人は誰も気にしていないのではないかというくらいに商業化されたクリスマス・シーズンが2024年もやってきました。
大切な人、もしくは自分にクリスマス・プレゼントを何か買う予定ですか?
そうですね…最近は何かと物騒だから防犯グッズでも…。まあ、クリスマス・プレゼントに防犯グッズを選ぶ人はあまりいないでしょうね。全くファミリーな温かさもないし、ロマンチックなトキメキもゼロだし、幸せな楽しさも皆無ですから。
でもとくに家の侵入防止の防犯は見直すのも大切。サンタクロースなんて家に入ってきません(断言)。無断で入ってくるのはたいていは良からぬ悪い奴らです。
しかし、今回紹介する映画の侵入者には、玄関の鍵を厳重にしようとも、窓ガラスを割られないように対策しようとも、セキュリティカメラやセンサーライトを家の外に設置しようとも、一切意味はありません。まるで効果がありません。どこぞの防犯専門家でもお手上げです。
それが本作『テリファー 聖夜の悪夢』です。
『テリファー』シリーズは、キャリアもほぼなかった“デイミアン・レオーネ”が監督・脚本・製作・編集をやって自力で創り上げたスラッシャー映画です。内容はシンプル。凶悪で神出鬼没の「アート・ザ・クラウン」というピエロのような殺人鬼が人々を殺しまくります。
見どころは、猟奇的で嗜虐的なスナッフ・フィルムのような凄まじい残酷描写。ゴアの極みで、これでもかと目に焼き付けられます。ゴア造形に精通した“デイミアン・レオーネ”のこだわりぬいた殺戮描写はまさにわかる人にはわかるアート(芸術)です。
2016年の1作目となる『テリファー』、2022年の2作目の『テリファー 終わらない惨劇』と続き、ついに第3作目となった本作『テリファー 聖夜の悪夢』。
3作目では製作費が増大しました。2作目が25万ドルだったのに対し、今作の3作目は200万ドルに。これでもハリウッドの業界の標準としては圧倒的に低い製作費なのですが、よくある低予算ホラーの部類にようやくプロジェクト規模が到達した感じ。ちゃんと3作目は6300万ドル以上の興行収入をあげているので(こちらも2作目から一気に増えた)、知名度が定着して人気タイトルに成熟したのでしょう。
製作費の約8倍の増加によって、今までは“デイミアン・レオーネ”がゴア造形も手がけていたのが、今作で別の特殊効果職人を雇え、全部自分でやる必要はなくなったそうです。これまで監督・脚本・製作・編集・造形などを自力でやっていたのが凄いですけど、さすがに限界ですよね…。
ということで今回の『テリファー 聖夜の悪夢』もグログロなバイオレンスは2作目以上に充実しています。3作目もアメリカ本国ではレーティング未審査で(日本では「R18+」)、やりたい放題にやってます。大手スタジオにはまず無理なゴア表象ですからね(アメリカでの配給はホラーに強い「Cineverse」)。
当然、苦手な人はショッキングすぎて目を背けるでしょうけども、私なんかは制作の大変さのエピソードばかり知ってしまっているので「ああ、この身体破壊シーンを作るのにどれだけ労力かかってるんだろ…」みたいなことを考えてしまう…。
3作目となる今作は『テリファー 聖夜の悪夢』という邦題でわかると思いますが、クリスマスの時期を舞台にしたクリスマス・スラッシャーになってます。何をするのかなんとなく想像がつきますが、ええ、そのとおりです。良い子も悪い子も関係なし。最悪のプレゼントをお届けします。
クリスマス映画にこの『テリファー 聖夜の悪夢』をチョイスするとだいぶ他人に嫌われるリスクがありますが、それでもいいならぜひ血塗れになってください。
アート・ザ・クラウンの等身大ポスターとか窓に張り付けていたら、侵入者除けの防犯になりそうだな…。でも通報されるかもしれないけど…。
『テリファー 聖夜の悪夢』を観る前のQ&A
A:2作目の『テリファー 終わらない惨劇』の鑑賞を推奨します。前作のラストの直後から描かれます。
鑑賞の案内チェック
基本 | 生々しく残酷な殺人・拷問描写が多いです。とくに小さい子どもが殺される描写があります。 |
キッズ | 子どもは観れません。 |
『テリファー 聖夜の悪夢』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
深夜、クリスマスの装飾で華やかにデコレーションされた家。静まり返った室内。寝ている夫婦の部屋に幼い子どもがフラっと入ってきます。屋根に誰かいると言うのです。しかし、音なんて何も聞こえません。母親は子どもを寝かしつけようとします。でも「サンタだよ」と子どもは譲りません。
クッキーとミルクを用意するという伝統的なことをして、寝室に戻ろうとしますが、違和感に気づきます。玄関ドアをちゃんと閉めていなかっただろうか…。夫は気にもせずに寝ています。
その後、やはり寝れなかった子どもはひとり1階に降ります。誰かいる…。サンタだとワクワクしながら観察します。サンタの衣装の人物がクリスマスツリーの前に立っています。
するとそのサンタは袋から斧を取り出します。2階に上がっていくのを子どもは隠れて様子を見守ります。別の子ども部屋に入った後にグチャっと音が聞こえ、そのサンタはさらに夫婦の寝室へ…。
夫の男に斧を何度も降り降ろし、妻は起きますがそこには見るも無残な死体が…。悲鳴と共に逃げる女性。子どものひとりはバラバラでした。もうひとりは見当たりません。玄関まで逃げるも背中と腹を斧で抉られ、腕を切断され、最後は頭部の一撃で血を吐いて絶命する女性…。
そしてサンタの気分のアート・ザ・クラウンは美味しくクッキーとミルクをいただきます。皿も洗って帰ろうとすると、戸棚に子どもが隠れているのを発見。愛想よく手を振ってあげて…。
5年前。通報を受けた警官は首の無い死体を発見。奇妙な格好をしています。切断されたのか…。しかし、背後からその首なし死体に襲われます。
首なしのアート・ザ・クラウンは警官の首を手でおさえて首元に乗せ、電車に乗り込んで病院へと向かいます。
病院ではヴィクトリア・ヘイズがアート・ザ・クラウンの首を出産し、看護師を食べているところでした。そこへ首なしのアート・ザ・クラウンが合流。一緒に警備員の皮を剥ぐように惨殺します。
2人で仲良くまた電車に乗って、後からたまたま乗り込んだハロウィンのピエロの格好をした人が仮装を褒めてくれます。
廃屋に辿り着いた2人はそこで時が止まったかのように佇むだけ…。
現在、シエナ・ショーはメンタルクリニックを退院したところです。叔母のジェスの夫のグレッグが迎えに来てくれます。家に着くと2人の娘のギャビーが元気にお出迎えしてくれ、ジェスも優しくハグ。
シエナはあの5年前の惨劇を忘れて新しい人生を歩もうとしていました。ギャビーは知らない…あのアート・ザ・クラウンの恐怖を…。
なるべく平穏に過ごそうとしますが、シエナは亡くなった親友の死の幻覚を頻繁にみるほどに、まだ心はあの過去に囚われていました。
今は大学に通い人生を歩もうとしている弟のジョナサンも、あの5年前の惨劇のせいで姉のシエナとの関係には距離ができてしまっていました。
そんな中、アート・ザ・クラウンは目覚めます…。
子どもへの配慮が行き届いた作品です
ここから『テリファー 聖夜の悪夢』のネタバレありの感想本文です。
アート・ザ・クラウンさんは3作目も元気です。前作の衝撃的すぎるにもほどがあるエンディングからどうやって繋がるのかと思ったら、本当に体と首を繋げやがった…。
ひとまず最初は前菜ということで、『テリファー 聖夜の悪夢』の冒頭は、とある全然無関係の一家がクリスマス時期に惨劇を体験する映像をお届けしてくれます。
今作ではクリスマスが舞台なせいか、子どもが殺されやすい気がします。しかし、“デイミアン・レオーネ”監督にも慈悲の心があるようで、「子どもが殺されていく直接的な描写はしない」という尊い信条が本作には一貫されています(Variety)。
確かにあの冒頭の一家惨殺事件でも、子ども部屋に入ったアート・ザ・クラウンのシーンでは音しか聞こえません。ショッピングモールでの手作り爆弾プレゼントのサプライズでもそうです。基本的にアート・ザ・クラウンはいたぶりながら殺すのがマナーですが、子どもをじわじわといたぶってはいません。ひとおもいに殺してあげています。優しいですね。
まあ、そうは言っても、小さい子どもが死んでいることには変わりないですし、子どもの見るも無残な死体もいっぱい映るので、たいていの人はこの映画が「子どもに配慮された作品」とは受け取らないでしょうけども。アート・ザ・クラウンの気遣いはなかなか理解されないものです…。
最近も某ジョーカーさんとか、「残酷で狂気に満ちた存在」を自称・他称するような人たちでも、どんなに威勢よく表向きは残忍なことをしてみせても子どもを殺さなかったりしますからね。ちゃんと大手スタジオの倫理に従順なのです。悪ぶってはいるけど、企業の社畜じゃないですか。
それと比べてアート・ザ・クラウンは、正真正銘の「残酷で狂気に満ちた存在」を体現しながら自分なりの「子どもへの配慮」をみせていますから、筋の通ったアーティストだと思います。
その代わり、大人には遠慮しません。大人ですからね。社会の荒波にもまれた大人ならきっと大丈夫、耐えられるに違いないとアート・ザ・クラウンさんは信じてくれています。
バーで悪態をつくサンタクロース格好のおじさんを嘲笑って殺すシーンが、一番ギャグとして完成されていたかな。相変わらずの躊躇ない銃殺スタイルと、クリスマスらしい趣向を大切にする職人芸。どこの誰よりもクリスマスという商業化した文化の軽薄さをよく熟知していらっしゃいました。
最も血を盛大にサービスしてくれるのは、シャワー室でのイチャイチャのカップルの惨殺シーン。冒頭のクリスマス・ファミリー皆殺し事件でも『シャイニング』のパロディをやっていましたが、このシャワーでは『サイコ』です。
しかし、アート・ザ・クラウンは武器にチェーンソーを選択するというオーバーキルな過剰脚色をしました。ケツにぶっ刺した後に股から切断して断面をみせてあげる所作には、おそらくポルノ漫画とかでよく見かける性器断面図を生で映してあげたいという、アート・ザ・クラウンさんなりのこれまた気の利いた視聴者サポートなのでしょうね。うん…。
ネズミも頑張りました
私の個人的に『テリファー 聖夜の悪夢』で一番に残酷だなと思ったシーンは、終盤のネズミをチューブで口から送り込んで殺す場面ですね。こんな仕掛け、あの創意工夫の拷問トラップ考案のスペシャリストであるジグソウさんでもなかなか思いつきませんよ。
あれはアート・ザ・クラウンを演じた“デイヴィッド・ハワード・ソーントン”もかなり気色悪かったそうで、最も耐えられないシーンだったとインタビューでも語っていました。
よりにもよって今作のアート・ザ・クラウンのマスクは新調されており、今までよりも表情をだしやすくなっているらしいので、“デイヴィッド・ハワード・ソーントン”も必死に頑張って嗜虐を喜んでいる顔をカメラの前で作っていたんだろうなと思うと、この映画で最も酷い目に遭っている被害者は“デイヴィッド・ハワード・ソーントン”な気がしてきた…。
こんな残酷極まりない本作でもちゃんと「American Humane」の認証を受けており、撮影中に使用した動物は一切傷もないし、ストレスもかからないようになっています。
ちなみに「American Humane」の『テリファー 聖夜の悪夢』に関する認証の説明ページをみると、ネズミがどう撮影で仕事をしたのかよくわかります。ネズミは「プラスチックのチューブを通ってダミーの口に向かって歩く」という難しいスタントを見事にこなしていたようです。ネズミもプロ根性がありますね…。
物語としてはシエナ・ショーのストーリーの第2幕であり、聖なる剣とともに奈落の底に落下したギャビーをどう助けるかという使命を受け取り、ついに人生を戦闘モードで歩き出しました。もうトラウマに怯えるファイナル・ガールではありません。戦う覚悟を決めた戦士です。
全体的にクライマックスを次回にお預けした構成なので、この映画単体だけだと若干の消化不良なのですが、すでに4作目の製作は決定済みでもう動き出しています。
アート・ザ・クラウンの次の芸術作品にも期待です。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 Cineverse. All Rights reserved.
以上、『テリファー 聖夜の悪夢』の感想でした。
Terrifier 3 (2024) [Japanese Review] 『テリファー 聖夜の悪夢』考察・評価レビュー
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