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映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』感想(ネタバレ)…DVの主題を隠さなくても

ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US

DVの主題を隠さなくても…映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:It Ends with Us
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年11月22日
監督:ジャスティン・バルドーニ
性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写
ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US

ふたりでおわらせる いっとえんずうぃずあす
『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』のポスター。主人公の横顔と花を映したデザイン。

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』物語 簡単紹介

フラワーショップを開くという夢を実現しようとボストンでひとり頑張っていたリリー。そこで彼女はライルという男性と出会い、情熱的な恋に落ちる。リリーは交際には慎重で、ゆっくりと関係性の構築を進めていたが、2人は幸せな日々を重ねるたびに愛が深まっていく。しかし、その関係はリリーが思い描いていたものとは異なる方向へと転がっていき…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の感想です。

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』感想(ネタバレなし)

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“映画外”騒動は勘弁して…

家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス; DV)の被害者支援団体「The Hotline」のまとめたところによれば、アメリカでは、女性の10人に3人(29%)男性の10人に1人(10%)がパートナーによる性暴力、身体的暴力、ストーカー行為を経験しているとのこと。そして、18歳以上の女性の4人に1人(24.3%)男性の7人に1人(13.8%)が、生涯のうちに親密なパートナーから深刻な身体的暴力の被害を受けているそうです。

しかし、DV被害はなかなか注目されづらく、社会の対策も進みません。

今回紹介する映画がそんなDV問題への関心を高め、被害者をひとりでも救うことに寄与すればいいのですが、どうなるやら…。

それが本作『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』です。

アメリカ本国では2024年8月に劇場公開された本作はDVを主題にした映画なのですが、“映画外”で批判や騒動が巻き起こり、中身よりもそっちの話題のほうが世間を賑わしました。

まず批判のひとつ目として、DVを主題にしていると大きく提示しなかったことです。本作は一見すると男女のベタなロマンス映画のように始まり、後半からDVの被害が描かれることで、DVがテーマなのだとわかる二段構成になっているのが特徴です。

そういうストーリーテリングにしたいのは重々わかりますが、やはりそれは少なからず観客にショックを与えるでしょう。情報が伏せられたまま、いきなり生々しい暴力や心理的トラウマの描写を目にすることになるのは、ときに二次加害となってしまいます。

私が今回の記事で最初から本作を「DVを主題にしている」と明かして書いているのもそうすべきだと判断しているからであり、別にそれを明かしても映画の面白さが減退することはないと思っているからでもあります。

日本の宣伝では公式ウェブサイトで「“愛する人からの暴力”という問題を背景に」と書かれてはいますが、目立たないのは事実。

なお、2016年の“コリーン・フーヴァー”の小説が原作であり、英語圏では2021年頃にTikTokでバズったそうで、アメリカだとまだDVが題材だと認知されているのかもですけど…。

しかし、この『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の騒動はこれだけではないです。

本作は“ブレイク・ライヴリー”が被害者となる女性主人公を主演し、製作も務め、“ジャスティン・バルドーニ”が加害者となる恋人男性を演じ、監督を兼任しています。

ところが“ブレイク・ライヴリー”と“ジャスティン・バルドーニ”の両者の間で対立が生じたと報じられたんですね。何でも最終カットをめぐって亀裂があったそうで、断絶するほどに関係が悪化したとか。

それだけだと「まあ、クリエイティブ上の意見の相違はよくあることだから…」と思うのですが、騒動はさらに炎上し、双方が製作の主導権を欲して支配的態度をとっていたという情報があちこちから噴出。さらに“ブレイク・ライヴリー”については、映画宣伝に便乗して自身のブランド商品の宣伝をするなど主題に対してあまりに姿勢が軽薄すぎるとか、はたまた夫の“ライアン・レイノルズ”が脚本の一部を書いたと豪語し、それがストライキ期間中ではないかと物議となったりThe Mary Sue、次から次へとでてくるものですから整理も大変ですよ。

結局、真偽は不明なのですが、本作にて“ブレイク・ライヴリー”と“ジャスティン・バルドーニ”が「被害者」と「加害者」を演じている性質上、一部のメディアや大衆は「どっちが悪いんだ?!」と場外乱闘見物の気分で盛り上がる事態に…

2024年はドラマ『私のトナカイちゃん』でも思ったことですけど、せっかく作品が大切な主題を描いているのに、それそっちのけで世間が作品外のゴシップでヒートアップするのは、観ていて複雑な気分になりますね…。

ということで長々と書きましたが、これ以降は本作がDVをどう描いているのかというクリエイティブ面の感想をしようと思います。

ゴシップで賑わうためではなく、この世界にはまだ声も出せない被害者がいるという前提を忘れないようにしながら…。

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『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』を観る前のQ&A

✔『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の見どころ
★日常で直面するDVのリアリティと心理。
✔『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の欠点
☆DV問題としては全体的にマイルドな着地。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:題材に関心あれば
友人 3.5:素直に語り合える相手と
恋人 3.5:気楽なデート映画ではないが
キッズ 3.0:大人のドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

メイン州の田舎。紅葉で色づき始めた景観の中を車で走るのは花柄の服のリリー・ブルームという女性。故郷に帰って来たのです。目的は父の葬儀でした。閑静な住宅の前に止まり、出迎えた喪服の母親と抱擁を交わします。久しぶりの我が家。思い出の残る自分の部屋を眺めます。

厳かに葬儀が始まります。リリーは弔辞で前に立ちます。父親の好きなところを5つ挙げると述べますが、手元のメモには何も書かれていません。そのまま何も口にせず、その場を後にするのでした。

ボストンに戻ったリリーは、自分の花屋を開店する準備。それでもやや気持ちは晴れません。アパートの屋上で夜の街の空気に浸っていました。

そのとき、いきなりひとりの男が屋上へ現れて、そのあたりのものに当たり散らしながら感情を爆発させてきます。男はリリーに気づき、やや気まずい空気に。男は屋上の淵に座るリリーの身を案じ、一緒に座ってくれます。

その男は最上階に住む脳神経外科医のライル・キンケイドです。2人は互いの身の上を少しずつ、それでも率直に語り、あっという間に打ち解け合います。とくに恋愛の遍歴を隠さずに打ち明けたことで距離は一気に詰まりました。リリーは真剣な交際を模索するタイプで、ライルは気楽に女性と親しむタイプのようですが、2人は正反対ながらこの場ではハマりました。

ライルはリリーを引き寄せ、体を密着しようとしますが、そのタイミングで電話が鳴り、ライルは緊急手術で呼び出されていきました。リリーは彼がいなくなった後、久しぶりの恋の高揚感を思い出します。

10代の頃、リリーはアトラス・コリガンという男子に初恋をしました。彼は貧しい暮らしのようでしたが、どこか放っておけず、リリーは付き合うようになったのです。

現在、リリーは夢の実現に向けて一歩一歩進んでいました。やっと店舗となる家が見つかり、室内の改装にひとりで必死に取り組んでいると、ある日、アリッサという女性が訪れます。そして手伝ってくれることに。こうして2人となり、準備はさらに加速します。

しかし、そのアリッサの兄があのライルだとわかり、意外な再会となり…。

この『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/22に更新されています。
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映像化が物語の印象をどう変えるか

ここから『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』のネタバレありの感想本文です。

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』はオープニングからこの物語を象徴づけるシーンで静かに始まります。個人的には本作のベスト・シーンかな、と。

徐々に明らかになりますが主人公のリリーの父親はDVを行う人物で、リリーも母も、リリーの当時のカレシであったアトラスも悩まされていました。大人になったリリーはそんなトラウマのある家庭から身を引いています。冒頭で父の葬儀のために実家に戻りましたが、感情は定まらず、生前の父を弔辞で讃える気にはなれません。

葬儀を沈黙で去るリリーの姿はDVというものが加害者の死後も残す傷跡の深さを印象づけさせますし、それは「家族」や「愛」の枠の中で行われる行為だからこその癒えなさですよね。

その傷心状態でふと出会ったステキな相手。とは言え、リリーはその自身の経験から非常に男性付き合いには慎重なのでしょう…このライル相手でもじっくりステップアップして関係を構築します。

ここは“ブレイク・ライヴリー”と“ジャスティン・バルドーニ”の演技の掛け合いがどれだけ観客の感情を持っていくかに左右されると思いますが、結構、このパートはベタなロマンス・ストーリーをなぞる感じになっているので(その演出の意図はじゅうぶんわかりますが)、セリフ自体は自然体というよりは少し作り物感のある臭さが漂っています。

「リリー・ブルーム」という名前自体も露骨にフィクショナルですし、この作品全体としてリアリティのバランスはその程度で抑えるという方向性なのかもしれませんが…(私は原作を読んでいないのでそのリアリティが原作からの継承なのかも判断できないのですけども)。

しかし、映像化するとどうしても脳内イメージで補完しやすかった小説と違って、映像というかたちで直接的に目に入ってきますからね。ライルがこういうセクシーなハンサムであることも、そのDV行為がどういうものであったのかも、関係亀裂後の態度がどうなのかも、全てが映像で具体的に描かれます。

一応、本作は映像化によって小説特有の読者の想像の振れ幅に基づいた効果が損なわれないように、映像作品なりの仕掛けを用意していますが…。

私はDVを描くものだと知ったうえで観ていたので、どうしても加害者側に立つライルを演じた“ジャスティン・バルドーニ”の所作ばかりを目で追っていた気がします。その視点の鑑賞は結果的には良かったですけどね。“ジャスティン・バルドーニ”があちこちのシーンで動作ひとつにこだわって、愛に見えかねない加害行為を細部まで表現しているのがわかりましたから。

リリーについては“ブレイク・ライヴリー”の演技も見どころでしたが、私はリリーの10代を演じた”イザベラ・フェラー”の演技が新鮮でそっちに目がいってたかもしれません(初めて見た俳優でしたね)。

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現実と比べて映画の着地はマイルドすぎ?

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』は映画自体はDV問題に誠実に向き合い、ウェルメイドにまとまっている良い物語なのは間違いないですが、やや気になるところはないでもない作品でもありました。

第一に、観た人を揺さぶる肝心のDV描写の仕掛け。本作では、ライルによるリリーへの「行為」の一部のシーンが同じ場面でも2回描かれ、最初と2番目で内容が変わります。前者は脳内の第一印象で、後者が客観的な事実なのだと思われます。

例えば、朝食時にオーブンで中身を焦がしたライルが手に火傷を負い、熱さで腕をあげた拍子に近づいたリリーを突き飛ばしてしまったシーンが、2回目では明確にライルがリリーの顔を手で殴るシーンに…。次は、アトラスの電話番号を見つけたライルが怒ってアパートを飛び出し、謝罪しながら追うリリーがライルの前に立ち、リリーが後ろへ階段を落ちるシーン。こちらは2回目では明確にライルがリリーを階段から突き飛ばすシーンに…。

いずれも偶発的な事故から故意の暴力と180度印象が変わるようになっています。雑誌を強制的に読ませた後にライルが嫌がるリリーに無理やり性行為を迫るシーンを描いて、一気にネタバレするような感じです。

この仕掛け、もちろん意図は理解できます。加害者にコントロールされてしまい、被害者側も認識を改変してしまうという問題。

ただ、演出としては少々作為的すぎるところがあり、とくに1回目のシーンは平然と描くのに、2回目のシーンだけフラッシュバックで描くのは逆じゃないかとも思う…。せめて最初は「行為」を描かずに、1回目のシーンも「その目はどうしたの?」と聞かれたときに思い出すようなかたちで映像で描けばいいのに…。

映像という武器があれば観客を騙すのは簡単なので、今作では演出的なズルさに見えてくるところがあったかな。

あと、大きく気になるのは、なんだかんだあった後の最終的な着地のマイルドさ

リリーがライルとハッキリ縁を切るのはこの映画独自の改変だそうで、そこは良かったと思います。それでも、ライルが簡単に引っ込むのはちょっとご都合的な感じがします。それに、周囲に理解者で溢れているのも現実のDVをめぐる問題の現実とはだいぶかけ離れています。本作では、リリーの母も、アリッサも、アトラスも、みんなリリーに献身的です。

実際のDV被害者は友人や家族からも見放されて孤立することが多く、だからこそドラマ『メイドの手帖』で描かれたような第3者サポートが必要なわけで…。

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』のリリーはDVの被害はツラいのは同じですが、それでも裕福な身分ゆえか、経済的な余裕を常に感じさせましたね。

また、ライルの6歳で兄弟を誤射して殺してしまった過去話とか、アトラスの貧乏救済話とか、「それ、いる?」と思ってしまったのも否めない…。

全体的にこの物語は、DV被害者女性のシンデレラ・ストーリーとして理想的に完成されている手触りでした。

アメリカ本国では大ヒットしたので、原作の続編も映画化する流れになるのかな。そのときはもっとDV被害者支援サポートとかも描かれてほしいですし、何よりも映画外のゴシップではなく、主題のDV問題に光があたるようにお願いします…。

『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
どんなかたちでもあなたが望まない性的な行為はすべて性暴力です。性的被害を受けたと少しでも感じたら専門の相談窓口に頼ってください。
性犯罪/性暴力に関する相談窓口
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター – 男女共同参画局
各都道府県警察の性犯罪被害相談電話 – 警察庁
性暴力被害に関する相談窓口・支援団体の一覧 – NHK

作品ポスター・画像 (C)Sony Pictures 二人で終わらせる イット・エンズ・ウィズ・ユー

以上、『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の感想でした。

It Ends with Us (2024) [Japanese Review] 『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2024年 #ブレイクライヴリー #夫婦